借金返済魔王録ネシア 〜極北のマグロ漁編〜

第9話 借金30億円と、ハッテン場

「御二方とは初めてですね。

 壊滅の魔王・バルバレッサと申します。

 

 歓迎致しますわ。

 最も古き魔王…とその奴隷……

 それから天使様も。

 

 さあ、どうぞ、コチラへ」


 ネシアの壊した城は手入れのされていない、

言うなれば廃墟同然の施設で、それなのに

黴臭さや蜘蛛の巣と行った痕跡がない

幽霊屋敷のような場所だった。


「失礼な奴隷ね。

 毎日男子便所だけは掃除していたのよ」

「実は生えてる…?」


生えてるのか…!?

僕は当て・・られていたのか!?


「え? 何が??」

「男子便所で使うもの」

「でも◯す相手がいないもの。

 穴がないのに棒だけあっても、ね?」

「分かってんじゃん…」

「来客が在った時に、殿方達は

 ハッテン場がないと困るのだから。

 当然用意は抜かりなく用意しているわ」

「絶対誰も困んないし

 来客っていうのは自虐ネタ〜??」


仮にも主人であるネシアの自虐ネタだ。

笑ってもぼっち弄りしてるみたいになるし、

笑わなくても『おもんな』みたいになる。


ああいう空気苦手なんだよな〜。


……随分脱線しちゃったけども、

それに比べてこの屋敷は手入れが

行き届いている。

淑女然としたバルバレッサの

落ち着いた振る舞いがそう思わせているのかも。


「お花だ〜」

「綺麗でしょう?

 地獄の底から摘み取って来たものも

 あるくらい、手間を掛けていますから」

「地獄でも花って咲くんだね」


壊滅の魔王よりも花園の魔王とかの方が

余程バルバレッサには似合ってると思う。


目に光が無い事を除けば

儚げで病弱なお嬢様にしか見えないし。


「魔王って皆髪色明るいよね。

 バルバレッサなんか真っ白だし」

「…興味深い偏見ですね。

 そちらも含めてゆっくりと

 お話致しましょう」


◇◇◇


「先に結論から申し上げますと

 ———ディアネシア様には

 20億ドラーの負債が御座います」

「これは現在の日本円レートに換算して

 およそ30億円である」

「ナレーションしとる場合か」

「これでは魔王ではなく

 借金王ですね、先輩」


白を基調とした軍服らしいコートは随所に

控えめながら燦然と輝く金色の装飾と

その天使の髪と同じ翠の紐が垂れている。


そんな豪奢な存在の口から30億なんて額が

出て来くるなんて、如何にも詐欺って感じだ。


ガブリエルはバルバレッサの出してくれた

紅茶を一口啜ると、魔法陣から書類の山を

召喚してネシアに確認するように指差しした。


何故か自分の分の精算を終えたバルバレッサが

一文字一文字を暗記する勢いで書類に目を

通し始めた。


「——500年程前から魔王城の

 修繕費や維持費・固定資産税などが

 未納状態になっているようですね」

「それは当然知っているわ。

 『肩に小ちゃい重機乗せてんのかーい』

 という奴ね」

「合ってるけど合ってない」


状況を理解していない僕らに

天使は手短に説明をした。


「1ヶ月以内に全額をお支払い下さい。

 払えない場合は貴女様の存在を

 この地上から完全に消し去ります。


 ———是等われわれ神の代理執行が」


「あら。

 随分とお優しいのね。

 1ヶ月も猶予を与えるなんて」


薄ら笑いを浮かべていた天使の顔は

ネシアの一瞥で簡単に

微笑みを剥がされてしまった。


「…それでは要件は済みましたので。

 ご馳走様でした、紅茶」


天使はバルバレッサに礼を

僕に一瞥をくれると

窓から飛び立っていった。


そしてスコーンを頬張り

ラッパ飲みのティーポットで

流し込んだネシアが

横のバルバレッサにこう言った。


「後輩。

 ちょっと20億貸してちょうだい」

「無いのかお前には、プライド」

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