最強の神になったが、退屈なので下界で無双します。

イナイ

第1話 心躍らせ下界へ

 なんだこれは……

 俺がいた頃の下界とは変わり果てた世界が広がっていた。 

 日々の日課である鍛錬をしている間でさえ、つい下界のことを考えてしまう。


(一度家に帰ろう……)


 椅子に座り一息ついた俺は、下界に降りることを決めた。

 昔と比べて美しさを感じるほどだったからこそ早く体感してみたいのだ。


「あれほど変わっているとは……」

「独り言なんて珍しいね」


 後ろを振り向くとそこには、長年の付き合いの友人であるクラリスがいた。


「変わった様子の君を見かけて、尋ねに来たんだけど、何かあった?」


 嬉しそうな目で俺を見て言った。


「俺がいた頃より下界が何倍も刺激的になって気分が良いのさ」

「少し安心したよ。最近の君の目は死んでいたからね」


 少し彼女と会話を続けてから、俺は下界に降りる準備を始めた。

 もう帰って来ないと考えると寂しいような気もする。

 何かやり残したことはないだろうか……


「師匠ー!遊びに来ました!」


 聞き馴染みのある元気な声が響き渡る。

 彼女は、俺のたった1人の弟子であるアリスだ。

 天界で生まれ育ったからか、俺より成長速度も早いし、基礎能力も高い。

 俺より強くなったとしても、弟子に追い越されるなら師匠として喜ばしい事だ。


「やぁ、アリスちゃん」

「うわ、クラリスさん……また師匠にちょっかいかけにきたんですか?」

「私はオアシスの親友なんだから、ちょっかいの一つや二つくらい良いじゃないか」


 2人はいつも賑やかで、一緒にいると家族みたいでいつも心が安らぐ。


「あれ?師匠なんの準備してるんですか?」

「下界に降りることにしたから、その準備をさっきからしててね」


 突然アリスが飛びついてきた。

 俺と会えなくなるのが寂しいらしい。

 アリスの目からは涙が溢れていた、彼女も強くなったと思っていたが、まだまだ弱いところもあるみたいだ。


「でも、ちょっと嬉しいです。また、師匠の楽しみが増えて。満足したので離れますね」

「アリスは、まだまだ子供だな」

 

 俺がそう言うと彼女は少し不満げな顔をしていた。

 彼女がどこまで成長するか見ていたい気持ちはしまっておこう。


「オアシス、そろそろ行く時間じゃない?」

「そうだな、じゃあ聖堂まで行こうか」


 俺たちは聖堂へと向かった。

 聖堂が見えてきた頃、アリスが不思議そうな顔をしている事に気づいた。


「アリス、どうした?」

「どうして聖堂に向かってるかわからなくて」

「聖堂に下界と繋がってる穴があって下界に降りる神を管理してるって感じだったはず…」

「下界は神じゃないと降りれないんですか?」


 アリスの質問に少し困っていることにクラリスが気づいてニヤニヤしている。


「アリスちゃん、私が代わりに答えてあげよう。オアシスは、天界について疎いからね」

「まぁ、しょうがないですね…」

「下界に降りれる条件は、天界でそれなりの地位である神か、その神に許可をもらうのどちらかなのだよ」


 得意げに語るクラリスの話を、嫌そうに聞いていた割には納得したようだ。

 なんだか俺は負けたような気がしてきた。

 そんな話をしている間に聖堂に着いた。

 手続きはクラリスがあとでしておいてくれるらしい。


「師匠!絶対もっと強くなって下界に会いに行きますから!楽しみにしておいてくださいね!」

「ああ、楽しみにしてるよ。その時は2人でいろんなことを話そう」

「はい!」


 相変わらず元気なやつだ。

 ふとクラリスの方に視線をやると、めずらしく彼女の様子がおかしい。


「どうした?クラリス」

「まぁ……なんだ、前から渡せずにいた物があってな…」

「それは、気になるな!」

「これなんだが……」


 彼女の手には、白銀に輝くリングがあった。

 そのリングから美しい彼女の魔力を感じる。


「これは…?」

「それは、君の思い描く形に変えることができて、君の能力ギフトと相性がいいと思ってね」

「ありがとう!大切にするよ!」


 さっそく俺は、剣や斧・槍などの色々な物に変えてみた。

 なんとも素晴らしい出来である。


「じゃあ、そろそろ行くよ。2人とも元気でな!」


 2人に別れを告げ、俺は飛び降りた。

 俺は体を大の字にして、全身で風を感じた。

 久しぶりに気持ちが昂ってしまってうずうずしてしまう。 

 地面が見えてきた。

 どうやら広い草原の真上にいるようだ。

 それと同時に小さな街があるのも見えた。

 俺は、能力ギフトを使い地面にふわっと降り、街の方へ向かった。


(近くに人はいないのだろうか)


