第21話 万物を断つ一撃

そうして、俺たちが帰ろうとした途端。地面が揺れ始める。

「っ!?」

「何これ!?」

その大きな揺れにカラ達は動揺する。

「この揺れは...まさか...!!みんなここから離れ────」

アヴァロンは皆を避難させようとした瞬間。封印が解かれ、地面が盛り上がる。

まずい...このままだと皆...!!

〈trans〉

カラは咄嗟に能力を使い、皆を一斉に助ける。

「っ...ふぅ...。危なかった...。」

ホッと息を吐くと、今の状況を見たルヴラが

「カ、カラ!!宙に浮いてる!!」

とてつもなく驚愕する。ルヴラの反応で気づいたリノア達は

「え!?ほ、ほんとだ!!」

「カ、カラさん...。宙も浮けるんですね!!」

「い、いや、私たち知らなかったから多分、カラも知らなかったんだと思う...。」

と各々反応する。

「ほ、本当だ...浮いてる...。なんで?」

カラも何故浮いているのかわかっていない様子。

「そんなことを喋っとる暇はないぞ!!お主ら!」

アヴァロンは大声を上げて、カラ達に言う。すると、封印されていた場所から、巨大な黒のような紫のような龍が出てくる。

「う、嘘でしょ...」

「なにあの大きさ...。」

地面にゆっくりと降ろされたリノア達は目の前の異様さに唖然とする。

「あれが...」

「あぁ、生きる災害。“厄災”ニーズヘッグ。そして、またの名を終末を超えし者。」

アヴァロンは“厄災ソレ”を睨みつける。

あ、あれが...厄災...。見たところ、富士山と一緒...いやそれ以上だろうか。それほどに大きく、遠近感が掴めない。遠くで見ているだけなのに、勝てないという絶望がひしひしと伝わる。

「そ、それより終末を超えし者ってどういう事ですか?」


リノアはアヴァロンが言ったことに疑問を抱く。もちろんそれは俺も思った。質問してくれてありがとうリノア。

「...妾の国には、古くから伝わる伝承があってのぅ。」

と、アヴァロンは睨んでいる表情を変えず、ルズシュバラに伝わる伝承を話し出す。

「で、伝承...?」

ルヴラはアヴァロンが話す伝承について質問する。アヴァロンは少し複雑な表情して伝承について話し始める。

「...終末近づきし時、人々の前に厄災現る。厄災は全てを葬り、無に帰す。そうして厄災は終末を見届け、再度深い眠りにつく。」

予言に近いような内容の伝承を聞いたカラ達は驚愕する。すると今度はクゥロが喋り出す。

「世界終末録だよね。それ」

「世界終末録...?」

ルヴラが聞き返す。その問いにアヴァロンは頷く。

「世界終末録。この世界の王、女王、王女のみが知る、最重要機密情報で、この予言に近い伝承が各国で先祖代々語り継がれているんじゃ。」

「き、機密情報...。」

その言葉に固唾を呑むリノアとシフィ。

「...世界終末録の2章がその内容で、最終章は確か...終末が迎えた後、闇が再びこの地に目覚める」

クゥロは真剣な顔でそう語る。

「闇が再び...っ」

一同、その伝承の内容に絶句する。すると、厄災ソレは急にとてつもなくデカい声で吠える。

「っ!?」

「うるさっ!!」

厄災ソレは辺りを見渡した後、カラ達を見つけるや否や、カラ達に向かって禍々しい何かを放とうとする。

「まずい!!皆、避け───」

アーサーの声も虚しく、厄災の息吹が放たれる。

「え...」

「ヤバ...」

皆、絶望する。もう手遅れなのだと。生き残れないのだと。しかしカラだけは違った。

ダメだ...ダメだ!!魔王を討伐すると俺達は決めたんだ!!こんな所で!!

