第19話 襲来と仲間
眩い光があたりを包む。
ダンジョンクリアの証だ。
そうしてCランクダンジョンへ攻略を踏み出た僕らは、ギリギリながらも勝利を勝ち取り、無事地上への帰還に成功した。
その事実に感極まる田中さんや静かに喜びを見せる西野さん、みんなの姿が見えた。
当然、僕も達成感に満ち溢れていた。
最近まで『万年レベル1の0スキル』と呼ばれていた僕が、Cランクダンジョンのボスを撃破したんだ。
これを喜ばずにいられるものか。
皆、感動を分かち合う中、地上に出た僕にシステム音が頭に響く。
『Cランクダンジョンボス:キリング・スパイダー・クイーンを撃破しました』
『Cランクダンジョンをクリアしました』
『報酬が配られます』
「来た...!」
待ってました!、と言わんばかりの顔を貼り付け、僕は吉報に胸を躍らせる。
苦労して倒したボスだ。
レベルもそれなりに上がっているだろう。
『報酬を受け取りますか?』
「『イエス』」
瞬間、僕の眼前にレベルアップの通知が滝のように流れる。
『レベルアップしました!』
統計的に言えば、僕のレベルは約2千超上昇して、僕のレベルは1万を超えることとなった。
レベル1万。
それは、冒険者にとっての次の関門。
Cランク冒険者の称号をもらえるその境地は、そこからのランクの上昇を妨げる大きな壁でもある。
ゆえに、多くの冒険者はCランクで止まり、B、A、特にSランクと言った冒険者たちは、本当に稀に見る存在となっている。
僕もようやくCランクまで上り詰めた。
目標まではまだまだ遠いけど、いずれは僕も駆け上げてみせる。
ああ、でもやっぱり、冒険者って楽しいな。
少し鬱だった僕の心を浄化するかの如く、達成した今回の出来事は自分にとって大きかった。
未だ、エルファス王国の方が気になるところではあるが、あっちに行く方法は確立できていないので、今は放っておくこととした。
それに、こう言っては悪いが、夢は所詮夢。
本当に起きた出来事ではない....と思う。
悩ましい現実に、僕は頭を抱えていると、そばに一人の少年がよってきた。
「あ、あの!」
「ん?」
よってきた少年の正体は、先ほど一緒にダンジョン攻略に勤しんでいた、高羽くんだった。
「高羽くん、どうしたの?」
「そ、その.....先ほどは、ありがとうございました!」
彼は深々と頭を下げて、目一杯の感謝を伝えてきた。
「あなたがいなければ、今の僕はいません。助けてくれたあなたには、本当に感謝しています!」
そう言って彼は、頭を下げたまま、ピクピクと震えていた。
多分、あの時の光景を思い出したのだろう。
確かに、あの場で僕が割って入らなかったら、彼は死んでいたであろう。
彼の気持ちは痛いほどわかる。
なんせ僕も、経験者だからな。
あの情景は、恐ろしい。
だからこそ、僕がかけて欲しかった、居て欲しかった言葉を彼にかけようと思う。
僕はそっと怯える高羽くんの肩に手を乗せる。
すると、ブルブル震えていた高羽くんはその動きを止めて、顔を上げて僕を見上げた。
「大丈夫さ、今度も何かあったら、僕が助けてあげるよ!、なんてね.....はは...」
流石にくさかっただろうか?
まあ、これぐらい何か安心させる言葉をあげたほうがいいと思ったんだけど。
高羽くんは僕の放った言葉を最後に動かずにいた。
流石に引かれてしまっただろうか?
なんか、少し恥ずかしいな。
「い、いやー....今のは、なんというか....」
「し....」
「え?」
「師匠...!」
「....え?」
「師匠と呼ばせてください!」
「え、ちょっ...」
彼は数瞬固まった後、目を輝かせながら僕を師匠と呼んできた。
ええ...それはちょっと恥ずかしいんだけど。
流石に師匠は....ちょっと考えられないな。
彼に変えてもらえるよう、説得しよう。
僕は気分爽快ににっこりと笑う高羽くんを呼んで、説得を試みた。
「ね、ねえ、高羽くん?」
「?、なんですか、師匠」
「その、師匠っていうのやめない?」
「やめませんよ!、それに、僕のことは
「う、うーん...」
彼の説得に乗りでた僕は、失敗に終わっただけでなく、さらに要求を追加されてしまった。
まあしかし、彼を名前呼びするのは、特に抵抗はない。
むしろ呼びやすいまである。
だが、それとは関係なく、僕は師匠呼びをどうにかしてほしい。
だって、僕が師匠って....ありえなくない?、それもあらゆる方面で。
僕はもう一度塔矢くんに話しかけ、説得を試みる。
「ねえ、塔矢くん。やっぱり師匠呼びは....」
「嫌ですよ!」
「う、うーん、でも...」
その時だった。
僕が油断したとわからせられたのは。
「そんなに、嫌ですか...?」
少年の眼差しは真っ直ぐとこちらを向き、輝くように僕を見つめた。
こ、これは....!
