第34話 楽園の追放者

「パラドックス魔法だと...!?」

「んなもんが実現するのか?!」

アヴァロンの発言に驚愕する主ら。それもそのはず。パラドックス。つまり理の真反対。本来生まれるはずのなかった存在しない魔法だ。そして、そんな魔法が出てきたと言うことは、それを扱う魔王がこれまで以上に厄介だと言う事も理解する。

「ほ、本当にパラドックスが実在しているの...?」

「はい...。どのような原理でこの世界にその魔法を留まらせているのか、扱っているのかは不明ですが、全ての点が繋がるのがその魔法しかないのです」

アヴァロンは、いつになく真剣な表情でそう主らに語る。

「そうに決まってんだろアマテラス。俺たちの前では、嘘をついてもバレるからな。でもその感知が反応しねーって事はガチってことだ」

ギザ歯の主は、アマテラスと呼ばれた女性っぽい主に対して、半分呆れながら手を動かして言う。

ア、アマテラス...。日本神話の太陽神...。何故こんなにも俺の世界の神話等と同じような名前が...。

カラはこの世界と元の世界の関係性について疑問を持つ。何ヶ所か一致しない部分はあるものの、一致している所も何ヶ所かあるからだ。

「そうは言っても、嘘偽りのない言葉としても、信じられないじゃない...」

「んだお前、いっつもそんな感じだな」

ほんのり赤い肌の主は、明らかにキレているトーンで喋る。

「それは勿論じゃない。何事も疑いから入るべきでしょう」

「あ?」

カラ達はその瞬間。喧嘩するかもしれないとなんとなくそう感じた。すると

「まぁ落ち着けよブラフマー、アマテラス。今はまだ人の子もいるんだ。今この場で争ったらこの世界の希望が無くなってしまうぞ?それでもいいのか?」

少しだけ生えた白い髭と、短髪ながらに白髪で、銀河のような美しさの瞳の色のイケおじが、ブラフマーに肩を組み、2人を見る。そして少しオーラを出す。そんな3人の睨み合いにカラ達は固唾を飲む。すると、

「...チッ。まぁ確かにウッコの言う通りか、しゃーねぇ」

「そうね」

そう言い、ブラフマーとアマテラスは席に座る。

アマテラスにブラフマー...ってことは、もしかしてこの場にいる主らって、各神話の最高神...?な、なんでこの世界に...

頭の中が困惑しまくって混乱してしまうカラ。

「ふぅ...ウッコがこの場を沈めてくれて有難いわい」

「ガーッハッハッハ!なんのなんの!これくらい良いさ!長年この世界を治めてきた仲だろう!」

真ん中の1番偉いであろう人は、ウッコに感謝している様子。そしてカラは順次に理解した。おそらく真ん中の人がゼウスだと。

「ほ、本当に凄いですね...」

「うん...。」

〝シフィ、まだ怖いです...〟

シフィは少し震えながらそう呟く。カラはそんなシフィが心配になり、落ち着かせるために傍に寄り背中を撫でる。

「ここからが問題で、魔王に対する懸念点ですが」

アヴァロンは続けて離そうとすると、突然扉が開き、ガブリエルがやって来た。一同、突然の出来事に驚いているとガブリエルは跪き

「主よ、話し合いの最中、許可なく中に入ったことをお許し下さい。緊急事態です。」

と、告げる。そんなガブリエルの慌てた表情に、真ん中にいる主が質問する。

「何があった」

そう質問すると、ガブリエルは顔面蒼白で、まるで絶望しているような表情のまま答える。

「アザゼルが突然エリュシオンここに現れました」

「アザゼルだと!?」

「永久追放した筈では...?」

ガブリエルの発言に驚愕した主らは、ザワつき始める。

「ア、アザゼル...。名前だけは聞いたことある」

カラもアザゼルと言う名前を聞き、動揺する。

「な、何なのですか...?アザゼルとは」

リノア達はアザゼルを知らない。その為、カラに質問する。カラは落ち着かせて、アザゼルについて答える。

「アザゼル...。楽園から追放された元天使。その名前の由来は"神の如き強者"。」

「か、神の如き...って...。」

「嘘でしょ...」

アザゼルの名前の由来を聞き、一同は絶望する。当たり前だ。神、つまり、今目の前にいる主らと、何ら変わりない強さを誇っているという事だからだ。

「アザゼル相手は流石に...。」

一同、突然の来訪者に悩ませていると、今度は建物が揺れ始める。

「な、何!?」

「今度は一体...!?」

すると、ガブリエルは耳元を抑え、何かの通信を聞いている様子。一同、ガブリエルの方を見る。

「アズ!一体何があったの!?うん...。うん。」

ガブリエルは外にいるアズリエルの通信を聞いているようだ。すると、ガブリエルは更に血の気が引き、顔が青く染まる。

「うそ...。ルシファーも来たの...?」

「ルシファーじゃと...?」

「嘘だろ...」

流石の情報にも、主らも絶句する。そんなの当たり前だ。ルシファー。その名を知らない者はいない。堕天王。悪魔王など、その2つ名の多さや圧倒的な強さは、然程知らない人でも理解出来る。

