深淵のアビス〜最弱冒険者の最強成り上がり伝説〜

第3話 七大ダンジョン『アイビス』前

「Sランククエスト......？」

「はい、Sランクダンジョン、名称：アイビスの、最前線攻略組の、荷物持ちとしてのクエストです」

「アイビス........」

七大ダンジョン。

世界で最も危険な場所で、適正ランクであるSランク冒険者ですら滅多に行きたがらないような恐ろしい場所。

そんなところに僕がクエストで同行...いくら荷物持ちだからと言っても、そんなの危険すぎ.......

『お兄ちゃん！誕生日プレゼント、楽しみにしてるよ！！』

「..........」

頭に、今朝のことが過ぎる。楽しそうに手をふって僕を今日見送ってくれた彼女の笑顔が。

あんなに楽しそうな彼女の姿を、僕は裏切れない。

「......すいません、がめついようですが、それって報酬はどれくらい貰えますか？」

僕は受けることにした。どれほど困難なクエストでも、今回だけは、今回だけはやり遂げなければいけない。

まあ、それも報酬次第だが、低く見積もってもSランククエストだ。

奏のプレゼントぐらいは、確実に買えるだろう。

僕はそんな期待を胸に、嬢の提示した金額を見て驚愕した。

「ざっと、これくらいでございます」

「.....！？」

受付嬢が提示した金額は、僕の想像を絶する量の金額であった。

僕がこれからずっと、一生働いても手に入らないような金額。

Fランクの僕には、すぎた量のお金。

「い、十億円！？」

「はい、十億円でございます」

「流石に、やりすぎなんじゃ.....」

宝くじ級のお金があれば、奏のプレゼントも買える。

だが...このクエストの行き先場所は、あの七大ダンジョン：アイビスだ。

ただの荷物持ちなんかに一億円も渡して良いのか？　という疑問もあるが、それだけの金額を渡すってことは、荷物持ちでも相応に危険な任務になるってことだよな....

僕がそんな疑問を感じ、腕を組んで迷っていると、そのことを悟った嬢が僕の疑問に返答してくれた。

「渉様、ただの荷物持ちなんかに、十億円も渡す価値があるのか？......などと、考えてはおりませんか？」

「！....図星、でしたか...」

「確かにこれは、非常に危険なクエストです。いくら荷物持ちだからと言って、前線の後ろにいても、不測の事態で命を失う可能性もあるかもしれません。ましてや、Sランクダンジョンですから。ですので、おすすめさせていただきましたが、私個人的にはこのクエストを受けないことをおすすめしますが.....」

「......いえ。その仕事、受けさせてください」

「え？」

今、真に決断した。

いくら危険だからと言って、やっぱり僕はここで引き下がることはできない。

他にいい条件のクエストもないしな.....

「お願いします、このクエスト受けさせてください」

「....承りました。どうか最新の注意を」

「ここが、七大ダンジョンの一つ、『アイビス』かあ。なんていうか、異様だな....」

僕がついたその場所にあったのは、ただただでかい、赤い門であった。

鳥居に門をつけたような大雑把な感じのものだが、その大きさはそこらへんの高層ビル並みにあった。

周りには、大勢の人がいて、そのほとんどが冒険者服を着ていた。

「攻略組の拠点は.....」

「おーーーい！！、そこの君ちょっと来てくれ！！」

叫び声が聞こえた方向を見ると、そこには３０〜４０代ぐらいのおじさんが鎧に身を纏ってこちらに手を振っているのが見えた。

僕はそれを見て、すぐさま彼の元へと駆けつけた。

「君がもしかして今回の、応募してくれた荷物持ちくん？」

「はい、多分そうだと思います」

「おお！そうか、いやあ助かったよ！俺は、Aランク冒険者の町田　行持（まちだ　ぎょうじ）って言うもんだ」

荷物の入った鞄を力一杯叩きながら笑うこの人、町田さんは自分のことを快く受け入れてくれた。

「よろしくお願いします町田さん。僕は雨宮　渉って言います」

「おうよ！　よろしくな、にいちゃん！」

軽く挨拶を交わし、僕らは拠点に向かうために歩き出した。

「町田さん、これって攻略組ですよね？」

「ああ、そうだ。この鎧の胸部ついてるこの、白い剣のマーク。これが今回の攻略組のエンブレムだ」

町田さんはそう言って鎧に少しかかっている黒色のローブを持ち上げて胸部についている紋章を見せてくれた。

「白い剣のマーク....もしかして、あの大手ギルドの『アークナイツ』ですか！？」

「お、にいちゃん、このエンブレム知ってたのか？」

ドヤ顔でこちらを見てくる町田さんに僕は目を輝かせながら見つめていた。

「それはもう、もちろん！」

知らないわけがない。

冒険者ギルド『アークナイツ』。

世界に少数しかいないSランク冒険者、『剣聖』レインが率いる世界で有数のトップ冒険者ギルド。

世界で唯一、二人のSランク冒険者を持つギルドで、その力と実力は他に類を見ないほどのものらしい。ん？　待てよ、ていうことはもしかして...