似ている...!、昔、奏に欲しいものをねだられて、狭まれた時のあの時に...!
こ、断れない....!
「う...!、い、いいよ...」
「やった!」
僕は結局彼のおねだりの魔力に対抗できず、塔矢くんのお願いを聞き入れてしまった。
(はあ、僕が師匠なんて....そんな柄じゃないんだけどなあ...まあ、本人が楽しそうだしいいか)
そう思い、塔矢くんを見る。
彼はダンジョンでの疲れなどないみたいにはしゃぎ回り、喜んでいた。
まあ、呼び方が変わったぐらいで何か起きるこわけでもないしな。
そうして僕は、塔矢くんの師匠となった。
予想外の出来事もあったが、ほぼ全て順調に終わった。
資金繰りという目的も達成したしね。
こうして波乱のダンジョン攻略が終わり、皆が帰ろうとしたその時。
一人の男性が塔矢くんの方へと歩いて行った。
「坊主......本当に、すまなかった!」
そう言って頭を下げたのは、安西さんだった。
「俺は、自分の命を守ろうとするあまり、冒険者として...いや、人間として最低の行為をしちまった、本当にすまねえ!」
謝罪の言葉を紡ぐ安西さんは深く、深く頭を下げて許しを乞うた。
それを、その現場を見ていたパーティーの全員が静かに見守る。
塔矢くんの出方を伺っているのだろう。
罪悪感で涙を流す安西さんに、塔矢くんが近づく。
すると、ポンと、塔矢くんが安西さんの肩に手を乗せる。
優しく触れたその手には、とても憎悪や復讐心などはなく、ただ、赦しの念を感じられた。
そしてそれを感じ取った安西さんもまた、ゆっくりと顔を上げた。
そして、満面の笑みで、塔矢くんは安西さんに向かって言った。
「大丈夫ですよ」、と。
その一言が効いたのか、安西さんは大粒の涙を流しながら、床に崩れ落ちた。
彼は、泣いている間ずっと感謝の言葉を述べ、しばらくの間塔矢くんのお世話になっていた。
その後、安西さんは塔矢くんの世話役を駆りでていた。
これからは、塔矢くんのパーティーに入って面倒を見るそうだ。
それが自分のできる償いだと言って。
それも塔矢くんは嬉しそうにしていたので、みんな賛成してその場を解散した。
安西さんは最後に塔矢くんの命を救った僕に、感謝を述べて、塔矢くんと同じ道を帰っていった。
夕暮れ時の空模様を見て、僕は妹の顔を思い出す。
「帰るか」
そうして、波乱のダンジョン攻略はこれにて幕を閉じた。
夕暮れ時の街を通り、帰路へと着く。
電車に乗り、バスに乗り、細道を歩いて行く間に、外はすっかり暗くなってしまった。
冷たい風が吹き、僕は持っていた血塗れのローブを羽織る。
「寒いな...」
少し冷たい夜の中、僕はまだ遠い我が家へと向かう。
街灯の光が道を照らす中、それが一瞬だけ消える。
僕は足を止めて、あたりを見回すが、何もない。
杞憂と思い、僕は再び歩みを進める。
しかし、またもや街灯の光から灯火が瞬間的に消える。
異変を感じた僕は、そこで立ち止まる。
(なんだ?、故障かな?)
