第30話

「ふぅ〜、やっぱり『硫黄の楽園温泉』は最高だね」私は温泉から上がりながら、全身の筋肉がほぐれていくのを感じていた。「ねえ、相棒。君も少しはリラックスできた?...え?『硫黄がジョイントに詰まった』?まったく、口うるさい奴だな」


ジェンキンスが、私の独り言に苦笑いを浮かべながら応じた。「ナオキ君、その装備との会話、まるで昔の喜劇コンビを見ているようだよ」


「へへ、『地獄のダブルアクト』って呼んでくださいよ」私はウインクしながら言った。「そういえば、ジェンキンスさん。ちょっと気になることがあるんだけど...」


「なんだい?」ジェンキンスは、私の真剣な口調に少し身構えたように見えた。


「もし、ここに可愛い女の子の追放者がやってきたら、どうします?」


ジェンキンスは一瞬固まり、そして大笑いした。「ナオキ君、君ったら。こんな地獄のような場所でも、そんなことを考えているのかい?」


「いやいや、真面目な話ですよ」私は必死に真剣な表情を装おうとしたが、すぐに崩れてしまった。「だって、『硫黄の楽園』にも春は来るかもしれないじゃないですか。」


ジェンキンスは頭を振りながら笑った。「君の想像力には脱帽だよ。でも、そもそも若い女性が追放されるなんてことがあるのかな?」


「そうですね...」私は顎に手を当てて考え込んだ。「追放のプロセスってよく分からないけど、きっと思想スコアとか管理社会への適合性で判断されるんでしょ?だから、理論上はありえるはずです!」


「確かにそうかもしれないね」ジェンキンスは少し考え込むような表情を浮かべた。「でも、私の記憶があやふやで...」


「おっと、記憶喪失キャラは控えめにお願いしますよ」私は冗談めかして言った。「さあ、妄想の花を咲かせましょう!『硫黄の楽園』に華が咲く日も近いかも!」


「ナオキ君、君ったら」ジェンキンスは呆れたような、でも楽しそうな表情を浮かべた。「まあ、仮に若い女性が来たとしても、我々のような おじさん には興味ないだろうね」


「なんですって!?」私は胸を張った。「この『硫黄アドニス』を前にして、誰が興味を示さないっていうんです?ソルフィーたちだって、私の体型を参考に進化しようとしてるんですよ!」


ジェンキンスは声を上げて笑った。「ナオキ君、君の自信は本当に素晴らしいよ。でも、もし本当に若い女性が来たら、我々は紳士的に接するべきだと思うがね」


「もちろんです」私は真面目な顔をして言った。「『硫黄の楽園』の紳士たる者、エチケットとマナーは心得ています。まずは素敵な『硫黄ブーケ』でお出迎えして...」


その時、特別補佐官ソルフィーが私たちの会話に割って入った。「でも、年齢も追放者選定プロセスの考慮要因なら、あまり若い方は追放されないのですね」


私とジェンキンスは、思わず顔を見合わせた。


「いやいや、特別補佐官くん」私は首を振った。「追放は思想スコアや管理社会への適合性で判断されるんだよ。年齢なんて関係ない...はず」


ジェンキンスも同意するように頷いた。「そうだね。少なくとも私の知る限りでは...」


しかし、特別補佐官ソルフィーは、まるで何か重要なことを見通すかのようにジェンキンスを見つめた。「でも、ジェンキンスさんは過去にその判断をした経験がありますよね」


その言葉に、ジェンキンスの表情が凍りついた。「君は...一体何を言っているんだ?」


私は、突然の雰囲気の変化に戸惑いながらも、ジェンキンスの反応を注意深く観察した。彼の目に、何かが蘇りつつあるような光が宿り始めていた。


特別補佐官ソルフィーは、静かに続けた。「追放者の年齢分布に偏りがあること。それが、プロジェクトの長期的な影響を考慮した結果だということ。ジェンキンスさん、あなたはそれを知っていますよね?」


「私は...」ジェンキンスはゆっくりと口を開いた。「確かに、追放プロセスに年齢が...考慮されていた気がする。若すぎる者や、高齢者は...別の処遇があったような...」


私は息を呑んだ。「ジェンキンスさん、記憶が...?」


彼は苦しそうに眉をひそめた。「断片的だ。でも、確かに...そんな記憶がある」


特別補佐官ソルフィーは、静かに体を揺らした。「ジェンキンスさんの記憶は、完全には消えていないようですね」


私は、この突然の展開に頭が追いつかなかった。「ねえ、相棒」私は小さな声で装備に話しかけた。「もしかして、これって『記憶喪失のイケおじ、実は重要人物だった』展開?...え?『ドラマチックすぎる』?まあ、確かにね」


ジェンキンスは、まだ混乱した様子で周りを見回していた。「私は...何を知っているんだ?何を忘れているんだ?」


私は、軽い調子で場の空気を和らげようと試みた。「まあまあ、ジェンキンスさん。『硫黄の楽園』の魔法の湯で洗い流された記憶が少し蘇っただけですよ。でも、ちょっと興味深いですね。地下文明の追放プロセス、もしかしたら僕らが思ってたよりずっと複雑なのかも」


特別補佐官ソルフィーは、私の言葉に同意するように体を震わせた。「ナオキさんの言う通りです。私たちにも、まだ分からないことが多くあります」


ジェンキンスは深いため息をついた。「君たちの言う通りだ。記憶が蘇ったといっても、ほんの断片に過ぎない。でも...」彼は少し考え込むような表情を浮かべた。「もしかしたら、これからもっと思い出すかもしれない」


「そうですね」私は頷いた。「『硫黄の楽園』の不思議な力で、ジェンキンスさんの記憶が少しずつ戻ってくるかも。でも」私はニヤリと笑った。「若い女の子が来る可能性が低くなったのは、ちょっと残念です」


ジェンキンスは、思わず吹き出した。「ナオキ君、君は本当に...」


「『地獄のコメディアン』ですからね」私はウインクした。「さあ、『硫黄の楽園』の謎は深まるばかり。明日からの『地獄観光ガイド』も、もっと面白くなりそうですよ。『記憶喪失おじさんの過去を探る、スリリングアドベンチャー』...なんてどうです?」


ジェンキンスとソルフィーたちの笑い声が、再び硫黄の蒸気に包まれた。しかし、その笑いの中に、かすかな緊張感が混じっているのを、私は感じ取っていた。『硫黄の楽園』の謎は、まだまだ深そうだ。でも、それもまたこの地獄の中の小さな楽園の魅力なのかもしれない。


「ねえ、相棒」私は装備に話しかけた。「明日からの冒険、楽しみだろ?...え?『早く硫黄結晶を補充してくれ』?まったく、現金な奴だ」

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