深淵のアビス〜最弱冒険者の最強成り上がり伝説〜
ヤノザウルス
雨宮 渉の始まり 〜プロローグ〜
第1話 最弱冒険者
『ダンジョン』。
それは10年前、この世界に突如として現れた、異常建築物の総称。
中には、『モンスター』という超常的力を持った有機生命体が潜んでおり、個々には圧倒的な力があった。
中へと調査に入った警察、自衛隊は壊滅。
後の数少ない生還者に話を聞くも、恐怖で話すらままならない。
困り果てたその時、悲劇は起きた。
なんと、『ダンジョン』から、その『モンスター』たちが一斉に溢れ出し、現代社会へと牙を向けた。
人もその侵攻を許すまいと武器を上げ、対抗の糸口を探したが、奴らには銃も大砲も効かない様子。
やがて人々は絶望し、諦め、武器を捨てて逃げ出した。
結果、異形の怪物たちが跋扈し、ただただ蹂躙されるだけの免れない死のみが残った。
世界の終わりを誰もが予感したその時、一組の人族が立ち上がった。
彼らは、斧や剣などの原始的な武器をとり、その人知越えの身体能力で『モンスター』たちに立ち向かい、見事勝利を納めた。
彼らは英雄として祀られ、彼らの姿を見た人類は再び立ち上がり、総力を持って『モンスター』達に挑んだ。
結果、人族は、『モンスター』に逆転を収め、ダンジョンを収束するまでに至った。
この影響で、政府は『冒険者』と言う職業を設立。
来る『ダンジョン』の災害から身を守るため、この超常的身体能力を持った人々は、政府に招集され、『冒険者』へと至った。
これが、新世界『ダンジョンと人の共存』世界の始まりである。
そしてそれから、数10年、今や冒険者の職業人気は、トップクラスを誇り、今なお増加している。
『冒険者』にも階級ができ、Sランク冒険者という最上級冒険者たちを筆頭に、日々、安寧を保っている。
皆が憧れ、目指そうとする目標の職業。
これは、そんな憧れに手を伸ばした、一人の少年の物語である。
「それじゃあ、奏、今日も行ってくるよ」
「うん、お兄ちゃん行ってらっしゃい!」
妹に見送られ僕はいつも通り家を出る。
後ろを振り返り、ありふれた我が家とこちらに満面の笑みで手を振り見送ってくれる妹を見ながら、僕はいつもの場所へ空元気で向かう。
「今日も、頑張るとするか.....」
僕の名前は
憧れの職業『冒険者』になってから1年しか経っていない、しがない新米冒険者だ。
僕は日々ダンジョンへと入り、夢と希望が溢れる大冒険をし、仲間と育み、一攫千金の超大穴を狙い毎日楽しく、輝く冒険者生活.......を送れると思っていた。
重いため息をつき、トボトボと歩き出す。
駅につき、背負っていた重い荷物を床に置き、電車が来るのを気怠く待つ。
5分ほどして、電車が来た。
電車はいつも通り人が多く、僕はぎゅうぎゅうになりながらも何とか電車に詰め込み、目的の駅に着いて、他の人を押し退けながら電車を降りる。
電車を降り、そこから10分ほど歩いて行った先、目指していた目的地まで辿り着く。
「今日も、来たか....あんまり来たくなかったけど.....」
僕の目の前にあるバカデカいビルの建造物、冒険者教会。
日々活躍する冒険者たちのサポートと管理をする場所だ。
当然冒険者である僕は仕事を受けるために毎日のようにここへ来る。
憂鬱にこのでかい建造物を下から見上げ、再び深いため息をつきながら建物の中へと入る。
中に入ってみればそこには、驚きの光景が目に映った。
まあ、少なくとも、最初は目を光らせながら、この光景に驚いていたのを覚えている。
僕の身長の10倍はありそうな高い天井、高級感溢れる部屋作り、明らかに高そうな赤いカーペットが敷いてある、数10メートルはある長い廊下。
長い部屋の左右には上へと続く階段があり、その見える1.5階には、本が大勢並んである、図書館のようなものがあった。
廊下の中は大勢の冒険者達で埋め尽くされており、皆強そうな装備や、武器を身につけていた。
まさに、新米が相談をするにはうってつけの環境であろう。
これほどのいいところである冒険者協会だが、僕には一つ問題がある。
それは.....。
「!...おい、来たぞ......」
「あいつ、また来たのか?」
「学ばねえ奴だな....」
陰口や、苛立ち、その全てが聞こえてくる。
散らばっていた大多数の視線がこちらを向き、僕に対する負の思いをそれぞれギリギリ聞こえる範囲のヒソヒソ声で話す。
(やっぱり来たくなかったな.....)
