第14話 サムライハートと女の心

その後、華麗にござるお姉さんからの

セクハラと


『アナコンダの穴混んだ、、、、ッッッ』


みたいな親父ギャグ(心なしか体感温度が更に下がった)の猛攻に耐え、回避して、

そうしていた内にすっかり極北港は明るくなって

しまっていた。


「まいどぉあリ⤵︎」

「「「ごちそさーん」」」


結局ござるお姉さんから

半ば強引に口に捩じ込まれた

刺身ではあったが何とか魚は食べれた。


「というか普通に魚の名前はまんまで

 よかったのね」

「しょわねーん…あったかーい」

「なんなのこの人…」


距離感がバグっている。

頬擦りはして来るし、肩組んで寄りかかってくるし。いや、もしかしたら単に千鳥足でフラフラなだけかも。にしてもお茶葉というか…落ち着くな、この人の香り。


「ネシアもちょっと肩貸した…げ、て?」


あれ。

いないんだけど。


「嬢ちゃんならあっち〜」

「いや海しかないし」

「違うってほーら!

 アレアレ、アレにござるよ〜」


指差された方向には白くてまん丸い小鳥が

ジュリリと首を傾げているだけだ。


「随分と小さくなってしまったでござるな〜」

「…」


明方から呑んでる大人って珍しいなあ

くらいの目でしかみていなかったけど

———やっぱりダメ人間なんだろうな。


「だーりんーアタシを抱いてくれ〜♪」

「その格好でその歌は最悪のチョイス過ぎる」


そこら中の建物からは氷柱がポタポタと

汗か涙を流しているわけで、

そんな屋外で薄着の泥酔した女性を

担いでいるわけで。


往来の視線が凄く刺さる。

羨ましそうだったり窘めるようだったり

もういっそ恐れているようだったり…。


「それでお姉さんは…」

「ゼクウでいいでござるよ〜」

「言い難い変な名前だ」

「じゃあクウちゃんと呼ぶでござる〜」

「急にちゃん出て来た」

「じゃあ」

「じゃあ?」

「ウ」

「(笑)」


素直に面白いと思ってしまった。

そんな僕を見て急に黙って見つめて来た

ゼクウさんの顔が妙に懐かしい感じがして

思わずそっぽを向けた。


「…少年もマグロをりに来たのでござろう??」

「うん」


何か引っ掛かる言い方だなあ。


「拙者もやりゅ〜」

「近い近い近い」


本来ならこんな綺麗なお姉さんに迫られるのは

ご褒美みたいな展開なんだけど

キツい酒臭さのせいで罰ゲームと化している。

というか何故そんなにキスしたがる!?


「決定権とか乗員の余裕とか分かんないから

 聞いてみないとなー…」

「えーでも拙者滅茶苦茶に強いでござるよ〜」

「ハイハイ強い強い」

「マジのガチでござるよー?」


おじいちゃん昔は日本代表から一本取ったくらい強かったんだよーと同じベクトルだろう。


「そういえばゼクウさん。

 西にあるっていうバーを探してるんだけど

 こっちの方角であってる?」

「西にあるバーは東の方でござるよ〜

 …っと」

「…」


ずっこけそうになったゼクウさんを受け止める。

つまり、不可抗力的に僕の左手が

お姉さんの和服を華麗にスルーして

———生のおっぱいをキャッチしていた。


「…」

「…」


左手を抜いてすかさず

胸元を閉じて、ベルトを閉めて。


「よし! 行こう」


事故処理は終わった、終わったんだ。

そうしよう。


——と思ったのにまたゼクウさんは

ベルトを緩めて胸元を開けた。


そしてここが拙者の戻るべき場所とでも

言わんばかりにまた僕の肩に寄りかかってきて

強引に僕の左手をおっぱいに戻しやがった!


「別に拙者に女としての価値なんて無いでござる故、好きにすると良いでござるよ♪」

「そんな事言っちゃダメだよ。綺麗なんだしさ」

「えぇ〜口説いてるつもりでござるかー??」

「怒ってるんだよ、これでも」


何かコンプレックスがあるのかもしれないけど、

それが自分の生まれ持った物を否定したり

自分自身を貶める為に使われるなんてダメだし

僕は罷り通したくない、絶対に。


「…拙者はシキソク=ゼクウと申すでござる」

「シンジ、ただのシンジ」


何で今更自己紹介?

分からんけど、酔いが深まって

ゼクウさんの顔はもう真っ赤だった。


「ならば…どうなのだ?」

「!?」

「拙者の———柔らかい、か?」

「え、いや、そ」

「どうなのだ?」


ゼクウさんが上から僕の手を握り込む。

すると僕の手は当然、

上からゼクウさんのおっぱいを握り込む。


簡明直截に言うなるば、吸い付いてくる

柔らかいぬくぬくい…だ。けれど、も。

色々、そのたっているし……。


「イイ感じ、です…」

「フッ…アハハ」


今の笑い方と表情は

何だか作っていない感じというか

自然体というか、イイ感じだった、本当に。


「…カッカッカッ!!」

「った!? 今度は何!」


凄い勢いで左手を払われたかと思えば、

背中をビシッと叩かれた。

冬物越しに紅葉の手形を残されたと分かる力強さだった。肌弱いのでやめて欲しいなあ〜。


「カーッカッカッカッ———!!」

「何なの…あの人」


急に真っ直ぐ歩き出したゼクウさんは

スタスタと東の方へ僕を置いて進んでいく。


「あ、ネシア」

「あら、3無し奴隷」


いつの間にやら戻って来ていた

口元の汚れている魔王様は

まんまるいタコの小さなぬいぐるみを抱えてる。


「3無し?」

「甲斐性無し・意気地無し・漢気無し」

「ちょっ違うから!!」


やめてその面白そうなニヤリ顔。

本当にそういうのじゃないから!!!


「置いてくでござるよ〜??」

「…ほら、行くよネシア」


この状況にこれ以上追及させないべく

ニヤリ顔の魔王様の手を引いて走り出す。


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