第15話 帰還と夢

「ハァ.....ハァ....!」


この久しく見た、夜の月明かり以外の、電気の灯り。

そんな夜の眩しさを通り抜けながら、僕はある場所を目指す。

なりふり構わず、他の何も気にせず、そのある場所だけを求めて、走り続ける。


そうしてやがて、僕は10分弱、走り続けた先にある場所へ辿り着いた。

それは、明るい夜の灯りの中でひっそりと建つ、ごく普通の一軒家。

ごくごくありふれた、なんの変哲もない一軒家。


だが、それは僕にとっては追い求めていた、終着点で原点である場所。


僕は、一筋の涙を流し、勢いそのまま、その一軒家へと突入した。

荒い息を立てながら、醜く、歪んだ顔で、猛烈な思いを込めて。


「奏.......!!」


久しい名前を叫びながら、ドンと、大きい音を立て玄関へ入る。

家の中は電気の明かりが灯されており、荒らされたり、誰かが長く、いなくなった形跡もなかった。

僕はそんな平凡な家の姿に少しだけホッと息をついて、僕は急いで靴を脱ぎ、家の中へと入る。


そんなドタドタとした音が聞こえたのだろう。

部屋の奥から一人の少女が出てきて、驚いたような顔でこちらを見て、玄関へ向かって走ってきた。

僕はそれを静かに眺め、いや、湧き上がる感情を抑えきれず、混乱でその場に立ち尽くす。

そんな少女からの、元気いっぱいの腹部へのダイブは、とても、とても懐かしく、変わらないものだった。


「お帰り! お兄ちゃん!」


僕は引力そのままにその場で崩れ、数ヶ月ぶりにあった妹を抱きしめて、号泣した。

そんな僕を、不思議そうに見つめる彼女であったが、彼女もまた、静かに、僕を抱きしめ返して、迎え入れてくれた。

その体は暖かく、優しく、ボロボロの体に深く染みた。

僕はその間、約10分、泣き続けた。




泣き止んだ僕は、少しして落ち着き、妹に連れられて、夕食のある食卓へと座らされた。

「いただきます」と口にし、久しぶりの日本食を一緒に堪能する。

口いっぱいに溢れる、鮭の塩っぱい味と、温かい白いご飯の甘い味を噛み締めながら、僕は再度涙を流した。

その間の彼女は、とても不安そうに、でも嬉しそうに、僕を静かににっこりと、ただただ見つめていた。


そうして、僕らは食事を完食し、寝床へと着く前に少し話をした。

たわいのない、幸せなありふれた話をする中で、僕はちょっとした違和感を覚えた。

それは、ちょうど彼女と今までの、この数ヶ月の話をしている時だった。


彼女へと、この数ヶ月何をしていたのかとふと聞くと、彼女からの返事はとても不思議なものだった。

彼女は「何をいっているの」という顔をして、僕の質問に対して、曖昧な答えをするばかりだった。

彼女の態度を不思議に思った僕は、彼女に詳しく話を聞いてみると、彼女は僕がこの家を出て行ったのがほんの2日前の朝のことだという。


つまり、僕が体験したあの地獄のような数ヶ月は、彼女にとっては、ほんの2日前の出来事ということになる。



どういうことだ?



僕の体験したあれは、もしかして全部ただの夢だったのか?


そんなことを思い、ふと、「ステータス」とつぶやく。

すると、僕の前に現れたのは、この数ヶ月で見慣れたあの青く、薄いパネルだった。

そこには僕のこれまでのステータスが乗っており、僕の努力の結晶が窺えた。


あの『世界』にいた時と同じぐらいの力は今もあると感じている。

これが指し示すのは、あれが夢ではなく、まごう事なき現実だったということだった。


全く持って、頭が痛くなる話だ。


僕は疲れ気味にスキルボードを閉じて、妹ともう少しだけ歓談し、お互い今日はもう寝るように促した。

久しぶりに帰ってきた我が部屋を眺め、部屋の端にあったベッドへと向かい、横たわる。

目を閉じ、寝ようとするが、妹との話を得て、僕は思考に耽って眠れずにいた。




一体、あそこはなんだったんだ?

