第28話 過去に犯した大罪

「リノア、無理しなくてもいいんだよ?」

「そうだよ、リノア...」

「カラと言い、リノアと言いお主らは、気負いすぎることがあるからのぅ...。無理はするでない」

皆、リノアを心配してそう言うが、カラはリノアを見て気づく。少し手が震えながら、しかし覚悟が決まった表情をするリノアを。そんなリノアを見て、カラは

「...皆、リノアを信じよう。」

カラは皆にそう言う。だが、皆少し心配気味だ。すると

「そうだよ、リノアを信じなきゃ。だって仲間の前に友達でしょ」

クゥロはリノアの肩に手を乗せてそう言う。そのクゥロの発言に、

「...そうだね」

〝友達の事信頼しないでどうするって話ですね...〟

「...いい言葉じゃな」

と、皆納得する。

「名言じゃん、クゥロ」

「...う、うるさい」

少しだけ顔を赤くし、俯きながら言うクゥロ。そんなクゥロにカラはニコニコと笑顔で見つめる。


「...い、行きますよ...。」

手が震えているのが目に見えてわかる。そんなリノアにカラは近づき、後ろから覆い被さるように抱きつき、手を重ねる。

「ひゃっ!?か、カラ様!?」

突然、後ろから抱きつかれ動揺するリノア。

「大丈夫。落ち着いて」

「わ、分かりました...」

こ、こんなの落ち着けるわけないよ〜...

心の中のリノアが暴れ回っているが、数十秒もすれば落ち着いていく。むしろ、先程より落ち着いている。そんな自分に驚くリノア。

さっきより落ち着く...。もしかしてカラ様がこんなに近くにいるからなのかな。今なら、これまで以上の魔法の精度が発揮できそう...

そんなリノアの想像は当たり、今までの数倍の魔力、超絶緻密な魔法が発動する。

「え...」

「何じゃこの緻密すぎる魔法は...」

そしてこの魔力量...。一体何が起きとる!?

そんな今までに無い事が起き、一同驚愕する。

「もしかしたらカラの影響なのかも」

クゥロはそう発言する。カラとリノア以外の皆は、その話を聞き始める。

「カラの能力はトランス。つまり変圧器なの。そしてリノアは魔法を扱う、ここがおそらく起点になってる。」

「魔法を扱うのが起点?」

ルヴラはクゥロの仮説を聞きながら、不可解に思ったことに口に出す。するとクゥロは即座に答える。

「そう。この魔法の扱うという所を、カラは無意識の内に、自身を変圧器へと変化させて加速しているの」

「なるほどのぅ...。それでリノアの方に魔法の作動がより早く、且つ潤滑に行っとるんじゃな...」

クゥロの仮説を聞き、それなら辻褄が合うと納得するアヴァロン。2人の会話に着いていけてないルヴラとシフィ。

「...シフィはいずれわかるよ。でもルヴラは分かろうよ。魔法道具あんなに作れるのに」

そんなクゥロの発言に、ルヴラは

「仕方ないじゃん!魔法道具の仕組みは僕ですら分かんないんだから!」

と文句を言う。

「あ!」

4人がそんな話をしていると、リノアが何かに反応した声を出す。何かあったのかと、皆リノアとカラに近づくと、いつの間にか最後の障壁まで行っており、なんならその最後の障壁も解けそうになっていた。

「終わるぞ...リノア」

「は、はい!なんとか解けそうで良かったです...!!」

そして数秒後、障壁が全部解け、無事本の周りにあった球体型の封印が消える。

「...ふぅ〜終わったぁ」

「良かったです...」

「何とか読めるね...」

そうして、なんとか封印を解くことに成功したカラ達は魔王に関する記憶を読むことに。

「えっと...。あ、注意喚起があるよ」

「えっ?」

「注意喚起じゃと...?」

何故、記憶の本に注意喚起があるのか謎に思うアヴァロン達。少し疑問に思いながら読み進めていくカラ。

「よし、読むね...。えー、なになに?これを読む者に告げる...。今すぐに読むのを止めろ、さもなければ、全てを持ってして貴様を抹殺する...って」

「え...」

読み始めて僅か10秒。そんな言葉が書かれている事に驚き、困惑するカラ達。

「ど、どういうこと?」

〝何故、記憶の本なのにそんなことが書かれてるのでしょうか...〟

シフィは本の文言より、記憶の本に書かれていることに疑問を持つ。するとアヴァロンが推測を語り始める。

「もしかすると、この魔王の記憶に関する本は、この世界の根幹に触れるのか?それとも何かしらの力によって記憶を読む者に対して、注意喚起をすることが出来るのか...?」

