第13話 審判の終わり

「入れ」


「......はい」


僕は今、再びこの冷たい牢屋の中へと入れられている。

一緒にここまできた騎士に色々聞き、今までの状況の確認を行った。


彼によると、先ほどまで決闘をおこなっていた僕は、倒れてそのまま寝込んでいたらしい。

あの黒い空間は、僕の意識空間ということなのだろうか。


他には闘っていた相手、ユリウスは大怪我を負っており、今もなお治療中だそうだ。

同じ状況でエリーも剣を手に刺され療養中だそうだ。

心配だったが、どちらも命に別状はないそうで一安心した。


「貴様の判決はユリウス騎士団長、並びにエルリア王女殿下が回復すると思われる3日後に行われる。それまでお前はここに拘束する。くれぐれも暴れないように」


状況報告をし終えた騎士は、僕を牢屋に入れてそのまま出て行った。

牢屋の通路が閉まり、また一人ここで過ごす。


3日後、僕の運命が決まる。
















一方エルファス王国、某会議室にて。


「反対ですぞ! あんな危険分子をこのまま生かすなんぞ、正気とは思えん!」


「確かにその通りですが、彼は決闘に勝利しています。国の規則を破るなんて......」


「そもそもあれは本当に決闘に勝ったと言えるのだろうか? 一時は判決を言い渡す直前だったのだろう?」


口論が広い部屋を響き渡り、何重にもなって帰ってくる。

私はそんな彼らの姿を見て、思わずため息をする。


私の名前はエヴリン。

エヴリン・エルファス。

このエルファス王国の国王だ。


今私は先の決闘で闘っていた罪人、雨宮 渉への対処についてこの国の貴族や重鎮たちと話をしている。

こうしてお偉いさん方を呼び、話をして議論をしてみると、やはり醜いとしか言いようがない。


私個人としては、彼こと雨宮 渉君には是非とも生存してほしい。

実際、決闘での結果はこの国で絶対であり、守らなければいけないルールだからだ。

私も判決を下す前だったしな。

それに、娘のあの決闘での行動に彼のあの無類の強さ.......雨宮君は多分無実であろう。

ユリウスもそれに気付いたのだ。


しかし、どうだろうか。

この貴族たち身勝手な者どもは、いざ厄災のように強いものが現れると、ルールだなんだは全て捨てて自分の身の安全を最優先に考える。


国のことなどどうでも良く、常に自分の安全と利益を第一に考えている。

それは、雨宮君の身の安全を保証した方がいいとほざく奴らも同類だ。


唯一信頼していいのは、やはり私と家族、そして一部の貴族だけだろう。

唯一彼らだけは、あまり会話に参加しようとせずにただただ沈黙を貫いている。

この国も、だいぶ腐ってしまったな。


そう嫌悪感を感じながらも、私が呆けていた間に、貴族たちの中での話はまとまったようで、仮代表者の男が一人立ち上がり、結論を私に報告してきた。


「陛下、我々の結論としては、やはりあの男は生かすべきではないと出ました。やはり彼は危険すぎます。あのユリウスを下す奴など生かしておけば、大損害になり得ませんよ!」


