第19話 騎士団訓練開始

早朝に鳴り響く、甲高い鶏の声が僕を起こす。

目を覚まし、布団から這い出て、いつもの着慣れた冒険者服へと袖を通す。


「今日から、騎士団の実技訓練か」


あまり吉報とは言えないこの事実に僕は少し肩を落とした。

あれほどの体格とステータス差がある騎士団の人たちとやりあうなんて、まさに凡人が岩を砕くようなものだ。


だけど、同時に僕は高揚感も覚えていた。

なんせ、凡人が万が一にでも巨岩を砕けば。

それにどれだけの成果を見出せるだろうか?


「正直、楽しみだ」


強くなるためには躊躇ってなどいられない。

家で待ってくれている奏のためにも、僕は一刻も早く、ここを抜けてやる。



☆☆☆☆



「集合!!」


「「「はい!」」」


前日に続き、ユリウスの力強い一喝により、皆集合する。

今回僕は者台の上ではなく、騎士団に混じりユリウスを下から眺めている所だ。


「今日から模擬訓練を再開する、では一人一人練兵場にてウォーミングアップを開始。初め!」


「「「はい!」」」


ユリウスから指令を受け、僕含めた全騎士は練兵場へと矢継ぎ早に走っていった。

道中、カエデさんを見かけたので一応の挨拶のためと、ついでに新参者である僕に色々と教えてもらおうと思い、彼女へと近づいた。


「おはよう、カエデさん」


「あ、おはようございます、雨宮さん」


スムーズに知り合いや友達にするらしく、挨拶を交わす。

その場で一応の世間話を少し挟み、僕らは共に練兵場へと向かうことにした。


途中、木剣と真剣を回収し、これからどうしようかと戸惑い、カエデさんにやることを聞こうとしたその時、ユリウスが現れた。


「雨宮殿、大丈夫そうですか?」


「あ、ユリウスさん。ええ、大丈夫そうです。今、カエデさんと練兵場へ向かおうとーー」


「.......」


「ど、どうかしましたか?」


たわいのない会話、上司が部下に気にかけるような会話の中に、どこかユリウスは不満気だった。

少し残念がっているような....それでいて、怒っているような....とにかく少し怖い。


「雨宮さん、準備が.....って、騎士団長!?、あ、あ、あの、えっと....お、怒ってるぅ....」


そこに準備を終えたであろうカエデさんがひょっこりとやってきた。

まあ、出てきて早々、怯えているが。


どうやら、彼女もこの気に当てられたらしい。

だってどう見ても、今のユリウス少しキレてるもん。

彼女のような一介の騎士が彼の覇気に当てられたら、そりゃ動揺もするだろう。


恐る恐ると聞いた、「どうかしましたか?」と言う言葉の返答は未だに帰ってきていない。

もしや、僕は知らぬ間に何かをしでかしたのだろうか。

だとしたら、過去の僕を今の僕は再度ぶっ飛ばしてやりたいが。


「雨宮殿」


「え、あ、はい。なんでしょう?」


焦る僕ら二人に突然、ユリウスが口を開いた。

すると、彼は少し悲しげにこう言ってきた。


「なぜ、あなたは私に敬語を使うのですか?」


「え、なぜって....失礼を働いてしまった目上の人だから....でしょうか?」


彼にそう言われ、僕は咄嗟にそう答えたが、一瞬戸惑った時点であまり理由がないのだと自覚した。

そして、それに便乗するようにカエデさんも入ってきた。


「あ、それ私も気になっていました。私に対しても敬語ですよね。年上なのに」


「あー、そう言えば...」


確かに特に気にしていなかったが、僕は誰に対しても基本的に敬語で接しているようだ。

何だろう。

こう、体に染み付いているような感覚がして....って、これ最弱冒険者だった時の僕の癖か。

なんか、嫌なこと思い出したな。


「もっとフランクに、崩して私に接して来てください」


「あ、私からもお願いします」


先ほどまでビクビクとしていた彼女は何処へやら、僕は二人から口調を崩してほしいと頼まれた。


まあ、特に敬語でずっと話している理由もないし。

そこまでのこだわりもない。

ただ、そちらの方が話しやすいのかなと、思ってやっていたという理由が大きい。

あちらからお願いされたら、断る理由もない。


僕はサッと手を前に出し、ユリウスに向けて握手を望んだ。

こう言いながら。


「じゃあ、これからもよろしくな。ユリウス。あ、だけど、ユリウスからも敬語を止めるのを頼むよ」


「....ああ、わかったよ、渉」


そう言い、ユリウスは僕の手を取り、ここに新しい友情が僕らの間に生まれた。

微風が吹くこの場所に、両者なんとなく黄昏ていると、そこに黒髪ボブヘアーの女の子が乱入してきた。


「ちょっと、雨宮さん!、私もですよ!」


「あ、ごめん。カエデもよろしく」


「はい!」


かくして、僕ら3人は少し、絆が深まった友達という関係へと至った。



☆☆☆☆



「はあ...っ!!」


「うぐ....っ、負けるかぁ!!」


騎士たちの熱い声援の中、観衆の中心にて二人の騎士が激しい模擬戦を繰り広げる。

剣と剣が弾き合い、ほんの僅かな動きにも洗練された動きが刻み込まれていた。


高レベル同士の激しい激闘。

それはもう、さながら舞踏会を見せられているようだった。


「あぐっ....!!」


「もらったぁ!!」


数分の激闘の末、片方が片方の剣を弾き飛ばし、そして決着がついた。