「あの....」

「ん？ なんだ？ にいちゃん」

「アークナイツが主導で今回率いるのならば、もしかして....」

「ん？ ああ、もしかして剣聖さんのことかい？」

ニヤニヤと笑いながらこちらを見る彼に、僕は少し恥ずかしい気持ちもあったが素直に答えた。

「えっと、はい....」

「へへっ、まあ、確かにわかる。かっこいいよなあ、あの剣一本で敵を薙ぎ払う姿は！」

「はい、めちゃくちゃかっこいいと思います。」

こんなことをいうのもあれだが僕は一番尊敬している冒険者として、アークナイツの剣聖レインを強く推している。

そう、僕は結構なレインファンである。

「彼のこの前、出ていたCM。見ました？」

「ああ、あれな！あのダンディーでかっこいい姿は流石に３０路の俺でも痺れがきたぜ....」

「ええ、わかります。僕も痺れましたから」

「やっぱ、若いもんもあの姿には痺れるのな。だが、残念だったな、にいちゃん。今回は拝めそうにもないぜ」

「え、なんでですか？」

「今回、レインさんは不在なんだよ」

そのことを聞いた時、僕は結構驚いた。

「今回ってあのSランクダンジョン『アイビス』の攻略ですよね？どうして、レインさんは来ないんですか？」

普通のクエストならばいざ知らず、あの七大ダンジョンの一つにチャレンジするのであれば、剣聖の肩書きを持つ彼が来ないことは、なかなか不思議なことである。

「理由は....俺もよくわからん。どうしても外せない用事があるらしい。だが、そう心配すんな。今回レインさんは同行しないが、彼女が同行する」

「彼女？」

「えーと......ほら、ちょうどあそこにいる....」

「？」

僕は彼の指差す方向へと目を向けると、そこには一人の少女がいた。

ポニーテールの銀髪の髪に、整った顔立ち。

剣を二本腰に拵えており、その佇まいからは、確かな自信が感じられた。

「あの、二本のレイピアを持ったあの人って...」

「にいちゃん知らねえのか？　ギルドアークナイツの２番手、Sランク冒険者の『剣姫』アイリス様だぜ？」

剣姫アイリス。

史上最年少でSランク冒険者へと駆け上がった、若き世代の神童。

その強さはさることながら、戦場での繊細優美な戦い方は、敵味方関係なく引き込むほどのものだという。

まさに、天才だ。

「綺麗な人ですね....」

「にいちゃん.....惚れちまったか？」

「......え？、いえ、いえ、いえ！そんなことはありませんよ！」

「ほほ〜う？」

再びニヤニヤと笑い出す彼に、焦る僕。

そんな騒がしいところに先ほど遠くから見ていた銀髪の女性が、一瞬にして颯爽と僕らの前に現れた。

「こんにちは、町田さん」

「お、アイリスの嬢ちゃん。ちょうど君の話をしていたところだよ」

「あら、そうなの？」

「ほら、こいつが最後の荷物持ち担当してくれるって子よ！」

そう言って彼は僕の背中を叩き、僕を前へと押し出す。若干の痛みを背中に感じながらも、僕は前へ出て、自分の紹介をする

「えっと、初めまして、雨宮　渉って言います。今回は荷物持ちとして来ました」

「ええ、よろしくね。正直、あなたが荷物持ちとして来てくれて助かったわ。誰も来ないからどうしようって思ってたのよ」

「今日は背一杯頑張ります」

「ええ、頑張ってね。期待してるわ」

そう言って彼女は僕の前から一瞬にして消えていった。

彼女の靡くような美しい髪と動作に、僕は立ち尽くしてしまった。

「よかったな、にいちゃん。剣姫と喋れるなんて幸運だぜ？」

「はい....」

「良い人だろ？」

「はい...」

「おーい。大丈夫かにいちゃん？さっきからボーッと....ああ、なるほど。こいつはもうメロメロってか？」

僕がボーッと突っ立っていると、町田さんが後ろから叩いてくれた。

僕はその衝撃で上の空だった意識を戻し、現実へと帰ってきた。

「ハッ...！！」

「大丈夫か、にいちゃん？　見惚れるのはわかるが、今からSランクダンジョンだ。もっと気合い入れろよ？」

「み、見惚れてなんか.....」

「ああ、はいはい、わかった、わかった！　ほら、今からダンジョンだいくぞ！」

「あ！　ちょっと待ってくださいよ町田さん！」

駆け足で彼の歩幅まで駆け寄る。

攻略組の拠点へと辿り着き、自分が持つべき荷物を確認し受け取り、ダンジョンの大門の前までやってくる。

そして、遂にダンジョンの扉が開かれる。

「さあ、遂にSランクダンジョンだにいちゃん、気合い入れろよ！」

「はい......！」

門が開き、ダンジョンへと突入する。遂にSランクダンジョンの始まりである。