第10話 能力の異常さ

「ブシュグレッド...?」

固有名称がある魔物...恐らくスライムとかそういった低級の魔物よりも遥かに強い...それに威圧感が尋常じゃない...けど...っ!!

「そうだ...わっぱの名は?」

ブシュグレッドはカラに問いかける。

「カラ...」

俺は決めたんだ、過去の過ちは犯さない...絶対に助ける...っ!!この手で救える命は...必ず!!

ブシュグレッドに手を向け、リノアに言う。

「ミューラ姫を守ってて!!リノア!!」

「はい!!」

ミューラ姫を守るリノア。

わっぱが何をしたって我を止めるすべなど───」

「ぐっ...!!」

力を入れた瞬間。体の中でガゴンと音が鳴る。体の中にある力が手のひらに集まっていき。そして...

〈trans〉

「っ!!」

「だぁあああっ...!!」

カラの手のひらから、とてつもなくデカい波動砲が出る...。放った瞬間の威力が高く、その反動によりカラは超絶後ろに下がってしまう。

「うぐぅっ...」

「す、すごい...」

リノアがその光景を見、感激する。

「はぁっ...はぁ...っ」

この能力...放った瞬間、超絶疲れるな...なんでだ...?もしかして2日連続で使ったからか?いやそんな訳は無いはず...だとしたら何故...

「だ、大丈夫ですか?カラ様」

「だ、大丈夫...とりあえず、まだミューラ姫を守ってて...後でリュグラ王も一緒にお願い...」

すると、館の中に居た人たちを逃がし終わったクゥロ達がこっちに来た。

「カラ、全員逃がしたよ」

「それに鎮火も終わった!」

「そ、そうか...良かった...!」

「とりあえず、リュグラ王を救出して欲しい」

「分かった!!」

「カラはまだ疲れが」

「今の力...わっぱ、何者だ」

すると全員の脳内に響くドスの効いた声。

「嘘だろ...」

分かってはいた...一発で死なないってのは...でも、それでも

「ワンチャンに賭けたかったな...」

「アレもしかして...敵?」

「は、はい...そうです...」

「何あの威圧...威圧だけで倒れそうなんだけど...」

それは俺も思うよ...

「とりあえず、リュグラ王とミューラ姫を安全な場所に移して!!みんな!!」

絶対に来る!!と思い、皆に話しかけた瞬間。もうカラの目の前にいる。

嘘だろ...早すぎだろ...その移動速度...グッ!!

〈trans〉

ガゴン。と音が鳴る。その後カラは思いっきり殴られる。

「ァッ...!!!」

「カラ!!」

全員が一斉に言う。だが、カラはまだ生きている。そしてカラは再度言う。

「頼む...!!皆...!!リュグラ王とミューラ姫を安全な場所へ!!」

「分かった!!」

「皆、早く行かないと...」

「カラ様...」

「ゲホッ...」

血反吐を吐いてしまうカラ。

「はぁ...はぁ...」

痛ぇ...あの瞬間、変圧式を出しといて良かった...守りに使えるか賭けてみたら正解だった...

「ほう...我の攻撃を食らっても動けるのか...わっぱ...いや、カラ。やはり貴様、只者では無いな」

「そりゃどうも...」

口元に付いている血を手の甲で拭うカラ。

「はぁ...っ」

カラはまだ息切れが続く。しかしブシュグレッドは息切れ1つしていない。もう怪我も治っている。

アイツ自動再生か...いや、恐らく魔力を使った回復か...見るからに上級だもんな...当たり前か

「ふぅーっ...」

深く息を吐き、拳を構えるカラ。それに便乗し、魔力を放出するブシュグレッド。

「ここからは本気で来るか?カラよ」

「最初っから本気だよ、ブシュグレッド」

ニヤリと笑う2人。

〈trans〉

またもやガゴンと音が鳴る。

そういえば...楽しい時に出るトランスはなんなんだろ...もしかして...ステータスバフか?それだったら嬉しいんだが...っ!!

