第39話 回復の歴史
「ここがイファの家か?」
「はい!ここがイファのお家ですっ!」
イファは満面の笑みで扉を開け、アヴァロンを迎える。すると、奥から
「イファ?帰ってきたの?」
と女性の声が聞こえる。
「あ、うん!!ただいまー!ママー!お客さんだよー!」
「あ、はーい」
数秒後、奥からアヴァロンより20cm程身長の高い若そうな女性が現れた。アヴァロンは少し戸惑いながら
「もしや、お主がイファの母君かの?」
と聞くとイファは
「うんっ!!そうだよ!」
と満面の笑みで答える。
「あらイファ、その隣の人は誰?」
「この人はイファが襲われた時に助けてくれたアヴァロンちゃん!」
「あらあら、これはありがとうございます」
イファがそう言うと、母親は頭を下げアヴァロンに対しお礼をする。
「お礼と言ってはなんですが、泊まるところがないのなら是非、我が家に泊まっていって下さい」
その人はとても優しい笑顔でアヴァロン言う。そんな対応に対しアヴァロンは素直に
「じゃあ泊まらせてもらおうかのぅ」
と笑顔で答える。
「───というふうな経緯でエルドラドに行ったんじゃが...」
そう言い、アヴァロンは皆の方を見る。
「エ、エルドラド...」
アヴァロンの話を聞いたクゥロは驚愕する。
「どうしたのクゥロ」
「もしかして、聞いたことある...とか?」
そんな驚いているクゥロに対し、ルヴラはそう質問してみる。すると、クゥロは冷や汗を流しながら
「聞いたことあるも何も、童話にある宝島はほとんどがエルドラドをモチーフにされてるんだよ...」
「え!?」
「そ、そうなのですか!?」
〝初めて知りました...〟
クゥロの話を聞き、リノアたちは驚愕するもカラはこの世界の童話を見た事が無いため、ほんの少し疎外感を感じる。だが、カラ自身もエルドラド自体は聞いたことがあるので、そこまで気にしなかった。
「それに、お父様から聞いた話では、エルドラドは、今衰退し始めていると言うのを聞いたよ」
クゥロは今のエルドラドの状況について語ると、皆驚愕する。アヴァロンはそんな話に
「ほう?それは無視できんのぅ。ここエリュシオンを出たら次はエルドラドへと向かわねばな」
と、真剣な眼差しで答える。
「そうだね」
「...じゃあ、ここまででなにか質問あるかのぅ?」
アヴァロンは先程のトーンから切り替え、カラ達に質問する。
「このまま話を聞いていったら、エルドラドとファイキュリアは関係あるって分かるんだよね?」
クゥロはアヴァロンに対しそう質問する。アヴァロンは目を閉じ、頷く。
「あぁ、そうじゃ」
「それなら良い」
「じゃあ次僕!!」
クゥロが納得したあと、ルヴラが元気よく手を挙げる。
「ほいルヴラ」
アヴァロンはルヴラの質問を許可する。
「アヴァロンって何の種族なの?」
「...」
ルヴラの質問に少し驚いた後、アヴァロンは真剣な表情になる。
「まぁ気になるのも仕方ないの」
そう呟いた後、アヴァロンはその場に座り、エリュシオンの風景を見ながら感傷に浸る。
「妾の種族は付喪神なんじゃよ」
「えっ」
アヴァロンからそう言われ、カラとクゥロは驚愕する。
「...?」
「何その種族...」
〝聞いたことないです...〟
しかし2人とは違い、リノア、ルヴラ、シフィは分かっていないようだ。
「付喪神、つまり物が長く使われた事によりその物に魂が宿った物の事を言う...」
「え...?と言うことは...」
リノア達3人は察する。それがどういう事か。
「アヴァロンが持っている剣に宿った精霊って事?」
そう聞かれると、アヴァロンは優しく微笑んみ答える。
「あぁ、そうじゃ。妾はこのカラドボルグと言う剣に宿った精霊じゃよ」
「え!?カラドボルグ!?」
「あの伝説のですか!?」
リノア達はアヴァロンが持っている剣の名前を言うと、またも驚愕する。カラはそんな皆に困惑する。
「カラは知らなくて当然だよ...」
〝カラドボルグはこの世界における伝説の聖剣なんです〟
「伝説では、今からおよそ7万2000年前に世界の滅亡が起きるほどの戦争があったんだけど、その戦争を終焉へと導いたとされてる。」
「そうなのか...」
カラはアヴァロンが持っている剣を見て、感激する。
「てことは...」
すると一同、アヴァロンの正体を知り、察する。アヴァロンがカラドボルグの付喪神なのであれば、今の今まで生きている。と言うことは...
