第12話 秘密と、SUSHI

◇◆◇◆◇


   ———辺り一面の雪化粧。


   ———ダイヤモンド・ダスト細氷燦々の港町。


「もう目ー開けてもいいの!?」

「待ちなさい…これは!?」


何々何々!?


「シンジ、貴方…」

「え……」


変な虫でもくっついてるの!?

早く取って欲しいんだけど!!?


「種付けプレスみたいになってるわ…」

「ふぅ」


ネシアの頭には器用な事に

おにぎりサイズの雪だるまが積もっていた。

身体各所に積もった粉雪と雫を払い落として

辺りを見回すなどしてみる。


夜明けの町は朝の早い漁師達と

何やら色とりどりの魚を買い漁る人々で

ごっちゃがえしてある。


皙く霜で着飾った魚たちは

刺身からあら汁から何でも

美味しく頂けるよ、って此方を見つめてくる。


「抱っこね、抱っこ」

「死んでいないクマゼミ」

「何故死んでない方が珍しいみたいな顔を?」

「生まれて初めて食事を経験したので

 何だかお腹が空いて来てしまったわ。

 寿司を奢りなさい、寿司」

「SUSHI食べたい仕草だ」


オレンジレンジのPVみたいな動きの

ネシアはともかく、確かにお腹が空いている。


…言われてふと思い出してみると

生まれてこの方、ケーキ一個しか食べてない。


状況に慣れて来たからか

そう思うと拍車を掛けるように

お腹がグルグルと泣き始めて来た。


「流石にこんなに寒い地域で

 寿司があるとは思わないけど…」

「あったわ! ほら」


堂々たる「SUSHI」の暖簾。

考えないようにしてはいたけれど———


———この世界って凄い、

   ジャパンテイスト多過ぎじゃない???


寿司屋の屋台の方へ

徐に歩みを進め始めると

ネシアは頭の雪だるまを叩き落として

ポケットからライターを取り出した。


「ライターだね」

「これは私が異世界から召喚したのよ。

 そしてこの世界の人間は皆

 洞窟探検の時にライターを使っているわ」

「用途が限定的過ぎる」


ツッコミどころもそこではないが。


「500年前までは

 私が異世界から召喚したものは

 何であれ『アーク』として

 債権回収の為に持っていたの。


 —シンジの嫌いな天使がね」

「なるほど?」


どうして500年前まで続けていた事を

突然やめてしまった??


(『友達の作り方』をネシアはずっと

  召喚していたんだから、

  友達が出来たか、それとも……)


、、、いや、現に今ここに僕が立っているのは

ネシアが僕を召喚したからに他ならない。

よそう、邪推は。


「それを売って金に変える…

 それがあいつら天使の暇つぶしなのよ」

「ふ〜ん」


まあよく分からないんだけど

ネシアが日本から召喚したものを

天使達が回収して、

それを売って金に変えてるというわけか。


その際にコピーなり模倣なりして

量産したんだろう。


「それで」

「何々ネシアさん」


「何を隠しているの?」


…。

……。


「心が読めるとはいえ、

 シンジが本気で私から隠したい

 部分を覗いたりはしない」

「…」

「それでもね」


ネシアは背中を向けたまま続けた。


「貴方の主人は私で、

 私は世界最強の魔王なの。


 何でも頼って良いという事は

 夢忘れないように」

「———ありがとね」

「?

 今なんて言ったの??」


ネシアを抱えて寿司屋に突っ込む。


「話長いって言ったの!!」

「そ。ならそうしておいてあげる」


涙が見えないように

健気な魔王様を強く強く抱き上げる。

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