第14話 審判のその後
「困ったものだ.......」
私はエヴリン・エルファス、この国の国王だ。
先ほどまで元罪人、雨宮君の裁判を行っており、ちょうど今終わったところだ。
そして私は、その後作業を終えるため、今自分の執務室にいる。
結果として、彼は無罪となり、私の望んだ結果となってくれた。
さらには、動かぬ証拠であるサイレント・オークの死体も複数体出してくれたことで、思わぬ一手を刺せることとなった。
正直、これで彼を疑うものは、ほぼいなくなったと言ってもいいだろう。
まあ、力に怯えるとかは別としてだがな。
エリーの言葉を借りると、万々歳、といったところだろう。
しかし、この裁判中私は大きな悩みの種を抱えてしまった。
「コルニアめ........」
それは公爵家当主、コルニア・コルダートのことである。
彼は裁判中、私の望んだ方向へとことを進むように協力をしてくれてはいたが、本来、奴は私と対立する派の貴族のトップであり、悉く私の邪魔をしてくる男のはずなのだ。
しかし、今回はどうだろうか?
彼は私の邪魔をするでもなく、私の意見を強く支持してくれた。
結果として、彼の口沿いのお陰で雨宮君の無罪放免は確実なものとなったが...これを奴の策略ではないと考えるのは、あまりにも浅はかだろう。
奴の狙いは一体なんなんだ?
「せめて、彼らがいてくれたら.......」
実は、今回の審判での参加メンバーは、全員ではなかったのだ。
今この期間だけ、ある諸事情で全ての公爵家の当主達はエルファス王国外へと旅立っている。
そういうわけで、先日の会議も侯爵家のものが取り仕切っていたのだが....どういうわけか、あの土壇場でコルニアだけが戻ってきたようだ。
なんとも、タイミングが悪い。
ああ、悪すぎる。
まるで、狙っていたような.....いや、流石に考えすぎであろう。
外に出払っている奴に、この情報が届くには早すぎる。
奴のいるところから、このエルファス王国までは、およそ三週間はあるはずだ。
そして、雨宮君がここへきたのは、ほんの一週間前程度。
とても、策略を組んで進めることではないだろう。
私は、一度自分の考えに整理をつけて、冷静になる。
とりあえずは奴の陰謀は一度忘れ、雨宮君の受け入れ準備を進めよう。
「エリー」
私は自分の娘を呼び寄せ、協力を仰ぐ。
外から、彼女がやってき、真剣な眼差しでこちらを向く。
「はい、お父様」
彼女が何故呼ばれたのか、彼女は理解していたのであろう。
その鋭い眼に私は、感心した。
しかし、私に見えたのは、彼女の覚悟よりも、彼女の疲労であった。
流石に、疲れ果てている彼女に、今からやる議題は重荷になるだろう。
私はそう思い、彼女へ元々下そうとしていた命を取り下げ、別の命を与えることにした。
彼女に倒れられては、私も困るしな。
「はあ、雨宮君に城下を案内してやりなさい」
「....よろしいのですか? お父様」
「ああ、大丈夫だから行ってきなさい」
「!!.....はい、お父様!」
それを聞いた彼女は、疲れが吹き飛んだように、執務室を飛び出て行った。
雨宮君のことは、とりあえず彼女に任せておこう。
そして、コルニアのことは、今出ている他の公爵たちが戻ってからにするとしよう。
奴の陰謀がなんであれ、必ず私が阻止する。
この国はやらんぞ、コルニア。
「渉様.....! 渉様.....!」
「う、うーん......」
「起きてください、渉、さ、ま!」
「グェ.....!!」
疲れへてて、王城の部屋の一室で寝ていた僕は、突然誰かから腹部へと奇襲を受ける。
その耐え難い痛みに、情けない声を出しながら正体を探ろうと起き上がると、そこには見慣れた一人の美少女がいた。
「え、エリーか......退いてくれないか......」
「あ、すいません.....」
僕のお腹の上へとダイブをかましてきていたエリーを退かせると、僕は寝ていたベッドから起き上がり、姿勢を正して彼女へと向かった。
「で、どうしたんだ?」
「ええ、実は城下町を案内しようかと思いまして」
僕は、その言葉を聞いて、飛び跳ねた。
「ほ、本当か!?」
「ええ」
「じゃあ、少し待っててくれ!」
僕は彼女を部屋から押し退けさせ、急いで準備を進めた。
僕が好きなファンタジー世界、中世の街。
この目で、はっきり見られる日が来るなんて。
僕は急いで支度を進めていった。
