第2話 解決すべき問題
「さて、キミはどこか目的地はあったりするかい?」
「俺は特にないな」
「それは実に都合が良い、ボクはこの街から北にある山を越えた先にある王国に向かおうと思う。国の名前はポラリスと言ってね、いい国さ」
ローズは得意気に語った。
彼からは、真剣な雰囲気がして、きっと何かトラブルでもあったのだろう。
「どうして、そこに行きたいんだ?」
「すまないが、話すと少し長くなるから馬車を借りてからでもいいかい?」
「わかった。確かここの近くに店があったはずだから、向かおうか」
俺たちは、酒場を出て馬車を借りに向かった。
俺は、あることに気づいた…ローズは明らかに旅慣れしている。
彼はてっきり貴族だと思っていたが、違うのだろうか。
「早く馬車に乗ってくれないかね」
俺はローズに急かされて馬車に乗った。
「じゃあ、話の続きをしようか。ボクはポラリスにある学園の生徒でね、そこで厄介な奴に恨みを買ってしまったのだよ。奴は学園では手を出せないからね、早く学園に帰りたいのさ」
「ポラリスにある学園…確か、俺の知り合いが教師をやっていると以前に聞いた覚えがあるな、生きていたら話くらいは聞いてくれるだろう」
「それは楽しみなことだね」
ローズは話を聞き、少し嬉しそうに答えた。
いつまで経っても、下界の人間はつまらないことをすることに俺は呆れていた。
畑ばかりだった景色が、自然豊かな森に変わった。
少し日が暮れてきた頃、俺たちはこの森で一夜を明かすことにした。
「どうやって山を越えるんだ?」
「そういえば、詳しくは言ってなかったね。山に洞窟があるから、そこを通ればいいのさ。それと洞窟は狭いし、魔物がいるから徒歩だね。近くの町で魔物除けを買っておきたいかな」
「なるほど、少し大変だな…ここから王国までは5日ぐらいか?」
「大体そのくらいだと思うね。学園の長期休暇は、あと一週間くらいはあるからゆっくり行っても……ボクには追手がいるんだったね、全く困ったものだよ。じゃあボクは寝る、おやすみ」
少し疲れた様子で彼はそう言って、テントに向かった。
俺は、周りに追手が隠れていることに気づいた。
気配を消しているが、俺からするとあまりにも雑に消しているせいで、逆にわかりやすい。
俺たちを襲う様子は、感じ取れない。
俺を警戒しているのだろうか。
(今夜は、離れるべきではないか…)
俺は焚き火を見ながら朝を待つことにした。
まだ日が昇り始めたばかりだが、ローズの目は覚めたようだ。
「すぐに支度する。先に馬車に乗ってくれ」
ローズに言われた通り、俺は馬車に乗った。
それから数日経ち、俺は同じような日々に飽きていた。
そんなことを思っていると、街が見えてきた。
街に着いた後、魔物除けなどの足りない物を買い足し、洞窟へ向かった。
洞窟に入って歩いていると、後ろから風を切り裂く音が聞こえる。
俺が振り向くと既にそれは目の前にあった。
「魔法か…!」
「
俺が魔法だと気づいた頃には、ローズが弾き返していた。
周りの気配を魔物だと勘違いして、つい油断してしまった。
奴らはこのタイミングを狙っていたようだ。
「20人は居るな」
「すまないが、ボクは攻撃を防ぐ事しかできない。さすがに敵が多すぎてね」
「だったら、任せろ。すぐ終わる」
敵が全方位から飛びかかる。
俺はリングを斧に変化させて、一掃した。
敵は真っ二つになり、辺りには血が飛び散る。
(服装からして、暗殺者か。弱い…期待外れだ)
残りの敵は魔法で姿を隠しているが、俺には全て見えている。
「血液よ、貫け」
俺は、
「ボクに汚れ一つ付けなかった事を褒めてやろう!」
ローズは明るい声で言うと、俺の頭を撫でた。
(男に撫でられてもなぁ)
彼のあまりにも嬉しそうな雰囲気に押されて、しばらく撫でられた。
「それにしても、そんな大きな斧を片手で扱うなんて、キミはとんでもない怪力だね」
「まぁ、これでも鍛錬をずっとしてきたからな」
「さぁ!洞窟を出たらすぐだぞ!行こうではないか!」
彼に手を引かれ、洞窟の外へ出た。
そこには、綺麗な景色が広がっていた。
山に囲まれ、自然豊かな大地、丘の上には城が見える。