「終了!」


「「「うおおおおおおおお!!」」」


片方が地べたにつき、それを片方が上から剣を突きつけて勝利を宣言する。

これが、騎士団の模擬戦らしい。

ものすごく、勉強になる。


周りを見回してみると、それぞれ、声援を送っていたりしていたが、一度試合が終わると皆、分析をし始めた。

伊達に近衞騎士団の名を連ねている訳ではないらしい。

ちゃんと試合から戦術を研究している。

僕も惚けずに、分析をしよう。


そう思い、次の試合から意気込みを入れようとしたその時だった。


「渉、次出番だから頼むぞ」


「え?」


後ろからユリウスに声をかけられ、顔を上げて振り返った。

しかし、彼から出た音葉はあまり僕の望むものではなかった。


そう言えば、僕も騎士団の一員としてこの訓練に参加する義務が確かにある。

つまり、僕は今から公衆の面前の前で、戦うということだろう。


「頼んだぞ」


そうユリウスに背中を押され、僕は泣く泣く中心へと登壇した。

僕の相手には、屈強な騎士兵が居て、心底絶望したのを覚えている。


しかし、同時に僕の中には朝感じた時以上の高揚感があった。

この人を倒してみたい、越えてみたい、そんな感情が僕の中で渦巻いた。


そして酷く興奮する中で、僕は冷静に敵を倒すために壁の高さを見定める。


「さあ、始めるか。【超鑑定】!」


まずは情報収集。

【超鑑定】で敵の情報を見て、攻略への糸口とする。


『敵の情報を開示します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

個体名:ダナン・ドリントル

29歳 性別:男

レベル:22160

称号:なし

スキル

パッシブスキル:中級剣術LV9・火属性耐性LV3・恐怖耐性LV5

アクティブスキル:筋力上昇(中)LV6・火剣LV4・中級火魔術LV3・初級炎魔術LV1

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

所有武器防具:訓練用防具・剣

推奨装備レベル:100

ATK+2% STR+10

概要:騎士団が使う、ありきたりな何の変哲もない訓練用武器防具。使おうと思えば、子供でも手に取ることができる。訓練用としては優秀で非常に頑丈。

特性:スキル【耐久力向上(小)】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なるほど。

見た感じ、この人はどうやら火属性の魔法を中心に戦術を繰り広げるらしい。

そのための火属性耐性と、火魔術。

恐らくこの【火剣ひけん】もその類に属すことだろう。


水魔術が使えれば、簡単に対処できるが....今の僕には水魔術を使う術がない。

幸い、武器や防具は皆、同一のものを配られている。

ならば、火力で押し切れば勝機はあるかもしれない。


この勝負に勝機を見出したその時、男からの攻撃が僕へと降り注いだ。


「来ないのか?、だったらこっちから行くぞ【筋力上昇(中)】!」


力強く踏み抜いた足は、地面を砕き、その巨体を猛スピードで僕の方へと発信させた。


「っ...!、【疾風】【剛力】!」


危機を感じ、その場からスキルを使い退避した僕は、間一髪で彼の攻撃を喰らわずに済んだ。


「オラァ!!」


「ぐっ....」


限られたスペースでのその巨体の振るう一撃は、僕に隙を与えず絶え間なく当たりを破壊しながら着実に僕を追い詰めていった。

逃げ場を段々と失いつつある僕に、彼は余裕の笑みを浮かべて僕を優しく憂慮する。


「おいおい、大丈夫か?、このままじゃ負けちまうぞ!」


彼の言葉は正しい。

今のままでは僕は負けるだろう。

僕のレベルは約7500。

対して相手のレベルは僕の約3倍。


それに、火力で押し切ろうとも思ったが、あのスキル【筋力上昇(中)】のせいで火力が僅かに奴の方へと傾いてしまう。

かと言って、【疾風】や【剛力】のレベルを上げるだけのSPは今の僕にはない。


「......」


普通ならばここで諦めたり、絶望するだろう。

だが、僕には負けたくない....いや、負けられない理由がある。



もう、あれを使うしかないだろう。



「冥土の土産だ、見せてやろう!、【火剣】!」


振り回す剣に炎が宿る。

赤く燃え盛る炎は、敵を焼き尽くさんと僕へと迫る。

だがーー


「悪いな」


「なっ....!?」


その豪剣が僕へと当たることはなく、力強く地面へとぶち当たり、僕はその間に彼の背後を取った。

瞬時に気がついた彼は、振り返り反撃の隙を狙おうとするが、


「試合終了!」


剣の鋒は無常にも彼の前へと迫っていて、それがこの試合の終戦を意味した。


まるで瞬間移動でも果たしたかのような所業に、皆驚いた声をあげる。

その場にいた全員が今起きたことの詳細な説明ができずにいた。

それもそのはず、雨宮渉自身もその詳細な説明をできずにいた。


まあ、ユリウスは気づいてそうだけど。


「これがなかったら、危なかったな...」


そう言いながら、見る青色の画面には一つのスキルが浮かび出ていた。


「【深淵付与フィールド】」

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