第20話 戦の夜明け
その日のうちに僕は何回か他の騎士たちとも模擬戦を繰り広げた。
結果としては、五分五分。
新スキル【
やはり、ステータス差を埋めるのは容易ではないということだろう。
「だけど...やっぱりこのスキルすごいな...」
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スキル名:
熟練度:LV1
詳細:深淵からの祝福のスキル。自身の周りに黒い霧を発生させ、自らの領土とする。この黒い霧の中での行動は、使用者のステータスを全て爆発的に引き上げる。
・範囲0.1メートル*魔力10
・90秒に1回、瞬間移動が可能(目視できる黒霧地点のみ、魔力100使用)
・1秒につき、魔力100消費
・SPでのレベルアップ使用不可
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スキル【深淵付与】。
まさに、破格の性能と言っていいだろう。
見ての通り、この瞬間移動の項目を使い、事前に通った場所に霧を残してそこに移動したというわけだ。
それで大抵の模擬戦は決着がついたし、次の試合までは時間があったから使えたというわけだ。
まあ、それのせいで途中から魔力が切れて、スキルが使えなくなったが。
1秒にMPを100も使用するのに、その上移動で100も使うのだから、燃費が非常に悪い。
できるだけ使う場所は絞ったが、あまり連発できるものではない。
ましてや持続的になんて、今は不可能だな。
「渉、今のは....」
新しいスキルについて再度、検討していると、ユリウスが少量の冷や汗を垂らしながらやってきた。
今のはというと、多分新スキルのことだろう。
「ああ、これはユリウスが僕の部屋を去った後におまけでもらったスキルなんだ」
「そ、そうか...まあ、自然といえば、自然か...」
あまり芳しくない顔で色々と考え込んでいる彼だったが、何か彼の中で踏ん切りがついたのか、ユリウスは咄嗟に話題を逸らした。
「まあ、明日も訓練があるから、遅れないようにな。また明日。渉」
「うん、また明日。ユリウス」
そうして少し、訝しんだ顔をしたユリウスだったが、ふらっと僕の元から去って行き、事なきを得た。
一体どうしたのだろうか?
何か警戒しているように見えたが、まあ、気のせいか。
「帰るか」
日没の空を見つめ、腹時計が鳴るのを感じて僕は部屋へと戻る準備を始めた。
「雨宮さん、帰りましょう」
「あ、カエデ。うん、行こうか」
そこにカエデも参加し、二人で支度を終えて食堂へと向かった。
翌朝も訓練だ。
目一杯に励もう。
☆☆☆☆
そうして僕は騎士団での訓練を続けて、3ヶ月が経った。
その間、エルファス王国の近くに接する森林にてモンスターの討伐も行った。
その甲斐あってか、僕の戦術レベル、実際のレベル共に大きく向上した。
そして今日、この日がやってきた。
僕と騎士団は今日、サイレント・オークたちとの戦いに決着をつける。
「集合!!」
「「「はい!!」」」
この期間で聴き慣れた声が練兵場に響く。
時刻は早朝。
皆、それぞれ支度を終えて、後は出発をするだけとなった。
緊張感が漂う。
死をも恐れぬ勇敢な騎士たち、その命が今日この日になくなってもおかしくはない。
サイレント・オーク単体ならば、もはや僕の敵ではない。
だが、それが他の騎士たちも同様とは限らない。
彼らには非常に勝ち目の薄い戦いになるだろう。
作戦の要は僕だ。
僕がやられれば、全てが終わる。
「聞け、騎士団諸君よ!、我々は今から、テラリア大草原に住まう、サイレント・オークの掃討に向かう!」
「「「おおおおお!!」」」
ユリウスの力強い声が騎士たちの心へと響く。
最新の伝令によると、数百にものぼるサイレント・オークの群れが数日前にこちらへと来るのが観測されたらしい。
中には上位種もおり、非常に危機的状況にある。
僕ら騎士団が突破されれば、この王都は壊滅する。
何にも抗えずに、ただ蹂躙されるだけ。
そんな未来が今、迫っている。
そして当然ながら、僕らはそれを止めなければいけない。
それを、騎士団の人たちも十二分にわかっている。
この期間、僕と騎士団の親交はだいぶ深まった。
もはや全員と『友達』と言えるぐらいの関係にはなれたと言ってもいいだろう。
この3ヶ月笑い合った仲間たちが、今日死ぬかもしれない。
そう思うと、僕はなんだか、無性に恐ろしくなった。
彼らを失うのが、たまらなく怖くなった。
そしてそれはここ数日、僕に付き纏い続けた感情だ。
今日笑い合った友が、明日横にはいないかもしれない。
ここにいる何人が生き延びるだろうか?
僕は、彼ら全員を守れるほど強くはない。
僕の中で暗い感情が渦巻く。
数日前の僕は、そうやって顔を下に向け、恐ろしい未来から目を背けた。
やはり、僕の中身はなんら変わっていなかった。
力を得たあの日からも、その前からも。
僕は、弱いままの僕だ。
どうしようもない、そんなやつだ。
そう思って、今日この日まで来た。
だが、今日この日の彼らの顔を見て、僕は感じ取った。
彼らは大丈夫なのだと。
それはなぜか。
それは、彼らは強いからだ。
それは、肉体的にではない。
精神的にだ。
この不安な僕の感情を吹き飛ばすぐらい、彼らの顔には恐れはなかった。
あるのは、ただ覚悟と信念のみ。
迫り来る火の粉を振り払わんとする、その騎士道のみが残った。
だから僕も安心して、恐怖を吹き飛ばして隣で戦える。
今日、僕は家へと帰る。
生きて、ここにいるみんなと笑って、家へと帰る。
「ではこれより、サイレント。オーク掃討戦を開始する!!」
「「「おおおおお!!」」」
そうして僕らの、サイレント・オーク対エルファス王国の戦いが始まった。
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