第3話 親なら子に自分の武勇伝くらい話すだろ。

王都は沢山の人で賑わっていた。お店が何軒も並んでいて、至る所から、様々ないい匂いが漂っていた。


「す、すごぉ…………」


流石の私も気圧される。魔物に囲まれた時よりも脈が上がって、顔は熱かった。

人間界って、賑やかなんだな。魔界よりもずっと平和だ。だからきっと、聖女の力なんて、この世界には必要ないんだ。手袋の上からそっと、紋章を撫でた。


私はそれから20分程歩いた。建物が奥までずっと続いていて人間の文明に驚く。どこからこんな大量の資源が湧いてるんだ。人間の文明に感心しながら歩いていると、立派な建物が見えた。絶対騎士団本部だろここ。取り敢えず門番に尋ねるか。


「すみません。奉日本澄玲という者ですが」

「たかもと……?ああ、砦の副団長から連絡があった人ですか。少しお待ちください」


門番の兵士さんは通信機的な何かで情報を共有した後、門を通してくれた。


「あの大きな扉の前で人が出てくるまで待機していろとのことです」

「わかりました」


無駄に土地が広いな。しっかりと整備されている庭園の小川が、ちろちろと音を立てていた。はぁ……何故門から建物まで距離を作るんだ。一刻も早く休みたい。せめて座りたい。もういっそ建物がこっちに来てくれ。

まあ建物が動くわけないので、自分で歩いて大きな扉の前で待機する。お腹空いた……何か食べたい……疲れた……寝たい……三大欲求のうちの2つが私の中で叫ぶ。

てか騎士団本部で何すればいいんだろ。そういえば私人間界のお金もってないから今夜泊まる場所なくね?ふかふかのベッドどころの話じゃなくなってきたんだが。どうしよ。生きていけないかも。お母様、お父様、私すぐ逝く気がする。


そんなことを考えていると、ギイィ……と扉が重そうな音を立てて開いた。


「待たせてすまなかったね。初めまして。私は騎士団長の大国護おおくご 疾風はやてです。君が奉日本澄玲さんだね」

「は、はいっ。お初にお目にかかります。奉日本澄玲と申します」


やば、こんな体格のいい人間初めて見た……。この方が騎士団長……。漆黒の髪に、褐色の肌。体格もあって威圧感があるが、優しい声色と微笑む顔を見て安心する。


「ふふ、舞桜まういおりらしい、よく躾られている子ね。初めまして澄玲さん。私は疾風の妻の大国護 花結はゆるです」


疾風さんの後ろからひょこっと出てきたのは、華奢な女性だった。美人、というより可愛い方かも。失礼かもしれないが、心の中で思う分にはいいだろう。白い肌に、透き通るような桃色の髪の毛が印象的だ。


「お母様とお父様を知っているのですか?」


舞桜と庵というのは、私のお母様とお父様の名前だ。その名前が花結さんの口から出たことに驚く。


「はは、人間界に君のお母さんとお父さんを知らない人はいないよ。なんせ私たちと同じ四大賢者なんだからね。私たちは共に闘った仲間なんだ。」


誇らしげに疾風さんが言う。


「はぁ…………」


四大賢者って何だ。多分偉い人なんだろうな。てか知らなかったんだが。親、少しは事前に話しとけよ。普通話すだろ。親なら。子に。自分の武勇伝くらいさ。人間としての常識を知らない人みたいになってるだろ。


「ここでの長話も疲れるだろう。中でゆっくり話そうじゃないか。」


屋敷に入ると、メイド服と燕尾服を着た人が並んで出迎えてくれた。本で出てきたメイドと執事という者だろうか。人間界にはこんな風習があるのか、と若干人間の多さに引く。家に家族じゃない人がいて、リラックス出来るんだろうか……。そんなことを考えながら、屋敷を見渡す。

