第6話 イカれ勇者と、ショートケーキ

「アリス。本当にあの頭のおかしい勇者は

 いないんだな?」

「男の子が生まれたばかりだ。

 もう1ヶ月程は故郷の村で過ごすと思う」

「あんな外道でも所帯って持てるんやなー…」


頭のおかしい外道の勇者???

何をしたらそんな評価に落ち着くのだろう。


「勇者ってそんな感じなんだ」

「私の知り得る叡智に寄れば

 盤外戦術は勿論ルールや倫理を全て無視して

 絶対に勝利を手に入れる男だそうよ」

「随分と生温い表現だ。

 奴の悍ましさは到底言語化など出来ん…」


小さく震える黒髪長身の彼は

脆弱の魔王・サマー=ウィンター。

クラリスの2つ前の元カレらしい。


「あれはそうやな…

 サッカーやるのに事前に毒盛って

 マシンガンを持って来て

相手チームのメンバー全員殺した上で

 審判や観客も買収しておいてしまいには

99-0で締めにくるくらいの……

勝つ為に過剰な程の用意をした上で

 反撃の余地なく攻めて来る

 正真正銘の悪魔・・や」

「人間共は我々を力持つ魔王などと恐れているが

奴らが崇めている勇者の方が

 余程魔王と言える…


 というより最早魔神とでも呼ぶべきだ」


ユーくん改め

煉獄の魔王ユースティエス・ヘルロードも

サーくんと一緒に胃の辺りを撫で撫でしている。


そんな2人の魔王にも我関せず

ケーキを貪る僕の魔王様は、

初めて食べたイチゴに

甚く感心しているみたいだ。


「シナガワ! この赤い果実はハバネロよね?

火を吹くような激しい刺激を想定していたのに

とても初恋のような味がするわ。フフ」

「分かっててやってるのカナー? カナー??」

「そこの魔王は初めて見るな」

「手前もや。

『 沈黙』の先輩やろ??」


魔王談義によってネシアに皆が注目している。

僕はここぞとばかりにアピールするように

心の中で叫ぶ。


(ネシア!!

 友達を作る絶好のチャンスだよ!!

相手も同じ魔王だし

 きっと友達になれるよ!!)

(あっ…)

(どうかした?)


何やら酷く動揺しているようだが

かなり緊張しているのかな?

これまでと違って大人数でもあるし…


(勝負下着を穿いてくるのを忘れてしまったわ)

(下着次第で友達になって来る奴は

 友達じゃないよ)


深呼吸をしたネシアは立ち上がると

重力が3倍になってしまったのではないか

ってくらいの重厚なオーラと威圧感を出しながら蜂蜜の双眸を妖しく光らせて

不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。


「ご機嫌よう有象無象の三下ども♪

我は黒い神座の担い手。

 静謐を八千代に謳う者。

天変地異・ディアネシア

 =ディア・ディザスターである。


 絶賛友達募集中…なんだからねっっ」

「何その手遅れ過ぎるツンデレ」

「これが…」

「序列一位の力なんかっっ!?」


え? 結構良い感じ???


「本当にユーくんやサーくんと同じ魔王なの…?

この邪悪さはまるで…勇者と同じ……

 下劣外道の気配がするッッ!!」


全然違った〜。

というか同じ魔王といっても序列があるんだな。


一口にバイトと言っても

入って3日目の学生君と

何十年もいるのに社員になれない

ベテランバイトのおじさんを

比べるような事だったのかもしれない。


「自分、それ仕舞っておいた方が身の為やで」

「? どういう事かしら」

「それだけ強力な力を持っている事を勇者の奴が

 嗅ぎつけたら…」

「きっと今までに無いくらい凄惨な方法で

 貴様を殺しにくるぞ。ディアネシア」


 勇者経験のある3人は滝みたいな量の汗を流しながら警告するが、当の本人は心配されたのが嬉しかったらしい。


「そうなのね…私は序列一位の魔王なのね!」

「あー。そっちね」

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