エルファス王国編

第6話 テラリア大草原

歩き出してから1時間。僕は長剣を片手に持ちながら、未だ生き物の影すら見えない大草原を延々と歩いていた。

慣れない環境で1時間の徒歩は想像以上にきつく、景色もろくに変わらないことから、僕はだんだんと疲労を感じ始めていた。


「流石に疲れたし、少しここら辺で休もうかな。まだ太陽が登ってるけど」


僕の真上から強烈な日光を放ってくるここの擬似太陽を眺めつつ、僕はその場に座り込む。

5分ほど休憩をとり、再び立ち上がり草原の中を進もうとしたその時、僕は広い草原を揺らす巨大な揺れを感じた。


「なんだこの揺れ.....!」


草原の上に立ち尽くす僕に、地震にも似た揺れがだんだんと大きくなる。

揺れを起こしている何かがこちらへと接近してくるのを感じつつ、僕は片手に持っていた漆黒の長剣を構え、周りを見回す。


(何か、来る.....!)


震度がさらに大きくなるのを感じ、より一層警戒を強める。

大きく、大きく、近づいてくる震源はやがてピタリと止んだかのように止まり、揺れを完全に抑えた。

揺れが止まり、僕は再び当たりを見回す。


何もいない。そう思ったその時、僕は背筋がゾッとするような感覚に襲われた。

本能に従い、その場から後ろ足でジャンプして退避すると、僕が先ほどまでいた場所の地面が突然抉れた。


信じられない光景に冷や汗が垂れた。

自分が咄嗟の判断に任せ、ジャンプをして退避していなければ地面もろとも自分が抉れて死んでいた事実にゴクリと息を呑む。


死。その事実にさらに緊張が走る。

手汗で濡れた手で掴んでいる長剣が抜けないように、さらに柄に力を入れ握りしめる。


一発目の強烈な攻撃を後に、静寂が訪れる。


僕を襲う何かとの交戦に危機感を覚えながらも、次の攻撃に備え感覚を研ぎ澄ませる。

目を閉じて、集中する。

数瞬の時を一つ一つ正確に感じるように、五感を研ぎ澄ませる。

剣を構え、再びあの嫌な感覚に襲われる時を待つ。


チクタクと、時間が過ぎていき、時間はすでに1分を過ぎていた。

敵が諦めたかと思い、集中力が途切れかけたその時、再びあの嫌な感覚に襲われた。


(来た....!)


後ろを振り返り、そこに振り下ろされるであろう一撃に僕が持つ漆黒の剣を力一杯振り上げる。

すると、何もない空間へと振り上げた僕の長剣は、確かな何かの攻撃を防いだ。


(お、重い....!)


なんとか見えない敵からの攻撃を、上がったステータスと先ほど手にした初級剣術スキルの補正で受け止める。

必死に止める僕の剣と、何かの武器が鍔迫り合いを起こし火花を散らす中、僕へと攻撃をしかけた何かの正体が露わになっていった。


それは、物語上によく出てくる有名なモンスター、オークであった。

その身長は僕の3倍はあり、でかい鉄の棍棒を持ち未だ僕に重い体重の攻撃を仕掛けている。

その攻防の中で、僕は確かに奴がこちらを見てニヤついているのを確認した。


『システム通知。敵が目の前に現れました。超鑑定ちょうかんていLV1を使用しますか?』


不気味な笑みをこちらへと向けてくるオークの一撃を弾き、急ぎ後退するとシステムから急に通知がやってきた。


「超、鑑定?」


迫り来る相手からの無数の攻撃に耐えながら、システムへと質問を返す。


超鑑定ちょうかんていは、存在する全ての生物、無生物を正確に判別できるスキルです。今回の場合は対象のステータスや名前、特徴を見ることができます』


システムから説明を受け、そろそろ限界だった僕はオークからの次の攻撃を初級剣術スキルの補正で地面へと逸らし、数歩後ろへと下がり時間を稼ぐ。


「そんな便利なもの、使わないわけないよな? 【超鑑定】!」


『超鑑定LV1を使用します』

『敵の情報が開示されました』

『敵の情報を映し出します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

個体名:サイレント・オーク(緑)

種族名:オーク

特徴:テラリア大草原に現れる、静寂を駆ける者たち。

フィールド・ワームを好んで食べ、デッドリー・スカンクをひどく嫌う。

緑色は部族の中では一番弱く、若いオークであることが多い。


討伐対象レベル:5500


所持武器:静寂の鉄棍棒サイレントメイス

推奨装備レベル:3500

ATK+25% STR+250

静寂の鉄サイレントメタルにより作られる、サイレント・オーク特有の武器。

それは無音よりも静かで、時には最も綺麗な音色である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「れ、レベル5500.....!?」


(いきなりDランク級の魔物......!)


