第13話

私がホログラフィック・ディスプレイで次の作業に取り掛かろうとした瞬間、ガイアの声が響いた。


「アリスト博士、硫黄固定化生物タイプSの活動に関する最新レポートが到着しました。通常とは異なる興味深いデータが含まれています」


私は眉をひそめながら振り返った。「異なるデータ?詳細を報告してくれ」


ガイアの声に従って、ディスプレイが切り替わる。そこには、地表のさまざまな地点で活動するタイプSの群れの詳細なデータが表示された。


「はい。まず、全体的な状況からご報告します。タイプSの活動は予想を上回るペースで進行しています。硫黄の固定化率は、直近の3ヶ月で平均22%上昇しました」


私は軽く頷いた。「それは良いニュースだ。予想以上の成果が出ているようだな」


「はい」ガイアは続ける。「しかし、特筆すべきは第1358群の活動です。この群れの硫黄固定化率は、他の群れと比較して約35%高くなっています」


私の目が大きく見開かれた。「35%?それは驚異的な数字だ。原因は特定できているのか?」


「はい、それが最も興味深い点です」ガイアの声にも、わずかながら興奮が感じられる。「第1358群の行動パターンが、他の群れとは明らかに異なっています。より組織化された行動を取っているように見えます」


私は画面に映し出された第1358群のデータを食い入るように見つめた。確かに、その動きは他の群れとは明らかに違う。まるで...何かに導かれているかのようだ。


「ガイア、この群れの近くで、何か特別な環境要因は確認されているか?」


「いいえ、環境要因に関しては特に顕著な違いは見られません。しかし...」ガイアは一瞬躊躇したように見えた。


「しかし、何だ?」私は即座に問い返した。


「この群れの近くで、追放者の活動痕が確認されています。特に、元市民ID-47X29Bとして識別される個体の存在が強く示唆されています」


私は息を呑んだ。「47X29B...追放された市民か。詳細を教えてくれ」


ガイアは即座にデータを表示した。「元市民ID-47X29B。男性。35歳で追放。理由は、思想スコアの急激な低下でした。追放から約2ヶ月が経過しています」


私はしばらく黙って、その情報を消化した。追放者が地上で生存していること自体は想定内だった。しかし、彼らがタイプSの活動に直接的な影響を与えているという事実は、全く新しい展開だった。


「ガイア、この47X29Bの行動パターンについて、もっと詳しい情報はないか?」


「申し訳ありません。直接的な観察データは限られています。しかし、タイプSの行動パターンから推測すると、この個体が何らかの形でタイプSとコミュニケーションを取っている可能性が高いです」


私は深く息を吐いた。この情報は、プロジェクト全体に大きな影響を与える可能性がある。追放者たちが予想以上に環境に適応し、さらにはプロジェクトの鍵となる生物と相互作用を持っているとすれば...。


「ガイア、この情報の信頼性は?」


「データの整合性は97.8%です。偶然や誤差である可能性は極めて低いと判断されます」


私は椅子に深く腰を沈めた。頭の中で、様々な可能性が駆け巡る。この状況をどう解釈し、どう対応すべきか。プロジェクトにとっての脅威なのか、それとも予期せぬ協力者となり得るのか。


「ガイア、この情報を評議会に報告する準備を進めてくれ。また、47X29BとタイプSの相互作用についての詳細な分析も開始してほしい。可能であれば、彼の行動をより詳細に追跡する方法も検討してくれ」


「承知しました、アリスト博士。直ちに準備と分析を開始します」


私は再びホログラフィック・ディスプレイに向き直った。そこには、第1358群の活動範囲が鮮やかに表示されている。その中心には、おそらく47X29Bがいるのだろう。


「君は一体何をしているんだ、47X29B...」私は画面に映る地点を見つめながら呟いた。「我々のプロジェクトを助けているつもりか、それとも...」


この予期せぬ展開が、テラ・リフォーミングプロジェクトにどのような影響を与えるのか。そして、我々は追放者たちとどのように向き合うべきなのか。答えは簡単には出ないだろう。しかし、この新たな情報は、プロジェクトの未来に大きな可能性を秘めているに違いない。


私は深く息を吸い、心を落ち着かせた。これから始まる新たな局面に備え、冷静に、そして慎重に対応していかなければならない。人類の未来は、まさにこのような予期せぬ出来事にどう対応するかにかかっているのだから。

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