第2話 復讐には新聞とフラペチーノを添えて
偶然、付き合っていたはずの
俺は表上先輩に呼び出され学校近くのスタバへと向かっていた。結局、あの日は時間が遅かったこともあって、詳しい話は後日というわけで連絡先だけを交換して帰ったのだ。
まぁ、俺と表上先輩の家が遠かったことで学校帰りがいいと言うことになったのだが、更にあの日が金曜日だったこともあって、こうして少し期間が空いてしまったわけだが。
そんなことを思い返しているとあっという間に、スタバについてしまったので俺はゆっくりと中へと入る。すると、中では表上先輩が席に座り俺を手招きしていた。
「遅かったわね」
「すいません。HRが少し長引いてました」
俺が席に着くなり表上先輩がそう言うので俺は反射的に謝る。
「ごめんなさい。そういうつもりで言ってないから安心して。貴方の分も頼んでおいたわよ。コーヒーフラペチーノので良かったかしら?」
すると表上先輩は少し困った様子でそう付け加えると、俺にそう確認を取ってくる。
まぁ、確認された所でテーブルの上には既に2個のコーヒーフラペチーノのが置いてある為実質拒否権はないのだが。まぁ、拒否するつもりもないけど。
「はい、大丈夫です」
「良かったわ。それじゃあ、本題に入りましょうか。まず改めて自己紹介からね。私の名前は
向き合うと表上先輩は軽くニコッと笑うとそう端的に自己紹介を済ませる。
「自分は
ならばと俺も簡潔に自己紹介を済ませる。
「それで...先輩は「復讐をしないかしら?」と仰っていましたが、あれはどういう—」
「まずはそれについて私達2人で共通の認識を持つべきだと思うから話をまとめましょうか」
そこで早速、俺は表上先輩の言う復讐についての真意を確かめようとしてみた所、表上先輩が口を開いた。
「まず状況理解からね。私と
「
どうやら鈴の名前が出て来なかったらしい先輩に俺は補足を入れる。まぁ、接点ないし知ってる方がおかしいけど。
「ところが裏では
表上先輩はあの時の情景を思い出したかのように怒りで手を握りしめると、フラペチーノを口へと流し込む。
一応先程、伝えたはずだがそれでもあの女呼びをやめない所を見るに、表上先輩にとってあの日の出来事は相当悔しいことだったらしい。
正直、これは少し俺にとって驚きである。というのも、今まで俺の中では表上先輩は清く慎ましくいつだって冷静沈着な人だった為ここまで感情を露わにする人だとは予想だにしていなかったのだ。
「そして
「それはまぁ」
正直、俺が今回で鈴に抱いた感情は怒りよりも悲しみの方が強いのだがそれはついては黙って、先輩の意見に賛同しておくことにする。
「それに大体あの日だけじゃなくてその前から会ったりしていたのは間違いないわ。普通に浮気よ」
「それはまず間違いないでしょうね」
先輩の言うように、いくらなんでもあの日たまたま意気投合して付き合うことにしたという展開はあり得ないだろう。今思えばちょっとした兆候はあった。
「だから私達のするべきことはなんとかあの日より前に関係を築いていた証拠を掴んで、2人の学校での評判を地へと下げることよ。2度と学校に来れなくしてあげるわ」
表上先輩はとても悪どい顔でそんなことを言う。なんかこうして見ると、この人本当に分かりやすいな。イメージと大違いだ。
「コホン。と、言うわけで早速なのだけれどこれを見て貰えるかしら?」
表上先輩は軽く咳払いをすると、鞄からなにやら紙を取り出した。
「これは...新桜新聞ですか?」
「ええ、そうよ。今週の新桜新聞よ。知ってたのね」
新桜新聞というのは我が校の新聞部が毎週月曜日に販売している校内で起きた事件や恋愛スクープをまとめ記事のことだ。
元々この新桜新聞は卒業した先輩達を取材し後輩に向けてのメッセージや受験のアドバイスなどを記載し、次は新たなサクラサクという崇高な願いをこめて作られたものだったらしいが、今やそんな面影はどこへやら低俗新聞へとすっかり成り下がってしまっている。
