第7話 出会い
「【疾風】【剛力】」
「ふう、ざっとこんなものか?」
こんにちは、雨宮 渉です。
僕は今長く広い草原の上で数個の死体の解体作業を行なっています。
死体の正体はこのテラリア大草原で唯一見つけたモンスターのサイレント・オーク(緑)であり、今まさに数10体目のサイレント・オークを倒したところです。
一応普通のオークの討伐部位は耳なのでそれを重点的に集めています。
(流石に、疲れたな....)
実はこの数日間、次から次へと等間隔で無数に湧いて出てくるサイレント・オークをいなくなるまで殺し、いなくなるまで殺し、を何10回と繰り返し続けてきたせいで、ろくな休みが取れず、心身共に少し参っている状態であった。
そんな僕が未だまともな状態を保てているのは.....
「ステータス」
『承諾を確認。ステータスを開示します』
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雨宮 渉
18歳 性別:男
レベル:6438
称号:深淵に認められしもの・逃げ足の王
SP:5602
HP:53245/53245
MP:2112/2112
STR:2425(+225)(ATK+16%)
VIT:1145(DEF+0%)
AGI:967(+200)
INT:553
LUCK:1
スキル
パッシブスキル:中級剣術LV2(NEW)・魔力回路LV3・自然回復LV3・魔力回復LV3・恐怖耐性LV8
アクティブスキル:疾風LV6・剛力LV6・超鑑定LV4・起死回生LV1
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所有武器:深淵の長剣
推奨装備レベル:??
ATK+16% STR+225
概要:深淵の最も深く、黒い部分で生成された長剣。その漆黒に果はなく、どこまでも黒く、深淵の果てに近づける。深淵の黒は全てを見透かし、時には所有者をも見通す。
特性1:所有者に合わせて、成長する。成長限界はなく、どこまでも強くなる。
特性2:倒した敵の能力値の一部をこの武器の糧とする。
(まだ解放していない特性があります)
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(まただいぶ強くなったな。SPは後で振ってもらうか)
このスキルボードに記載された自分のステータス。この成長の記録を見るときだけは、少し気を紛らわせることができた。
どうやら長く戦ってきた成果か、初級剣術は中級剣術に、他の各種スキルやステータスも着実に上がってきた。
そして、極め付けはこの剣だ。
いくら戦おうが、叩こうが、壊れるどころか刃こぼれ一つしない。
普通なら今頃ボロボロになっていてもなんら不思議ではないんだが.......それも、流石兆がつくほどの代物と言ったところだろう。
(本当にいい拾い物をしたな)
その後、ニマニマとスキルボードに記載されている自分のステータスを見て気分を入れ替え、先に進もうとしたその時、システムから通知がやってきた。
「ん? 通知か?」
『先の戦闘でプレイヤー及びアビスの武器:
『よって、プレイヤーへ
『スキル:【
「深淵の宝庫?、よくわかんないけど.....使ってみるか」
「【深淵の宝庫】、うわっ!」
スキルを使った瞬間僕の隣に、丸く黒い穴みたいなのが形成された。
その穴は高さは1cmの長さもないが、横には直径20cmぐらいあった。空中に浮いており、中を覗いてみても暗闇しか見えなかった。
「なんだ、この黒い穴?」
不思議に思い色々試しながらも、臆病な自分ではあまり大胆なことができずこのスキルの正体が暴けそうにないので、いつも通りシステムにスキルの詳細を問いかけることにした。
「スキル情報開示、スキル名:深淵の宝庫」
『承諾を確認。スキルの情報を開示します』
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スキル名:深淵の宝庫
熟練度:LV1
詳細:深淵からの祝福のスキル。現れた漆黒の穴には無生物ならどんなものでも収納することができる。
・収納量10kg
・SPでのレベルアップ使用不可
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「収納スキルか....!」
スキルの正体を知り僕は素直に喜んだ。
正直なところ、非常に助かった。今までずっと収納用の持ち歩いていた鞄は最近ボロボロになり、サイレント・オークの肉を入れていたせいか異臭まで放つようになっていた。
そんな状態での旅は中々に厳しく、常に疲労感が絶えない感覚が襲ってくる日々は正直きつかった。
せっせと、鞄の中に入れていた多くの戦利品と常に持ち歩いていた
進み、進み、さらに進んでいく。
歩みを止めることなくさらに何日もこの草原の中を進む。
朝日が登ると同時に進み、日が沈み夜の月が出てくると同時に草原の上で寝て休息をとる。
出てくる敵は相変わらずサイレント・オークのみ。
もうどれほど経ったかもわからないが、僕はそれでも歩いた。
寝ても覚めても、僕の視界には緑色の大地しか見えず、僕は少しずつ心の余裕を失っていった。
どれほど、歩いただろうか?
来る日も来る日も起きて、歩いて、倒して、寝るという4パターンを繰り返すだけ。
それが何日も何日も永遠に続くようならば、誰しもが簡単に壊れてしまうだろう。
事実、僕も少し、いやだいぶ参っていた。
ふと、諦めるという文字が頭をよぎった。
ここで諦めて、もう終わりにすればどれほど楽であろうか?
