第11話 マグロと、友達

「残りの10億はどうしよ」

「シンジ!

 バイトやりましょうバイト!!

 ヒヨコのけつの穴を

 睨め回すのがやりたいわ!」

「あれ国家資格いるよ」


『初生雛鑑別師』という奴だ。

色とか羽で見分ける方法と

肛門で見分ける方法があって、

ネシアのいったケツ・・の奴だけ

丁度国家資格が必要になっている。


というか仮に短期間で取れたとしても

1ヶ月で10億稼ぐのはまず不可能だ。


「ん、銀行強盗しかない」

「納税の為に国庫から盗んだら

 意味ないのでは……?」

「クソザコ地銀からでも構わなくってよ」

「意外とドSだよね、ネシア」


どちらにせよ、そういう不正な手段で

金を入手するというのは

あの天使に付け入るを与えてしまう。


それではダメだ、ダメなんだ。


「「くぅ〜ん」」

「何故お二方とも


 『土砂降りの雨の日の帰り道に

  多感な時期の男の子が

  偶然見つけてしまった

  みかんのダンボールの中の

  小さくて可哀想な小犬』


 と言った趣で鳴いているのでしょう…??」

「後輩。

 良い闇バイトを紹介しなさい」

「良い闇バイトって何?」

「そうですね…

 私の知らないような凄まじい武器などは…」

持っていない、、、、、、

「左様ですか…残念です」


この食い気味の即答は寧ろ

僕には持っているからこそ出た反応に思われた。


それだけネシアに取って

力とは責任が伴う代物なんだ。


「…そういえば、もうマグロ・・・が旬ですね」

「マグロ?」


マグロって、あのマグロの事?

僕も小さい頃は回転寿司に行く度に

マグロばかり食べたものだ。


さながらスマホっぽい透明な板切れで

誰かと連絡を取ったらしく、

少しの間窓際の方でお辞儀をしたり

窓辺にやって来た小鳥と戯れたりして


それからようやく通信を終えて

バルバレッサは慣れた手つきで

2枚の契約書を召喚した。


「先程の10億に関する契約書と、

 此方は船と周辺設備の借用書になります」

「船の…」

「借用書?」


思わずネシアと顔を見合わせた。


「これも何かの巡り合わせですし

 勇者討伐の為にも…

 是非御二方に力添えさせて頂きたいのです」

「ふっ…しょうがないにゃあ」

「只の人間に何が出来るというのかしら?

 私が勇者をリンチしている間に

 コンソメスープの仕込みでもしている方が

 お似合いよ、穀潰し」


辛辣極まりない上に、

随分と手間のかかる料理を所望するじゃあないか!


「丁度これから1ヶ月ほどで、

 繁殖期のリヴァイアサンが

 漁れるようになります。


 ハイシーズンです、絶好の」

「リヴァイアサン…」


 強そう。


「あの手頃なペットとして有名な

 リヴァイアサンかしら?」

「はい」


 弱そう。


バルバレッサは

碇司令みたいな作画になりながら

僕達に激励の言葉をくれた。


「船に乗りなさい、御二方。

 繁殖期に入り体表を漆黒に染めた

 極上のリヴァイアサン

 ———“マグロ“。


 これを最小の人数で

 何頭か仕留める事が出来れば、

 間違いなく10億程度

 余裕で勝ち取る事が可能です」

「おぉ!」

「でも私、結構船酔いする方なのだけれど…」

「そんな事言っとる場合か」


一も二もなく

再三内容を確認した後、

契約書に僕とネシアはサインした。


「此方が地図と、

 私からの紹介状です。

 

 これを極北港の西にあるバーの

 マキシンという者に見せていただければ

 全て手配してくれるでしょう」


手立てが見つかった以上、

時間を無駄にするわけにはいかないし

僕とネシアは貰った冬物のコートに

着替えて飛び立つべく窓辺に立った。


(出入り口みたく使われ過ぎてるけど

 イイの…これ??)


「色々と世話になったわ、後輩」

「いえいえ。

 私もとても楽しかったので」

「その…礼と言ってはなんだけれど…」

「?」


人差し指同士をツンツンさせながら

恥ずかしそうにネシアは口を小さく開いた。


「なって、あげなくもないわよ…

 友達 って奴に」

(なんだその謎の上から目線は!? 

 でもよく言えた!! えらい!!)

「いいえ、結構です」

(現実は非情なんだよなぁ)


飛び立った青空の2人を見上げて、

思わず私はほくそ笑んでしまった———


「友達になんてなれませんよ。

 御二方には、私の駒になって頂くんですもの」

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