そんな考えが頭をよぎるが、次の出来事でそれが間違いだったのが示される。
3度目の異変が起きたその時、それは目の前に突然現れた。
「どこへ行く?」
黒いローブに2本の角がついてある鬼の仮面を貼り付けた、一人の男が僕の前に現れた。
僕は突然現れた彼に、歩き出そうとしていた足を止め、震えた。
そして、本能的に何かを感じ取ったのか、その目の前に現れた彼を警戒するように、体が勝手に後退していた。
こいつはまずい。
何かはわからないが、こいつからは今すぐ離れなければいけない。
瞬間、僕は奴に背をむけ、反対方向へ逃走を試みた。
しかし、そんなことは想定内のことだったのだろう。
後ろから、今度は一本角をつけた鬼の仮面の男たちが二人、現れた。
彼らは前に一人、後ろに二人と、三角形の形で僕を囲い、見据える。
夜の暗がりの中、この夜道には誰もいない。
助けも呼べず、怪しい連中に囲まれる始末。
逃げ場のないこの場所に、僕はその場で立ち尽くした。
警戒の2文字を解かず、窮地に陥る僕に、前にいる2本角の鬼が話しかけてきた。
「まあ、そう慌てないでくださいよ。少し、話をしにきただけですから」
そう言う彼の目からは、優しさなどなく、殺気に満ちた鋭い目をしていた。
それに、話をするだけなら、こんな大所帯では僕の元へはこないだろう。
そして、その殺気に満ちた鋭い眼。
多分彼らは僕を殺しにきたんだろう。
そうでなくとも、痛めつけるぐらいはするだろう。
より一層警戒を強め、奴との対話を試みる。
「そ、そうですか。本日はどのようなご用件で?」
「....ああ、それはーー」
警戒を最大限に引き上げ、長剣を深淵より抜き放つ。
「あなた、雨宮 渉を始末しにきたんですよ」
そう言った瞬間、彼は僕へと剣を抜いて飛びかかってきた。
事前に剣を抜き放ったのが功を奏したのか、彼の神速の一撃になんとか耐えることができた。
それを予想していなかった彼は、仮面越しにもわかるほどに目を丸くして、僕と向かい合った。
「驚いた、まさかこれを耐えるとは。少し、予想外だったな」
「そりゃあ、どうも!」
彼の重たい一撃を跳ね除けて、後退すると、今度は後ろの二人と同時に彼は襲い掛かってきた。
彼らは短剣と、身軽な武器を素早く振り回し、メインとなる2本角の鬼のサポートに徹した。
3対1の不利な戦況の中、僕は徐々に押されていた。
すでに持てるスキルは全て使っている。
【剛力】で彼らの力強い攻撃を押し返し、【疾風】で彼らの速さに対応していた。
しかし、僕の体力は徐々に削られていっている。
このままではジリ貧だ。
何か、打開策はないか。
そう思ったその時だった。
2本角の彼が攻撃をやめた瞬間、残りの二人と共に後退し、攻撃をやめた。
突然の出来事の呆然としていると、2本角が手を上へと振り上げる。
その振り上げた手に、膨大な量の魔力が集まって行くのを感知する。
嫌な予感をした僕は剣を大上段へと構え、防御体制を取る。
しかしーー
「茶番はこれで終わりだ。貴様の底も知れたことだし、そろそろ終わりにしよう」
彼の手の平の一点へと集約された魔力は、彼が腕を振り下ろすのと同時に発射される。
「死ね、【
大きく集約された魔力は形のなかったそれを変え、大きく、そして素早い黒い炎の球として発射された。
そのあまりの速さに、僕は反応すらできず魔法をモロに喰らう。
直撃した【黒炎球】はその球体の形を爆散させ、轟音と共に僕の体を焼き尽くさんとした。
「ぐあっ....!!」
『【起死回生】が発動しました』
視界が黒き炎で埋め尽くされる。
視界は暗転しかけ、僕は何もできずに崩れ落ちる。
かろうじて意識を保っている僕に、2本角の鬼仮面は再び目を丸くしながら驚いていた。
「ほう。まさかこれも耐えるとは....やはり、あのお方が言うこの力は本当に恐ろしいものだな。まさか3日あまりでここまで強くなるとは。どうやら始末しにきて正解だったようだな」
そうベラベラと未だ喋る彼を前に、僕は床を這いずりながら敵を睨み上げる。
それに気付いた奴は、再度驚いたような表情で僕を見つめる。
「まさか、この状況でもまだ戦意が残ってるとは。貴様、本当にあの最弱冒険者本人なのか?」
奴の疑問に目力で返答を返すと、僕の状態を知った彼はゆっくりと近づいてくる。