必要なものを全て【深淵の宝庫】に投げ入れ、着々と準備を進めていく中、ある問題に直面した。
僕はそろりと、閉めたドアを再び開け、問題解決の糸口を外にいたエリーに問いかける。
「な、なあ、エリーさんや...」
「? 終わりましたか、渉様?」
「服って、どうすればいい.....?」
「え、あ、ああ、なるほど、わかりました。使用人を呼んでくるので少し、待っていてください」
彼女は、扉の後ろから小さく覗き見るような姿勢でいる僕を見ながら、即座に状況を判断したらしく、慌ただしくも、すぐさまメイドのような人物を連れてきた。
到着したメイドは、状況を把握したらしく、適当な服を取り繕ってもらい、僕はそれに着替えて、エリーと共に城下町へと向かった。
そして、城下町へとつき、探索していく中で、僕はいろんなものを見た。
この国の文化や、成り立ち。
施設や、お店、そして何より、人の笑顔を多く見れた。
この国には、多くの笑顔があった。
いろんな種族の人たちが集まって、なんの差別も偏見もなく、皆平等に、対等に笑い合っていたのだ。
それが、なんとも微笑ましく、美しかった。
この国は素晴らしいなと、そう思えた瞬間だった。
やがて、僕たちは数時間かけて、城下町の探索を終え、王城へと戻ってきた。
一日中外にいた僕はくたびれていて、執務室へと向かうエリーと別れ、自分の部屋へと戻って行った。
くたくたになった体を休めようと、あくびをしながら、部屋へと入っていくと、そこには一人の傷だらけの男が椅子に座っていた。
「え、あ、すいません!!」
僕は咄嗟にそう叫び、部屋を間違えたのだと思い、急いで出て行こうとした。
「ん?」
しかし、部屋の内装や、置いてあるものが、全て自分のために用意された物であるということに気づいて、僕は踏みとどまった。
「あ、あれ?」
ここは確かに僕の部屋(仮)だ。
では、なぜ僕の泊まっている部屋に人がいるのだろうか?
その答えは、すぐに帰ってきた。
「おや、失礼。別にあなたをびっくりさせるつもりはなかったんですよ」
かチャリと、包帯まみれの男は飲んでいた紅茶を皿の上に乗せて、答える。
僕は、扉を出ようとしていた自分の体を再び部屋の方へ向かせて、先ほど一瞬だけ見えたボロボロの男を、今度はよく、観察するように見る。
「んー?.........あ」
「思い出してくれましたか?」
ボロボロの男は、僕の思い出すような顔と声に、にっこりと微笑みながら答える。
その男の正体は、僕を決闘で殺しかけて、窮地に追いあった、僕にとっての恐怖。
その名も、近衛騎士団長ユリウス・ディーク。
「ユリウス・ディーク.....」
「ええ、私です」
驚きと迷いの狭間の中、彼に対してのいろんな感情が湧き出てきた。
謝りたいだとか、憎しみだとか、心配だとか...どうやって部屋に入っただとか。
まあ、そんな感情だ。
だけど、それらを全部押し退けて、僕は恐怖、そして、彼がなぜここにいるのかが一番気になった。
一応、ここは暫定で僕の部屋なので、それぐらいは聞く権利があるだろう。
僕は、恐る恐る彼に尋ねてみることにした。
「え、えーと.......なんで、ここに......?」
「ええ、それはですね、謝罪とお礼を言うためですよ」
「お、お礼?」
彼の口から出た内容は、僕の予想外のものだった。
なぜなら、僕には、謝罪もお礼も、何かを感謝されることなど、何一つやっていないからだ。
むしろ、僕は、ひどいことをした。
あまり良く覚えてはいないが、僕は彼を殺そうとし、彼にこれほどの傷を負わせた。
実際、エリーが止めに入っていなければ、危ないところだったのだろう。
ところが、どうだろうか。
これは後に聞いた話だが、彼は僕を恨むでも、憎むのでもなく、僕を擁護してくれたらしい。
僕の死を、大多数の負の意見を、跳ね除けてくれたらしい。
感謝やお礼を言うのは、僕の方だろう。
「いえ、僕から言わせてください。本当に、すみませんでした。そして、本当に、ありがとうございました」
僕は、今までのことを思い返し、深々と頭を下げて、ユリウスに感謝を伝える。
それを、目を見開いた様子で眺めるユリウスは少し、静かになり、彼も頭を下げ、気持ちを伝えてきた。
「いえ、雨宮殿、謝るのは私の方です。罪なき人に罪を被せた上にこのざまなど、騎士として、本当に恥じるべき行為です。私の騎士道を思いださせてくれたあなたには、本当に感謝をしているのです」
