第4話 七大ダンジョン『アイビス』後

「さあ、突入だ!」


ダンジョンへと入る、視界が真っ白になり、目の前の光景が切り替わる。

大きく聳え立っていた赤い門から、薄暗い洞窟の入り口へと瞬時に変わる。


いよいよ、ダンジョン攻略が始まる。


「ではこれより、アイビスの攻略を始める。気合を入れろ!!」


「「「うおおおおおおおおおおっーーーーーー!!」」」


先ほどの会話からは察せないほどの気合と覇気を剣姫から感じながら、先頭の可憐な銀髪の少女の号令で、ダンジョンの攻略が始まる。

皆一斉に動き出し、僕も自分の持っている大量の荷物を抱え、集団と共に動き出す。

位置的には数100人の集団の中心におり、安全の確保がされる場所であった。


「入口から内部が大きいな.....」


「にいちゃんも思ったか?こいつはかなりデカい」


「はい、普通のダンジョンより、10倍ぐらいは大きいんじゃないですか?」


入口付近から、Sランクダンジョンの凄さの片鱗を見て、僕と町田さんは驚く。

周りの風景を見て、ダンジョンのあるまじき姿に、現を抜かす。

先へ進んでいくと、大きな石橋にたどり着いた。

大人数で石橋を渡って行くとその先には巨大な石の門と、両脇に大きな石像が建ってあった。

両脇の石像はどちらも精巧な石の鎧を着ており、地面に向かって石の剣を突き立て、威圧を感じさせていた。

まるで今にも動き出しそうなくらいだ。


「これは.....壮観ですね」


「ああ、こいつはまたデカいな」


僕と町田さんが門や石像を眺めていると、アイリスさんが再び号令を出した。


「ではこれより、アイビス第一階層へと突入する。準備はいいか!!」


「「「おおおおおおおおおおおおーーーーーー!!」」」


「では門を開ける!」


アイリスさんが前へ出て、門へと近づく。

そのまま門の中心付近まで大ジャンプをし、門に触れる。

そのまま彼女は何かの呪文を詠唱し、門からガチャリと音が聞こえ、門が開き始めた。

開くと同時に、彼女は地面へと着地し、門の中へと進み始める。

これより、本当の攻略が始まった。















ダンジョンが始まり僕たちは巨大なダンジョンを道なりに進む。

場所は、アイビス10階層。

凶悪なモンスターが蠢き、僕ら冒険者を絶え間なく襲う。

ここでは比較的大きいモンスターは確認できず小さく、集団行動をする小さいモンスターが多かった。

それゆえ、楽に進むことができた。

出だしは好調だろう。



順調に進み、場所はアイビス20階層。

ここでは、中型のモンスターが中心となり、僕ら冒険者を襲った。

一撃の威力が増し、傷を食らうものも出てきたがその都度、僕含める他の荷物持ち数名と回復職が回復・応急処置に向かい攻略を進めたのでここも然程の苦労もせず、進むことができた。



さらに順調に進み、場所はアイビス30階層。

ここでは、初めて出てきた中型モンスターと小型モンスターが連携し、僕らに襲いかかった。

連携が非常に厄介で、何度も怪我をする者が続出した。

だがそれでも、被害はあまり大きくなく、まだスムーズにダンジョンを進めることができた。



まだ順調に進み、場所はアイビス40階層。

ここでは、ついに大型モンスターが出てきた。

その圧倒的な力と体格差に苦戦を強いられるも、今度はタンク職をうまく使い、なんとか切り抜けた行った。

皆、緊張が解れ出したのか、連携がかなり良くなり怪我をするものもさっきより格段に減った。



さらに進み、場所はアイビス50階層。

ここでは、大型モンスター、中型モンスター、小型モンスターが全員で連携を仕掛け、かなり苦戦を強いられることとなった。

特に、遠距離攻撃を得意とする大型モンスターを中心に、近距離攻撃を仕掛ける中型モンスター、小型モンスターの連携にはうちの集団は何度もピンチに陥り、毎回大量の負傷者を出した。