「なんでこのタイミングで...」

一同、アザゼルの登場により、深く絶望していた上にルシファーまでも来た。ここで終わりなのか...。そう思っていたが、カラは

「エリュシオンは、主の方々。そして天使の皆さんにとって、大事な場所なんですよね...?」

と質問する。

「あぁ、もちろんじゃ」

「そうだな」

主らはカラの言葉を聞き、頷く。そんな答えを聞き、カラは続けて喋り続ける。

「ならば、私たちカラと共にこの大切な場所を守りましょう!!」

カラは目の前に出していた手のひらをギュッと力強く握りしめる。

「人間が希望を捨てず、諦めずに立ち向かおうと言ってるんじゃ、ワシらも頑張らんと行けんのぅ」

そんなカラの覚悟を見た真ん中の主は立ち上がり、手のひらを前に出す。するとその手のひらから雷が生まれる。そして主は雷を握りしめ怒号をあげる。

「ここで、ワシらが行かんかったら面目もないわ!!」

「はっ!そうだな!!ゼウスのジジイ!人間がそう言ってんだ!俺らが行かねぇとなァ!」

「ありがとう。人間よ。私たちも覚悟が決まりました」

「奪えるものなら奪ってみな!消せるものなら消してみろ!オレ達が全力で阻止してやるさ!!」

主らは各々立ち上がり、オリンポスからワープし、外へと出る。カラ達も主らについて行く。


外へと出ると、そこは戦場と化していて、先程まで見ていた楽園とは程遠い光景になっていた。しかし、主らは

「久しぶりの戦場だァ!!行くぞ!ウッコ!」

「ガーッハッハッハ!!悪魔よ!オレらに喧嘩売ったこと後悔するなよ!!」

と叫び、ウッコとブラフマーは勢いそのまま渦中へと笑顔で突入する。

「お主らも戦え、ワシらをやる気にしてくれた罰じゃ!」

ゼウスは笑顔でカラ達にそういう。カラ達は驚愕するも、エリュシオンの守るために戦う。

「そこの一度も話していない女子おなごよ」

と、突然アマテラスはシフィを呼び止める。

〝え、は、はい...な、何でしょう...〟

シフィは若干脅える。すると、アマテラスは笑顔でシフィの頭を撫でる。

「貴女、回復魔法ですね?」

そう優しく聞くと、シフィはアマテラスを見つめながら

〝は...はい〟

と答える。その答えにアマテラスは更に優しく微笑み、シフィのでこの前に手をかざす。すると突然金色に光り

「貴女には太陽の加護を授けます。これで貴女は神聖級の魔法が扱うことが出来るでしょう。では」

アマテラスはそう言うと、笑顔でその場から消え戦場へと向かった。

「シフィ...って、あれ...?」

カラはシフィの方へ寄ると、シフィのでこには光る太陽の模様が出来ていた。

〝ど、どうしたのですか?〟

シフィは気づいていない様子だったので、カラは、シフィのでこを見れる物が無いかルヴラに聞くと、ルヴラは

「はい。鏡」

と異空間から普通の鏡を取り出す。俺たちが荷物ないのは、ルヴラのおかげや...。ほんまありがとう。なんてカラは心の底から感謝をしながらシフィの顔の前に鏡を出す。

〝あ、ほ、本当です...!シフィのでこに太陽の模様が...〟

「アマテラスの加護の証拠だね!」

そう言うとシフィは大喜びする。しかし、こんな戦場にシフィを置けないので、カラ達はシフィに後衛に行かないかと提案すると、シフィは

〝分かりました!そっちの方が良いのですよね!分かりました!〟

と言い、ルヴラと一緒に大急ぎで後ろの方へと向かう。

「さて...。行くよ。クゥロ、リノア、アヴァロン」

「勿論」

「はい!」

「本気でやるとするかのぅ!」

カラの一声でリノア達はやる気が漲り、一斉に戦場へと突入する。

「フッ!!」

カラ達は何も手こずること無く魔物を次々と倒していく。

「こいつらは問題無いな...ただ...」

戦いながらクゥロはとある方向を見つめる。その視線の先には、アザゼルと戦っているミカエルとアズリエル。そして、ルシファーと戦っているゼウスやアマテラス、天使のウリエル、ガブリエル等...。ルシファーに対してとてつもない数が対応しているが、ルシファーは余裕そうな表情。