「まあ、もうそろそろ貴様も限界のようだな。どれ、ここまで生き延びた貴様に褒美として、苦しみなく一撃で葬り去ってやろう」
そう言って再度、彼の手元に魔力が集まっていく。
今度こそ、これを喰らえば僕は跡形もなく殺されるであろう。
しかし、今の僕には逃走手段はない。
今、少しでも体を動かそうとすれば、先ほど喰らった技の影響で僕は死ぬだろう。
無抵抗な状態の僕を眺めながら、薄く広まっていた魔力は、彼の手の平の上で一点に集約されていく。
彼の手から今、魔法が放たれんとする。
「さらばだ、雨宮 渉」
爆発音がこの夜道の中で鳴り響く。
しかし、それは僕へは直撃しなかった。
意識が朦朧とする中、僕は何が起こったのか確認しようと寝転んだ体制のまま上を見上げる。
すると、そこには大怪我を負って、所々から血を流す3人の黒ローブたちと、僕と彼らを挟むように立つ、一人の男が立っていた。
彼は黒と紫の高そうなスーツを着こなし、手には黒いグローブをはめて、輝くような革靴を履いていた。
彼はさらに眼鏡をかけており、その漂う姿勢からは明らかな余裕を感じられた。
まるで、デキるビジネスマンのようだ。
「き、貴様ぁぁああああ...!!、またもや、我らの邪魔をする気か...!!」
「下がれ。これは貴様らが出ていい案件ではない」
憤怒に身を焦がす2本角の鬼仮面を冷静賃借な対応で収める。
激昂する鬼仮面は大怪我など気にしていないとばかりに、こちらへと歩み寄る。
しかし、その歩みは次の瞬間ピタリと止まり、その体からは怒りより、恐怖が立ち上った。
「警告だ。それ以上近づけば、今度は殺すぞ」
その言葉を聞いた彼らは、名残惜しそうにこちらを睨みながらも、後退していった。
「チッ、行くぞ。撤収だ」
そうして敵を追い払うことに成功した僕は、安堵のあまり、意識を失ってしまった。
消えかける意識の中で、僕はこちらへと心配の声で呼びかける、男性の姿が見えた。
「ハッ」っと目が覚める。
僕の起き上がった場所は部屋の一室。
特に何かあるわけでもない、ただの普通の部屋。
そこにあるベッドで、僕は目覚める。
「起きたか」
そう聞こえて、隣を見る。
するとそこには、先ほど僕を助けてくれた、イケメン眼鏡のお兄さんがいた。
「こ、ここは...」
「ここは私の部屋だ。重症だったものでね、ここで君を休ませている」
そう言う彼は片手に本を持ちながら、足を組んで座っている。
手にある本の題名には『現代医学の創書』と書いてあり、その内容はとても難解なものであるとわかる。
「この人、頭いいんだなあー」などと思いながらも、僕は話の内容を戻す。
「あ、あのー、それで....」
そう発した瞬間、彼は読んでいた本をパタリと片手で閉じ、その眼差しを僕へと向けた。
「君の言いたいこと、考えていることはわかっている。何故、自分は狙われたのか?、何故、助けてくれたのか?、私は誰なのか?、そんな疑問が頭の中を駆け巡っているだろう」
考えていたことを、次々と当てられていく。
まるで思考を盗聴されているようだ。
普通に怖い。
しかし、彼は依然として落ち着いた表情でこちらを見つめながら喋る。
そして彼は言葉を紡ぐ。
「だが、まず第一に私は君のことについて一つ、確認しないといけないことがある。それはーー」
息を呑む。
それは、彼が僕に向ける視線がだんだんと鋭くなっていくのを感じたからだ。
もしかして、これは返答次第では殺されるのでは?
そんな心配が頭をよぎる。
そして、彼の言葉の続きを聞くこととなる。
「君が、
鋭く、尖った眼光が僕へと向けられる。
アビス。そして、プレイヤー。
それは、以前聞いたことがある。
どちらも、最初に僕があの
どっちも知っている。
これはつまり、僕がこの人の言う、深淵に認められた、プレイヤーだってことだ。
一瞬、その事実を隠すかどうか悩んだが、彼から向けられる視線に耐えられず、僕は冷や汗を流しながら、小さく返答する。
「はい......僕は多分、そのプレイヤーです.....」
「........」
僕の返答に対する、彼の無言の返事。
あのー、怖すぎるので、早く何か返してほしいんですけど。
もしかして、本当に殺されるんじゃ....?