咄嗟にカラは皆の目の前に移動する。

「カラ!!」

「カラ様!!」

流石のカラでも厄災には適わないのではないかと。皆嘆く。

「この息吹は物理的に反転する───」

〈trans〉

カラの体の中でガゴンと音が鳴る。厄災の息吹がカラに触れた瞬間、反射して厄災ソレに息吹が向かう。厄災ソレは驚き、上空へ逃げる。

「貴様、何者だ」

「!?」

な、何だこの圧...。話しかけられただけで恐怖を感じる...。

「答えろ。貴様、何者だ。」

上空からさっきと同じ威圧を感じる。恐らく...いや確実に厄災ヤツだ。

「そう言われて答える訳ないだろ...厄災」

そう答えた途端。厄災ソレは更に威圧感を出す。

「ぐっ...」

今にも跪きそうな圧...。

「余のといに答えよ。貴様は何者だ」

「こ、答えた方がいいんじゃない...?」

あまりの圧にそう言い出すルヴラ。しかし

「妾達は、今ここでこの化け物を討伐しにゃならん。彼奴あやつは厄災そのもの。彼奴の問いに答えちゃならんぞ」

アヴァロンは殺意のこもった瞳で厄災ソレを見つめながらそう言う。

「...貴様。アヴァロンか。」

厄災はそう言うと、アヴァロン目掛けて突撃する。

「っ!!」

それに気づき、アヴァロンは戦闘態勢になる。

「貴様を捻り潰してくれよう!!」

厄災はそう言い、アヴァロンを食おうとするが、アヴァロンは自前の剣を持ち、厄災の口を防ぐ。それと同時に厄災は上空へと向かう。

「アヴァロン!!」

カラは思わず口に出てしまう。しかしアヴァロンは

「大丈夫じゃ!!お主らはこの化け物が降りてきた瞬間を狙え!!」

笑顔になり大声で言う。その声にカラ達は頷く。

「大丈夫だと...フッ。余と1対1で戦えるとでも?」

侮辱するようにアヴァロンを煽るが、アヴァロンは笑いながら

「封印された影響で老化したんか?そのせいで妾の実力を忘れてしもうたんか?」

と煽り返す。

「貴様ァ!!」

厄災はブチ切れ、首を振りアヴァロンを上空へ飛ばす。そしてまた厄災の息吹を放とうとする。

「妾は不老不死じゃぞ...?そんなもので」

まだ笑顔のままアヴァロンは煽ろうとすると、厄災は

「そんなことは知っておる。だから新技だ」

...息吹の色が更に黒い!?これは...!!

アヴァロンはすぐに防ごうとするが、時すでに遅し。厄災は漆黒の息吹を放つ。

「終焉ノ息吹」

「────っ!!!」

アヴァロンは直に終焉ノ息吹を食らう。その様子を遠くから見ていたカラ達は絶望する。


「アヴァロン...!!」


ダメだ...。俺の目の前で人が死ぬのは...。


カラは息が荒くなりあからさまに動揺する。


俺の目の前で死ぬのは...


脳内で蘇る。自分が助けなかったせいで死んでしまった者を。


絶対ダメ────


カラの混乱により発動してしまう。ソレを。そしてカラの意識は無くなる。


〈??????〉


リノア達は感じた。あの時のオーラを。殺意に塗れた、カラとは言い難い別の何か。

「カ、カラさん?」

アーサーは話しかける。しかしカラのようなソレは無反応だ。

「ダ、ダメ。話しかけちゃ...この状態は前に見た、殺意まみれの無意識トランス状態のカラ...だと思う。」

ルヴラは少し怯えながらアーサーを止める。

「だと思うって...」

アーサーはカラだった者ナニカを見ながらルヴラが言った言葉に困惑する。がしかし、心の奥底でなんとなくそうだろうと思ってもいた。

前と同じく何かを呟くカラだった者。瞬間。目の前からカラは消える。

「ど、どこに...!?」

辺りを見渡すリノア。しかし見当たらない。

〝上です!!厄災の方見てください!!〟

シフィは指をさしながらそう言う。皆上を見上げる。すると厄災に近づくカラだった者。


「貴様...先程とは随分違───」

厄災はすぐに異変に気づき、警戒する。が、カラはすでに厄災の腹部の前に居た。あまりにも一瞬すぎた為、厄災もどこにいるか認識していない。そして次の瞬間。とてつもない衝撃が厄災に降りかかる。

「───ガッ!?」

な...何なのだこの威力...ッ!?外見からは似つかわしくない尋常じゃない威力...ッ...。い、意識が...