もがきながら進み、場所はアイビス60階層。

ついに、死傷者が出始めた。

大型モンスター数匹による、連携の攻撃。

それが幾度とわたり続き、何人も死亡するに至った。

皆悲しみながらも、思いを背負って前へ進んでいく。



死傷者を出しながらも進み、場所はアイビス65階層。

先頭を常に貼っていたアイリスさんがついに膝をついてしまった。

疲労の色が濃く見えたが、彼女は顔を青くしながらも「大丈夫」と、休憩の誘いを断り、前へと進むことを決断した。

その間にも死傷者は出続け、数100人のパーティーはいつしか100人弱となっていた。



無謀にも進み場所はアイビス70階層。

遂に、僕ら冒険者は前人未到の階層へとたどり着いた。


「やったぞ!前人未到の70階層だ!!」


「「「しゃああああああああああああああ!!!!!」」」


「ついに、来たわね.....」


皆、喜びに浸る。

前人未到のアイビス70階層。

それを僕らの攻略組でたどり着いた。

皆、それぞれの心境で感情を分かち合う中、アイリスさんが皆の注目を集め、少し先に進むことを提案した。

皆気分が高揚していたのもあり、それに納得し気合を入れ直して先へと進むことにした。





進む。

場所はアイビス70階層後半。

僕らは、進んでいった。

70階層の奥地へと進んでいくにつれて、ダンジョンの幅は段々と狭くなり、ダンジョンに潜むモンスターの数も減っていった。

遂には、モンスターが完全に現れなくなり、ダンジョンの大きさも、横幅に五人ぐらいしか入れないような大きさになっていた。


「すごく、狭くなりましたね」


「ああ、最初の方の大きさはもう見る影もないな」


段々と狭くなるダンジョンのスペースに僕と町田さんが違和感を感じつつも、僕らは着々と移動する。

すると突然、列全体が止まり、アイリスさんの声が聞こえてきた。


「皆、ちょっとこれを見てほしいの!」


そんなアイリスさんの呼びかけに町田さん含めるベテラン冒険者達が近寄ると、少し開けた空間にダンジョンの壁際に一つの門が見てとれた。

その門は、僕らの身長の2倍あるくらいのもので、最初に見た門とは、比べるにはお粗末すぎるぐらいの小さいものだった。

しかし、こんな門にも実は価値がある。


「もしかして、隠し部屋か?」


「ええ、やっぱりそうよね」


町田さんとアイリスさんの会話を耳にし、門の評価を一変する。


隠し部屋。

それは、ダンジョンの中に存在する特別な空間で、中には世にも珍しい豪華な品が入っていることが多々あるらしい。

隠し部屋はダンジョンの等級によって、その中の品の質が違ってくるが、それでも隠し部屋の中の物には最低でも、10億円前後の価値がつく。

それぐらいレアで、滅多に手に入らないものが多いからだ。

ならば、S級ダンジョン、しかも最高峰の七大ダンジョンの隠し部屋のアイテムは、一体どれほどの価値が付くのだろうか?


「アイリス嬢ちゃん、ここのアイテムをもし持って帰れたら....」


「ええ、もしかしたら一兆円ぐらいはいくかもしれないわよ?」


「そいつは.........かなりの旨い話だな....」


「ええ、でもその分、どれほど危険が潜んでいるか、計り知れないわよ...」


ゴクリ、と全員が喉を鳴らす。

一兆円と、それに伴う危険性。

死ぬ可能性だってあるが一兆円という大金が目の前にある。

たった一つのアイテムを入手するだけで、そんな夢のような大金が手に入る。

そんなことを考えれば、皆同じ意見に辿り着くのは必然のことで....


「みんな、突入しようと思うのだけれど......どう思う?」


「そんなの、決まってますよ」


町田さんがそう言ってこちらへと振り向き集団を見る。

どうするんだ、と聞いているような顔を見てみんな一斉に問いに答える。


「「「入るに、決まってる.....!!」」」


皆が皆決断した顔を向けながら先頭を見つめる。

それを見たアイリスさんも決断を下す。


「そうよね.......では、これより、隠し部屋へと突入する。皆、一層に気を引き締めるように!」


『うおおおおおおおお!!』


アイリスさんの号令で、隠し部屋の扉を開き、90何名かの冒険者で隠し部屋へと突入する。

中は広い空間が広がっており、ダンジョン序盤の広い空間を彷彿とさせた。


何もない空間、そんなことを思って周りを見てみると、奥には一つの古臭い木の宝箱が設置してあった。


(あった。宝箱...!)