超鑑定により映し出された情報は、僕の目を疑った。

モンスター及び冒険者のランク階級は、レベルとステータス、あとスキルなんかで決まり、ステータスが高ければ高いほどランクは上へと上がっていく。


基準としてはこうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Fランク:LV1~1000

Eランク:LV1001~5000

Dランク:LV5001~10000

Cランク:LV10001~50000

Bランク:LV50001~100000

Aランク:LV1000001~300000

Sランク:LV300001ー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この基準としては、僕の力は今Eランク下位相当であり、こいつとの差は歴然であった。

僕の前に迫る格上の敵。

気がついたら僕の足は、敵の前から逃げていた。


僕とのレベル差が4000もあるモンスターとの遭遇。

それだけで僕のその場からの逃走を理由づけることができた。


(早く、逃げないと.....殺される......!)


いくら僕のレベルが1から1000強まで上がったとしても、弱気でモンスターを一匹すら倒したことがない僕には、逃げるという選択肢以外は挙げられなかった。


広く、どこまでも続きそうな平原を走る。

称号の補正により僕の上がったスピードは、レベル1500のものとは思えない程の走りを見せた。

だがそんなことはレベル5000強の敵には微々たるもので、すぐに追いつかれ奴の持つ巨大な鉄の棒からさらに重い一撃が加わる。


轟音と共に僕は走る体制からボールのように吹き飛ばされ、ひどく後方へと吹き飛ばされた。

元いた地点より数十メートル先の地点で起き上がると、鈍い痛みが体中を走った。


「ぐっ......!」


どうやら今のサイレント・オークからの一撃により肋が数カ所折れ、血も少し体から吹き出したようだ。

痛みを抑えようと、折れている部分を支え、敵の方を見る。

再び姿を消そうとするサイレント・オークを捕らえながら、逃げ場はどこにもないと悟り、僕は覚悟を決める。


(ここで、倒すしかない.....!)


深呼吸をし折れている骨の痛みを調整しながら、手に握っていた黒剣を再び構える。

目を閉じ、感覚をすませ、最初の戦闘で2度感じたあの嫌な感覚が来るのを待つ。

再び草原に静寂が訪れ、ガンマン二人の対決のような場面が訪れる。

草原に吹き荒れる風がピタリと止み、集中力が最高潮に達したその時、左横からあの嫌な気配を感じ取った。


気配の感知と共に目をあけ、小さいバックステップで攻撃がくると予想される地点から瞬時に離れる。

すると、予想通り僕のいた場所に轟音と共に激しい風が吹き荒れ、サイレント・オークの姿が再び露わになる。

チャンスと思い、僕は広がる無限の緑の大地に力一杯足を踏み込み、猛烈な勢いでサイレント・オークへと剣を振り上げ向かった。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


声を目一杯あげ、振り上げた剣を奴の首めがけて振りかぶる。勢いの乗った僕の深淵の長剣ダーククレイモアからの一撃は確かに奴の首を捕らえ、攻撃を与えた。

しかし、圧倒的なステータスとレベルの差からか、首めがけて攻撃した一撃はほんの少しの浅い傷を残し、いとも簡単に弾かれた。


「クソッ.....!」


全力の一撃があまり大した効果がないことに心底絶望しながらも、僕は歯を食いしばり恐怖を消しながら、再び僕はサイレント・オークへと向かった。












「はあ、はあ、何回、斬り合ったっけな.....?」


僕とサイレント・オークの攻防は役1時間以上にも渡った。

ヒットアンドアウェイ戦法でほんの少しずつダメージを与える僕に、棍棒を振り回し、一撃必殺を狙うサイレント・オーク。

両者ともにそろそろ疲労の色が見え始め、決着がつきそうな雰囲気が漂う中、サイレント・オークから突然、緑色の光が湧き出した。


「な、なんだ!?」


何かしてくるのかと警戒した僕は深淵の長剣ダーククレイモアを構え、次に来るかもしれない攻撃に備える。

だが、そんな僕を横目にサイレント・オークからは光が漏れ出し続け遂にはその光が消えた。


「?、一体なんだったん.....なっ....!?」


何も起きていない。

そう思った次の瞬間、サイレント・オークの首元を見てみると、少しずつダメージを与えてきた首の傷が全て完治していた。


(回復魔法....!)


光の正体にようやく気づいた僕は、更なる絶望に陥る。

全力を尽くし、少しずつ与えていったダメージが一瞬にして帳消しにされる。それが勝てるかもわからない格上相手なら尚更希望の色が薄く見える。


(逃げるか......)


