第2話 諒と、啓治

「大丈夫? 生きているかしら。麻薬シンジケート」

「…」


 ディアネシアは僕をお姫様抱っこしながら崩壊し落ちていく瓦礫の雨の中をぴょこぴょこ跳ねて脱出した。そして、僕が落ちないように強く強く抱きしめられているが故に。


(何も見えてはいないんだけど、僕の視界の全ては今…おっぱいに包まれている!!!)


はたから見ると全裸の人間をお姫様抱っこで屋外授乳している魔王様という令和始まって以来の特殊性癖めいた構図になっちゃってる。


「死んでしまったの…? 麻薬カルテル」

「とうとう原型がなくなっちゃったねー」


というかそんな単語どこで知ったんだろうか?

そういえばさっき『また友達作りの練習はお預けですわ〜〜〜』とお嬢様仕草をしていた気がする。


「その通りよ。シンビオート」

「!?」


 コイツ…心の中を直接ッッッ!?


「私…実は矯正しないと縦ロールなの」

「全然言ってない」

(聞こえますか…実は縦ロールなの…私)

(大事な事なんだソレ)


 なるほど。他人の心の中を呼んだり入り込んだり出来るのか。それは確かに対人関係で悩みそうだ。

 

「友達作りの練習の練習の為にあらゆる世界の『友達の作り方』を召喚しているうちに、色々な言葉を覚えていったの」

「そんな事をしているから友達が出来ないのでは??」


 ネッシー(今考えたディアネシアの渾名)は悟りの境地に至ったネコみたいな顔で驚きつつ、そして僕を見つめた。


「しんじゅくん…」

「…?」

「貴方は私の奴隷なわけじゃない」

「はい」


 それはなんとなく分からせられている。ネッシーが近くにいると頭を下げたり、傅きたくなる衝動が心の底からちょっとだけ湧いて来るからだ。

…一応股座またぐらに淫紋が刻まれていたりはしないみたいだ。


「王様の命令は〜」

「絶対! いや…ご主人様でしょ、そこは」

「よし!シンジ。私の友達になりなさい」

「嫌だよ」

「……? ??? ????」


そんなに目も口も丸くして首を傾げられても困る。今のネッシーは500円のガチャガチャのぬいぐるみみたいな顔になっていて、枕元に置いておきたい趣き…みたいなものを感じる。


「メイレイキケナイ。ナゼ」

「(なんで片言?)それはもう友達ではないだろ」

「何がっっ!?」


何がも何も…。


「友達っていうのは片方が強要したらなれるもんじゃない」

「で、でも」


ネシアは異空間に手を突っ込んで表紙が殆ど肌色の小冊子を取り出して、その本のページを適当に開いてみせた。


「ほら! 『うるせぇ。お前は黙って俺に犯されてりゃいいんだよ。諒(イケボ)』って言っていたから、この後諒と啓治は街中で首輪を付けて散歩させ合うような良好な友人関係を開けているわ!!」


うわあ。ネコ耳に尻尾まで生やされて・・・・・いる。


「ネシア」

「分かってくれたのね。シブヤ」

「それこそ諒と啓治の関係は友達とはかけ離れた関係だぞ」

「えええええええええ」


濃厚なBLを突然喰らわされた僕の方が「えええええええええ」だよ。


「…もうこうなったら実力行使しかないようね」

「え?」


猛禽類を想わせる黒い艶のある翼が生え、ネシアは何処かへ向けて空を飛び始めた。


「シンジ。裸のツキアイをするわよ」

「……」

「何故急に顔を埋めてしまうの?」


埋めたくもなるとも。


「高いところダメなんだ」

「…ゴメンナサイ」

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