 そう思っていると、声が聞こえてきた。

 戦っている声だと気づいたらころには静かになっていた。

 急いでその声の方へ向かった。

 そこにいたのは、1人の男と騎士の死体が4体あった。

 その死体はどれも急所を一撃で貫かれている。

 そばにいる男は、肩までつく長さの金髪で少し高めの身長、体格は細身だろうか……


「キミは何者だい?追手には見えないけど」

「俺はオアシスだ、訳あってこの地に辿り着き、声が聞こえたからここに来た」

「なるほど、奇遇だねボクも訳あってここに来たのさ」


 俺が追手じゃないと知り、彼は少し安心しているようだ。

 この人は、ずいぶん陽気な人なのだろう、賑やかで楽しそうな雰囲気を感じる。


「名乗ってなかったね。ボクは、ローズ・アズノールさ。見たらわかる通りボクは追われていてね、人手が足りなくて困っているんだ。キミが良ければ一緒に行動しないかい?」

「君は悪い人ではなさそうだし、一緒に行動したら色々刺激を貰えそうだからな。ぜひ一緒に行動させてもらおう」


 俺たちは色々積もる話もあるので街へ向かった。


「すっかり日が暮れてしまったな」

「ボクに見惚れて時間がすぐ経ってしまったって?男に好かれるのは別に求めてないのに困っちゃうな」

「面白いジョークだな。確かにそんな事を聞いていたら時間も吹き吹き飛んだっていいな」


 そんな賑やかな会話をしながら街に着いた。

 宿を取りお互い空腹だったので、酒場で夕飯にすることにした。


「キミとこれから一緒に戦うことだってあるだろうしお互いの能力ギフトを紹介しないかい?」

「確かにそうするべきだな」

「じゃあボクからだね」


 そうローズが言うと彼の周囲が光り始めた。


「ボクの能力ギフト反射リフレクションなのさ。ボクが認識さえしてればなんだって跳ね返せるのだよ」

「それは頼りになるね、良い能力ギフトだ」

「次はキミの番だね」

「俺の能力ギフト自由フリーでね、イメージすれば、なんだって出来るって感じかな」


 それを聞いた彼は目を見開いて驚いている。

 この後、彼は何を言うか少し楽しみだ。


「キミの能力ギフトにはもちろん欠点があるだろう?」


 予想外の質問で俺は少し驚いた。

 そして、彼の勘は鋭いらしい。


「ああ、俺の能力ギフトには、欠点がある。まず、魔法が使えない、それとあまり大きなイメージは具現化できないんだ、どちらも脳へのダメージが大きくて、無理に使ったら脳が潰れるからね」

「難しい能力ギフトだな。能力ギフトを発動してる間に悪いイメージをしたら、それも具現化するだろう?」

「その通り、だから俺は能力ギフトを使う時冷静を保たないといけなくて疲れるんだよ」


 俺とローズはしばらく語り合い、互いに満足した頃に一度解散することにした。

 部屋にはベッドやクローゼット、机もあって、居心地は良い。


(今夜は良い月だ)


 空には雲一つなく、美しい三日月が浮かんでいた。

 睡眠が必要ない体になってから、いつも夜は退屈だ。

 遠くを眺めていると、山に遺跡があるのを見つけて、行ってみることにした。

 近くで見てみると、大きい遺跡だ。

 中に入ると入り組んだ道がいくつかあり、攻略された跡が残っていた。


(この道も行き止まり…もうここには何もないのか……)


 少し残念な気持ちもあるが、帰るしかないので歩き始めると、右の壁から強い力を感じた。

 能力ギフトを使って隠された道を明らかにした。

 そして俺は、道の先に大きな扉がある事に気づき、その先には、何かが待っていると悟った。

 扉の前に着き、重く大きい扉を押すと、ゆっくりと開いた。

 中は広く、神殿のような作りになっていて、崩れている所もある。


「ようやく訪れたか」


 低く威圧感のある声が響き渡った。

 奥からは強い殺気が溢れ出している。

 

「貴様は、何を求める」


 男はゆっくりとこちらへ近づき、姿を表した。

 黒く所々に金の装飾が彫られている鎧を身につけ、手には禍々しい大剣を持っていた。


「俺は……刺激が欲しい」

「良いだろう、その願い叶えてやろう」


 男の殺気が強まったと同時に、俺との距離を詰め大剣を振り下ろした。

 俺は、リングを自分の背丈ほどの斧に変え、男の攻撃を防いだ。


「暗く、深く、底なしの闇よ、敵を貫け、ダークスピア」


 男が詠唱を終えると、俺に向かって無数の霧のような黒い槍が飛んでくる。

 それと同時に男は背後に移動し、俺を大剣で切り裂こうとしていた。


「お前の攻撃は俺を通り過ぎる」


 男が放った魔法は、俺の体を通過して、男の体を貫いた。


「ぐはっ……!一体、どうなって…」


 男の鎧が崩れる。

 その肉体は骨だけとなっていた。

 アンデットだったことに少し驚いたが、よく考えてみればこんな所にいるのだから当たり前だろう。


「まぁ、少しは楽しめたよ。そんなボロボロになったらもう戦えないだろう?」

「ああ、戦いたいがもう力が入らないみたいでな」

「魂よ、天へ帰れ」


 男の体は黄金に輝く光と変わり、空に向かって登った。


「宿に帰るか…」


 少し寂しさも感じつつ、宿に戻った。

 日が昇り朝になり、酒場に向かうため扉を開けると扉の前にはローズがいた。


「おはよう、オアシス。ちょうどキミ呼びに来たんだが、タイミングがよかったようだね」

「おはよう、ローズ」


 俺たちは、酒場に向かい、今後の予定を決めることにした。

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