時間の流れが違うのか?

あそこは、本当にダンジョンなのか?


僕が見たあの世界の人たちは、本当に存在するのか?



ブルっと体が震えて、僕は自分の疑問を疑った。

それは多分、恐怖だった。

あの世界は本当は存在せず、あの見てきた人たちは、ただの偽物。

ダンジョンが見せる不思議な幻覚。

そんな気がして、いろんな意味で恐ろしくなった。


僕は布団を深く被り、今考えていたことを忘れるようにして、眠りについた。

僕が見たあれを、これ以上嘘にしないために。





















「きゃああああああああ!!」


「た、助けてくれぇ!!」


悲鳴が聞こえる。

皆が嘆き、苦しみ、逃げまとう様子が見える。

そこら中にある建物は燃え盛り、数々の死体が血を流して倒れている。

そこにあるのは絶望と、言い表せないほどの恐怖のみ。

そんな中、僕は起きる。


「え.....?」


まるで、大きな爆弾がこの街に直撃したような、混沌とした光景に僕は思わず見入る。

先ほどまでベッドに寝そべっていた僕は、気づけばこの終焉の世界に迷い込んでいた。

僕は寝ぼけていた意識を急いで持ち上げ、この火の海の中で立つ。


「一体....ここは.....何が....」


大きく混乱する中、あたりを見回し、今起こっている情景の事実を確認しようとする。

とりあえず状況を整理して、この場所を突き止めよう。


逃げまとう住人、人を助けようとする住人。

救助活動に励む兵士、遠くで剣を弾き、何かと戦う兵士。

そこら中に散らばる瓦礫と、多くの建物から火が噴き出す戦時中のような光景。


走りながら、見えた大部分はこの4つだけであった。

長く回り続け、道中に人助けもしてると、僕はあることに気がついた。


それは、僕がこの場所をどこかで見たことがあるということだ。

この炎で焼き尽くされている場所をだ。

火にさらされているが、最近、直近でどこかで見た場所。

大きい土地を有している、広大な場所。

こんな大きな街を直近で見たのであるならば、そんな場所は一つしかない。


エルファス王国だ。


瞬間、僕はぐるりと背を向けて全力で駆け出した。

一度だけ見た、街から見上げた立派な山の天辺へと。

火の海の中、元王城が建つこの王都の中心部へ。

焦りと不安で、押しつぶされそうな中、その一点を中心に僕は走り続けた。

上へ、上へ、と登り、やがて僕は王城が建っていたはずの場所へとやってきた。


「はあ、はあ.....クソッ.....!」


あたり一面に広がる王城を形作っていた瓦礫をどかし、遠くから聞こえてくる剣と剣がぶつかり合う音の方へと向かう。

焦る気持ちを抑え、多くの障害物をどかし、原因の渦中と思われる場所まで急いで行く。

程なくして、目的地へ辿り着いた僕は、言葉を失った。


「な.....」


腹部に大剣を刺され、大量に血を流しながら倒れるユリウス。

体を真っ二つにされ、体が血一色に染め上げられている王様。

その二人を、涙を流しながら、恐怖の眼で見るエリー。


以前とも、数日前に話した人たちばかり。

特に、エリーとユリウスは先ほど、数時間前に話したばかりの間柄。


エリーの楽しそうな表情と、ユリウスの優しい微笑みが脳裏に浮かんでくる。

あの、楽しかった彼らとの時間。

それを思い返し、今の現状に振り返る。

この悲惨な現状に。


僕は彼女たちへと駆け寄り、状態の確認をする。

王様の姿はみるも無惨で、とても生きていると言えた状態ではなかった。

目をゆっくりと背け、僕は声を必死にかけるエリーと、その隣で横たわるユリウスの方へと向かった。


