03

 空に浮かんだまま、すごすごと広場まで戻る。


 義務があるわけではないけれど、それでも一応は、どうなったかの報告くらいはしておこうかと思ってのことだ。


 とは言え、こうして敷地内を一望してみれば、ついさっきまで見かけなかった観光客の姿が広場の所々に目についた。


(あれは接客してますかね)


 ハンスさんの露店前にも二人組っぽい男女が並び、店主の大男と何やら話し込んでいる様子。


 普段の厳しさこそ隠しきれてはいないが、それでも引きつった笑顔を顔面に貼り付けて会話をしている様からは、まさに商売の真っ最中だと言わんばかりの雰囲気が感じ取れた。


(仕方ないですね。後にしますか)


 どのみち取り逃がしてしまったのだ。向こうの商売を邪魔するほどの火急の報告というわけでもない。


 と言うかだ。私にしても、これから自分のお店の開店準備をしなければならないわけで。

 なので、ハンスさんの接客が終わるのをのんびりと待っているわけにもいかないのだ。


(まあ、暇を見て出直しましょう)


 そう考えて、私は空中でくるりと方向転換し向かうべき先へと目を向ける。


 広場を突っ切ればお店まですぐだけど、正直もう降りて歩くのも面倒くさい。ふわふわと悪目立ちでもしているのか、少々下からの視線を感じてはいるが構うものか。このまま飛んでいってしまおう。


(行きますか)


 身体を背後に引っ張ってくるカバンの重さを噛み締めながら、私はもう少しだけ高度を上げた。



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