僕はその場に倒れ込み、まだ太陽が高く登っている青い空を見上げる。
うん。
もうここで終わりにしよう。
目を少しずつ閉じる。
意識が遠のくのを感じ、自分に確かな危機感が迫るのを感じていく。
もう少しで終わる。
終わりの見えない辛い日々から逃れられる。
もう何もかもがどうでもいい、全てを捨てて、諦めるのも悪くはないだろう。
瞼を閉じ、苦痛から解放されると思ったその時、遠くから微かに何か、何か違うものが聞こえた気がした。
久しく聞く別の音の正体を探ろうと僕の途絶えかけていた意識を覚醒させ、耳を澄ませる。
少しずつ、音の正体へと近づいていきついにはレベルアップにより鍛えられた僕の五感は音の正体を遠くから捉えた。
「誰か、た、助けて......!」
それは誰かが助けを呼ぶ声であった。
ひどく怯えており、今にも消えそうな小さい音。
気づいたら僕は駆け出していた。
声が聞こえた方向へ猛スピードで駆け出していき、今だせる全速力で向かった。
正直理由はわからない。この不可解なダンジョンかもわからないような場所で聞こえた助けを呼ぶ声。
罠かもしれない。
幻聴かもしれない。
でも、でもやっぱり助けを求める人を放っておくのは、今の僕にはできなかった。
わずか数秒で戦場へとたどり着く。
そこにはへたり込んで泣きそうになっている一人の金髪の女性と、鉄棍棒を振り上げ女性に最後の一撃を加えようとしている
「クッ.....【疾風】【剛力】!」
一瞬で戦況を理解した僕はスキルを迷わず使い、さらにスピードを上げて敵へと向かった。
(間に合え....!!)
武器を勢いよく振り下ろそうとするサイレント・オークに一太刀。
僕の漆黒の剣がやつの首を軽々と跳ねた。
首を刎ねられたサイレント・オークはその動きをピタリと止め、地面に大きな振動を与えながら力なく崩れ落ちた。
その光景をありえんとばかりに目を見開きながら見てくる女性へと近づき、僕は剣をしまいスッと手を差し伸べた。
「ええと、大丈夫ですか?」
そう声をかけた瞬間彼女は僕の手を取り、安心したのか大粒の涙を流しながら僕に抱きついてしまった。
(うん......ここは?)
目が覚めると私は見知らぬ場所で暖かい布団の上で寝ていた。
「お! 目が覚めたか!」
意識が覚醒したばかりの私に声を投げかける人物の方へと顔を向ける。
「大丈夫か?、アイリスの嬢ちゃん」
そこにはアークナイツでお世話になってきたベテランの冒険者、町田さんがいた。
「え、ええ。ところで、ここはどこですか町田さん?」
「ここは、病院だよ。なんとかみんなでダンジョンを抜け出して、ここまでアイリスの嬢ちゃんを運んできたんだよ」
私は病院に連れ込まれたと聞き、あたりを見回す。ダンジョンとは似ても似つかない建築物の部屋と包帯がぐるぐる巻きで自分に巻かれている状況に、ここが確かに病院だと分かった私は、再びベッドにダイブし、体を休めることにした。
「アイビスを? よく抜け出せませたね........そういえば、あの助けてくれた少年....雨宮君は?私が意識を失う中で果敢に立ち向かい助けてくれた、町田さんと一緒にいたあの少年です。ぜひお礼を言いたいのですが....」
悲しそうに黙り込む町田さんを見て、私は言葉を紡ぐのをやめて何かを察する。
「............あのにいちゃんは.....死んじまったよ.....」
「な....!?」
急な報告に私は休めようとした体を咄嗟に起き上がらせ、驚愕の表情で町田さんの肩をつかみ近寄る。
私は多分ものすごく焦っていたと思う。
「彼は荷物持ちでしたよね?、なぜ彼だけが死んで.....」
「それは......」
しばらく沈黙が続いた後、言いずらそうに町田さんは再度口を開いた。
「それは、にいちゃんが嬢ちゃんを助けるために、犠牲になったとしか言えねぇよ」
絶句した。私は驚愕の表情を広げ、胸の中で不甲斐なさと申し訳なさ、そして何か胸をキュッと引き締めるような苦しい感覚に襲われた。
私は自分の失態を苦いた。
(私が、もっとしっかりしていれば......!!)
急に目頭が熱くなるのを感じていき、涙がポツポツと目から流れ始め、私は惨めにも泣き出してしまった。
町田さんはそんな状態の私を感じ取って、ゆっくりと静かに病室を出ていった。
私を襲った胸を締め付けるような感覚は強くなっていき、なぜか涙が止まらなかった。
「ふう、あのにいちゃんを殺したことが、嬢ちゃんにバレなくてよかったぜ」
病室特有のスライドドアを閉め、俺はアイリス嬢ちゃんの病室を出て病院の廊下を歩いていた。あたりはすでにかなり暗くなっており、月が綺麗に輝いていた。
「まあ、嬢ちゃんがいたから苦労はしたが、にいちゃんが勝手に嬢ちゃんを助けるために走っていったのは正直助かったぜ。楽に殺せたからな」
そんな独り言をこぼすと、背後から突然声が聞こえてくる。
「おい、あまり調子に乗るな。誰かに聞かれたらどうする?」
すでに聞き慣れた声のする方向へと振り返れば、そこには黒いローブに鬼の仮面を身に着けた一人の男が立っていた。
「あ?、大丈夫だろ。誰もいねえし、聞かれたら殺ればいいだろ?」
「はあ。仕事をちゃんとやってくれるのはいいが、情報が漏れないように警戒してくれよ?」
「ああ、わぁってるよ。だけどよぉ、なんであんな弱い冒険者なんか殺させたんだぁ? あいつ巷では有名な『万年レベル1の0スキル』だろ?」
「お前は気にしなくていい」
「へえへえ、そうですかい」
「では、また次も頼むぞ」
「あいよ」
そう言って黒ローブの男は暗い病院の中去っていき、俺の前から完全に姿を消した。
奴が姿を消すと同時に俺も視線を戻し、病院を静かに去っていった。
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