僕が駆け寄った時のユリウスは、とても弱っており、今にも息を引き取りそうな状態だった。

エリーは泣きながら、ユリウスの腹部を布生地で押し付け、流れ出る血を止めようと必死だった。

その姿はとても脆く、僕が手の触れる距離に近づくまで、彼女が僕の存在に気づかないほどだった。


彼女が僕のことに気づき、こちらを振り向いた時、彼女多くの涙を流し、顔を真っ赤にしながら、僕に助けを求めながら抱きついてきた。

僕はそんな深刻な状況を理解して、不安そうなエリーを落ち着かせ、ユリウスの応急処置をしようとしたその時、ユリウスが自身の腕を伸ばし、僕の手を掴み、治療を止めた。

僕は驚いて彼に言葉を発そうとしたが、言葉を紡ぐ前に、ユリウスはそのまま力強く、僕を彼の顔の近くまで引っ張った。


そして、彼は数文字、たった数文字だけ発して、そのまま息たえた。


「ひ、め....様を、連れ....て、逃げ、ろ.....」


彼は最後の言葉を言い終えると、力をこめていた手を解放し、引力の赴くまま、腕をドサリと地面に向かい落とした。

彼の動向からは光が消え、瞬時に体から熱が引いていくのを感じた。

僕を掴んでいた力は徐々に弱まり解放され、僕は姿勢を直して、死体の彼と向く。


彼をここまで残虐に、かつ簡単そうにひねり潰す敵。

彼にして負け、逃走を余儀なく選択させるほどの強者。

それは一体、どんなに恐ろしい敵なのだろう。


僕は童謡の中、何か大きく、嫌な予感がしてすぐさま立ち上がり、エリーを連れて逃げようと彼女の手を取った。

だが、彼女にはショックが大きかったのだろう、まるで廃人のように死んだ二人の姿を眺めながら、ただただ涙を無表情で流しているだけだった。

彼女はいくら僕が引っ張っても、ピクリとも動こうとせず、顔を下に向けて目から光を消して絶望するだけだった。


彼女はまるで全てを失ったかのように、大切だった全てを奪われたように、疼くまる。

それは、駄々のこねる、可愛い子供の地団駄ではなく、その一手で全てを奪われた、限界ギリギリの自殺願望者のようだった。


僕は、彼女のあまりにもの表情を見て、少しばかりの恐怖を覚えた。

彼女の腕を掴んでいた手を離し、悲しみと、憎悪の念が溢れ出る彼女の姿を見て、僕は何かしら後悔していた。


その間、わずか1分未満。


背筋をぞわりと刺激する感覚が僕を襲った。

反射的に後ろを向き、黒き長剣を深淵の穴から抜き出す。

【剛力】を発動させ、力一杯虚空に剣を振るう。


そこで、僕は確かな手応えを得た。

虚空へと振ったはずの剣は、視界には映らない何かを切り、その正体をあらわにした。

虚空から鮮血が噴き出し、見慣れた緑色の豚顔の化け物が地面へと臥る。

サイレント・オークだ。


「な......」


僕は振り抜いた剣をゆっくりとしまい、戸惑いの中、呆然とやつを見る。

テラリア大草原で見た、忌々しいモンスター。

来る日も、来る日も、戦い続けた相手。

幾度と出会い、幾度と殺した、忌むべき存在。

サイレント・オーク。

何故、そんな奴がここに?


僕の中にそんな問いが浮かんで、止まった。

ユリウスから教えてもらったことだが、どうやらモンスターは普段、自らの生息域を出て、人里を襲うことはほぼないそうだ。

あったとしても、それは、群れから外れた愚かな個体だけ。


しかし、サイレント・オークがこんな王城の付近、それも一番警備が丈夫であるはずのこの場所にいると言うことは、この町全体がサイレント・オークもしくは、別の何者かの襲撃を受けていると言うことになる。


