第5話 ひと握りの才能

「て言うか、魔王を倒すのならそれ相応に強くないとダメなんじゃないの?」

次の日、昼ごはんを食い終わった直後にクゥロとリノア、そして何故か城にいるルヴラにも言う。

「えっ?魔王倒す...って何?」

あ、ルヴラには言ってなかったんだった。

というわけでルヴラにも全てを話す。


「て、転生者...?」

「そ、それに魔王が復活するかも...って?」

ルヴラの頭の上にめっちゃ?があるように見える...。

「最初はわたくしもそうなった...」

分かる分かる。と頷きながらルヴラの肩にぽんっと手を乗せるリノア。

「んー...確かにそうかも」

そんなルヴラを置いて話を進めるクゥロ。

「でしょ?」

「おそらくカラは戦闘の経験も無いだろうし...」

その通りですね。転生前も運動系は全くして来ませんでした。

「とりあえず、兵士がたまに使ってる修練場でも行こ」

「修練場...そんな場所があるのですか?」

(修練場...!やっぱここに来て正解だったね!!)

嬉しそうなルヴラ。何を考えているのだろうか。

「うん。ある。でもそんなに使わないから、もしかしたらちょっと寂れてるかも。」

修練場...さすが、王族だな...そんな場所もあるのか。

そうして俺らは談笑をしながら修練場に向かう。


「──クゥロ姫って、表情が変わらないからお堅い人なのかなぁなんて思ってたけど、意外と乙女で優しくて可愛いんだねっ!超女の子じゃん!」

「...当たり前...私まだ9歳だよ」

「それもそっか〜!」

超絶楽しそうなルヴラ。

へぇ〜...クゥロって9歳だったのか...って待て、ここ3人全員9歳ってマジかよ。

「えっと...確かルヴラだっけ」

「うん!何?」

「貴女のスキルって何?」

クゥロは真面目な顔をし、ルヴラに聞く。

「ん〜...何だろねー...」

「じゃあ貴女の好きな事...何?」

と質問を変える。

「僕の好きな事...?」

「うん」

「好きなことは魔法道具の開発...かな!」

太陽のような笑顔でそう言うルヴラ。

「魔法道具の開発...?」

「うん!」

「あぁ、そういえば貴女、シュスラ魔法道具店の子だもんね」

そりゃそっかって顔をするクゥロ。

「クゥロ様も1度、ルヴラの魔法道具を開発するところ見てみたら良いんじゃないですか!?」

「えっ?」

とナチュラルに凄い提案をするリノア。

相変わらずすごいなこの子...

「それ良いかも!」

と超はしゃぐルヴラ。

「まぁ確かに、ずっと城に居るのもなんか退屈するだろうし、息抜きとして行くのもありかもねっ」

「...じゃあ」

何か嫌な予感がする。

「カラとデートする時に見学させてもらうね」

「なっ!!」

「っ!?」

やはりそうなったか...

「何でカラとデートするのさ...。カラのこと好きなのか?」

って聞いた瞬間。クゥロは俺の前に行き、俺の方に振り返る。そして

「うん。好きだよ」

と頬をちょっとだけ赤くしちょっとだけ笑顔で言う。

「えっ!?」

「うえぇ!?」

「スーーッ」

冗談で言っただけなのにそう返されるとは。俺2日連続で告白されてるけど、俺明日死ぬんか。ってかなんで9歳のロリ3人に好かれてんだ。おかしいだろ

「そうだねぇ...」

「まさかクゥロ様までカラ様の事好きだなんて...」

「これは...」

「私、負ける気ないよ」

思いっきりバチバチだな...まぁ流石に姫が恋愛バトルに混じるとこうなるか...

「なぁ、昨日リノアは重婚制度があるって言ってなかった?」

「ん?はい。言いましたね!」

「ならなんでそんなバチバチなの?」

「初めての結婚とか初めての恋人とかを他の人に奪われるのは嫌なので...」

顔が怖い...いつものお淑やかなリノアじゃない...。戻して...

「おそらくルヴラも同じ気持ちですよ?」

「そ、そうなの...」

俺の争奪戦...好きになってくれるのは嬉しいが...俺のタイプは16〜18なんだよなぁ...。なんて思っていると

「ん、着いた。」

どうやら修練場に着いたらしい

「ここが修練場。」

「広!」

「ほんとだー!!ひろーーい!!」

「凄いですね...これ...」

バカでけぇ...体育館とかと大差ないぞこれ...

