第3話 美しい名前
第3話 美しい名前
キラキラと光にかけられた魔法は世界を変えた。
本当の意味で。光にとっての『世界』。
小学校の一クラスという名の世界など年月を重ねたらなんとちっぽけでつまらない微温い嫌悪の残滓。
しかしその渦中に居る少女にとっては地獄の業火で焼かれる牢獄。
その世界はお姫様と魔法使いによって救われたのだ。
翌日、光がクラスにいつものように背をかがめて入ろうとする。
タンっと軽やかに背をタップされて後ろを振り向く。
お姫様がニマッとカッコよくヒーローの瞳で笑んで。
それから甘く、とろける様な唇で微笑を。
その彼女の口元の動きだけで光は背をシャン、と伸ばす。
目線を真っ直ぐ。
顎を引く。
怖く無いんだ、もう。
怖がらなくて、いい。
だって、姫が笑ってくれる。
私は、きらきらと笑う姫と共に有れるのだ。
クラスに、世界に立ち向かえる。
歩む。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
クラスは、世界は沈黙した。
動いていた時間が止まる。
再び世界が動き出す。
その瞬間は刹那よりも速いような、全ての川底の砂を数え切るような体感だった。
「王子様がいる…」
誰かがぽやん、と発したその言の葉が世界を動かす鍵だった。
次々と光を称賛する声と声。
すごい、かっこいい。
スタイルすごくいい、こんなに綺麗なのになんで前髪下ろしてたの、
絶対顔見せた方がいいいよ、うん、そこらへんの男子よりずっとかっこいいよ、
宝塚とか絶対行けるよトップとれるって、芸能人とかなれるよこんなにキレイだもん、
いやいやモデルさんとかさこんな綺麗なら海外にも通用するって!!
それは純粋な美しいものに対する女の子達が贈る賞賛、憧憬。
ただ綺麗な美しい心のカケラたちがまた世界を変えていく。
「乙丸って大人しいけどやることきっちりやるよな」
ぽつ、とそう発言したのが女子達とはあまり関わらないがクラスの男子内では信頼の厚い、いわゆる「幼い女の子には良さのわかり辛いが男に好かれる寡黙な男」。
彼も世界を救う立役者だった。
クラス内でいじめ男子グループ以外事情をよく把握していなかった男子達の風向きがあからさまに変わった。
「あ!そうそう!俺テストの時にシャー芯切れて鉛筆も忘れてたあのピンチの時に!
みんな黙ってるし先生も機嫌悪そで言い出せんくて困ってたらサ!
隣からそっと乙丸がシャー芯出してくれたんだ!あん時すげー助かったよ〜!!」
「乙丸って一歩引いてるとこあるけど良く見てるよな」
「んで誰にでも親切だろ」
「あんま笑顔とかで喋ったりしないだけで、内面はすげえ優しいんだろ」
「ただの良い奴じゃーん!!!」
「グダグダ余計なこと言わず泣き言も言い訳もしないところもあるしな。昨日だって泣いて良いのに黙って耐えてたからな、乙丸。女子なのに男らしいなと思った」
「カッチと同じタイプかよお、女子だからって甘く見てたぜ」
「俺なら黙ってんなこと言いやがったバカへ鉛筆ぶん投げてお前へそいつへの追いイグナイトパス要求するもんな。
矛先が優しい乙丸で良かったないや良くねえな、そんで俺もスルーしてたから同罪か」
「おいおいカッチィwwwwwそりゃねえぜw w w w俺も共犯だわキョーハンwww
…や、まじでごめんな乙丸。俺もスルーだった。きつかったな」
お調子者と呼ばれがちのクラスカースト最上位と言わしめられる立場の男子からの言葉。
情勢は、決した。
世界に、光が満ちた。
その世界の中心で光は笑った。
姫も笑う。
その笑みは【皇姫様】と立ち並ぶにふさわしい、【光の君】とクラス内で囁かれ不可侵の美として君臨するに値する若き皇子の笑みであった。
時は経ち、小学生達の幼き日々もそれぞれ岐路に経つ。
中学進学にあたり、カースト上位の信頼できる二人の男子たちは「今度は未然に悪を滅ぼしに行くゼッテー!!」「黙って耐える奴をソッコーで助けられるようになっとくわ」との言葉を残し、ここから離れた都会の進学校へ進学。
最初に光を王子様、と鍵を明けたクラスメイト。
なんと、その女子は自身の夢の鍵もその時開いたそうで。
自分は横にも縦にも大きいし顔も良くないし、と思っていたのを姫様が。
「あなたも顔立ちキレーよ!私の光みたいに!」
女子は健康的にダイエットに励んだ。アイススケートダンスを始めたのだ。
最初は「痩せたい」が目的なのに最終的に「私、踊りたい!!世界で!」と、小学校卒業前にコンテストで留学権を掻っ攫ってしまい彼女自身と彼女についたコーチとのアツい説得とで彼女の両親も覚悟を決めた。
家族3人そして有能コーチもついての夢に向かって海外チャレンジだ。
そんなことある、という話だが。
桜のカケラが去るころに姫が言った。
「光は、名前の通り色んなひとを照らす子だよ。私の綺麗な一番星さん」
また少し身長差ができた二人の13歳の生活はこうやってセーラー服と共にふわり、と舞い、巡り始めた。
(光はそのお姫様のお言葉で真っ赤になった。照れてしまった。)
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