奥にある一つの宝箱。

それを発見した先頭のアイリスさんは、集団を即座に止めて慎重に行動するように言明する。


「みんな、気を抜かずに......」


そう言うと同時に宝箱に気づいた他数名が、アイリスさんの横を抜け、冒険者数名が一直線に駆け出した。


「ちょ、ちょっと......!!」


「甘いですよ、剣姫さん! 目の前の宝は迅速にとらないと!!」


そんな、お決まりの台詞を叫びながら、宝箱へと近づく数名。

彼らの身に何も起きないわけがなく、その時はやってきた。


「......!!」


突然床が光だす。

流石に警戒したのか、駆け出した冒険者数名が部屋の中央付近で立ち止まる。

全員、謎の光に警戒心を抱いていると、床の光は段々と消えてゆき、ついには消失した。


「何だよ......何もねえじゃねえか.....ビビらせやがって.....!」


それを見て一同安心する。

再び、彼らが宝目指して走り出そうとしたその時、一つの悲鳴が部屋の中に響いた。


「う、うわあああああああああああ!!」


悲鳴を出している人の見ている方向を見てみるとそこには衝撃の光景があった。

駆け出した、冒険者数名のうち何名かの頭がペシャンコに潰れており、首から上の頭がだけない胴が地面へと崩れ落ちた。

皆、その光景に唖然としていると瞬間、天井から一匹のモンスターが飛び降りる。


「グラアアアアァァ!!!!」


光源の中から出てきたと思われるそれは、怒り狂ったように叫び出した。

目の前に現れた化け物は四足歩行の巨大な図体に、背中についた巨大な数枚のヒレ、そして太く、長く鋭い尻尾がついており、そこには先ほどの数名の冒険者の首だけがつられていた。


その悍ましく、恐ろしい怪物の姿から見てとれたのは、絶望と、圧倒的強者の覇気の強さのみ。

奴が繰り出す佇まいからは、先ほどまでいたモンスター達との格の違いを大いに見せつける、支配者の風格。

確実に、今まで当たってきたモンスターの中で群を抜けて、最強。


こんな矮小な僕でも分かるほどの、圧倒的圧がそいつにはあった。


一筋縄ではいかない。

いや。

こんなもの、僕らが相手にしていいレベルのモンスターではない。


恐怖。そんな感情が僕を包んだ。

周りを見てみると、僕以外にも腰を抜かしているものが多く、Bランク以下の冒険者たちは皆、尻もちついていた。

どうしようもない絶望が襲いかかってくる。

こちらに向かい近づいてくるモンスターを目の前に、死を覚悟し、目を強く閉じるその瞬間、綺麗に空中で靡く銀髪の女性が目の前の巨大な敵を吹き飛ばした。


「雨宮君、大丈夫!?」


「え、あ.......はい....」


「そうですか、では.......うっ.....!!」


希望。

そんなものが一瞬でも見えたが、それは目の前の人物が膝をつくと同時に潰えた。

僕の前の銀髪の少女はここまでの戦闘の疲労のせいか、戦場で敵を前に膝をついてしまった。

そんな絶好の機会を、敵が見逃すわけもなく。

アイリスさんは、モンスターからの攻撃をモロに喰らってしまった。


「ぐはぁ...!!」


「あ、アイリスさん!!」


目の前でアイリスさんが吹き飛ばされ、壁へと強く叩きつけられ意識を失う。

Sランク冒険者が倒れたその事実に周りの尻餅ついていた冒険者たちは、悲鳴を上げながら通ってきた門の外へと逃げ出した。

僕も一刻も早くこの場から逃げ出さないと.....


「足が.....動かない?」


な、何でだ?