どうやら私の予想通り、彼らは雨宮君の死を望んでいるようだ。

先ほどまで雨宮くんを弁護していた貴族たちも今は静かに頷いている。

国の伝統規則や真の利益より、自分自身の身の安全を選んだ。

まさに、反吐が出る。


しかし、この国の王は私だ。

私がその腐敗を許しはしない。

しかし、私一人の意見では反乱が起きてしまう。

誰かもう数人、影響力のあるものがいれば....。


そう思ったその時だった。

会議室の扉が開き、中へ一人の男が飛び込んできた。

彼は自身に重度の包帯を巻き、痛々しくも、覚悟の決まった顔つきで割って入ってきた。

その男は、騎士団長ユリウス・ディークであった。


「ゆ、ユリウス! お主、今は会議中だぞ!」


代表者として立っていた男が急に、飛び込んできたユリウスを怒鳴りつける。

されどもユリウスは微動だにせず、目を鋭く光らせ、溢れんばかりの威圧で貴族を黙らせる。


「失礼しました。私自身が当事者だったものでしたので、会議に参加する権利はあるかと思っておりましたが。よろしいでしょうか?」


彼は再度より強い威圧を放ち、部屋全体に充満させた。

そのあまりの圧に貴族の代表者(仮)だった男は冷や汗をダラダラと垂らしながら、仕方なく承諾した。

その姿に私は思わず、少し笑ってしまった。

正直、いい気味である。


そうして道を開けた貴族たちの間を通り、ユリウスは私の前へとやってきて自分の意見を述べた。

私は確信している。

この素顔、以前の彼ではない。

どうやら彼も、成長したみたいだな。


「陛下。私は、雨宮 渉を生かすことに賛成します」


どうやらこちらも私の思った通り、想像通りの結果になったな。

これで再び雨宮君の生存に一歩近づいた。


そうして入ってきたユリウスは、他の貴族たちの意見を真正面から崩さんと走り出した。

それを止めることなく、ただ見てる腐った貴族共ではなく、当然奴らは立ち上がった。


「な、何を....何を言うか! 貴様ユリウス! 当事者でありながら、あの、あの恐ろしい力を目の当たりにしながら、貴様...奴を放置すると言うのか!!」


ユリウスの前に障害としてたった貴族は必死で、焦っていて、高貴さなんてかけらもない、今にも暴走しそうな状態で言い返す。

されでも、それに臆するユリウスではなく、彼は真正面に、はっきりと貴族たちに対抗する。


「はい、私はなんと言われようと、彼を生かすべきだと思っております」


それに怒りのビンに蓋を貼っていた奴らも、我慢できなかったのだろう。

顔を真っ赤にしながら、ユリウスへと向かった。


「ユリウス、貴様......!!」


言葉の暴力で殴りかかろうとする貴族たち、それをじっと動かず、ただただ冷静に受け止めようとするユリウス。

流石にこれはまずいと思い、私が立ち上がり静止しようとしたその時、再び会議室の扉が大きく開いた。

怒り浸透の貴族たちは思わず振り返り、入室した相手に怒りの矛先を向ける。


「誰だ!! こんな時に入ってくる、無、礼、者、は.........!?」


しかし、入室した相手を罵った彼は言葉を紡ぐたびに、顔がどんどん青ざめてゆく。


「あらあら、無礼者とはなかなか言いますね。侯爵如きが私に意見するなんて?」


入ってきたのは、私の娘、エルリアだった。

私は再び頬を吊り上げ、静止させようと立った体を椅子に座らせる。


「え、エルリア第2王女殿下.......い、いえいえ! 失礼しました、無礼者なんてとんでもない! どうぞお入りください!」


「あら、聞き間違いだったかしら? ではお邪魔させてもらいますね」


ユリウスに続き、エルリアも登場し、貴族たちの前を通ってゆく。

そして、彼女も出て、彼女の意見を言い放つ。

その姿は、前の弱々しい彼女はなく、まっすぐで、真剣な表情で語る娘がいた。

どうやら成長したのは、ユリウスだけではなかったようだな。


「父上、私もユリウスと同じく、雨宮 渉様の釈放と自由を求めます」


再び貴族たちの間で動揺の色が見え始める。

しかし、今回は我が娘でもあることから、貴族たちはユリウスの時のように動き出さない。

いや、動き出せない。

その姿に私は心の中で満面の笑みを広げ、自分の中で決断を下す。


役者は揃った。

ついに、審判の時だ。





















そうして冷たい牢屋の中で過ごすこと3日。


僕の元に再び兵士の方がきて僕を連れ出し、王宮を通り抜けて向かう。

あいも変わらず長い道のりを進んでいき、謁見の間前の扉へとたどり着く。

扉が開き、僕は再び謁見の間へと戻ってきた。

正直、ここにくるのはあまり気が進まなかったが。


中へと入ると、前回とは違い多くの精良な服を身に纏った、いかにも偉そうな人たちが大勢いた。

その数はざっと数十人おり、一人一人から明確で不快な視線が注がれているのがわかった。

怯えるような、それでいて鋭いような、そんな視線だ。

あの時の、僕が冒険者教会で注がれていたあの視線によく似ている。


苦い思い出が蘇りながら、癖とでも言うべきか、僕はいつしか下を向いて歩いていた。

その振り刺さる数多の視線に耐えながら、両脇に立つ貴族たちの間を通ってゆき、王の御前で跪く。

僕の姿を確認した王様は立ち上がり、宣告する。



これより、最後の審判が始まる。




「では、まず此度の罪人の罪状とその経緯を述べよ。宰相マルクス」


名前を呼んだ王様は座り、宰相のマルクスと思わしき年配の人物が前へと出て、長い紙の上の僕の罪状を述べ始めた。


「ハッ。此度の罪人、雨宮 渉は証拠不十分から、この国の第2王女のエルリア姫殿下を危険に晒し、国を乗っ取る計画を進めていたと思われています。加えて、虚偽の報告の疑いもあり、より多くの罪と危険性が上がっています。」