そんな事を示唆する現象は一つしかない。

それはここエルファス王国に、『大侵攻モンスターパレード』が起こったことを意味する。



「サイレント・オークの、大侵攻......?」



大侵攻モンスターパレード』。

それは、ある特定の一定条件を満たして発生する、モンスターの大量発生の一種。

普段多くはいないモンスターたちが爆発的に増加し、その結果、通常の居住区を離れ、人里などを大規模的に襲う現象のことである。


つまり、ここには、何百、何千、もしかしたら、何万といった数のサイレント・オークが大量にいる。


僕は、再度ここがどれほど危険であるかを深く理解した。

しかも、今倒れているこいつは緑色。

集団の中では一番弱い部類。


最近はこいつらに苦戦することはなかったが、何百匹といればまた話は変わってくる。

いくら僕が戦い慣れていても、それでは僕がすぐに死んでしまう。

上位種がいるともなれば、さらに戦況は傾く。


僕は再度、エリーの方へと手を伸ばし、彼女とこの場所を脱しようとしたその時、不意にあの声が、突然頭の中に響いた。


『レベルアップしました!』

能力自動付与オートスキルテイカーよりSPを使い、スキル【超鑑定】をLV5→レベルMAXにし、スキルを進化させます』

『成功しました』

『スキル【超鑑定】はスキル【絶鑑定ぜつかんてい】LV1に進化しました』



システムが一連の作業を勝手に終わらせる。

システムが今反応したことに僕は不思議に思いつつも、最優先事項が別にあると知っていた僕は、システムの情報を無視して、再度エリーに手を伸ばそうと体を動かす。


しかし。

僕の体は動かなかった。


「な...?」


声も上手く発せず、僕の脳から出る体への電気信号は全て遮断されていた。


(一体何が?)


そう不思議に思っていると、僕の意志とは無関係に勝手に体が動き出した。

僕の体はゆっくりと目的の対象の方へと向いて、死体である先ほど倒したサイレント・オークの方に向かった。


「何を...」


『スキル【絶鑑定】を使用します』


訳もわからないまま、スキルを発動させられる。

進化したスキルで見る相手の情報は、以前よりもより深く、詳細に開示される。


そして、その情報を見た僕は、あまりのことに絶句した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

個体名:サイレント・オーク(緑)

種族名:オーク


特性:サイレント・オークは、『楽園人エデス』に対して、特攻を持つ。

・特攻:相手の能力各値を99%ダウンさせる。

・特攻:相手の武器能力値を99%ダウンさせる。


討伐対象レベル:5500

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「な.....!」


スキルを行使した後の僕の体は、自由を取り戻し、きつく拘束されていた僕の体は、解放された。

その反動で、僕は小さく倒れ込み、言葉では説明しにくい、不快な感情に襲われた。


「そんな、理由だったのか....?」



それは、恐怖か?

後悔か?

悲しさか?