ブシュグレッドの前に移動するカラ。しかしその速さは通常時のカラの移動速度を遥かに超えている。

「っ!!」

速い!!

想定外の速さに驚くブシュグレッド。

「フゥッ!!」

腹、鳩尾みぞおち、顎と三連撃を当てるカラ。

「グッ!?」

「クリティカルヒットだね...!」

またもやニヤッと笑うカラ。しかし

「良い打撃だ...だが、我は魔族だ、物理攻撃は効かん。それにそんなに近づいて良いのか...カラ」

「な...っ」

すると、ブシュグレッドの腹が急に光り出す。

「マズイッ...!!」

〈trans〉

ガゴン。

「デオビュグレ」

ブシュグレッドの腹から波動砲が出る。しかしそれを必死に受け止めるカラ。

「グッ...!!」

「ハハハッ...こんな攻撃1つを必死に受け止めるしかないなんてな!カラ、貴様ももう終わりだ」

ダ、ダメだ...まだ終わらせたくない...!!ここで死んだら...俺は...!!

「テスタメントロード!!」

「フロージアダスティング!」

後ろから声がする。

「ウグッ!?」

な、何だ...?

守りの体勢を解除するカラ。後ろを振り返ると

「カラ様!!」

「カラ!」

リノアとクゥロがいた。

「2人とも...リュグラ王とミューラ姫...それにルヴラは?」

「そんなの決まってるでしょ」

「2人とも安全な所へ移動させましたよ!」

「ルヴラは戦えないから皆を保護するね!って言ってました!」

「そっか...」

それを聞きホッとするカラ。

「この魔法、氷魔法と...光魔法か...?」

「そうだと言ったら何?魔物」

「氷魔法とは中々に珍しいが...光魔法は伝説の魔法だろう...何故今になって現れる」

「そ、そんなの知りません...わたくしだって最近初めて知りましたから...」

「なるほどな...なら」

ブシュグレッドはリノアの目の前に来る。

「貴様から先に倒さなくては」

嘘...反応できない...

速すぎる...!!避けきれない!

その目は100%殺意の目。確実にリノアは死ぬ。

マズイ...このままじゃリノアが死んでしまう!!嫌だ...友達が死んでいくのを見るのは...!!!


ブツン。


〈??????〉


その瞬間。カラの目は本気の目...いや、殺意の目をしていた。さっきから本気ではあったが、今、この瞬間だけ極限状態に入ったのだ。

ブシュグレッドの顔面にカラの拳がクリティカルヒットする。その勢いのまま、ブシュグレッドは国の外へ吹き飛ばされる。

「...えっ?」

「カラ...?」

2人はカラの方を見る。が、カラは何かブツブツ言っている。耳をすましたが全く聞こえない。更に言うとカラの目の焦点が合っていない。まるで壊れた機械のような挙動をしている。

「ど、どうしたんでしょうか?カラ様...」

「分からない...ただ、私達のことを認識してないみたい...あの魔物だけを見つめてる...」

と話した瞬間。カラは吹っ飛んだブシュグレッドの所へ行く。

「移動が見えない...!」

「速すぎる...」



「ガハッ...!!」

な、なんだ...今の攻撃は...。速すぎて何も見えなかった...

「ハァッハァッ...」

あれと同じようなヤツ...600年前にいたか...?あんなの600年前にもいないぞ...あのカラってやつ...もしかしたらあの憎き勇者よりも...

そんなことを思っていると、猛スピードのカラに膝蹴りをかまされるブシュグレッド。

「グボァッ!?!」

そして勢い途切れず岩壁にめり込む。

「ガッ...ァッ...」

まず...我の肉体に物理攻撃が聞くこと自体がおかしいのだ...我ら魔族は物理攻撃無効のはずだ...なのに何故...何故あのわっぱは、我に攻撃を与えることが出来る...!?

