深淵のアビス〜最弱冒険者の最強成り上がり伝説〜

ヤノザウルス

雨宮 渉の始まり 〜プロローグ〜

第1話 最弱冒険者

『ダンジョン』。

それは10年前、この世界に突如として現れた異常建築物の総称。

中には『モンスター』という超常的力を持った有機生命体が潜んでおり、個々には圧倒的な力があった。

当時、中へと調査に入った警察、自衛隊は壊滅。

後の数少ない生還者に話を聞くも、恐怖で話すらままならない。


困り果てたその時、追い討ちをかけるかのように悲劇は起きた。

なんと『ダンジョン』から、その『モンスター』たちが一斉に溢れ出し、現代社会へと牙を向けた。

人もその侵攻を許すまいと武器を取り、対抗の糸口を探したが、奴らには銃も大砲も効かない様子。

やがて人々は絶望し、諦め、武器を捨てて逃げ出した。

結果、異形の怪物たちが跋扈し、ただただ蹂躙されるだけの免れない死のみが残った。


世界の終わりを誰もが予感したその時、一組の人族が立ち上がった。


彼らは斧や剣などの原始的な武器をとり、その人知を越えた身体能力で『モンスター』たちに立ち向かい、見事勝利を納めた。


彼らは英雄として祀られ、彼らの姿を見た人類は再び立ち上がり、総力を持って『モンスター』へと挑んだ。

結果、人族は『モンスター』に逆転を収め、ダンジョンを収束するまでに至った。


この影響で、政府は『冒険者』と言う新たな職業を設立。

来る『ダンジョン』の災害から身を守るため、この超常的身体能力を持った人々は政府に招集され『冒険者』へと至った。


これが、新世界『ダンジョンと人の共存』の世界の始まりである。


それから数10年、今や冒険者の職業人気はトップクラスを誇り、今なお増加している。

『冒険者』にも階級ができ、Sランク冒険者という最上級冒険者たちを筆頭に、日々世界の安寧を保っている。

皆が憧れ、目指そうとする目標の職業。


これは、そんな憧れに手を伸ばした一人の少年の物語である。




☆☆☆☆




「それじゃあ、かなで。今日も行ってくるよ」


「うん、お兄ちゃん行ってらっしゃい!」


妹に見送られ僕はいつも通り家を出る。

後ろを振り返り、ありふれた我が家とこちらに満面の笑みで手を振ってくれる妹を見ながら、僕はいつもの場所へ空元気で向かう。


「今日も、頑張るとするか......」


僕の名前は雨宮渉あまみやわたる

憧れの職業『冒険者』になって一年のしがない新米冒険者だ。

僕は日々ダンジョンへと潜り、夢と希望が溢れる大冒険をし、仲間と育み、一攫千金の超大穴を狙い毎日楽しく、輝く冒険者生活を満喫ーーできると思っていた。


「はあ......」


重いため息をつき、トボトボと歩き出す。

駅につき、背負っていた重い荷物を床に置き、電車が来るのを気怠く待つ。


待つこと5分。程なくして、電車が来た。

電車はいつも通り人が多く、僕はぎゅうぎゅうになりながらも何とか電車に詰め込み、目的の駅に着いて、他人を押し退けながら電車を降りる。

そこから10分ほど歩いて行った先、目指していた目的地まで辿り着く。


「今日も来たか......あんまり来たくなかったけど......」


僕の目の前にあるバカデカいビルの建造物ーー冒険者協会。

日々、活躍する冒険者たちのサポートと管理を任されている政府公認の機関だ。

当然、冒険者である僕は仕事を受けるために毎日のようにここへ来る。


憂鬱そうにこのでかい建造物を下から見上げ、再び深いため息をつきながら建物の中へと入る。


中に入ってみれば、そこには驚きの光景が目に映った。


僕の身長の何倍もある高い天井、高級感溢れる部屋作り、明らかに高そうな赤いカーペットが敷いてある無駄に長い廊下。

縦に長い部屋の左右には上へと続く階段があり、その見える半階上には、本が大勢並んである図書館のようなものがあった。

廊下の中は大勢の冒険者達で埋め尽くされており、皆強そうな装備や武器を身につけて、団欒していた。


まさに、新米が相談をするにはうってつけの環境であろう。

しかし、これほどいい場所である冒険者協会だが、僕には一つ問題がある。

それはーー。


「!......おい、来たぞ......」


「あいつ、また来たのか?」


「学ばねぇ奴だな......」


陰口や、苛立ち。その全てが聞こえてくる。

散らばっていた大多数の視線がこちらを向き、僕に対する負の思いをそれぞれギリギリ聞こえる範囲のヒソヒソ声で話す。


(やっぱり来たくなかったな......)