半ば諦め再び逃走を図ろうとしたその時、僕はやつのその行動を見て、システムがとってくれた『スキル』のことを思い出した。


「!、スキル開示!」


サイレント・オークが動き出す前に、僕は一筋の望みにかけ以前取得したスキル一覧を見返す。


「これだ」


スキルボードに乗る二つのスキルを眺めながら、勝機を見出す。

スキルボードを閉じ、サイレント・オークの回復が完全に終わるのを確認し、一歩前へと動き出す。

回復し切ったサイレント・オークと疲弊し切った僕は広い草原の上で互いに向かい合い、両者共に動き出す。


サイレント・オークが鉄棍棒を振り上げ、攻撃を仕掛ける。それを間一髪で回避した僕は、奴の裏側へ回り込むために、取得したスキルを初めて行使する。


「【疾風しっぷう】」


『疾風LV3を使用します』

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スキル名:疾風しっぷう

熟練度:LV3

詳細:魔力の続く限り、使用者のAGI素早さにバフ補正をかける。

・1秒につき、魔力10消費

・AGI+150 AGI+10%

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スキルを行使し、途轍もないスピードでサイレント・オークの死角へと回り込む。

突然の猛スピードにサイレント・オークが僕を見失っているこの間、僕は力を振り絞り大きく跳躍、サイレント・オークの首元目掛けて、最後の攻撃を仕掛ける。


「【剛力ごうりき】」


『剛力LV3を使用します』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名:剛力ごうりき

熟練度:LV3

詳細:魔力の続く限り、使用者にSTRにバフ補正をかける。

・1秒につき、魔力15消費

・STR+50 STR+10%

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スキルでスピードと威力をふんだんに上げ、サイレント・オークの首元へと一直線に攻撃を振るう。


「うおおおおおおおおおお!!」


グサリ、と飛びかかったサイレント・オークの首に剣を一刺し。

先ほどまで全くと言って良いほど通用しなかった僕の攻撃は、スキルによるバフ補正で敵の体に深々と刺さった。


「グオ、オ、オオオ.......」


情けない断末魔をあげながら、サイレント・オークはゆっくりと、地面へと崩れ去った。

地面と胴体が完全に接触し、死んだという事実に歓喜の声を上げる。


「よっしゃあああああああ!!」


強敵の撃破に喜びと、高揚感に心を浸していると、システムから通知がやってきた。


『サイレント・オークを討伐しました』

『報酬が入ります』


『レベルアップしました!』

『レベルアップしました!』

『レベルアップしました!』

     ・

     ・

     ・








「うーん、だいぶレベルが上がったな。あとはSPをスキルに割り振ってもらって.....」


(うん。こんな感じか)


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雨宮 渉 

18歳 性別:男 

レベル:2756

称号:深淵に認められしもの・逃げ足の王

SP:2

HP:32468/32468 

MP:1436/1436 

STR:1765(+105)(ATK+5%)

VIT:783(DEF+0%)

AGI:752(+200) 

INT:350 

LUCK:1

スキル

パッシブスキル:初級剣術LV7・魔力回路LV2・自然回復LV2・魔力回復LV3・恐怖耐性LV4(NEW)

アクティブスキル:疾風LV5・剛力LV5・超鑑定LV3・起死回生LV1

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

所有武器:深淵の長剣

推奨装備レベル:??

ATK+5% STR+105

概要:深淵の最も深く、黒い部分で生成された長剣。その漆黒に果はなく、どこまでも黒く、深淵の果てに近づける。深淵の黒は全てを見透かし、時には所有者をも見通す。

特性1:所有者に合わせて、成長する。成長限界はなく、どこまでも強くなる。

特性2:倒した敵の能力値の一部をこの武器の糧とする。

(まだ解放していない特性があります)

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(しかし、まただいぶ強くなったな)


サイレント・オークを一匹倒しレベルが上がったことにより全開した体と、自分のステータスの増幅具合を見て、少し力の抜けた安堵の笑みをこぼす。

さらに強くなったことに、興奮を覚えながらもサイレント・オークの死体を解体し、戦闘前に置いていったカバンの中に戦利品を敷き詰め、その場を離れる。


暗くなりかけている空を見て歩みを止め、草原のど真ん中で寝泊まりすることに決める。

先ほど倒したサイレント・オークの肉を鞄から取り出し、焼いて食べる。

意外にも美味しかったサイレント・オークの肉を腹一杯に膨れ上がるまで食べた後、僕は暗い平野の中で眠りにつき疲れをとり、明日に備えた。


翌朝、日が少し昇ったと同時に目覚め、少しストレッチをした後、寝袋がわりにした血生臭い鞄を持って再び長く続く広い草原を歩き出す。

早朝の気持ち良い目覚めと共に少し歩いて行くと、目の前に突然サイレント・オーク(昨日の悪魔)が数匹現れた。

恐怖。そんな感情が僕を支配する......とでも思ったが、僕は昨日の戦闘と獲得した新スキル【恐怖耐性】のおかげでさほど怖い思いをせずに、サイレント・オークたちの前へ立った。

敵が現れれば、人がとる行動なんて簡単なもので、僕はスキルを行使し、眼前に広がる数匹のサイレント・オークへと向かった。


「やるか!」

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