「フフッ!ここなら魔法道具使ってもいいんだよね!?」

「ん?うん。この修練場は特殊な魔法で保護されてて、基本的に壊れないし、壊れたとしても自動的に治るから大丈夫だよ」

ものすげー便利な魔法。その魔法日本にくれねぇかな。

「やったー!!」

「シュツァーノ草原じゃ試せなかったボリスヴュアを試すとき!!」

「え!?」

今なんて言った?!

「えっ!?ルヴラ!?」

「え、ちょっと...ルヴラ...何を」

「待て!ルヴ」

一同止めようとするも、止まらずルヴラは小さい何かを思い切り投げる。

「いっけー!!」

マズい...あれが何なのか全く分からないが、絶対マズい!!

リノアは耳を塞ぎ、目を閉じている。そしてクゥロは氷魔法を打つ準備をしている。おそらくクゥロの氷魔法は間に合わない...

間に合わせる...っ!!絶対に...!!あの時の...リノアと初めて会った時のアレが出れば...ッ!!

と少しでもなにか出来ればとダッシュでヤバそうな魔法道具へ向かう。

「クッ...」

出ない...ッ!!

どうにか...あれを...ッ!!


〈trans〉


「えっ?」

「嘘...魔法道具が...浮いた?」

「何この現象...」

「痛っ」

コケた...いてぇ...

「な、何ですか...!?今の...!」

「も、もしかしてカラがやった?」

「ってて...」

「え?ん?」

ど、どうした皆...俺の方を見て...

「な、何かあったの...?皆...」

「...ねぇ...カラ...」

と若干汗らしきものを垂らしながら、クゥロは話しかけてきた。

「ん?どうしたの?クゥロ」

「カラの力が知りたい」

俺の力を...知りたい...?

「え?あ...うん。分かった...」

意味が全く分からないが、クゥロに言われるがままにやってみることに。


「そのまま人形に向けて手をかざしてて」

「う、うん...分かった...」

「そしてその人形に対して強い感情...もしくはイメージを向けて欲しい」

「...ん?強い...感情?」

どういうこと?

「感情ならどれでもいい、その一つの感情を目を瞑りながら強く思って欲しい。」

「あー...なるほど...分かった...」

目を瞑りながら...感情をイメージ...。感情か...何にしよう...んー...とりあえず適当にイメージするか...

「...クゥロ様...何が起きるんでしょうか」

「私にも分からない...ただ、カラはもしかしたらヤバいスキルを持っている可能性がある...」

「う、嘘...カラが...?」

「もしかしたら...の話...」

リノア達はソワソワしながら会話する。

強い...感情...イメージ...


何故か過去の描写がフラッシュバックする。転生前の...親友だ...。

「はぁ...はぁ...」

カラの感情が揺れる度、何故か地面が震え出す。


「ね、ねぇ...カラ、何かマズくない!?」

「ヤ、ヤバいです...!!クゥロ様!!」

「そうだね...早く意識をこっちに戻さないと...カラ!!カラ!!」

マズいと感じた3人はカラを呼び戻そうとするが

「...聞こえてない...?」

「嘘...!?」


親友が...何故か居た...。

お前...何でここに?

───俺たち親友なのか...?

いきなりなんだ...?

────聞いてるんだ...俺たちは親友なのか...って

あぁ、もちろん当たり前だ

───そうか...でもお前...


俺の事見殺しにしたじゃねぇか


嫌な思い出がとてつもない勢いで脳裏に流れて来る。

「うわぁあああああ!!!!!」

「カラ様!!」

「カラ...!」

「カラ!!」

「はっ...!!み、皆...」

「良かった...戻ってきた...」

「カ、カラ...は...」

膝をつき放心状態で涙が溢れて止まらなくなるカラ。

「大丈夫...大丈夫だよ」

「僕たちがついてるから...」

「安心してください...カラ様...」

9歳のロリ3人に優しく抱擁されながら、頭を撫でられた。情けねぇな...俺


「本当にごめん。」

「大丈夫だよ?カラ」

「だって...修練場全破壊してしまったし...」

そう自分を責めると

「さっき言ったように、あれは魔法で自動的に治るから平気だよ」

とクゥロはカラのせいでは無いと慰める。

「それに多分怖い思いもしたと思う...」

でも俺のせいだと自分を責めるも

「確かに怖い思いはしたけど、でも僕たちに危害を加えてないから、大丈夫だよ...?」

と、慰めてくれる。

クゥロが優しすぎるよぉ....。と今にも泣きそうな表情をしてしまう俺。

「そうですよ!カラ様!わたくしは逆にもっと好きになってしまいました」

「え?」

な、何で!?さっきのあれで好きになる要素あるか...?