だが、皮肉にも販売数は上がっているようなので人とは愚かなものである。
「それでこれがどうかしたんですか? 特に今回の件に関しては取り上げられてないですが」
先輩に差し出された新桜新聞を軽く読んでみたが先輩の伝えたいことが分からず、俺は困惑する。
「そうそれよ。今回の件に関して全く取り上げられてないのよ。私としては絶対に
なるほど。流石は元彼女と言った所か。桐咲先輩の行動パターンを把握している。しかし、それが外れたから戸惑っているということだろうか。
「
ガックリと肩を落としながらそんなことを言う先輩。
「確かに桐咲先輩らしくはないですね」
しかし、その意見には俺も大体同意だ。桐咲先輩なら絶対にそうしてくるだろうと容易に想像出来る。
「それに私と別れてあの女と付き合ったことどうやら周りの誰にも言ってないみたいなの。流石に変すぎるわ。そこで貴方に聞きたいの。なにか思い当たる節はない?」
先輩は目を鋭くし俺にそう尋ねてくる。なるほど、そういうことか。俺はもう一度新桜新聞に目を通しながら口を開く。
「まぁ、あるとすれば鈴の方の意向でしょうね。鈴は目立つのがあまり好きではないので桐咲先輩に公言しないように頼んだんだと思います。そして桐咲先輩は新しく出来た彼女にデレデレしてそれに従った。そんな所じゃないでしょうか?」
「なるほど、それなら確かに説明がつくわね。やはり貴方を呼んで正解だったわ」
俺の考えに先輩は深く頷くとそう付け足した。
「にしても目立つのが好きじゃない、ね。ちょっと厄介だわ。
「そうですね...んっ?」
先輩の話に耳を傾けつつ新桜新聞を読み込んでいると、俺は1つ気になる記事を見つけた。
「どうしたの?」
「いや、そんな大したことじゃないんですけど」
「気になったことがあるならなんでも言いなさい。判断するのは後でいいわ」
するとあっという間に先輩に俺は問い詰められてしまう。そこまで言うならしょうがない。本当に大したことのない話ではあるのだが、このままだと先輩は納得しなさそうだし。
「この「文化祭特別企画 クイズ大会 ジャンルは陶芸、茶道。なんと賞品は近々オープン予定のの高級カフェ屋のペア特別招待券。参加者募集中!」って記事なんですけど、そう言えば最近鈴がやたらお茶やお椀に興味を示してたなぁってことを思い出して懐かしいような気持ちに。...本当に大したことじゃなくてすいせまん」
「全然大丈夫よ。それより貴方も辛かったのね。気持ちは分かるわ」
俺の言葉に先輩はしんみりと頷く。
「にしてもその記事を選ぶとはセンスがあるわね、貴方。私それに出る予定なの」
「そうだったんですか」
「だって私の得意分野だもの。茶道部だし、家は陶芸を営んでいるし」
「そうなんですか!?」
そう言えば先輩が名家の生まれだというのは知っていたが陶芸だったとは。初めてしった。
「となると、ほぼ優勝確実じゃないですか?」
「そうね。正直、あまり自分で言うものではないかもしれないけど私に勝てる子がいるとは到底思えないわね」
フフンと自慢げにその豊満な胸を張る先輩。随分気分が良さそうだ。
「そうだこの際だから無事復讐を成し遂げたらペア招待券で一緒に行くのはどうかしら?」
「俺はいいけど、先輩はいいんですか?」
「何事も報酬があった方がやる気出ると思うし、貴方となら全然構わないわよ?」
何も問題ないと言わんばかりにそう即答する表上先輩。
「なら、お言葉に甘えて」
「まぁ、とは言え復讐を達成できたらの話よ? 現状、何の証拠も手がかりも掴めていないことを忘れてないでね!?」
「分かってますよ」
少し焦ったように必死にそんなことを言う先輩に対し俺は少し笑いを堪えながら、頷く。
こうして俺と表上先輩の復讐計画が幕を開けるのだった。
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