第32話 無慈悲で厳格で残忍

「な、なんで僕の為に...」

『ミカエルは、驚いた顔で妾にそう質問してきた。ここで信用してもらうように、妾は正直に話した。』

「そりゃぁ、お主が心配じゃからじゃよ。」

ミカエルの髪の毛をミカエルの耳にかけるアヴァロン。

『ぼ、僕が心配って...。ま、まだ僕たち出会ってそんなに時間経ってないじゃん。』

ぷいっとミカエルはアヴァロンから顔を逸らす。だが、ほんの少しだけ顔が赤くなってるのが見える。

「...っふふ。妾はお主をエリュシオンに戻したいんじゃ。じゃからまずは、お主と話をしとる。お主と仲良くなりたいと思っちゃいかんのか?」

優しく微笑みながらアヴァロンは質問する。そんな質問を聞き、ミカエルは顔を赤くし、またアヴァロンから顔を逸らす。すると、小さく何かを言っているのが聞こえる。その声にアヴァロンは

「小さくて聞こえんぞ?ミカエル」

と質問する。すると、突然立ち上がるミカエル。アヴァロンはなんじゃ?と思い、ミカエルをじっと見つめる。

「ずるい!!!!」

鼓膜どころか耳が張り裂ける程に大きい声を出すミカエル。その声にとんでもなく驚くアヴァロン。

「な、なんじゃ...。」

耳を抑えながら、ミカエルの方を見るアヴァロン。

「ずるいよ...!そんな聞き方...。断れない...。」

「ち、ちょっと待て、なんか言っとるんじゃろうが、妾まだ何も聞こえん...。耳がキーンなっとるわい」

「あ、ご、ごめん...」

アヴァロンがそう言うと、ミカエルは突然大声を出したことを謝る。


数分後。

「で?もう1回話してみぃ」

「...や、やっぱりなんでもない!」

「え?なにか喋ってたような気がしたが...」

アヴァロンはそういい、ミカエルに顔を近づけるが、ミカエルはまたも顔を逸らし

「良い!!だ、大丈夫だから!!」

と顔を押しのける。

「うぐぅ...。そうか?それで妾はミカエルのそばにいても良いのか?」

そう質問すると、ミカエルは数秒考え込んだ後。

「か、勝手にすれば!?」

と、腕を組み、顔を赤くし顔を逸らす。典型的なツンデレのようなポージングだが、アヴァロンはそんなことは知らない。

『そういえばあの時からずっと思っとったが、ミカエルは表情が分かりやすくてのぅ』

アヴァロンは笑いながら当時のことを思い出す。

『ちょ!!もう!その先の話はいいでしょ!!もう終わり!!』

アヴァロンは笑いながら離そうとすると、ミカエルは慌てて、アヴァロンの話を遮る。

「あははすまんすまん。」

笑いながらそう答え、アヴァロンは話を終わらせる。


「まぁ大体こんな感じで出会ったんじゃよ」

「そういえば、その時から妾の方を向いてくれないんじゃよな...。何でなんじゃ?妾ちょっと寂しいんじゃがのぅ」

アヴァロンはミカエルを見ながらそう言う。カラ達は、明らかに弄ってるなぁ...。と思っていると、ミカエルはアヴァロンの話と同じように顔を逸らす。

『し、仕方ないじゃん!!だって∀〒※◆▽...』

照れているのか後半になるにつれて声が小さくなっていくミカエル。

「ミカ、後半何て言ってるか分からないよ?」

ガブリエルは苦笑いでミカエルに言う。

「ぐぅぅぅ...うぁあああーー!!!」

耐えきれなくなったのか、爆速で神殿の方へ飛んでいくミカエル。

「あら、飛んで行っちゃった。」

〝照れてるのかわいいですね〟

「天使も照れるんだね」

そんなミカエルを見て、一同、ニヤニヤしてしまう。

「それじゃあとりあえず、神殿の方に進もうか」

ミカエルの可愛さを堪能した後、ガブリエルはそう言い神殿へと歩き出す。カラ達はガブリエルについて行く。

「そうだ、ガブリエルさん」

「ん?どうしたの?カラたん」

カラはあることを思い出し、それをガブリエルに質問する。

「カラたん...?」

「カラたん...」

ガブリエルのカラたん呼びにリノア達はザワつく。しかしそんな事を無視してカラは話を続ける。

「なんで、カラ達をここに連れてきたのですか?」

ガブリエルの半歩後ろを歩きながらカラはガブリエルに対して聞いて当たり前の質問をする。しかし、ガブリエルは

「んー...教える事は出来ないかなぁ」

と笑いながら答える。

「え、どうしてですか?」

リノアは驚きながらそう聞くもガブリエルは答えない。

「仕方ないじゃろう。ガブリエル、ミカエルは天使の中でもかなり偉い位におるからのぅ。教えることが出来ない事情の方が多いじゃろう」

皆が不思議がっていると、アヴァロンはガブリエルの凄さを少しだけ教える。

「よく知ってるね...。私とミカエル。あとアズリエルとかは大天使と呼ばれる位にいて、私たちは第八階級に属してるんだ。」

アヴァロンの説明に驚きつつもガブリエルは天使の階級についてを説明する。

「けれど、他にも力天使と言って、第五階級の指揮官、そして第一階級としてミカエルはいるし、私もミカエルと同じで、第一階級の一番偉い天使だしね...」

し、熾天使...。天使の中でも超エリートだけがなれる最上級の位...。