「アヴァロンさんもしかして、7万2000歳なんですか...?」
「...今の話を聞いてると、あの戦争からもうそれ程年月が経ってしもうたみたいじゃな」
アヴァロンは振り向かずにエリュシオンの風景を見ながら答える。
「な、長生きしすぎでは...」
「おばあちゃん所じゃないね...」
アヴァロンの歳を知り、一同少し引く。
「さて、もう質問はないか?無いのならエルドラドの話を続けるぞ」
「...無いけど」
〝衝撃的すぎて話が入ってくるか...〟
「ね」
「よし、それなら話してゆくぞ」
皆、アヴァロンの正体を知り困惑しているが、アヴァロンは気にせずそのままファイキュリアについて話していく。
「...そうして、妾がエルドラドに来てから10日が経ったある日じゃ」
アヴァロンがエルドラドに着いてから10日後、アヴァロンは朝目が覚めると、すぐに小さな異変に気づく。今まで起こしに来てくれていたイファの母親が来ないからだ。しかし、それだけの理由で不思議に思うわけでない。では何故アヴァロンは変だと思ったのか。それはいつもする金属音も無ければ、料理の匂いすらしないからだ。更に、やけに辺りが騒がしい。そんな状況にアヴァロンは額から冷や汗を垂らしながら、固唾を飲み、周りを警戒しながら部屋から出る。
「っ...!?」
「嘘...じゃろ...」
アヴァロンは目の前の光景を疑う。まだ知り合って10日しか経っていないのに、漆黒の槍三本によって体を貫かれているイファの母親の姿を見てしまったからだ。
「...マ...マ?」
アヴァロンはその幼い声を聞きその場で固まる。イファが起きてしまったのはかなりマズいと。このままイファに見せてしまったらどれだけ絶望するか、どれだけ悲しむか。それは想像に固くなかったからだ。しかし、アヴァロンは知人が死んだと言う動揺のせいで身体が動かない。イファの親が死んでしまったら、イファは...
「うそ...ママ...なんで?」
そう思った時には遅かった。イファは膝をつきそのまま絶望した表情で声が震えながら泣いているのが見ずともわかる。
「昨日まで...あんなに...楽しかったのに...」
「...イファ、今すぐ避難しよう」
アヴァロンはイファの方に振り返り、周りの状況を鑑み、イファにそう言う。しかしイファの目には輝きは無い。そんなイファにアヴァロンは苦しそうな表情をしながらイファに手を伸ばす。
「...」
「イファ...」
それもそうだ。目の前で親の死んでいる姿を見てしまったら、大人だろうが放心状態決まっている。だが、周りがマズい状態ということも分かっているアヴァロンは
「なら、イファ。お主を背負わせてもらう。すまんが、お主の親を治す方法は今思いつかん...」
と言い、イファを背負おうとするが、イファは全ての力が抜けており、背負おうにも少し難しい。そのためアヴァロンは手こずる。
「くっ...」
すると、突然家の扉が開く。アヴァロンは突然なんだと扉の方を向き、即座に剣を抜き、そして警戒する。
「誰じゃ!」
そこには白の髪色と黒の髪色の、見た感じ少女の体型のフードを深く被った人物がいた。
「敵か...?」
そんなフードを深く被った人物に超絶警戒するアヴァロン。するとその人はフードを脱ぎ
「その
と言う。アヴァロンは剣を下ろすが、そのフードの子の顔を見て、驚愕する。何故か。理由は至って簡単。それはその子の目が白と黒のダイクロイックアイだからだ
「良かった〜。下ろしてくれて」
「お、お主の目の色...。2色ずつあるぞ...?」
「...あはは、そうなんだよね...。だからボク、フードを深く被ってるんだよね〜。じゃなくて、その人、蘇生させたいんじゃない?」
突然、そんなことを言い出す白黒の子。アヴァロンはそれを聞き、更に驚愕する。
「はっ!?お主、今蘇生すると言ったのか?」
「うん!そうだよ!ボクならその人蘇生させることできるよ」
満面の笑みでその子は言う。が、アヴァロンは半信半疑だった。それどころか9割疑っていた。この時、人類にまだ神聖魔法が伝わってない上に、回復魔法を扱う魔法使いは極小数。更に、回復魔法を扱えるものは聖堂や教会に行くので、情報が全くないのだ。
「...と言うことはお主、回復魔法の使い手なのか?」