惨めな思いをしながらも僕はまっすぐ長い廊下の先にある窓口の方へと進む。
ほそぼそと長い廊下を歩いていると、一人の大男が集団の中から出て、僕の前に立ち塞がった。
僕が止まらないわけにもいかず、向けたくもない顔を上へと向け、前に立っている大男と話をする。
「おい、渉。またダンジョンにいくのか?」
「.....こんにちは、大河さん。もちろん、今日もダンジョンへ行く予定ですよ」
僕の前に出てきた大男、名を
黒髪のショートで、身長は190cmはあるムキムキな人だ。
この東京支部の冒険者教会では少し有名な冒険者であり、テレビなんかでもたまに見かけたりする。
ランクは上から2番目の『A』ランクで数多くのダンジョンを攻略してきた人だ。
では、そんな有名人が僕なんかに何の用かというと.....
「ランクは?」
「.....Cランクダンジョンの....荷物持ちをします」
僕の返答を聞いた瞬間、大園さんは深いため息をつき頭を抱えてから僕に向かって説教をしてきた。
「はあ。.....いいか? 悪いことは言わないからやめておくんだ。」
「またそれですか.....?」
そう、彼は僕がここを訪れるたびに僕が挑むダンジョンのランクと役割を聞いてくる。
それを僕が入ってきた日から何度も続け、もうすぐ一年になるというのにいまだに止めてくる。
それはなぜか、理由は明確だ。
「いいか?、お前は最低ランクのFランク冒険者で、『万年レベル1の0スキル』と馬鹿にされるほど弱い奴だ。いくら荷物持ちでも3つ上のランクのダンジョンに行くのは自殺行為だ。やめておけ」
理由は明確、僕がこの大多数の冒険者の中で一番弱いからだ。
冒険者にはランクがあり、レベルやスキルの強さによって、階級が設定される。
冒険者のランクはFからF→E→D→C→B→A→Sと7段階あり、それぞれのランクやレベルによって受注していいクエストが存在している。
そして僕は冒険者という超越した能力を授かった身でありながらも、常人とほぼ変わらない、いや、それ以下の能力しかない勝手の悪い雑魚冒険者であった。
故に僕はモンスターを一匹も倒すことができず、永遠にレベルアップができ無くなっていた。
そんな僕についたあだ名が、『万年レベル1の0スキル』。
冒険者でありながら、平凡な一般人よりも下の『ゴミ』と同等という意味の名前。
誇りも何もないただの悪口でしかないあだ名。
だがそんな僕でもできることはある。
実は例外として荷物持ちまたは、発掘専門などの雑用職業であれば、どのランクにも関わらず同行できるという制度があり、僕はその制度を利用して日々ダンジョンへ入って微量だけどもお金を稼いでいた。
そしてそんな唯一の資金源を今更奪われるわけにはいかない。
僕一人ならまだしも、僕には家族がいる。
妹を養えるのは、僕しかいない。
「ご忠告、ありがとうございます。ですがいつものことですので.....」
僕は大園さんの忠告を無視し、彼の横を通り抜け教会のクエスト受注窓口まで向かった。
忠告を無視したことで、僕の周りからの批判の声はより一層高まる。
多くの罵声を聞こえないふりをして窓口までつくと、予約していたクエストに行くための報告と申請書を渡した。
「こんにちは、Fランク冒険者の雨宮 渉です。Cランクダンジョンの荷物持ちとして、クエストを受けにきました」
「確かに、確認いたしました。どうぞ、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
受付の窓口さんから許諾を得た僕は、いつものようにダンジョンへと向かった。
「ただいまー」
「あ!、お兄ちゃん、おかえりー」
今日のダンジョンでの一日を終え僕は再び今日の朝出たこの玄関へと舞い戻った。
玄関まで来てくれた妹の頭を疲れた体で撫でながら、ダンジョン装備を外し、妹が前もって作ってくれた夕飯を一緒に食べる。
「美味しいよ、奏」
「ありがと、お兄ちゃん!」
そんな会話を楽しみながら、僕は夕飯を食べ終えて自室へと戻り、寝る準備を始める。
「さて、明日も頑張るか」
僕は眠りにつき、疲れをとりながら再び憂鬱な毎日を迎える。
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