カラは心の中で驚愕する。当たり前だ。自分を助けてくれた天使が実は熾天使で、天使の中で一番偉いのだと知ったのだから。

「という事は、ガブリエルさん達は主...?から直接命令が下るってことですか?」

クゥロはそんな質問をする。そんなことよりカラはクゥロの敬語を聞き少し驚く。

「ううん。本来、主から命令が直接下るのは私たち熾天使ではなくて主天使、階級で言うと第四階級かな。けれど、今回は特例で私とミカエルが行ったんだ」

「そうなんだ...。ありがとうございます」

「ううん、大丈夫だよ」

ガブリエルはクゥロの礼儀正しい姿を見て笑顔で対応する。

「なんで、ミカエルとガブリエルに命令が...?」

独り言のようにボソッとルヴラは疑問をつぶやくも、ガブリエルはそれを聞き逃さず答える。

「おそらく、私たちに命令が来たのは、私の場合天使の中で最速だから。ミカエルは力が強いからだと思うよ」

その耳の良さに、驚き、顔を隠しながら

「うぇ!?あ、あ、ありがとうございます...」

とルヴラはほんの少しだけ照れて答える。


「だんだんと近づいてきましたね〜...」

カラ達は和気藹々と話していると

〝ん...?あれ...なんでしょう〟

と、シフィは先に何か気づき、そう呟く。

「え?」

「どれ?」

一同、シフィの指差す方みると、何かが尋常じゃない速さで、こちらに向かって飛んでいるのが見える。すると、なにかに気づいたのかガブリエルはカラ達の護衛体勢に入る。

「私の後ろにいて!!」

そう声を張るガブリエル。一同、何も分からないが、ガブリエルの言ったことを聞き、ガブリエルの後ろに行く。するととてつもない爆音が聞こえる。おそらくガブリエルの武器が何かとぶつかった音だ。

「...ど、どうなった?」

そういい、恐る恐る目を開けると、そこには赤がほんのり混じった金髪。そして背中に羽が6つ生えた青紫色の瞳の女の子が、カラ達のことを睨みつけながらガブリエルと対峙しているのが見えた。

「え...」

「ガ、ガブリエルさん!大丈夫なのですか!?」

一同、ガブリエルの心配をするが、ガブリエルは

「だ、大丈夫...。とりあえずウリリを落ち着かせないとね...。」

「落ち着かせるですって...?貴女、人間を神聖な場所エリュシオンに連れてきておいて、何言ってるの?バカじゃないの?」

「ウリリ。それ誤解だよ...。私は主に命令されてこの人たちを連れてきたの。ミカちに話聞けばわかるから」

ガブリエルはウリリと呼ぶその子を宥めるも、その子は話を聞かず

「貴女、ここの規則を忘れた訳じゃないでしょう?」

と、ガブリエルを問いつめる。しかしガブリエルは諦めず、少し焦りながらも説明をする。

「忘れたわけじゃないけど、今回は特例なの!」

「エリュシオンに特例も何も無いでしょ...。はぁ。話通じないわ。貴女どいて、私がこの人間達を違反者として処罰する」

「ちょっと、ウリ───」

ガブリエルの忠告を無視し、その子は剣を構える。突然の出来事に理解ができないカラ達。しかし、目の前にいるのは敵意むき出しの天使。このままだとマズい。守らねば殺られる。そう思った瞬間。その子は今まで見てきたどの敵よりも速く。皆が反応するよりも前に、剣がカラの首元まで届いていて、剣はカラの首を切ろうとしている。

ヤバイ死ぬ。

その瞬間。カラの脳裏に浮かんだその言葉。認識は出来る。が、速すぎて反応ができない。周りもその異常な速さに反応が出来ておらず、動こうにも動けない。誰もがカラが死ぬ。そう思った時だった。カラの傍で金属が力強くぶつかったような音がした。しかしそこにあったのは拳。拳を辿って見ると赤紫色の髪の色。少女体型で、顔も幼げ。目もどことなくあどけない。そんな天使がいた。

「ミカエル...」

その子はミカエルを睨みつける。

「ウリエル...。その剣。下ろして」

ミカエルもウリエルと呼ばれたその子を睨みつける。

あ、危なかった...。死ぬところだった...。

カラは落ち着かせるために深呼吸をする。リノア達もカラの背中をさすり、落ち着かせる。

「なんで人間を庇うの。ミカエル。」

「庇うとかじゃなくて、主による命令だってさっきから言ってるのに...」

ガブリエルはウリエルの話の聞かなさに呆れる。ミカエルもウリエルに対し

「ガブがさっきから言ってるのになんで貴女話聞いてないの...?」

と、呆れながらそう聞く。

「話も何も規則違反で」

ウリエルがまたそんな事を言うとミカエルはため息を漏らして

「ほんと、ウリエルって頭固すぎ」

とウリエルに文句を言う。

「んまぁ、仕事モードのウリリはいつもこんな感じだから...。今に始まったことじゃないから...」

苦笑いをしながらガブリエルは言う。そんな2人の反応に困惑するカラ達。

しかし数分後。

「ごめん!!本当にごめん!!まだ仕事モード抜けてなかった!!主様の命令だったら特例だもんね!でも私それが抜けてた。本当にごめん!!」

ウリエルは超絶カラ達に謝り、ガブリエル達にも謝った。

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