屋敷の中は細かいところまで装飾が施され、掃除も徹底してあり、特にシャンデリアはため息が出るほど綺麗だった。

うん。てか屋敷の中も広すぎな。だから疲れてるんだよ私はあぁ〜〜っっ!!これ以上歩かせないでくれ頼むから、、死にそう、、足の全細胞が悲鳴あげてるから。マジで。

私はその後リビングルームと言われるのであろう、広々とした空間に通された。


「どうぞお掛けになって。紅茶を淹れてくるわ。」


お礼を言ってそこにあった1人掛け用のソファに掛ける。え、ふっっっっっかふかなんですけど!!??つ、疲れが一瞬で癒されていく……!普段あまり感情を表に出さない方だが、こればかりは固まった表情筋が緩んだ。ふかふかのソファに感動していると、


「そうだわ、澄玲ちゃん、お腹すいてる?」


と花結さんが尋ねてきた。いつの間にかちゃん呼びになっている……親しみを込めて呼んでいるという解釈でいいだろうか。

正直お腹は空いているがいただくのは気が引ける。


「あ、いえ、おかまいn」


ぐぅううううぅ〜〜〜っ。


何故そこで鳴る。我がお腹よ。タイミングというものがあるだろう。


「空いてるのね。じゃあお茶菓子は多めにお出しするわ」


くす、と笑う花結さんはめちゃくちゃ可愛かった。可愛い花結さんを拝められたしいっか、、。

花結さんとメイドさんが紅茶とお茶菓子を持ってきて、花結さんがソファに掛けたところで話は始まった。


「澄玲ちゃんが人間界に来たってことは、舞桜と庵は亡くなったのね?」


花結さんが確認するように聞いてきて、思わず目を見開く。


「え、なんで知って……」


誰にも言ってない。お母様とお父様も、人間と連絡を取りあっている様子はなかったので疑問を抱く。


「舞桜と庵は、国王陛下に『魔界に住み込み人間界の安全を守る』ように言われて魔界に行ったんだ。その時舞桜と庵から、人間界にはもう帰らないと言われたんだ。俺と花結は引き止めたんだが、死んでしまった時には自分たちの子供を人間界に行かせるからと言われてしまってな。それっきりだ。」


疾風さんは悲しそうに笑った。


「まぁ、舞桜と庵らしいけどね。最後まで気分屋だったなぁ。自分勝手で、何考えてるのか分からなくて、全然喋んなくて。正義感強いし、仲間思いではあったんだけど」


懐かしいなぁ、と花結さんは微笑む。

君のお母さんとお父さんは、生涯をかけて人間界を守ったのだと。

ずっと教えてくれなかった、私たちが魔界にいた理由。なんで教えてくれなかったのかは分からない。でも、母と父は確かに、人間界を守り抜いていた。


「あいつらにはもう会えないってわかってたし、覚悟もできてた。だから、澄玲さんを迎え入れる準備をしていたんだよ」


……ゑ?紋章が出現した時と同じ、間抜けた声が脳内再生される。イマ、ナンテオッシャイマシタ?


「え、あの……ゑ?」


今、迎え入れるって言いました?え、それって、つまり…………


「何、舞桜と庵から聞いてないの?今日からここが澄玲さんのおうちよ」


…………だから……先に教えとけよ。何してんだよあの親。なんで何も言わないんだよ。流石にそれはないだろ。行ったら分かるじゃないんだわ。話さなすぎだろ。


「…………まぢすか?」

「ええ」


…………私、今日からここに住むのか。この豪邸に。いや、行く宛てなかったしありがたいのだが、、。つまり花結さんと疾風さんと一緒に暮らすことになる。そうなると、話さなければならない。を。今まで誰にも話さなかったけれど__


「……一緒に暮らしていく上で、話さなければならないことがあります」


私は覚悟を決めて手袋を外した。真っ直ぐに、花結さんと疾風さんを見つめた。


_______________________


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次回の更新は2024/12/29の9:00です。

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光をゆめみた花 星月ヨゾラ @hoshisaki-kaguya

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