惨めな思いをしながらも、僕はまっすぐ長い廊下の先にある窓口の方へと進む。

細々と長い廊下を歩いていると、一人の大男が群衆の中から抜き出て、僕の前に立ち塞がった。

そんな急な来訪に僕は止まらないわけにもいかず、向けたくもない顔を上へと上げ、前に立っている大男と話をする。


「おい、渉。またダンジョンにいくのか?」


「......こんにちは、大園さん。もちろん、今日もダンジョンへ行く予定ですよ」


僕の前に出てきた大男。名を大園大河おおぞのたいがという。

黒髪のショートで、身長は190cmはあるムキムキな人だ。

この東京支部の冒険者教会では名の売れた冒険者であり、テレビなんかでもたまに見かけたりする大物だ。

ランクは上から2番目の『B』ランクで、数多くのダンジョンを攻略してきた猛者だ。

では、そんな有名人が僕なんかに何の用かというとーー。


「ランクは?」


「......Cランクダンジョンの荷物持ちをします......」


僕の返答を聞いた瞬間、大園さんは深いため息をつき、頭を抱えながら僕に向かって説教をしてきた。


「はあ......いいか? 悪いことは言わないからやめておくんだ」


「またそれですか......?」


彼は僕がここを訪れるたびに、僕が挑むダンジョンのランクと役割を聞いてくる。

それを僕が入ってきた日から何度も続け、もうすぐ一年になるというのにいまだに止めてくる。

それはなぜか、理由は明確だ。


「いいか? お前は最低ランクのFランク冒険者で『万年レベル1の0スキル』と馬鹿にされるほど弱い奴だ。そんな奴がいくら荷物持ちでも3つ上の階級のダンジョンに行くのは自殺行為だ。やめておけ」


そう、理由は明確。僕がこの大多数の冒険者の中で一番弱いからだ。

冒険者にはランクがあり、レベルやスキルの強さによって階級が設定される。


冒険者のランクはFからSまでと7段階あり、それぞれのランクやレベルによって受注していいクエストが存在している。

そして、僕は冒険者という超越した能力を授かった身でありながらも、常人とほぼ変わらないーーいや、それ以下の能力しかない勝手の悪い雑魚冒険者であった。


故に僕はモンスターを一匹も倒すことができず、永遠にレベルアップができ無くなり、ついたあだ名が『万年レベル1の0スキル』。

冒険者でありながら、平凡な一般人よりも下の『ゴミ』と同等という意味の名前。

誇りも何もない、ただの悪口でしかないあだ名。


だがそんな僕でもできることはある。

実は例外として、荷物持ちまたは発掘専門などの雑用職業であれば、どのランクにも関わらず同行できるという制度があり、僕はその制度を利用して日々ダンジョンへ入って微量だがお金を稼いでいた。


そして、そんな唯一の資金源を今更奪われるわけにもいかない。

僕一人ならまだしも、僕には家族がいる。

妹を養えるのは、僕しかいない。


「ご忠告ありがとうございます。ですがいつものことですので......」


僕は大園さんの忠告を無視し、彼の横を通り抜け教会のクエスト受注窓口まで向かった。

忠告を無視したことで、僕の周りからの批判の声はより一層高まる。

多くの罵声を聞こえないふりをして窓口までつくと、予約していたクエストに赴くための報告と申請書を渡した。


「こんにちは、Fランク冒険者の雨宮渉です。Cランクダンジョンの荷物持ちとして、クエストを受けにきました」


「確認しました。どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


受付の窓口さんから許諾を得た僕は、いつものようにダンジョンへと向かった。




☆☆☆☆




「ただいまー」


「あ! お兄ちゃん、おかえりー」


今日のダンジョンでの一日を終え、僕は再び今朝出たこの玄関へと舞い戻った。

玄関まで来てくれた妹の頭を疲れた体で撫でながら、皮の貧相な装備を外し、妹が作ってくれた夕飯を一緒に食べる。


「美味しいよ、奏」


「ありがと、お兄ちゃん!」


そんな会話を楽しみながら、僕は夕飯を食べ終えて自室へと戻り、寝る準備を始める。


「さて、明日も頑張るか」


僕は眠りにつき、疲れをとりながら再び憂鬱な毎日を迎えた。

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