「大天使以上が2人以上でも倒せないって...」

「どれだけ強いのアザゼルとルシファーは...」

クゥロとリノアは問題の方向を気にしながら、魔物たちを蹴散らしていく。

「カラ、ルシファーの方に行くね」

「妾もカラについて行くぞ!」

そう言うとカラとアヴァロンは、物凄いスピードでウリエルの方へと向かう。2人が止める余地もなく。

「...結局私たちじゃあの悪魔2人は倒せないから、カラに頼らないとね」

「そうですね。カラ様、アヴァロン様。お願いします!」


ルシファーの方へと移動しているアヴァロンとカラ。しかし、アヴァロンは

「じゃが、カラよ。あれだけの数で対峙しても尚、焦りがないぞルシファーは...。どうするんじゃ...」

と、自分たちとルシファーとの差が、あまりにも開きすぎている事を懸念する。しかし

「そんなの...正面突破以外ないだろう!!」

そう言った瞬間。カラはアヴァロンの目の前から消える。アヴァロンは移動しながら辺りを見渡すと、いつの間にかかなり遠くに行っていた。更にカラは、もう攻撃のモーションに入っていた。

..ん?以前見た時より速くなっとるか?もしや...

アヴァロンはカラの速さを見て心の中でそう感じる。アヴァロンも人類最強の剣士だ、それ相応の反射神経を持っている。そんなアヴァロンが追いつかなかったカラの速さ。その速さはまるで

「殺意の時の様な...」

「どぉりゃぁああ!!」

眉間にシワが出来るほどに力を込め、その拳をルシファーへと殴り込みに行くカラ。ルシファーは不気味な笑顔のままカラの方へと顔を向け、更に手のひらも向ける。

「受け止めれるのなら...受け止めて見やがれッ!!」

全力でルシファーの手のひらに向けて殴るカラ。しかし、ルシファーは変わらず不気味な笑顔のままカラの方を見る。

「っ!!」

カラは危険と判断し、すぐにルシファーの傍から離れる。

「カラたん...!」

「カラたん」

すると、それに気づいたのか、ガブリエルはカラの方を向き、カラを呼ぶ。しかし、ガブリエルのカラたん呼びにまだ慣れない様子のカラ。

「もしや、貴女が今この世界で話題となっている転生者様でしょうか!」

すると、ガブリエルの後ろから興奮した声が聞こえる。その人は水色の髪に黄色の瞳をしている。この人がガブリエル達が言っていた、人間大好きな天使なのだろうか。カラはそう思っていると、急にカラの方に抱き着いてくるこの天使。

「こんにちは!私、ラファエルと申します!!私は転生者様とお話したいのですが、今は目の前のルシファーを止めなければですので、自己紹介は後で良いですかね?分かりました!」

...この人超絶綺麗で敬語でどクソ綺麗な声してて、見た目も相まって超清楚なのに、人間大好きで、ハイテンションすぎるな...。それに自己完結が凄い...。

カラはラファエルの見た目とのギャップと、キャラの強さにドン引きする。

「ゼウス」

突然、全身に響くような重圧を感じるカラ達。それもそのはず、ここに来てルシファーが初めて喋ったからだ。しかし、喋っただけでこの威圧感...。その圧だけで主に匹敵する程の強さなのだろうと一瞬で理解する一同。

「なんじゃ裏切り者よ」

「裏切り者とは失礼な...。ワタシはただ、お父様に見てもらいたかっただけだと、何度言ったら分かるのですか...」

相変わらず、不気味な笑顔でゼウスと話すルシファー。

「のぅ。ルシファーよ」

ゼウスはそう言った瞬間、ルシファーの目の前に移動する。あまりにも速すぎて見えなかったカラ達。

「一旦ここから離れよ」

そう言い放つゼウス。よく見るとゼウスの拳はルシファーの腹に当たっている。そんな光景が見えた刹那。ルシファーは遠くへ飛んでいく。

「な...」

「嘘じゃろぅ...」

2人はゼウスの異常な強さに絶句する。今まで動きすらしなかったルシファーはたった一撃で吹き飛んでしまったからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る