第2話 Sランククエスト

七大ダンジョン

それは、この地球に現れてきた数々のダンジョンの中で、最難関レベルであるSランクダンジョンよりさらに攻略難易度が高い最も恐ろしく、最も畏怖されている今もまだ踏破されていないダンジョンの総称である。

七大ダンジョンはその全てが例外なくSランクダンジョン以上であり、世界に9人しかいないSランク冒険者ですら恐る場所だと言われるである。
















「ドドドドッ、どーーーーん!!」


「ぐぇ...!!」


「おはよう、お兄ちゃん!ご飯できてるよ!」


妹が部屋へと猛烈な勢いで突入し、その勢いのまま僕がまだ寝ているベッドの上へとダイブをかまして強引に起こしてきた。


「な、なあ、奏?」


「どうしたの?」


「毎度、毎度、僕が起きないと、上に飛び乗ってくるのはやめてくれないか?」


「だって、そうしないと全然起きないんだもん!」


「それは、そうだが.....」


「いいから早く下きてね!ご飯冷めちゃうから!」


ドン!と僕の部屋の扉を勢いよくしめ、早朝から元気な妹は、ドタドタとリビングへと戻っていった。


「朝から元気すぎるだろ.....」


そんなことを思いながらも、準備を整える。

人様に見せれるような格好になってから妹から受けた腹部への大ダメージを堪えて、下へと向かう。

焼けたパンと、肉のジューシーな匂いを嗅ぎつけながら僕は妹のいるリビングへとたどり着く。


「お兄ちゃん、起きた?」


「ああ、バッチリだよ」


そんな会話を挟みながら僕がテーブルにつくと、僕は咄嗟に思い出して奏に一つの質問を投げかけた。


「そういえば奏、今日誕生日だったよな?」


「うん、そうだよ!でもそれがどうしたの?」


やはり今日は大事な妹、奏の誕生日であった。

重要なことを思い出し、もう一つ質問を投げかける。


「奏は、誕生日プレゼント何か欲しい?」


「え?」


彼女は、僕が咄嗟に投げかけた二つ目の質問に握っていたフォークを落とし、びっくりした表情でこちらを見ながら固まってしまった。


「おい、フォーク落とし......」


「お兄ちゃん、誕生日プレゼントくれるの?」


僕の言葉を遮るように大きい声で僕に再度確認を取ってくる。


「あ、ああ、今回はいい報酬のクエストを見つけたからな.....って....おい、おい、おい!」


なんと、泣き出してしまった。

どうしてだ!?もしかして僕は今とんでもないことを気づかないうちに口走ってしまったのか?


「ごめん! どうしたんだ、お兄ちゃんなんか嫌なことでも言ったか?」


「ぢがぅよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛!!ただ、ただ、嬉じぐでぇぇぇぇええ!!」


「お、おう...」


プレゼントがもらえるのがそんなに嬉しかったのか。

でもまさか、ここまでの大号泣をしてしまうほど嬉しかったとは。


確かに僕達の家庭は、両親が死んでからというもの貧乏なもので贅沢なものを買うお金など一切なかった。

僕も奏も、誕生日プレゼントなんてもらったのはだいぶ前でそれこそ5年以上も前のことだったのを覚えている。

そんなことを思いつつも嬉しそうに泣く彼女を撫でながらご飯を食べ、最後の出かける準備を整えた。


「流石に、ここまで泣かせたんだ。今日はとびきり良い誕生日会にしないとな! だけど、そのためには今日のクエストを完遂しないと......!」


実は、昨日のCランク荷物持ちクエストが終わった後、僕は運良く高難易度だが高報酬クエストを見つけていたのだ。出立ての依頼だったのか、誰も手に取ってはおらずそこを僕がとってしまったわけだ。


「まあ、それでも荷物持ちだけど....」


だがそんなことはいつものこと、今日は妹にとびきりのプレゼントを渡さなければいけない。

決意を胸に僕は珍しく駆け足で冒険者教会へと向かい、周りのことなどお構いなしに、すぐさま窓口へと駆け寄った。


「こんにちは、Fランク冒険者の雨宮 渉です。今日はこのAランクダンジョンのクエストを.....」


「...? ああ、そちらのクエストでしたら、他の冒険者が荷物持ちとしてすでにいかれましたよ?」


「.......はい?」


「いえ、ですから......」


僕は彼女が一瞬何を言っているのかがわからなかった。

頭が真っ白になったが、何かの間違いだと思い、弁明を要求した。


「え、えっと、一体どういうことですか? 僕は昨日このクエストを受けると予約したはずですが?」


困惑の一色に埋め尽くされた僕は、少し高圧的な態度で受付嬢に攻め寄っていたと思う。


「それは本当ですか? すぐに確認いたしますので、少々お待ちを」


だが、場慣れしているのかあるいは僕程度怖くないのか、嬢は至って冷静で、僕の言葉の真偽を確かめに行った。

確認している間祈るような気持ちで何かの間違いであって欲しいと願った。

少しして、確認から戻ってきた嬢が、頭を深く下げてきて、僕は絶望した。


「大変、申し訳ございませんでした。こちらの不手際により、あなた様の受けていたクエストの分を、他の冒険者へと流してしまいました。本当に申し訳ございません」


僕は絶句した。

体が固まり、何も考えられなくなった。

普段ならばこんなに怒ることはないが、なんていったって今日は大事な妹の誕生日だ。

あのクエストの報酬がなければ彼女の誕生日プレゼントはおろか、祝いことだってできはしない。


「クソ......!」


僕はこの時、改めて自分の無力さを思い知った。冒険者でありながら、一年努力しても何も身に付かず、『万年レベル1の0スキル』と呼ばれるようになっていた自分。

自分がもっと強ければ、自信があれば、いろんなことができたら、こんなクエストひとつ受けれないと困るようなことで苦労することは、なかっただろうに.......

僕は心の中で嘆き、帰ろうとしたその時、受付嬢が僕を呼び止めてきた。


「失礼ですが、代わりのものとして、緊急のクエストがございます」


「え?」


が一つ、名称:アイビス、その最前線攻略組の荷物持ちとしてののクエストです。もちろん、最高難易度のSランククエストとなります」


「Sランクの荷物持ちクエスト.......?」


呼び止めた彼女が僕に代わりに提示したのは、世界最難関の超級クエストであった。

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