第8話 第2王女
「落ち着いた....かな?」
「はい。本当にありがとうございます」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら謝ってくる彼女を宥めながら、先ほどから右足を押さえて苦悶の表情を浮かべる彼女を心配した。
「その右足、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。ただの捻挫ですから.....」
どうやら彼女は先ほどの戦いで右足を痛めてしまったようで、今は少し離れた場所で休息をとっている。
しかし、驚いてしまった。
まさか、本当に『人』がいたなんて。
最初は幻覚や僕を誘き寄せるための罠かもと警戒していたが、それらしき気配は一向になく、警戒心を解いて僕も休みを取ることにしていた。
チラリと、彼女の方を見る。
金髪の腰まである長い髪に、青い瞳、整った顔立ち、まさに絶世の美女と言うにふさわしい見た目をしている彼女。
その姿に少し心を奪われながらも、他に観察するべき場所があると、僕は探る。
ヒラヒラとした戦闘向きではない服装に、心細いにも程がある小さい短剣。
明らかに、こんな危険なところに軽々しく来て良いような装備をしていない。
(一体彼女は何なのだろうか?)
謎大き彼女に聞きたいことが段々と募って行く。
考えれば考えるほどに、彼女への疑問が浮かんでくる。
しかし......
(これは....話しかけてもいいのだろうか?)
彼女は僕との会話(安否確認)を最後に約5分はもう話していない。
僕はそっと横にいる彼女を目で見てみるものの、先ほどからずっと俯き真剣な顔をしながらブツブツと何かを言っており、とても気軽に話しかけることができるような雰囲気ではなかった。
しかし、このままではいけない。
せっかく出会えた唯一の手がかりなのに、こんな形での接触は好ましくない。
それに、僕自身、久しぶりに会った話し相手だしな。
そう思って僕は、勇気を振り絞って彼女に話しかけようと思った。
そういえば、名前も聞いていなかったので、この際ついでに聞いてみることにした。
「え、えーと......」
「いや..........でも、本当に......?」
「あ、あのー......」
「ブツ.......ブツブツ....」
む、無視された。
僕の声が届いていないのか、彼女はずっと一人でブツブツと何かを呟きながら、何かをずっと真剣に一人で考え込んでいる。
完全にそこで僕の心は折れ、自分が元いた位置に心の中で泣きながらへたり込み縮こまる。
(う、うう.....そこまで無視する必要ある.....?)
そんな意気消沈していた状態の僕に、何か必死に考え込んでいた彼女が急に独り言をやめ、こちらへと向き、唐突に話しかけてきた。
「あ、あの.....!」
「うぉ! は、はい!」
急に話しかけてきた彼女に驚きつつも、話しかけてきてくれた彼女に僕は嬉しさを感じずにはいられなかった。
「命の恩人様に、一つだけ無茶を承知でお願い事がございます.....!」
彼女はこちらへと顔を急接近させ、勢いよく喋り出した。
まさに、彼女は必死という文字が顔に浮かび上がるほどの様子で、こちらを見てくる。
はて、そのお願いとは先ほどの考え事と関係はあるのだろうか?
「え、ええと.....別にいいけど、まずは君の名前を聞いてもいい、かな?」
「ハッ.....! これは、失礼しました!」
彼女はそういうと、慌てて近づけてきた体を元の位置に戻し、一定距離へと離れてから着ていたスカートの両橋を持ち上げ、よく見る貴族流のお辞儀をしてきた。
「私の名前は、エルリア・エルファス。エルファス王国第2王女です。親しいものは私を『エリー』と呼ぶのでどうか貴方様もそうお呼びください」
微笑みかけてくる彼女を、僕は多分とても驚いた顔で見ていたことであろう。
「だ、第2、王女......!?」
「はい。第2王女です」
ま、まさか第2王女だったとは。
まあ、礼節を弁えてるし、どことなく品がある感じには見えたが....まさか王女だったとは。
しかも、今向かってるエルファス王国のお姫様だよな?
これは、とんでもなくいい拾い物をしたんじゃ.....
期待に胸を躍らせながらも、今度は自分が自己紹介をする番だと気づき、昔見たどこかの騎士様がやっていた、胸に手を当てるポーズを慌てて真似して自己紹介を始めた。
「僕は、冒険者の
「ええ。ではよろしくお願いしますね、渉様。あと、そんなに固くなくていいですよ。私の命の恩人なんですから」
そう言って微笑みかけてくる彼女の綺麗な顔立ちと、草原の風により靡く金髪の髪に少しドキッとしながらも、本題に置き換えて話を進める。
「そ、それで.....お願いって一体.....?」
「あ、そうでした! 実は、私と一緒にエルファス王国の王城まで来て欲しいのですが......よろしいでしょうか?」
不安そうにこちらを見てくる彼女に僕は再度驚きの表情を浮かべていた。
「お、王城!?」
「はい......やはり、ダメでしょうか...?」
「う、うーん......」
僕の迷いのある返答に、彼女はとても焦っていたように見えた。
そして、突然の要求に困っている僕にこれ以上迷惑をかけまいと彼女が口を開く。
「すいません。やっぱり、今のは.....」
「いや、待ってくれ。そのお願い聞き入れることにするよ」
「!....本当ですか!」
「うん、もちろん」
彼女は僕が要求を飲んだことが酷く嬉しかったらしく、僕にバレないように小さくガッツポーズをしていた。
しかしまさか一緒に来て欲しいと言われるとは思ってなかった、ましてや王城なんて....
精々、近くまで送り届けるぐらいだと思っていたが....まあ、嬉しい誤算というやつだな。
入る時になんかの審査とかを受けなければいけなかったらとか不安に思っていたので、王女様と一緒に入国できるなら大歓迎だ。
「でも、いいの? 僕も一緒に入っちゃって。何かまずいことになったりしない?」
「心配ご無用です。私の命の恩人にそんな手荒な真似はさせませんから!」
不安そうな僕を見つめて、彼女は自分の胸を大きく叩き自信満々に言い放った。
「では、お願いしますね。渉さん」
彼女はそう言ってスッと右手を僕の方へと伸ばした。
僕はそれを見て、彼女の伸ばしてきた手をとり握手を交わした。
「わかった。じゃあよろしく。エリー」
「はい、よろしくお願いします。渉様」
そうして僕のこの未知の場所での不思議な出会いは、彼女、エリーの依頼を受けるのと同時に始まった。
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