いや、どれも違う。



この感情は、呆れと悔しさだ。


僕は不思議に思ってきた。

なぜあれほど、無類の強さを持った彼、ユリウスがあれほどサイレント・オークを敵視するのか。

なぜ皆、あれをそれほどの脅威として見るのか。

どうやら答えは単純で、納得のいかない物だったようだ。



楽園人エデスとは、ユリウスやエリーといった、ここに住む人間の種族名だ。



これほどの理不尽な理由で、こんな、たった一つの特性とやらだけで、あの僕が見た最強の騎士は倒されてしまったのかと。

これだけで、この都は落とされてしまったのかと。

僕は嘆くと同時に、笑った。

されど、その笑いに嫌味はなく、元気もなく、ただ呆れたような、それでいて悔しいようなそんな乾いた笑いだった。


僕は倒れ込んでいた自分を叩き起こし、ならばと、せめて彼女だけでもと、後ろにいるであろう彼女に手を伸ばした。

彼女の腕を掴み、思い切り引っ張り、連れて行こうとしたその時、僕は違和感を覚えた。


彼女の重みがとても軽く感じたのだ。


いや、軽く感じたなんてものではない。

もっと全体的に、何かが足りないような.....。


僕はその時、ハッと気づいたように、後ろを振り向いた。

そして僕は、大きく息を呑んだ。




そこには、腕だけのエリーの姿があった。

あたりを見回してみると、少し遠くの瓦礫の上で、ペシャンコに潰れるエリーの胴体が見てとれた。


「は.....?」


意味がわからなかった。

一体何が起きたのか、なぜこうなったのか、何も。


混乱し、一瞬の思考の停滞が起きた。

固まっていた僕の体は、動くことを拒否して、不可避の何かの直撃をモロに受けた。


瞬間、エリーの腕を掴んでいた僕の左手もろとも、宙に吹き飛ぶ。

無惨に切断された面の腕から、鮮血が噴き出し、ひどい痛みに襲われる。


「ぐぁ.....!!」


右手で腕を強く抑え、蹲って痛みに耐える。

血がドバドバと、腕から流れ出て、あまりの痛みに感覚を失い始める。

着ていたボロ切れのような服の一部を口で噛みちぎり、それを使って傷口を塞ぎ、命を繋ぐ。


僕は一層、警戒心を高め、次なる攻撃に備える。

すると、背筋に嫌な感覚を覚え、痛みに耐えながらも本能的に剣を抜き、ありったけの力で、再度、虚空を切り裂く。

しかし、今回振った剣は途中で止まり、僕の体はその瞬間宙高く吹き飛んだ。


『スキル【起死回生】を発動しました』


死んだ体をスキルで叩き起こし、上空100m前後から自由落下する。

あまりにも悲惨な現状から、一瞬自身の身に何が起きたのか理解できなかった。


だがそれは、虚空より現れた一体の魔物の登場により、一変する。


なるほど。

僕は殺されたのか。


屈強にも恐ろしい姿をしたその赤色のオークに、僕は何を思ったのか、最後の力を振り絞り、落ちる体でスキルを行使した。


「【ぜ..つ、かん....てい.....】」


『対象の情報を開示します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

個体名:サイレント・オーク・ロード(赤)

種族名:オーク・ロード

特徴:テラリア草原に巣食う厄災。

静寂をかけるサイレント・オーク達の統率者であり、静寂と武を極めた、部族一の強者。

その強さたるや、大草原をかける全ての生物は、奴に近づくことの愚かさを知っている。


サイレント・オークは、『楽園人エデス』に対して、特攻を持つ。

・特攻:相手の能力各値を99%ダウンさせる。

・特攻:相手の武器能力値を99%ダウンさせる。


討伐対象レベル:75000


所有武器:静寂王の巨岩ロードサイレント

推奨装備レベル:55000

ATK+250% STR+1200

部族一の強者に与えられた、由緒正しき伝説の武器。

これぞまさに、王の象徴。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして僕は、地面に力強く落下した。

そして、同時に理解した。

奴がこの元凶なのだと。

厄災:サイレント・オーク・ロード。




意識が薄れ、体の感覚を失う。

僕はここで死に、この世を去った。

そして、完全に意識を失い、次に意識を覚ましたのは、大きく鳴り響く、目覚まし時計の音からであった。


「お兄ちゃん! そろそろ起きて!」


妹の声が聞こえる。

ここは?


「はっ....!! はぁ、はぁ...!!」


僕は飛び跳ねて、自分の体を見る。

付いてる腕、爛れていない肉、完全に治っていた体。

先ほど起きた、数々の後遺症は全て、治っていた。


「夢.....だったのか....?」


起きたら布団の上。

先ほどまでいた、あの地獄のような場所ではない、平穏な場所。

夢として、語るのには十分な出来事。

しかし、夢として片付けるには、あまりにも重い出来事。


「お兄ちゃん、ご飯できてるよ!」


不思議に、何かが引っかかるような、不安になるような思いを堪え、僕は布団から起き上がり、妹の声に応える。

自室の去り際に僕はふと、何気なく後ろを向き、自分の布団の上を見た。

するとそこには、大量の汗のシミができており、見れば、僕の背中にもべっとりと汗が大量についていた。


「.......シャワーでも、浴びるか......」


僕は、リビングに向かう途中、シャワー室へと向かい、汗を流した。

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