第1話 失敗の花

突然の事だった。

私の左手の甲に紋章が現れたのは。


「⋯⋯ゑ?」


伝説の話が、ふと頭によぎる。でも国が荒れてる訳じゃないし、光の力なんてないし⋯⋯御伽噺だし。関係ないよ、と心の中の私が言う。そうだよね。私なんかに、神様がこんな力を授けてくれるわけが無い。だってずっとそうだった。神様はきっと、私の事なんて見ていない。家族でさえも、私を捨てたのだから__


***


私は奉日本(たかもと)家の長女として元気に産まれた。奉日本__超能力の御三家の1つであり、王家の分家の公爵家。五大超能力である炎、水、風、空、地。そのうち、空の超能力を持つのが、奉日本家である。この世界には超能力と魔法がある。魔法は一般的だが、超能力は希少であり、魔法との主な違いは魔力を使わないことと、魔法陣の展開や杖が不要であること。

魔力は生き物に必ず流れている力だ。対して超能力は生まれもって宿した力のことである。突然変異で稀に超能力が見つかることもあるため、この国__アムラルン王国では生まれてすぐに超能力検査をする。


そして私も当然超能力検査を受けた。誰もが空を予想していた。だが、結果は__


ERROR


だった。無能力者の結果ではNOと出るようにされている。超能力の歴史は長いため、新種が発見されることも多いが、それでもどんな能力か、説明されるように設定されている。だが結果はERRORで、他の機械で調べても結果は同じ。


私は無能力者として診断された。そして澄怜(すみれ)と名付けられ、失敗の花と呼ばれるようになっていった。


***


私は存在しない人間として扱われ、私もできるだけ気配を消すようにしていた。毎日、起きたら自分が消えているように祈っていた。消えたい、消えたい、消えたい__。もう誰も苦しませなくて済むように。


そう思っているのに、心のどこかで、自分が生きたいと叫んでいた。親に必要とされたかった。愛されたかった。自分なりに努力をした。生まれたことを後悔した。途方もない時間を費やして、自分の心を騙し続けた。


涙は枯れて出なくなった。


***


5歳の時、私は家を出た。どちらかと言うと、追い出された。別れを惜しむ言葉もなく、もう二度と戻るな、と言われた。私も戻る気などなかった。いつかの夜にあれだけ流して、もう枯れて出ないだろうと思っていた涙が、溢れて止まらなかった。


「⋯⋯ゑ?」


それは突然の事だった。

涙を拭いた左手の甲に、紋章が現れたのは。

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