「うむ」


宰相マルクスは、一つ一つの事象を事細かに説明して、それに連なる罰なども述べていった。

そうして僕の罪状、並びにここまで起こったことを加味して彼は独自の判決を下した。


「決闘の結果や証拠の不十分さから、罪人の雨宮 渉は罪人ではなく、味方として王国に引き入れるべきだと思われます。しかし、これらのことを完全に無視するのであれば、極刑がよろしいかと」


「うむ、ではマルクスよ、下がれ」


「ハッ」


話を終えたマルクスを下がらせ、王様はづかく考え込んでいた様子だった。


正直、僕は驚いていた。

こう言うのもなんだが、僕はこの国の大事な騎士団長と姫殿下に傷を追わせた人物。

加えて、あの僕でも知らない、異例の力。

あんなものを見せられて、僕を危険分子として排除しないのは、僕なら不思議でならない。


この審判。よほど、エリーなどが手をかけてくれたのがよく見える。

事実、周りの空気は今も尚、悪いものだ。

ここにいる多くの人は、今の僕の生存意見に賛成してはいない。


あんな事をした僕を、ここまで気にかけてくれるなんて...。

本当に、ありがとう....。


この澄んだ心意気に少し、目頭が熱くなって行くのを感じたが、僕はグッと堪えて前を見据える。

ここはなんとしても、無罪を勝ち取らなければ。



そう王様が深く考え込んでいる中、一人の老人が集団から立ち上がり、前へと出た。

彼はするりと中央の通路を通り、僕の隣で静止した。

その老人の顔には目に一本の傷が入っており、片目だけ開けた隻眼の状態だった。


彼は僕を見定めるように観察した後、すぐ顔をあげ、王の前で跪いて話し始めた。

その時の王様と、その横にいたエリー、そして傷だらけのユリウスの不快な表情は記憶に深く刻まれた。

あれほどの嫌悪感は今までに類を見ないぐらい、すごいものだった。


「王よ、いいでしょうか?」


「....コルニアか....」


「ええ、私です」


出てきた男は不敵に笑いながら、得意げに話し始める。


「王よ、このものは多くの罪を犯したと見られます。しかし、彼が死ぬことに私は深く反対ですぞ」


「何......?」


老人はなんと僕を弁護してくれた。

エリーの顔から、てっきり僕を殺そうと考えてる人だと思っていたが.....もしかして、意外といい人なのか?



しかし、王様たちの顔をよく見てみると、コルニアなる男を睨みつけながら、冷や汗を垂らして考え込む様子が窺えた。

それを見た男は、不敵に頬を吊り上げ、さらに会話を進める。


「王よ、彼は確かに危険因子ですが、生かしておき我が国に向かい入れる利用するのが良いかと」


「.........」


王様はさらに頭を悩ませたように、眉間に皺を寄せて返答を躊躇する。

とりあえずと、これ以上の思考を増やさないようにか、王はコルニアを下がらせ、立て直す。

去り際の彼の顔は不気味な満面の笑みで、とてもとても嬉しそうに見えた。


その後、王様は少しの間考え続け、ついには決断を下した。

王様の顔は少し納得していない様子だったが、振り切って決断していた。



「では、言い渡す。王家:エルリア・エルファス、騎士団長:ユリウス・ディーク、そして公爵家:コルニア・コルダートの意見を重く採用し、決闘の結果も加味して、罪人:雨宮 渉をエルファス王国に受け入れ、無罪とする!」



僕は多くの間違った印象を払拭し、ついには無罪を勝ち取ったのであった。

僕は拘束を外され、封印されていたスキルを取り戻す。

拘束の締め付けが取れた所で、僕は肩の力を下す。



そうして閉廷した審判で、最後に一つ、ふと思い出した僕の行動によってそれは完全に幕を閉じる。


「では、雨宮君、其方は王宮でひとまず休みを......」


「あの、すいません王様。これを見てもらってもいいですか?」


「ん?」


「【深淵の宝庫】」


僕は封印されていたスキルを解放し、黒く、薄い円形の闇を空中に出現させる。

どよめき合う貴族たちの中で、僕は薄い闇の中へと手を伸ばし、あるものを取り出す。

それは、僕があの草原で数えるのも諦めたぐらい出会って狩った存在、『サイレント・オーク』の頭だった。


「な......!?」


「この中にもっとあります。これで、十分な証拠になりますかね......?」


呆れた顔をする王様と、エリー達は、僕の出した決定的な証拠を前に唖然としていた。

それは騒いでいた、貴族達を押し黙らせるのには、十分な代物であった。

ただ...。


「はあ.......そういうものは、もっと早く出してくれ.......」


「あ、はい........」


少し、遅かったようだ。

こうして僕の無実は完全に証明され、晴れて罪人の身を脱したのであった。

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