第1話 役に立たない金のメダル②
04
裏口前の石段に目標を定めてゆっくりと高度を下げる。
タイミングを見計らって術を解けば、先に接地させた右足から順に、打ち消していた負荷が急激に戻ってくるのを感じた。
(やっぱり難しいな)
飛ぶ度に思う。この魔法は扱いがやたらとデリケートな部類だ。
(おばあちゃん、どうやってだんだろう)
今は亡き、このお店の主が滑空していた姿を思い起こしながら、自らの不足と照らし合わせる。
飛び上がりや飛行中の操作などは、まあ我ながらに及第点なのだとは思っているのだけれど、いかんせん、
(何だか私のは、ドスンって感じなんだよな)
小さなころに度々と目の当たりにしていた、祖母がふわりと地上に降り立つ様。
その優雅さを広げた光景と今の自分を比べれば、どうしたってその錬度の差を思い知るばかり。
まだまだ未熟だな、などと軽くこうべを垂れながら私はどうせ施錠されていないだろう裏口のドアノブに手をかけた。
戸口をくぐり後ろ手に扉を閉める。扉の隙間から差し込んでいた陽の光が途絶え、途端に周りが薄暗さを増した。
私は手近な壁際に指先を向けて小さく呟く。ほどなく灯る小さな明かりに、踏み入れた通用口の空間が淡く照らし出される。
視線を向ければ、壁に据え付けてあるガラス張りな燭台の中で、ロウソクの火が小さく揺らめいていた。
見慣れた光景を視界の端に流しつつ、板張りの廊下に踏み出す。すると足首に小さなもふもふを感じた。
「おはよう、クロネコ」
視線を落としながら声をかければ、真っ黒な毛並みをした小柄な猫が右足にじゃれ付いているのが見て取れる。
「あの人は?」
小さく問うが相手は猫なので返事は無い。別に期待もしていないのだけれど、まぁ何というか、毎朝のお約束のようなものだったりするだけ。
「そう」
これまたお約束となった空回りの返事を残し、私は廊下を進む。
歩調に合わせて足周りを行き来する真っ黒な子を踏みつけぬよう気を配りつつ行けば、店内へと繋がる木扉にたどり着く。
取っ手を掴んで引き開ければ、慣れ親しんだ店内の香りがゆっくりと流れ出してきた。
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