アヴァロンはブツブツと真剣な表情で謎について考える。

「とりあえず読む...?」

カラは皆に確認とる。しかし

「いやぁ...やめといた方が良いのでは無いですかね...」

「僕も、辞めた方がよさげな気がする」

リノアとルヴラはこれ以上は止めた方がいいと止める。一方で

「正直、魔王に関する記憶ならば、弱点がわかる可能性を考慮しなくとも読んだ方がいいと思う」

「妾も、読んだ方が良いと思うぞ」

クゥロとアヴァロンは読んだ方がいいと意見する。しかし、シフィは答えずにカラの方を見つめる。そんなシフィを見てカラは

「シフィはどっちの方がいいかな?」

屈んで、そう質問すると、シフィは少し困ったような表情をした後に

〝シフィはカラさんが選んだ方が良いです...っ〟

と、答える。そんな答えに心がキューンとなるカラ。しかしそんな心の中を押し殺し、優しく微笑みながら、シフィの頭を撫でて普通に答える。

「そっか...。シフィはカラに着いてくるか」

「みゅぅ...」

〝はい...。シフィ...カラさんの事好きですので...〟

シフィは気持ちよさそうな顔をしながら、そう言うと、皆、その発言に驚く。

「シ、シフィちゃんがカラ様のこと好きって言ったぁああ!!!」

「シフィが初めて好意を伝えた...」

「ぼ、僕のシフィちゃんじゃなかったのかぁああ!!」

「いやそりゃそうでしょ」

ルヴラの変な発言に即座にツッコむクゥロ。

「こんな時に言うかね...」

鼻で笑いながらボソッと呟くアヴァロン。

「そっか...うん。じゃあ読むか!」

カラは優しい笑顔から、パッと満面の笑みに変わり、そう声を張る。

〝はい...!!〟

「OKです...!!」

「カラが言うなら行こう!」

「流石じゃな」

「良いね。最高。」

カラの発言により、全員肯定し、魔王に関する記憶の本を読むことに。

「よし...っ!!」

覚悟を決め、次のページをめくると、そこに書かれていたのは魔王が誕生した後の話だった。


現在より549年前、この世に降臨した魔王。しかしその力は前魔王よりも遥かに強く、弱点が無い。

「じゃ、弱点がない...?!」

「化け物すぎるじゃろ...」

「と、とりあえず続けましょう」

魔王再臨により起きた世界の事象。1つ。魔物の活発化。2つ。魔物の強化。

「昔に比べて魔物が活発化しとるからのぅ...。」

〝やっぱそうなんだ...〟

3つ。魔法を扱える者の減少。

「...え?」

「どういう事...?」

変な事が記載されてるのを見て、一同困惑する。

「魔法を扱う者の減少じゃと...?」

「もしかして、その人たちを下僕とかにしてるのかな...」

そんな最悪な事を予想するルヴラ。そんなルヴラにカラ達は

「...それだったら嫌すぎる」

「何もしていない人たちを下僕にして働かせてるなんて...。嫌だね...そんなの」

と、そんな最悪な出来事出会ってほしくないと否定する。

「じゃが、割と有り得る説でもあるのぅ...」

アヴァロンはクゥロの憶測に納得する。

「...と、とりあえず続きを読むね」

カラはそう言うと、一同頷く。そしてカラは読み始める。

魔王がやってきたこれまでの罪状。

「...魔王がどれ程のことをしたのかが分かる...」

人間奴隷化。大量殺人。

「...罪状の数は少ないけど、その内容が...」

「大量殺人って、どれだけの人を殺したの...?」

ルヴラは質問すると、カラは苦しそうな顔をしながら答える。

「...6700万人」

「嘘...」

「最悪...」

魔王の殺した数を聞き、リノア達は胸糞悪い気分になり、何も言えなくなってしまう。

「まだ、最後の罪状がある。」

「これ以上があるのですか...?」

リノアはもう聞きたくないといった表情で言う。

「とりあえず、最後の罪状聞きたい」

クゥロは真剣な顔でそう答える。

「分かった。じゃあ言うね」