覚悟を決めて、目を閉じる。
すると、彼は深いため息をつき、顔を手に埋めた。
「やはり、そうだったのか。道理で...」
そう言う彼は、殺気染みた目を疲れたような顔に移し替え、僕を再度見据える。
「どれ、君の持ってる例の武器も見せてくれ」
「えっと....あー、あれのことですね」
一瞬、何のことかわからなかったが、察しのついた僕は、漆黒の穴より長剣を取り出す。
「これのことですか?」
両手に乗せ、彼の前へと剣を差し出す。
「ああ、ありがとう。....君は長剣タイプなんだな。どれ、私のも見せてやろう」
そう言って彼も、深淵の穴より武器を取り出す。
っていうかそのスキルって、共通だったんですね。
オンリーワンだと思ってました。
「これが私の武器だ」
そう言って彼が取り出したのは、黒い闇に包まれた、大きな鎌だった。
彼は自分の背丈ほどあるその大鎌を、片手に持ちながら地面へと置き、再度僕を鋭い目で見てきた。
「これでわかっただろう、私たちは同じだ。私も君も、同じプレイヤーとして選ばれた身だ。そして、君も薄々気付いているかもしれないが、それが原因で君は追われている」
そう真面目な顔で僕へと迫る彼。
しかしーー
すいません。
全く気づいていませんでした。
これが原因で追われてたなんて、1ミリも気づいていませんでした。
鈍くて、すみません。
度肝抜かれた顔を必死に隠しながら、彼の話を最後まで聞く。
「私と君の違いは、強いか強くないかだ。私はこれでも、結構強い自負があるのでね」
強い、ねえ。
確かに、この人からはただならぬ何かを感じる。
それに、あの鬼仮面の人たちも簡単に追い払っていたし、その言葉に偽りはないだろう。
目の前の人物に高い評価をつける。
そして彼の発言をしかと、この耳に止める。
「私も、昔は君のように弱かった。いずれ、君も私のように強くなれるだろう。しかし、今の君は弱い。それに任務も途中のようだしな。大方、あっちの世界へと戻れないのだろう?」
「え、なんでわかったんですか?」
「まあ、何となくだな」
どうやらこの人には、全てがお見通しのようだ。
隠し事は無理そうだなあ、と思いながら彼の透き通るような瞳に、僕は思わず目を逸らす。
「まあ、そう言うことならば、戻れる期間が来るまでこっちで待つしかないな」
彼の言葉を聞いた僕は飛び上がり、彼へ迫った。
「も、戻れるんですか!?」
「お、おう。当たり前だ。それより近い、離れろ」
「あ、はい。すいません」
驚きの情報を得た僕は、思わず乗り出してしまったが、引かれてしまった。
悪いことをしてしまった。
でも、そうかぁ。
戻れるのか。
嬉しいな。
内に広がる喜びを噛み締めて、笑みをこぼす。
しかし、それを見ていた彼は、少し冷たい顔をしていた。
何か寂しそうな、憐れむような、懐かしむような、そんな顔だ。
だが、彼はそんな顔を払拭し、話を戻す。
「とりあえず、戻れないのなら、ここで安全を確保するしかない。すなわち、君には強くなってもらわなければいけない」
僕へと指を差し、彼は言う。
「強く、ですか?」
「ああ。君を私一人で守るのにも限界がある。私も仕事人なのでね。よって、君にはあちらに戻る前に強くなってもらう。そしてその方法はーー」
彼は外の建築物を指差して、力強く言う。
「ダンジョンへと行ってもらう。それも君一人でだ」
「ダンジョン.....」
ゴクリと唾を飲み込む。
ダンジョンへ、僕一人で。
それは、長年やり遂げれなかった夢を、たった一人で遂行すると言うこと。
最近ではいろんな魔物と遭遇した。
その度に倒して、力をつけてきた。
でも、正直まだ怖い。
奴らに立ち向かうのは、まだ恐ろしい。
でも、このままじゃ僕は弱いまま。
ただ狩られるだけ。
それならば。
僕は強くなるために、覚悟を決めなければいけない。
気合を入れて、彼の目をしっかりと捉える。
「よろしい。では明日からよろしくするとしよう。色々と教えてやる」
「はい、お願いします」
僕らは手を交わし、握手をする。
暗闇の中、窓から月の光が僕たちを照らす。
すると、ふと何かを思い出したかのように、彼が話す。
「そういえば、君の名前は?」
「雨宮 渉です」
「なるほど。私の名前は
「はい、よろしくお願いします」
こうして僕は、彼こと、黒崎 薊と出会うのだった。
「ただいまー、お姉ちゃん!」
元気よく駆け込む、銀髪の少年。
「あら、おかえりなさい。塔矢」
それを迎えるは、腰まで揃えた、長く美しい銀髪の美少女。
そして彼女が置いたと思われる、壁の隅にある、2本のレイピア。
「あのね、お姉ちゃん、聞いてよ!」
そう、満面の笑みで話し出す少年。
「あら、どうしたの?」
そんな彼が話す姿を嬉しそうに見つめる少女。
「今日はね、すっごくいい人に出会ったんだ!」
嬉しそうに話す少年の語る相手が気になる少女。
不意に、聞いてみる。
「へえ、なんていう方なの?」
「雨宮師匠だよ!」
「雨...宮...?」
少女は驚きのあまり固まる。
何故なら、その名前を彼女は知っているからだ。
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