第7話 コンビニ弁当と、誰かの背中
◇◆◇
「結局誰も友達にはなってくれなかったわね」
「ねー」
「未討伐の魔王」というのは
件の勇者に見つかった際に大きなリスクになると判断してユーくんもサマーもなるたけ
深く関わらない様にしたいという事だった。
それでも魔王のよしみという事で、
2人の経営してるホテルと
ケーキ屋さんの名刺を貰うことが出来た。
友達、僕、奴隷0だったネシアに
奴隷1人と顔見知り3人が増えた今日は
文字通り彼女の生涯の
大きな1ページとなったであろう。
「それにしても『シンジがイヤラシイし失礼だから今度は連れてくるな』と言っていたけれど、あれは一体どういう意味だったのかしら??」
「僕がクラリスとこの間のBLの『諒と啓二』みたいになりたいって思われたみたい」
「つまりシンジは…クラリスを
「あの本NTR系だったんだ」
「着いたわね」
「綺麗〜♡ だけど怖〜い」
夕焼けが青い! 凄く斬新だ。
一目につかないように教会の鐘のある塔に
ひっそりと僕達は降り立った。
「どうして私に抱きついてるの?
セクハラという奴??」
「階段高い…」
下へ続く階段が思ったより急角度だったし
外の景色から想像していたより
ずっと高さのある塔だった。
「おんぶして」
「…あら。貴方も私に甘えたりするのね」
「そんなに意外?」
言葉とは裏腹にネシアは進んで
目を閉じた僕を背負ってくれた。
階段をゆっくりと降りていく。
背中の僕が落ちない様に一歩ずつ。
「僕の世界で語られる魔王とは違って
ネシアは優しいよね」
「そんなことないわ。
私だって弁当1つしか買ってないのに
お箸とフォークとスプーンを
全部付けて貰ったり…
ヤンジャン立ち読みしてトイレ借りるだけ
借りて帰ったりとかするもの」
「コンビニバイトにどんな恨みがあるわけ??」
というかコンビニ無いだろこの世界。
「どんな魔王なの?
シンジの世界の魔王って」
「うーん。世界征服を企んでいて
魔物を使って人間達を襲ったり…
でも最後は勇者に倒されちゃうかな」
石造りの塔の小窓から入ってくる光が
魔王の蒼い髪を透き通していって
そしてまた影を落としていく。
「なんだ。一緒じゃない」
「へー。ネシアも世界征服とかしたいんだ」
「それも悪くないわね…そうしたら世界中全ての人間・魔族を下僕にして友達になるように強要出来るもの」
「それは友達じゃないて」
長く感じられた階段も
他愛ないことを話している内に
あっという間に降りきってしまった。
どうやら地上の町はこれから夕飯を作ったり
酒か人か自分かに酔いしれる準備
ないし真っ只中みたい。
僕を下ろしたネシアは
今度は自分の番だと言わんばかりに
背中に飛びついて来た。
案外重い…!
「温かい」
「あー。確かに体温は高い方かも…
弟にもよく言われたよ」
「弟って…同居している間男の事よね?」
「同居出来る間男なんか嫌いです」
この女——脳みそが
「温かい」
「?」
「誰かの背中って、こんなに温かいものなのね」
ネシアの吐息が右耳に掛かる。
おんぶしているのもあって
他の一挙手一投足の重心の動きとか
呼吸のタイミングとか
心拍数とか…如実という感じだ。
周りの酔っ払いの人々や
買い物をしている人達には仲睦まじい
アベックにでも見えていたりするのだろうか。
「…バスローブは流石に目立つよな」
「zzz…」
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