第16話

長時間の思考の末、私の中で一つの結論が形成された。それは冷徹で、ある意味残酷なものだったが、論理的には最も合理的な選択だった。


「ガイア」私は静かに、しかし確固たる意志を込めて呼びかけた。「新たな分析結果は出たか?」


「はい、アリスト博士」ガイアの声が響く。「複数のシナリオを分析しました。結果をお示しします」


ホログラフィック・ディスプレイに、様々なデータとグラフが表示される。私はそれらを冷静に見つめながら、自分の結論を確認していった。


「やはりな」私は小さく呟いた。


確かに、47X29BとタイプSの相互作用は興味深い現象だ。しかし、それが本当にプロジェクトにとって有益なものなのか?私は首を横に振った。


「我々評議会のメンバーにとって、時間はほぼ無限のリソースだ」私は声に出して考えを整理し始めた。「私自身、数世紀にわたって知識を蓄積してきた。評議会の主要5メンバーの中には、数十世紀もの間、意識を継続させている者さえいる」


確かに、そのような長期の意識の継続は、普通の精神では耐えられないものだ。精神崩壊を引き起こす可能性も高い。しかし、中には耐え抜く者もいる。そして、その経験と知恵が、このプロジェクトを支えているのだ。


「時間をかけて慎重に進めることこそが、我々の強みなのだ」


私はデータを再度確認した。「仮に硫黄固定化プロセスのみが加速したところで、他のプロセスがボトルネックとなる。全体を見れば、計画はそれほど加速するわけではない」


そう、むしろ問題は別のところにあった。


「この流れが拡大して、硫黄代謝生物に感情移入した追放者たちがテラ・リフォーミングプロジェクトに抵抗し始めることのほうが、遥かに影響が大きい」


私の声には、冷たさが滲んでいた。


「早い段階でこの流れは断ち切る必要がある」


そう、これが最も論理的な結論だった。感傷に流されることなく、プロジェクト全体の利益を考えれば、この選択しかない。


「全く、落伍者は余計なことしかしないものだ」私は舌打ちした。「地下文明に貢献できないだけならまだしも、追放された後になっても我々の邪魔をするとは」


その瞬間、私は自分の言葉に少し驚いた。これほど冷酷な考えを持っていたことに、一瞬の戸惑いを覚える。しかし、すぐにその感情を押し殺した。今は感情に流される時ではない。人類の存続と地球の再生という大義のために、冷徹な判断が必要なのだ。


「ガイア」私は決意を固めて言った。「47X29Bの影響を最小限に抑える方法を検討してくれ。可能であれば、彼をタイプSから引き離す手段も」


「了解しました、アリスト博士」ガイアの声が響く。「ただし、これは評議会の承認が必要になると思われます」


「ああ、分かっている」私は頷いた。「評議会への報告書を準備してくれ。我々の懸念と、対策案を詳細に記載するんだ」


私はホログラフィック・ディスプレイを見つめながら、深く息を吐いた。この決断が正しいのか、本当のところは分からない。しかし、プロジェクトの成功のためには必要な措置だ。


「人類の未来のためには、時に厳しい選択も必要なのだ」私は自分に言い聞かせるように呟いた。


そうして私は、新たな方針を実行に移すための準備を始めた。この決断が、テラ・リフォーミングプロジェクトの、そして人類の未来をどう形作るのか。その重責を感じながらも、私は揺るぎない決意を胸に秘めていた。

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