カラは深呼吸をし、本に書かれていることをそのまま読む。

「大罪。理への反逆」

「は...?」

一同、困惑する。何故か、それは魔王の事が理解できないからだ。流石の魔王とはいえ、生物だ。生物が理に対して逆らうことが出来るのかと

「ど、どういう事ですか...?」

「理への反逆じゃと...!?」

「どうやってしたの...」

アヴァロン達は大パニックになり、必死に考える。

「この世界には理があって、その理を魔王は破った...?」

「一体どうやって...」

2分程考えるも理解が出来なかった。


「一応、これで終わり...」

本を全て読み終えた後、閉じると、即座に封印が施され、台座の宙に浮く。

「うわぉ...」

「封印って、解かれてもすぐに治るんだ...」

「ライニグがそう作ったんじゃ」

少しだけ、その出来事に感心するが、一同はそれどころでは無い。

「魔王...異次元すぎないかな...」

「それに人を何千人も殺して...わたくし、この先精神を保てるか分かりません...」

リノアはそんな事を嘆く。それも仕方の無いことだ。魔王討伐として頼まれたのは平均9歳の子供だけのパーティ。不安になるのも仕方がない。そう思っているとクゥロは立ち上がり

「...クゥロ様?」

「正直な話、魔王に近づいてきてはいるんだ。でも魔王に近づけば近づく程、この先もっと苦しい思いをするかもしれない。と言うより、すると思う。けど、その苦しみから逃げてこのまま魔王と対峙出来るのも無理だと思ってる。だからここで、ちゃんと辛いことに向き合って魔王に立ち向かいたい」

クゥロは覚悟が決まった凛々しい表情でそう皆に言う。

「...姫が覚悟決めて言うんだ。まぁ、僕は最初からそのつもりだったけど、僕も向き合うよ」

ニッと無邪気な笑顔でクゥロの肩に腕を置く。

〝もちろん、シフィはカラさんに着いていきますっ!〟

ふんすと鼻息を鳴らすシフィ。しかし何故か効果音でがんばるぞーっと聞こえるような気がする。

「シフィやクゥロ、ルヴラがそう言うなら、カラはもっと頑張らなきゃね...っと!カラも頑張るよ」

仕方ない。と言いつつも最初からそのつもりだったカラ。

「この数日、お主らと関わって気に入ったぞ。妾もお主らと共に行く!!」

ここでそう宣言するアヴァロン。そして皆、リノアの方を向く。

「リノア。着いてこいとは言ってない。だから好きに選んで」

カラは優しい口調で頭を撫でながらリノアに選択させる。

「...カラ様とクゥロ様。ルヴラ、シフィちゃん。更にアヴァロン様が来るのに、ここまで着いてきた私がついて行かなくてどうします!!!もちろん!着いていきますよ!わたくしは!」

リノアはそう大声を上げる。その言葉を聞き、皆笑顔になる。そしてカラの提案で円陣を組む

「皆...絶対に魔王倒すぞ〜!!」

「おーっ!!!」

カラの魔王討伐の意を表明した後、皆は同時に声を発する。全員の士気が確実に上がり、魔王討伐の覚悟を決める。そんな中、アヴァロンに一通の連絡が

「ん、ちょ、ちょっと待ってくれ」

そうアヴァロンが言うと、カラ達は静かにする。

「どうしたんじゃ?アーサー」

どうやらアーサーからの連絡のようだ。しかし、なんとなく嫌な予感がすると、カラは冷や汗を垂らす。

「な、なんじゃと...敵襲じゃと!?」

「て、敵襲!?」

「嘘...!?」

カラの予感が当たる。しかし、カラはこの予感ではないと心の中で呟く。もっとでかい何かが...そんなことを考えていると、続けてアーサーから連絡が来る。

「...な、なんじゃと...」

アヴァロンは深く絶望したような表情を見せる。そんな表情を見てカラは心拍数が上がる。嫌な予感が当たるなと心の中でずっと願っているのだ。しかしその予感は的中してしまう。

「ま、魔王が来たじゃと...?」


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