「驚いている様子ですね...。あの状態でもわたくし達に対して、攻撃しないという優しさがとっても素敵だったのです...!!」

リノアの目がハートになってるのが何となくわかる。

「それは確かにそうかも...」

「確かに!凄いよね!」

同調する2人。嘘じゃん。

「フッハハ!!」

あまりにも...あまりにも優しい...

「いやごめん...無意識的に...皆の事大事に思ったのかもね」

と笑い涙を拭きながら言う。

「ってことは!?」

「そういうことなのですか!?」

「ふーん...」

突然カラからそう言われ照れる3人。

「い、いや待て待て!まだこれがどんな気持ちなのか分かんないって!」

俺も好きなんて体験したことないからな...。これが父性から来るものなのか...好きからくるものなのかなんて

「まぁ良かった良かった!」

「カラの弱い面も見れて良かった良かった!ね!皆」

と満面の笑みでルヴラは言う。

「...そ、そうですね...」

「うん。分かる」

「なっ!?」

あ、あんな恥ずかしいの...っ!!

「あはっ!顔が赤くなった!!」

「コラァー!!おちょくるなー!ルヴラ!!」


30分後。

「すげぇ...ほんとに修練場が直ってる...」

木っ端微塵だったのに完全に直ってる...。すげぇ魔法だなぁ...

「じゃあ次は...リノアだね」

「わ、わたくしですね...」

若干緊張気味だな...大丈夫か?

「わたくし...何か出来るのでしょうか...」

不安げな表情でそう言うリノア。

「出来るかどうかは分からない...やってみないと...」

俺はリノアに鼓舞する。

「わ、分かりました...」

「精一杯力を込めて?そうしたら何かが起きるから」

クゥロはアドバイスをする。

「は、はい...!!」

「んんんんっ...!!!」

そうして力を込めるリノア。すると

「あ、リノアの下!!」

「黄色い魔法陣...?」

「え、光の魔法陣...?見間違いじゃないよね...」

その魔法陣の色に驚愕するクゥロ。

「凄!!まるで英雄ライニグじゃん!」

「え?な、何どうしたの?」

俺には全く理解ができない...。だが俺よりもこの2人の方が理解できてないみたい。

「えっと...この世界には五大魔法って言って、風、炎、水、雷、岩がある」

分からない俺のために説明してくれるクゥロ。

「ほうほう」

「ただ、その五大魔法とは違う別の魔法もある」

「なるほど...」

「それが希少魔法。」

「希少魔法...」

なんか凄そうな名前だな。

「希少魔法って言うのは、五大魔法とは違う魔法を使える人のことを言う」

「...え?という事はクゥロは」

そう言うとクゥロは頷き

「私も五大魔法じゃないから希少魔法の使い手。」

と答える。

「そうなのか」

「でも希少魔法にも色々な種類や生まれる確率がある」

「希少魔法の種類って具体的にどんなものなの?」

ルヴラも気になり質問する。

「希少魔法は...属性の種類だけは多くて、例えば草、音、重力、闇...」

確かに希少っていう癖に種類は多いな...。

「ちなみに確率って?」

「例えば私の氷、この氷魔法の生まれる確率は2%」

「2%...」

低いな...いや高いのか?地球換算なら...いや高い気がする...

「ちなみにこの世界の全員が魔法使えるわけじゃないよ」

「あ、そうだよね...」

ってことはちゃんと確率低いってことだよな...

「中でも確率が低いと言われてるのが、光と闇の魔法。」

「そうなんだ...」

「闇属性魔法の使い手が生まれる確率は0.00009%」

「低すぎない!?」

宝くじとかよりも断然低いな...

「そして...光属性魔法の使い手が生まれる確率は0.000000012%」

天文学的確率じゃねぇかそれ。

「文献では光属性の魔法使いは存在していた...けれどその文献は...それこそ600年前の文献。」

「え?600年前...って」

「うん。魔王が討伐された年。」

その話を聞き鳥肌が立つカラ。

「つまり魔王を討伐したのはパーティ...というか団体で倒したってこと?」

「いや」

「え?」

「魔王はたった一人の手によって倒された」

「えっ!?」

た、たった1人!?

