第40話 呪い

アヴァロンによるファイキュリアについての話、そしてアヴァロンの過去についてを聞いてから2週間が経ったある日。アヴァロンは突然カラとクゥロを呼び出す。

「どうしたの?アヴァロン」

「私たちだけを呼び出すなんて...」

息が乱れ、汗だくになりながらアヴァロンにそう聞く2人。どうして2人がこんなに汗だくなのかと言うと、今カラ達は天使による強化日間だからだ。では何故、そんなことが起きたのか。それは9日前の昼頃であった。


このままではロキを倒せないと主に言われたカラ達は、天使達の訓練に入れさせてくださいと頭を下げて懇願する。しかし主らは

「うーむ...」

と頭を悩ませる。カラ達は深く頭を下げ、どうしてもと言うが、主らはそれでも悩む。それに対しカラは

「なぜ、そこまで悩むのですか...?」

と、少し失礼を承知に質問する。

「天使の訓練は、人間では耐えることの出来ないような訓練しかねぇ。更に言うと、空も常時飛べなきゃ無理だ。カラとリノアとアヴァロンは行けるかもしれないが他が無理だ。辞めときな」

そんなカラ達にブラフマーが現実を突きつけるような、そんな辛い言葉をカラ達に吐く。

ブラフマーからそう言われ、やはり無理なのかと少し絶望していると、アフラ・マズダーが指を立て、提案をする。

「では、大天使に個人指導させてもらえれば良いのでは?」

と。そんな提案をされ、カラ達はその提案がいいと声を大きくする。

「確かに、あの子達ならもう復活しているでしょうし、カラ達とも知り合いだから丁度いいわね...」

アマテラスもアフラ・マズダーの意見に賛成する。

「まぁ、あの子達なら大丈夫じゃろう」

主達が賛同していき、最終的にゼウスも頷く。そんな様子にカラ達は喜ぶ。

「あの子らをここに呼ぶから、そこで内容を教え、そしてあの子らに訓練させてもらえ」

そうして、カラ達は大天使達に訓練させてもらう事となる。


そして現在に戻る。

「カラ達、オリンポスの上に乗ってもいいのかな」

「さぁ...分からん」

「え、アヴァロンが乗ったから良いと思ったのに」

アヴァロンのそんな発言に、慌てるカラとクゥロ。アヴァロンはそんな2人をまぁまぁと言い、そのまま座らせる。

「さて、お主らを呼んだ訳じゃが」

アヴァロンはいきなり声のトーンを変える。そんなアヴァロンに、カラとクゥロは真剣な話だとすぐさま察する。

「それは、カラの呪いについてお主らに話すべきことがあるんじゃ」

「呪い...」

「主様達やルシファーも言ってたね。呪い」

「確かに、存在は聞いたけど実際はどんなのか分からないな...」

アヴァロンが呼んだ理由を聞き、カラ達は納得する。しかし、呪いがなんなのか知らない2人はそんなことを話し合う。

「それで、カラを呼んだのは分かるけど、クゥロを呼んだ理由は...」

カラはアヴァロンに質問する。そんな質問にアヴァロンは、確かにそう思うじゃろうと言わんばかりにうんうんと頷く。

「妾がクゥロを呼んだ理由は、カラ以外に話が分かる者を呼びたかっただけじゃ」

「あ、それだけの理由なんだね」

「まぁたしかに、ルヴラ達は難しい話嫌いだからね...」

カラは苦笑いしながらアヴァロンの言葉に少しだけ賛同する。

「そんな話はさておき、呪いについてじゃ。お主ら、呪いとは何なのか聞いたことあるかのぅ?」

「呪いなんて聞いたことない...」

アヴァロンの質問にクゥロは首を横に振る。

「なら、カラはどうじゃ?」

アヴァロンに質問を振られるカラ。カラは転生者。呪いと言う名前自体は聞いたことはある。だが聞いたことがあってもここは異世界。

「元いた世界では聞いたことあるけど、呪いってのがこの世界においてどんな物かってのは知らないや」

そう言い、カラはこの世界と元の世界との概念が違う可能性を考慮し、そうアヴァロンに告げる。

「確かに、お主の世界とは違うやもしれんのぅ...」

「前にも聞いたと思うが、この世界において呪いという存在は、突如生まれる物で、消しても消せぬ存在じゃったな。じゃから、存在自体は分かるんじゃが、そこまで詳しくは知られておらぬのじゃ」

「そ、そうなの...?」

「もう1回聞くけどなんで呼んだの...」

クゥロはアヴァロンに少しだけ呆れながら言う。カラもその意見には確かにと言わんばかりにうんうんと頷く。

「まぁ待て待て!そう言わんでおくれ!この話には続きがある!」

アヴァロンは慌てて、そういうとカラとクゥロは少しだけ訝しげな表情をするが、一応話を聞く。

「妾も主も呪いについては知らぬ。じゃが、妾には宛があるんじゃ」

「宛...?」

「主も知らないのに居るわけないでしょ」

アヴァロンの話を聞き、更に疑問を抱くカラとクゥロ。しかし、アヴァロンは自信満々に人差し指を振り、2人の言葉を嘲笑う。

「なんだコイツ」

「うざ」

そんなアヴァロンに思わず本音が出てしまう2人。

「確かに、クゥロの言うとおり主が知らないのなら、この世界に知るものは居ないと思うじゃろうが、妾はこの世界を全て旅した女...。呪いに直接関係があるかは知らんが、もしかしたら、と思ってな」