「良い景色だな」
「そうだろう!」
彼は笑顔でそう言い、門へと案内した。
無事検査を終えて、彼は俺を学園に連れて行った。
「これが、ポラリス魔術学園だ。魔術って名前にあるが、昔と違って今は、大体なんでも学べるのさ」
「なるほど、随分と大きいな」
「そうかい?あと、ボクはここの寮で暮らしているから、行くついでに学園長にキミの友人がまだ居るか聞きに行こうじゃないか」
「それは、助かる!」
どうやら、学生が一緒なら普通に中に入れるみたいで、俺は少し驚いた。
まだ休暇中だからか、人はあまりいないようだ。
学園長室の前に着き、ローズがノックをすると、返事が返ってきた。
扉を開けて中に入ると、豪華な本棚やソファ、机があり奥にあるこちらを向いたデスクには学園長と思われる人が座っていた。
「あら、ローズにそちらの方は……歳を取れば幽霊も見えるのね」
「サリー、残念ながら生きてるぞ」
「じゃあ、30年前あなたが言ってた私より4倍は年上ってほんとだったのね」
「え……?学園長って今60歳じゃ…」
「はぁ…あなた彼女には伝えてなかったのね」
「彼女…?」
俺とローズはお互いに理解が追いつかなかった。
「あははは!まさか、ローズが男だと勘違いしてたとは思わなかったわ」
言われてみれば、ローズは男なら美少年すぎる。
それなのに、なぜ気づけなかったのだろう。
「そんなことより、オアシス!キミは今何歳なんだ!」
彼女は少し声を張って俺に聞いた。
「まぁ…150くらい?」
「そんな人間が存在していいのか…?」
「肉体や精神が神へと近づくほど魂が肉体の年齢を遅くする…みたいな仕組みで俺は、20歳の時に歳を取らなくなったのだよ」
なぜか、サリーとローズは呆れた顔をしていた。
「つまり、それって20の頃には神の域に達していたのね…」
「まぁ、そうだが、天界に行けるほどの力を手に入れたのは30年前だからな」
「30年連絡が取れなかったのは、そういう事だったのね…髪は白くなったみたいだけど、相変わらず身長は低いみたいね」
「今余計なこと言わなかったか?」
三人でしばらく賑やかな時を過ごした後、サリーが寮の空き部屋をしばらく使う許可をくれた。
その代わりに、俺は体術や剣術の指導をする事になったので、俺はそのために訓練所を借りて準備をしている。
「オアシスじゃないか。何してるのかい?」
「指導の準備を少しね」
「せっかくだし、もし良ければ手合わせ願えるかな?」
「もちろん、いいよ。ハンデとして、俺は素手で戦うね。いつでもかかって来な」
俺がそう言うと、彼女は訓練用の木剣を構え、凄まじい速さで俺を突こうとする。
彼女の武器や体に触れようとすると、きっと
「霧となれ」
俺の体は霧となり、彼女が剣で突くと霧が周囲へ広がり、俺の姿は見えなくなった。
ローズは、混乱しているようだ。
「ぎゃっ!」
ローズの額にチョップをした。
彼女の額は赤くなり、驚きと共に痛がっていた。
「攻撃が当たりもしないとは…」
「視界を奪えば、少しくらいはチャンスあったと思うよ。昔は使い魔に奪わせるのが主流だったかな」
「使い魔は、扱いが難しいから教えれる講師が居ないのだよ。でも勉強になった。悔しいが、ありがとう」
「また手合わせしたい時は、気軽に声をかけてくれ」
ローズは、満足した様子で寮に帰った。
準備が終わり、俺も一度帰ることにした。
部屋に入ると、机の上に服が置かれていて、そこには手紙もあった。
どうやらサリーからみたいだ。
「言い忘れてたんだけど、明日の始業式であなたを紹介するから、朝職員室に来なさいね。
必ずその服とバッジを忘れないでよ」
と書かれていた。
一度着てみることにした。
黒のシャツにズボン、それとネクタイ、これらの上に真っ白で金の刺繍が入ったローブを着た。
どうやら、魔術によって汚れないようになっているようだ。
バッジを見ると、クリスタルの星が5つと杖や剣が装飾されていた。
明日から教師としての仕事が始まるので、俺は楽しみだ。
少し疲れたので、今日は休むことにした。
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