第5話 更に元カレと、元カレ

◇◆◇◆◇


クラリスの元カレが場所を変えようと提案し

深紅のバスローブ一丁の我々『フレンド募集隊』は

翼の生えた見た事ない爬虫類に乗せられて

人間の沢山いる街の一角にある手入れの行き届いた

真新しいホテルの一室へと案内された。


「…今僕を不名誉な方面で仲間に入れていなかったか?」

「クラリスの爪オシャレでキレイダネー」

「おい! 人の話を聞け!!」

「ネシアも見なよ! 凄い綺麗だから」

「あら。私の城にもこんな感じの虫の骸が沢山堕ちていたわ」

「褒めているのかソレは!?

…というかシンジ貴様は勝手に僕の手を握るな!!」

「———随分楽しそうやね〜♪

なぁアリス?」

「…」


恨み節たっぷりなクラリスの元カレは執事喫茶のナンバーワンレベルの

美しくかつ丁寧な所作でハーブティーを淹れ、テーブルの上に5つ並べた。


(猫舌だから2杯目を冷ましておきたいのかな?)


「お茶まで用意してもらって悪いんだけど、僕とネシアは同席しちゃって

大丈夫な奴かな?? えぇと…」

「ユースティエスや。ユーくんて呼んでや」


金縁の丸いサングラスをずらしてユーくんはお祭りに来た小学生みたいにニカッと笑って見せた。そのままユーくんは「もうすぐケーキも来るし、こっちの事は気にせんでええで〜」と一瞬ネシアを見て驚いたような顔したが、すぐさまクラリスに向き直ってしまった。しかし2人はただ無言で見つめ合うばかりで一向に口を開く気配を見せなかった。


(ねえシンバシ)

(どうしたの心に直接?)


ネシアはお茶おいし〜みたいな顔をしながらちゃっかり心に直接話しかけて来た。やはり気まずいのだろうか?


(これってもしかして、元カレは別れたつもりじゃないのに

余所に勝手に男を作って来て目の前でイチャついて

関係の終焉を無理やり焼き付ける条約禁止魔法…

『脳破壊』じゃないのかしら?)

(お前は何を言っているんだ)


思わずクロアチアの国会議員やってた格闘家みたいになってしまった。

今はまだそばについてあげられるからまだ良いものの…


(友達が出来た時に変な子だと思われないように

知識の偏りを何とかしてあげないと…)

(奴隷の分際で後方母親面なんて!)


お? 逆鱗に触れてしまったか…?


(味噌汁のように胃に優しいのね。タケシ)

(優しさが局所的すぎる)


「…まだ、好きや。アリスのこと」


(やっぱり『脳破壊』なんだわ!)

(絶対違うから!)


ユーくんの真剣な眼差しを受けて

クラリスはようやく元カレと視線を交わした。


「いつもそれしか言わないよね」

「手前が不器用なん知っとるやろ」

「僕が言葉より行動で示して欲しいのも知っているだろ」

「…」

「忘れていたでしょ?」

「忘れとった」

「ハァ…」

「それでも好きや」


互いの言い分はよく分かるが

何故だか僕はユーくんの方をとても応援したくなった。

不器用だと知りつつも出来る限り正直に気持ちを伝える。

これ以上に大切な事なんて世の中にないと思う。


(正直に伝える事が、大切な事なの?)

(そうだよネシア。大切だ)

(鼻毛が出てるわよ)

(今!? っいたた)


と動揺している間にネシアが僕の飛び出ている鼻毛を抜いた。


「ちゃんと行動で示す。今」

「今更どうしようってわけ…今更」


立ち上がったユーくんは

クラリスが逃げられないように彼女を抱き寄せて頭を優しく撫でた。

途端にクラリスの頬が赤くなって、顔の筋肉が少しだけ緩んだ。

ユーくんはそのままクラリスの顎をそっと持ち上げて

ゆっくりと顔を近づけていく。


「どうしようもなく、自分の事を想わずにはいられんねん」

「うるさい…」

「好きや。アリス」

「うっ…」


2人の唇がもう重なる、その瞬間。

ドアからケーキを持った殺気を放つ男が入ってきた。


「抜け駆けとは良い度胸をしているな…ユースティエス」

「げっ」

「サーくん!?」

「誰」

「元カレ」

「あー」


ドロドロ過ぎるよ〜



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る