第9話 エルファス王国入場?

そうして僕とエリーの草原での旅は始まった。

ずっと一人の間、この平原で彷徨っていた身からすると、このひと時はとても心安らぐ時間だった。

誰かと話しながら、誰かと触れ合うのは、今の僕にはとても貴重な物だった。


そして、この不思議な旅を続ける最中、僕はエリーにこの場所、世界について色々と聞いてみた。

そうして集めた情報から言うと、ここは完全なまでに異世界だと言うことがわかった。


彼女によると、ここはエスト大陸と呼ばれており、ここに住まうすべての種族は総合して、『楽園人エデス』と呼ぶらしい。


そして、今現在僕らがいるこの場所は、エスト大陸西部のエルファス王国領らしい。

周りにはいろんな国が存在しており、皆基本的には協力し合って平和を保っているらしい。

強欲な国もあるだろうに、とも思ったがどうやらこのエスト大陸の隣には、魔大陸なるものがあるらしく、そこから進行してくる『魔族』を食い止めるため、皆協力してるらしい。


まあ、エスト大陸とか、魔大陸とか、魔族とか、そんなファンタジー要素は僕が知る限り地球にはないし、ここは異世界で間違い無いだろう。

しかし、まさかアイビスが異世界に通じていたとは.....妙に信じがたい話だ。

だけどまあ、この通り異世界にいるわけだし、今はしのごの言ってないで、早くここを出ないとな。




そうして僕らが、来る日も来る日もサイレント・オークを討伐して、エリーの指示で進むこと数日....




「なあ、エリー」


「なんですか? 渉様....?」


ゼーゼーと息を吐きながら、疲れに堪える彼女に僕は不安の表情を浮かべる。


「本当にこっちで道はあってるんだよな...?」


「間違いありません!......た、多分.......」


汗をタラタラと流し、焦りながらこちらへの視線をちょくちょくと外す彼女にため息をつきながらも、彼女の指示で先へ進む。

どうやらエリーは特殊なスキルを持っているらしく、それを使うと行ったことのある場所ならばどこからでも道案内をしてくれるらしい。

そんな訳でそれを頼りにここまで進んできた僕らであったが.....どうやら彼女のスキルはたまに誤作動を起こすらしく、今回誤作動で道に迷ったか、正常に動いているのか判断がつかず絶賛半迷子状態になっていた。


(本当に大丈夫かなぁ....この子、変なところでポンコツなんだよなあ....)


不安な状態に頭を悩ませていると、エリーが突然嬉しそうにこちらへ大声で呼びかけてきた。


「渉様! あれを見てくださいよ!」


「ん? どうした.....って......お、おお.....!」


走って彼女が平原の先に指差すものを見てみる。

すると、そこには大きく聳え立つ城と、それを中心に活気にあふれる豊かな街が見てとれた。

まさに、中世の時代のような、異世界を思わせるような街づくり。

あれはまさしく.....


「渉様、着きましたよ! ここが、自由国家:エルファス王国です!」


「ああ....!」


半泣きの涙を拭いながら、目の前にある光景を強く噛み締める。

あれぞまさしく僕がこの草原の中、途方もない間追い求めてた場所、エルファス王国だ。




『プレイヤー、雨宮 渉が目的地:エルファス王国に辿り着きました』

『よってこれにより、新たなクエストとクエスト報酬を授けます』

『新クエスト『王国の悩み』を事前開始いたします』

『深淵より幸運を』

















というわけで僕は今エリーと共にエルファス王国に続く関所を通りすぎ、途中で出会った乗合馬車に参加してエルファス王国へと向かっている。


嬉しさに未だに泣き止まない僕とそんな僕を慰めるエリーと一緒に馬車に乗り始めてからおよそ10分。

僕らはエルファス王国の城門へと辿り着いた。


自分の中で少し、緊張が漂う。

忘れてはいけないが、ここは危険な仮ダンジョンの中である可能性が高いのだ。

もうほとんど疑ってはいないが、もしかしたら城門を開いた瞬間、「これは全部幻でしたー!」ってモンスターが溢れ出して襲いかかってくるかもしれない。


そう考えると冷や汗がドバドバ流れるのを感じるが、そうなると仲良くなったエリーのことも信用していない感じがして少し嫌な気持ちになった。

僕は思いを変えて、彼女と共に入る決心をつける。


「よし...! エリー、行こうか!」


「はい、渉様。行きましょう!」


そうして城門が開き始める。

ついに謎の人里エルファス王国とのご対面に先ほどの不安は消え、若干の高揚感を感じていた。


(さあ、中は一体どうなってるんだ...)


徐々に開いていく門を期待いっぱいに眺めていると、ついにその時は訪れた。

城門は完全に開き、活気溢れる豊かな街が見え..........ない?


「え?」


見えるはずの美しい街の視界を覆ったのは、黒い鎧を見に纏う数10人の騎士の姿であった。

僕がその光景に唖然としていると、先頭にいたいかにもリーダーの風格を出している銀髪で、腰まで髪が伸びている騎士が降りてきて僕たち二人....いや、隣にいたエリーの前で跪いた。


「ご無事で何よりでございます。エルリア第2王女殿下」


「ええ、ありがとう、ユリウス」


いつも少し抜けていたエリーであったが、ユリウスとやらの登場で今は少し王女の雰囲気を醸し出していた。

そんな珍しい状況に少し微笑ましく思っていると、他の隊員たちも前へ出てこちらの方に向かってきた。

他の兵士たちもエリーの前で跪くのかと思っていると、彼らはエリーを完全にスルーして僕の方へと歩いてきた。


(な、なんだ?)


不思議に思っていると、兵士の一人が黒い縄のようなものを出してきてそれで僕の体を拘束し始めた。


「はぇ??」


「ちょ....!」


いきなりの出来事に唖然としている僕をこの隙に! と言わんばかりにせっせと縛り上げ、一緒に持ってきたであろう檻のついた馬車に乗せて、馬を走らせ始めた。


この意味不明な状況をエリーは知っているのかと、去り際に彼女の方を向いてみたら先ほどのユリウスとかいう奴に怒鳴りながらこちらを追いかけようとするエリーの姿と、それを必死に止めようとするユリウスの姿が見てとれた。

状況を飲み込めずにいながらもエリーがこの状況を企てたのではないと気づいた俺は、ひとまず安心した後再度状況を確認して自らが置かれている状況を見直してみた。


(え、これって.....もしかして意外とまずい?)


この先起こるかもしれない嫌な可能性について考えながらも、僕はエリーが助けに来てくれると信じて大人しく.....いや、気が抜けたように静かに馬車に揺られるのであった。

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