彼の話す言葉の節々には、悔しさと、情けなさと、そして、何よりも感謝の念が深く伝わってきた。
深く、深く、思いを伝える彼の表情に、彼がどれほど本気なのかを感じさせてくれた。
僕はすっかりそんな彼に見惚れてしまい、今の状況も忘れて、彼の良き人柄に敬意を表した。
静かに、感銘を受けていると、僕はこの状況(自分が頭を上げ、謝るべき相手に頭を下げさせていること)にすぐさま戻ってきて、ユリウスの頭を必死に上げさせた。
彼は僕の慌てふためきように笑いながら席につき、再び紅茶を手にした。
その後、少し彼と夜の部屋で雑談をした。
彼が僕への、僕が彼への気持ちや、感情。
今日の出来事や、今までの出来事。
ありふれた話から、真面目な話。
なんでもかんでも僕たちは互いに話した。
あの一晩で、僕らの仲は、確実に良くなったと言えるだろう。
そうして話すこと、およそ2時間。
空は本格的に暗くなり始め、ユリウスは部屋へと帰ることにした。
「それでは、また。雨宮殿」
「ええ、またユリウスさん」
ユリウスは部屋を出ていこうとしたその時、彼は突然、何かを思い出したかのように振り返り、僕と最後の言葉を交わした。
「最後に一つだけ、公爵家のコルニア・コルダートには、絶対に近づかないでください。彼は危険です」
「え?」
「いいですか?」
「は、はい。わかりました」
彼のこの時の顔は、言い表せないような怒りと、夜も眠れぬ不安な表情で僕に警告してくれていた。
その顔から、僕は息を呑むように真剣に、返事をした。
すると、彼の表情はにっこりと元に戻り、「では」と一言おいて、部屋を退出した。
僕はそんなコルニアに恐怖を覚えたが、同時に本気で心配してくれる彼がいると安心して、寝る準備を進めた。
寝巻きを着て、布団の中に潜り込む。
瞼を閉じ、重くなる体を感じながら、今日もまた眠りに落ちる。
そう思ったその時、久方ぶりにあの声が頭の中に響いた。
『プレイヤー:雨宮 渉が第一クエスト『草原の先にある王国を求めて』を完全クリアしました』
「.....!! システム.....!」
僕はその声を聞いて、重くなっていた体を跳び上がらせ、ベッドの上に立った。
『よって、新クエスト『王国の悩み』を受注し、プレイヤーへ報酬が配られます』
「報酬? 新クエスト?」
訳がわからず混乱していた僕は、ベッドの上で呆然と立ちながら、新たに流れてくる情報を眺める。
『プレイヤーへ、報酬が配られます。...............配られました。報酬を受け取りますか?』
多く送られてきた情報を確認する暇もなく、システム画面は、報酬を受け取るか否かの画面でフリーズしてしまった。
どうやら、受け取るか、受け取らないかを選択をしないと、画面に変化は生じないようだ。
僕は深呼吸をして、画面へと向かい合う。
正直、いろんな情報が一気に流れてきて、混乱はしているが、それ以前に僕は報酬と聞いて胸を踊らせていた。
ここにきて、いいことはあまりなかったが、今までの『報酬』はいいものが手に入った。
今回もきっとそうなのだろうと、信じて。
僕を強くしてくれる何かが、そこにはあるともうすでに、知っているからだ。
僕は決心し、迷わず選択をする。
「イエス」
『承諾を確認。報酬を譲渡します』
「うぉっ....!!」
瞬間、映っていたスキルボードの画面が黄金色に光り、僕の周りを完全に包み込んだ。
(な、なんだ!?)
やがて、黄金の光が完全に消え、視界が戻ってきた時、僕がいたのは豪華なベッドの上ではなかった。
「どこだ、ここ....」
先ほどまで、布団の上のはずであった場所は、コンクリートの整備された道に、辺り一面は小さな部屋ではなく、巨大な高層ビルや、現代的な建物に囲まれていた。
そして何より、僕の背後には、闇夜に照らされる赤く、鳥居に門をつけたような、高層ビル並みにでかい建造物があった。
それは、数ヶ月前、僕に悲劇が起きた、忌々しい場所。
裏切られ、死にかけそうになった、思い出したくもない場所の始まりの地。
七大ダンジョン『アイビス』だ。
「戻って.......きたのか........?」
そして僕は駆け出した。
とある、ありふれた、平凡な家へと。
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