「クソッ、クソッ......!!僕は、こんな時でもビビって......!!」


足が動かない。

言うことを聞かない。

足を叩いて、叩いて、必死に動かそうと試みる。

しかし、足が最後まで僕の言うことを聞いてくれることはなく、モンスターが目の前までくやってくる。


無表情で涙を流すこんな僕を見てニヤリ、とモンスターが笑った気がした。

奴は尻尾を大きく振り上げ、最後の一撃をかけようと試みる。

その圧倒的強さの根源を前に『死』という事象が僕の心を埋め尽くす。


「僕の人生、ここで終わりなのか....クソッ.....!!」


涙を流しながら、最後に踏ん張ってみる。

それでも足は一ミリたりとも動かない。

ついには怪物からの一撃が降り注ぐ。

僕が半ば諦めたそんな時、頭の中に、一つ、声が聞こえた。


『お兄ちゃん、おはよう!』


妹、奏の声だ。

死を間際にして、走馬灯が一瞬にして頭の中を駆け巡る。

妹との、ただ一人の家族とのかけがいのない思い出が鮮明に思い返される。


『お兄ちゃん、ご飯できてるよ!』


『お兄ちゃん、早く起きてよ!ご飯冷めちゃうよ?』


『ありがとう、お兄ちゃん!』


僕の頭の中に流れる、数々の妹との記憶。

彼女とのありふれた日常の記憶がものすごい勢いで、振り返される。

ついには、直近の記憶まで流れ始め、今朝の出来事まで遡った。





『お兄ちゃん、プレゼント、楽しみにしてるね!』





刹那、目が覚める。

尻餅ついていたその場から、足が考えるより先に動き出し、敵からの攻撃をギリギリで回避した。


「グラァ??」


攻撃が当たらなかったことに気付いたのか、不思議そうな声をあげ周りをみる絶望の塊怪物


「死んで.....たまるか....!!」


「グラアアアアァ!!」


奴は殺し損ねた僕を見下ろし、自分の攻撃を避けた僕に怒りを覚え、さらに攻撃を仕掛ける。

その度に僕は本能よりも先に動き出し、紙一重で奴の攻撃を回避していった。

そのまま、出口に向かおうとする中、先ほど攻撃をくらい、壁にめり込んでいたアイリスさんがまだ意識を失い、部屋の中に残っていることに気づいた。


「はあ、はあ、はあ....アイリス....さん....!!」


僕は走った。

敵の郁恵にも及ぶ攻撃を何とか回避しながら走り、気づいたら、彼女の目の前にまで駆けつけていた。

目の前のアイリスさんを急いで回収し、担ぎながら未だ襲いくる猛攻を避ける。


転びかけ、倒れかけ、ボロボロになりながら全力で走る。

部屋の出口へ向け、ただただ全力で走る。

走って、走って、門の前まで辿り着く。

安堵が広がり、限界だったため傷ついてるアイリスさんをいち早く他の人へ渡し、僕も部屋の外へ出ようと踏み出す。


「.....!?」


しかし、自分のいる場所に、突然爆発が起きた。

爆発の衝撃で出口から吹き飛ばされ何事かと思い、上を見上げる。

そこには、不気味な笑みで、こちらに手を向け、魔術を放ったであろう町田さんと数人の冒険者の姿が見てとれた。


「どう....し、て....??」


「悪いな、にいちゃん。あんたには、死んでもらうよ。」


「は......??」


意味がわからなかった。

僕は怒りと疑問が絶え間なく湧いてきたが、それらを全て押しこらえて、未だ部屋に残る僕へと攻撃を仕掛けようとする奴から逃れるため、再び出口へと走った。


「チッ...大人しくしててくれよ、にいちゃん」


町田さんは、出口へと向かわんとする僕にさらに、魔術を放ってきた。

それに負けじと抵抗するが、Fランク冒険者の僕にそんな無意味な抵抗が通じるわけもなく、僕に魔術が直撃した。

その一発で僕は完全に動けなくなり、体の左下半分の感覚を失った。


「悪いな、そのまま死んでくれ」


完全に動けなくなった僕に、彼はさらにダメ元で魔術を放ってきた。

満遍なく、何十発も部屋中に。

そのせいで、隠し部屋は全壊。

かろうじてまだ生きている僕に迫られた選択は生き埋めになるか、先に目の前のモンスターに食い殺されるかの2択しかなかったその時。


「......え??」


なんと、部屋の底が抜けた。

部屋全体が穴と化して、怪物と僕は一緒に落ちていく。

僕は突然のことに驚きながらも、やはりこの何もできない状況ではろくな打開策はないと諦める。


「僕の人生.....今度こそ終わりかな.......最後に一度だけ、奏の顔、見たかったなぁ......」


落ちる。

抜けたそこは予想以上に深く、永遠と落ち続けるような感覚が続いた。

そうして落ち続けること数分が経ち。


グシャリ


そんな音を自分の体から聞こえた気がした。

長い落下を得て、地面に体を強く打ちつけたと気付く。

全身の感覚がないので気づかなかったが、多分体の原型はほぼほぼないだろう。


常人と変わらない僕がこの状況で生きのびれるわけもなく、僕の瞼は次第に重くなり、意識を失い始める。


『適正者を確認、システムを起動します』


意識の薄れる中で、わずかに声が聞こえたような気もするが、死にかけの僕に確認する術もないので、気にしないことにして、永遠の眠りにつこうとした。


「さようなら、僕......」


そして、僕は完全に意識を失い、その日死んだ。










『レベルがアップしました!』

『レベルがアップしました!』

『レベルがアップしました!』


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雨宮 渉 

18歳 性別:男 

レベル:1

称号:なし

SP:5

HP:0/100

MP:5/5 

STR:5(ATK+0%)

VIT:5(DEF+0%)

AGI:5 

INT:5 

LUCK:1

スキル

なし

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