「確定してる訳じゃないんだ...」

「うぅ...。あの時は呪いなんて単語知らんかったからのぅ...」

カラの発言が少しだけ心に刺さり、少しだけしょんぼりとした顔をするアヴァロン。

「それで、どんな国なの?」

「神の祝福を受けし大樹が生えた、神樹の国、その名もヴォウルカシャじゃ」

「ヴォウルカシャ...聞いたことある?」

カラは全く聞いた事のない語感の国を聞き、一国の姫であるクゥロに聞くも、クゥロは

「知らない...。私はリュグシーラやルズシュバラみたいな五大国しか知らないから...」

と、首を横に振りながら申し訳なさそうに言う。そんな顔しなくていいのに。カラはクゥロの表情をみて、そんな事を思う。

「五大国か、確かにそんな話もあったな...。まぁじゃが、それは人間の国での話ではあるが」

「...え?」

「人間の国での話ってどういうこと...?」

クゥロとカラは、アヴァロンの口から聞いた言葉に興味津々だ。今まで五大国と言われ続けたのだから。本当のことを知りたがるのは仕方の無いことだ。

「大昔に人々に伝えられた伝説は、人と神は等しく5、妖は4、魔は情けの1。それぞれその数の国持つ事で、世界は均衡になった。と言う言い伝えがあったんじゃよ。そこから時代を経ていく度に内容が変わっていき、今の五大国と言う単語だけが人の間で出回ることになったんじゃよ」

「そ、そうなんだ...」

クゥロはアヴァロンの話を聞き、驚愕する。

そりゃそうだ。今まで五大国と伝えられてきたのに、実はその言い伝えは内容が変わったなんてな...。そりゃ今までの常識が覆ったみたいに驚くよな。

カラはそんなクゥロの驚きように心の底から納得する。


「まぁそれで、少し問題があるんじゃが」

「問題...」

ほんの少し嫌な予感がするカラ。そんな予感が当たって欲しくないと願う。

「さっき言った国はヴォウルカシャという国なんじゃが、エリュシオンから近い訳ではないんじゃよ...」

「...え」

つまり、割と遠いという事だ。それならとカラは

「そこまで近くないのなら別に無理していかなくても」

と言うが、アヴァロンはその発言を止めるようにカラの口に人差し指を当てる。

「じゃが、ここでお主らに良いお知らせじゃ」

「い、良いお知らせ...?」

ニッコリとした笑顔でアヴァロンは言う。アヴァロンの笑顔が少し怖いが聞くしかない。そう思ったカラとクゥロは覚悟を決める。

「このままロキがおる国、ロストを目指せば必然とヴォウルカシャに着く。妾が言ったのは、その道中が長いってだけじゃな」

「良かった...」

アヴァロンの話を聞き、心の底からホッとするクゥロ

「ロスト...。そこにロキは存在してるの?」

カラは旅の目的地、ロストという初めて名前が出た国に興味を持つ。そんなカラの質問にアヴァロンは口角が上がり

「そうじゃよ」

と、頷きながら答える。

「さっき言うたが、魔は1つの国しか持つことを許されておらん。その1つの国は、魔王が住み着いてから失われた国と呼ばれる事が多くなり、その後、意味から名前を取ってロストと呼ばれるようになったんじゃ」

失われた国。過去に何があったのかカラ達は知る由もないが、なんとなく残酷で惨い事があったのだろう。というのが想像に容易い事であることは確かだ。

しかし、アヴァロンの表情が先程より暗くなる。

「じゃが、ここ最近のロキの動きを見るに、おそらく、どこかの国を奪おうとしている可能性があるんじゃよな...」

「え!?」

「...確かに」

アヴァロンの発言に驚くカラとその発言に納得するクゥロ。

「今思い返せば、ロキは魔王のはずなのに行動が活発的過ぎる。ルズシュバラと言い、今回のエリュシオンと言い...」

「もしかしたら、今、ロキが活発的なのは、世界に対する宣戦布告やもしれぬな」

アヴァロンは訝しげにそう言うと、クゥロはその言葉に驚愕し、カラは苦笑いする。

「じょ、冗談でもそんな事...」

そんなことをカラはアヴァロンに言うが、クゥロは

「いや、案外冗談じゃないかも...」

「え?」

「ロキは各国に喧嘩を売る。その結果、国は武力を上げる...。もしかして、武力を上げ警戒させることがロキの狙い...?」

アヴァロン達は、ロキの力がとてつもなく強いと言うことを理解している。しかし、その圧倒的な強さ故に頭から抜けていた。ロキの頭の良さとはどのようなものなのか。こと戦いにおいて最も厄介なのは、人智を超えた強さでは無く、何百手、何千手先を読んでいるのか分からない軍師なのだから。

もしそんな軍師がロキだったのなら...。そんなことを考え焦り始めるクゥロ。するとカラが

「クゥロ。考えすぎは良くないよ。とりあえず今は未来の事は考えず、今のことを考えよう」

「...うん」

そんなカラの言葉を聞いて徐々に落ち着いて行くクゥロ。

「...まぁ。ロキがどのような頭の良さか、本気の力がどのようなものか、今のところ分からんが、今はできる限りのことをやるしかないのぅ」

アヴァロンはそう言いながら立ち上がり、オリンポスから降り始める。

「あ、もう帰るの?」

「ん?あぁ、お主らも十分休めたじゃろうしな」

え、呪いについて話す上に、休ませるために俺とクゥロを呼んだなんて...。

カラはアヴァロンの気づかれない配慮を知り、驚愕と同時に尊敬する。

「よし、お主らも早く帰るぞ?」

アヴァロンはそう言いながら、そのまま落下する。

「...カラ達も帰ろうか」

「うん。そうだね」

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