厄災はカラだった者の渾身の一撃で意識が飛びそうになる。

「な、なんじゃ!?」

まさかの生きていたアヴァロン。しかし、今の状態が全く呑み込めていない模様。目の前にはカラ。そして意識が飛びそうな厄災。自身が気を失っていた時間に何が起きたのか。

「童がァ!!」

意識を取り戻し、終焉ノ息吹をすぐさま放とうとする。しかし、カラは目の前に居ない。

「...なっ!?」

後ろに気配を感じ、振り返る。すると、髪が解けたカラが居た。

な、なんという速───

そう思った瞬間。再び腹部殴られる。声にもならない声で咽び泣く厄災。ここまで来ると可哀想に思える。すると、アヴァロンは何かを察したのか、目を瞑る。

「...来い。クラウ・ソテス」

アヴァロンがそう呟いた瞬間。剣が光り輝く。その様子に驚愕するリノア達。

「え...アヴァロンさん生きてます...。それになんか光ってる...?」

「えっ!?」

その光り輝く剣を見た厄災は、焦り、アヴァロンを倒そうとする。

「させぬわァ!!アヴァロンンン!!!」

しかし。カラにまたもや腹部を殴られる厄災。

「グガァッ...!?!」

こ、この童がいなければ...アヴァロンを余裕で倒せるというのに...。こいつのせいで...。なんだこいつの拳の威力は...ッ

と、またも意識が飛びそうになる厄災。その瞬間。アヴァロンが空中を蹴り、厄災を近づく。そして...

「アダマス...」

下から上へと全力で振ったアヴァロンのクラウ・ソテスによって放たれた斬撃は、厄災を斬り、雲を斬り、果てには惑星までもが斬れてしまった。

「ウ、ウソ...厄災を斬った...」

「く、雲まで斬ってる...」

アヴァロンの異次元すぎるその一撃に唖然とするリノア達。

「これが、3つ目の噂...。」

そんなクゥロの発言を聞き、2人は

「3つ目の噂...?」

と質問する。そんな質問にクゥロはしっかり答える。

「アヴァロンの3つ目の噂。それは、その異次元なまでの剣技は惑星までも断つ程。」

「...本当に噂通りです...。」

2人はクゥロの話を聞き、また唖然とする。

「き、貴様なんぞ...童さえ居なければ...殺すことなど...動作もないと言うのに...グッ...ヤツが...魔王が貴様らを倒してくれようぞ...」

深い憎悪でそう言い放つと、厄災は塵となって空気へ消えていく。

「やっと...やっと、厄災がこの世界から消滅したか...。」

アヴァロンは上空を見上げ、感傷に浸りながらそう呟く。

「お、終わった...勝った!!」

「やった!!」

リノア達は喜ぶ。すると、上空から誰かが落ちてくる。その姿はカラだ。まさかの上空で意識が戻り、気絶して、そのまま落ちてきているようだ。しかしアヴァロンがそれを見つけ、お姫様抱っこをする。

「っと...危ないのぅ...」

そう呟いたあと、アヴァロンは笑顔になり

「お主のお陰で厄災に勝てたんじゃ...こんなところで死んでもらっちゃ困るのぅ...」

と言う。そしてアヴァロンはゆっくり地面へと降りていく。

「カラ!!」

リノア達がそう言いながらアヴァロンに近づくと、アヴァロンはしーっと人差し指を自身の前に立てて

「まだ寝させておれ、此奴こやつに意識が無かったものの、体は疲れておる。」

と言いながらカラの頭を撫でる。


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