「うん!そうだよ!」
その子はまたも満面の笑みで答える。アヴァロンはこの白黒の子とは喋ったことも会ったこともない。が、何故かこの子の言うことには信憑性があった。それに不思議に思うがアヴァロンは
「...わかった。なら頼む。この人を。イファのお母さんを生き返らせてくれんか...」
と、頭を下げて白黒の子に言う。そんなアヴァロンに驚いたのかその子は
「頭なんて下げないで!?そんな事しなくてもボクが蘇生するから」
そういい、その子はイファの母の目の前に立つ。しかし、魔法を発動しない。それにアヴァロンがあれ?と思った瞬間。その子は振り向き
「ごめん。槍、抜いて欲しいかも...」
「...」
と、自身の頭を擦りながら苦笑いで言うのであった。
「よし...。」
アヴァロンはイファの母から槍を抜き終わった後、イファにあまり見せないように目を塞ぐ。すると、白黒の子は神秘的な杖を取り出し、それを両手で支えながら、前に出す。そして、その子の下に魔法陣が発動する。
「神より授かりし失われた生命の灯火よ」
詠唱じゃと!?詠唱が必要な魔法なぞ、無くなったのかと思ったが...。まさかまだ残っていたとは。じゃが、こんな詠唱聞いたことがないのぅ...。まぁでも蘇生魔法じゃからそうか...。
アヴァロンはその子の詠唱に驚くも、自身の頭の中で解決させる。しかし、長く生きたのにも関わらず、聞いた事のない詠唱に少し違和感を覚えるアヴァロン。
すると、魔法陣から突然、金色の魔法エネルギーが溢れ出る。アヴァロンはその魔法エネルギーを目で追っていると、その魔法エネルギーが地面に着き、そこから植物が突然芽生えるのを見てしまう。
「なっ...」
そんな光景に驚愕するアヴァロン。それもそのはず。本来、植物を生やす魔法は植物に関わる自然系魔法以外不可能だからだ。しかしこの白黒の子は、自然系魔法を扱っていないのにも関わらず、回復魔法のみで植物を生やした。
「綺麗...」
塞ぎ込んでいた手を退けたイファは、周りを見て、目を輝かせる。そんなイファにアヴァロンはほっとする。
「失われた其の生命よ再び神の祝福と加護の元に脈動せよ」
暖かく優しい風が発生した後、眩い光が発生する。そんな光にアヴァロンとイファは目を瞑る。
「くっ...」
「眩しいっ...」
数秒後、光が収まる。もう大丈夫かとアヴァロンとイファは恐る恐る目を開けると、そこには、気持ちよさそうに寝ているイファの母親の姿が
「...ママ...ッ」
イファは静かに母親を抱きしめる。
「良かったのぅ...」
アヴァロンは涙が溢れているイファを優しく撫でる。
「じゃあ、ボクは行くね」
「ま、待て...」
アヴァロンは慌ててその子の手を掴み、止める。その子は止まり。不思議がる
「...ん?なんで?ボクは早く行かなきゃならないんだ」
そう言われ、アヴァロンはその子から手を離す。
「すまん...。お主にも何か急用があるのじゃな...。ならせめてお主の名前を知りたい」
アヴァロンは面と向き合ってその子にそう伝える。しかしその子は首を横に振り。
「...ボクは、名前を知られてはいけないんだ。ボクは罪人だから」
そう言い、その場から去っていく。アヴァロンはその子をすぐに追いかけるが、もうその場から消えていた。
「────と言う話なんじゃ」
と、アヴァロンは懐かしみながら言うと、カラ達は拍手する。
「な、なんじゃ?急に拍手とは...」
アヴァロンはそんな一同に困惑する。
「いやだってその人優しすぎでしょ!」
「ほんとです!!」
〝英雄になるべきですよ!〟
ルヴラ、リノア、シフィがそう興奮気味で言うと、クゥロが
「その人の事情でしょ。アヴァロンも言ってたよ?罪人だってそれが大きな理由じゃないかな」
「罪人...」
カラはその言葉に何か変な物を感じる。罪人とは一体なんなのか。それにアヴァロンが見た神聖魔法、ファイキュリアを扱える白黒の子とは何者なのかと
「どうしたの?カラ」
「いや...何でもない」
いや。気のせいだろう...。これはデジャブだ。気のせいなのだ。
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