「その魔王をたった一人で討伐したのが、光の魔導神で、通称"奇跡の英雄"ライニグ。他には魔法の神、伝説の魔法使いとか...色々ある」

「奇跡の英雄...?」

「うん!そうだよ!」

「本名はヒカリ・ライデン。」

日本人の名前だ...

「皆は、その英雄に親しみを込めあだ名としてライニグと呼ばれたの」

「なるほど...」

600年前って言うと...1400年だよな...1400年...か...。

「奇跡の英雄と呼ばれている理由はね!もちろん、光属性の魔法を使えたってのもあるんだけど、やっぱり、魔王を討伐成功させたってのがでかいかな〜」

そりゃあそうだろうな...たった一人で魔王を倒したって言われてるしな...。

「あの後消息不明で、どこに行ったのかも分かってないらしいよ...」

「ライニグは世界を救った後、元の世界に戻らなければならないと言って、この世界を去ったと文献では記されてる。」

「そうなんだ!」

昔の人なら元の世界に戻ろうとするかもだが...今の人はどうだろうか...。元の世界に戻りたがるのだろうか...。なんて思っていると

「うわぁぁぁああ!!っははは!!!」

とリノアの声が聞こえる。

「そ、そうだ長話してる場合じゃない!リノアは!!」

「上見て!」

と指を刺された方向を見ると

「すごーい!!」

「と、飛んでる...」

な、なんかもう使いこなしてる...ってか

「光属性の魔法って...あんなこと出来るの...?」

そんな素朴な疑問に

「さ、さぁ...」

と困惑するクゥロ。

「羨ましー!!」

「どういう原理なんだろ...」


「とりあえず、結果としては」

「私、氷魔法」

「ルヴラ、天才的な魔法道具開発センス」

「うん!」

満面の笑みで答える。

「リノア、光魔法」

「はい!!」

こちらも満面の笑みで答える。

「カラ、謎」

「...そうだね」

「って感じかな...?」

「うん...そうだね!」

「カラのスキル、自分でも分からないや...」

本当になんなんだこの力は...。と自分の左の手のひらを見つめる。するとその手に手を乗せてきた。

「例えどんな力だろうと、わたくし達に危害は加えないので安心できます!」

リノアはほわほわ笑顔で言う。

「リノア...」

またその上に手を乗せてきた。

「私も、今後カラの力をもっと知りたいし、カラ自身のことも知りたい。」

真っ直ぐこっちを見つめてくるクゥロ。

「クゥロ...」

そして最後、ルヴラも手を乗せた。

「僕は何もわかんないけど...でも!カラの傍から離れない。だってその方が安心できるから!」

元気な笑顔で言うルヴラ。

「ありがとう...皆」

「カラ、覚悟を決めたよ」

そういい、拳を握りしめ

「カラは...魔王を討伐する。」

と、覚悟を決める。

この平和な世界を脅かす存在が現れるのなら...俺が...いや...カラが...そいつを倒す!

「カラ様ー!!言ってくれると思ってました!」

抱きついてくるリノア。

「うぉー!!!魔王討伐だー!!」

ルヴラも抱きついてくる。

「やっと言ってくれた...。でもそれほど悩んでたんだよね?カラ」

と聞いてくる。

「うん...やっぱりちょっと怖かったんだ...。まだこの世界に来たばかりだし...それに...魔物も倒したことないのに、魔王討伐だなんて...」

「でもさ...カラ、思ったんだ...。この平和な世界を守りたいって...」

「うん...じゃあ私も行くね」

と口角がほんのり上がるクゥロ。

「えっ?」

「クゥロ様とカラ様が行くならわたくしも、です!」

最初から行く気だったけど、仕方なくアピールをするリノア。

「え?」

「じゃあ僕も!」

ただ単に世界を旅したいだけのルヴラ。なんてのは嘘で、おそらく俺とリノアが心配だから着いてくるのだろう...

ルヴラは優しい奴だな...ほんと

「だからどういう事が出来るかを測った」

「...なるほど!」

そういうことか...

「そういう事だったの!?」

「...気づいてなかったの?ルヴラ」

「あはは...えーっと...はい」

と自分の後頭部を撫でるルヴラ。

「おバカさんじゃない...」

呆れるクゥロ。

「フフフフッ...ルヴラったら...!!」

あまりのおバカっぷりに笑ってしまうリノア。

やべ、俺も気づいてなかった...。

と、ひとり気まずい俺だった。

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