「魔王様に伝えなくては...あのわっぱを、カラを殺さなくては...と...!!」

逃げようと空を飛んだ瞬間。カラはもう目の前にいた。

「なっ...!?」

そして思い切り拳を振りかざし、ブシュグレッドに当て、地面へと落とす。

「アガァッ!!」

今度は地面にめり込む。

「グギッ...」

理不尽な強さすぎる...な、何なのだコイツの力は...

まだブツブツと呟いているカラ。それを気にせずひたすらに逃げようとするブシュグレッド。だが、すぐに追いつかれ打ち落とされるのみ。

「グッ...」

そして、今度はゆっくりと拳を構えるカラ。恐らくこの一撃が最後なのだろう。そしてそれに気づいたブシュグレッド。

「っ!!」

マズイ!!このままでは我はコイツに...殺されてしまう...っ!!

「レスト!!」

拘束魔法を使い、すぐさま逃げるブシュグレッド。

すぐに解かれるかもだが、時間稼ぎにはなる...!早めに逃げないければ!!

と全速力で逃げるブシュグレッド。

「...」

カラは拘束魔法を見つめまたブツブツと呟く。すると数秒後、その拘束魔法は解かれ。超高速でブシュグレッドの方へ向かう。

「くっ...!!解かれたか!このままでは追いつかれてしまう...!!ならば!!」

そこでブシュグレッドは魔物特有の狡猾さを使い、カラを騙すことに。

「リノアと言うやつに変身すれば殴ってくるまい...!!」

よし、魔王城へ向かおう!

と動いた瞬間。カラが目の前に来た。

「っ!?」

しかし、カラは止まる。この機を占めたと思い、ブシュグレッドはリノアのフリを続ける。

「おそらく、あの魔物...ですよね?」

「え、えと...あの魔物ならあっちの方へ行きました!」

と、別の方向を指さすブシュグレッド。

「...」

ブシュグレッドが指さした方へ全速力で向かうカラ。

「...よし、これで安全に魔王城へ向かえる!」

が、しかし、上にカラはいた。しかも拳を構えた状態で。そして、拳が振り下ろされる。

「ガッ...!?」

カラの本気の殴りは、ブシュグレッドの頭に直撃する。そのまま目に見えない速さでブシュグレッドは海へと落下する。その勢いで海がまた割れる。

カラはゆっくりとブシュグレッドの場所へ降りていく。

しかし。もうブシュグレッドは消えかけていた。

「...グッ...我が死んだと知ったら魔王の一派は気づく...もういつも通りの生活は無理だと思え...フフフ、カラよ...震えて眠」

喋ってる時に顔面を殴られ、完全に消えるブシュグレッド。

「...」

そしてカラはリュグシーラ王国へと戻る。



「...か、帰ってきた...」

カラがリュグシーラ王国に戻った瞬間、力尽きたように倒れる。

「カラ!!」

「カラ様!」

と支える。すると

「スゥ...スゥ...」

カラは疲れからか寝ていた。

「...フフッ」

「寝ちゃい...ましたね...」

「そうだね」

そして、2人はカラの耳元で

「お疲れ様カラ」

「お疲れ様です...カラ様...」

と囁く。


「───ハッ!」

と慌てて起き、俺は気絶していたことに気づいた。周りを見るともう朝になっていた。おそらく1日経ったのだろう。

「あの後どうなったのかな...」

そう呟きながら外を眺めていると

「カラ様、おはようございます!」

リノアが部屋に入ってきた。そして

「リノア...!!あの後の記憶ないんだが、どうなった!?」

とリノアの肩をガシッと掴む。

「...えと...あの魔物、ブシュグレッドは無事倒されましたよ!」

リノアは笑顔でそう言う。

「そっかぁ...良かったぁ...」

どうやら無事ブシュグレッドは倒されたようだ...。良かった。これでこの国が平和になった...。


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