episode_0017◇パソコン部員共|北区・明日原柘

「ユキウサギちゃん、一緒に帰ろ!?」

「……」

「……Hey、そこなキミ!」


 無言。

 つまり、


「勝手について来いってことだよな!?」

「……」

「……そこのウェイ系ってかタダの騒がしいバカ、デモ実はネクラなアノ子に想い寄せてる少年!」


 やはり無言。下駄箱から靴を落とし、上履きを放り込む。

 ということは、


「そんなこと言ってないで、早くついて来いってこと?」


「……オイ、キミ人の話を聞かないってヨク言われないか?」


 突然、上級生っぽい女子に腕を掴まれた。

 水色に染めた髪と、耳や口元に幾つも銀色のピアスという、この学校でもなかなか見ない姿だ。


「な、何ですか!? ……あ、ユキウサギちゃんちょっと待ってー!」


 あ、この人体重軽い。

 歩いたらずるずる引っ張られて、遂には手の力が尽きて放した。


「チョッ、待てー! ワタシの話を聞けェー」


 下駄箱にかけようとした手を再び捉まれる。


「キミに話があるんだ」

「ユキウサギちゃん行っちゃった……」

「じゃあ、ワタシの話を聞いてくれるな!? ジュースでもコーヒーでも、そこの自販機で奢ってやるから!」


「しつこい先輩だ……」

「ん? 何か言ったか?」


 しょうがない。


「じゃあ、豪語的紅茶……」

「図々しいな!」


 と言いながらも、財布を取り出し豪語的紅茶レモンティーと、ブラック無糖のB●SSを買う。


「ほら」

「あ、あざす」


「という訳で今日からキミはパソコン部員だ」

「え?」



 腕を引かれ、パソコン室へ階段を上りながら。


「ワタシの知り合いにな、凄腕の占い師がいるんだ。〈高齢術〉が得意で、『口寄せパンダ』なんて呼ばれてる」

「はあ」


「曰く、『今から言う特徴の奴をパソコン部に強制入部させるといいことがあるかも』」

「神秘性ゼロ……!」


「『騒がしい、馬鹿、実は根暗なあの子に淡い恋心、量産型、制服は軽く着崩している、2年後くらいにトラックに轢かれて死ぬ、出席番号は前の方……』と、こんな感じで特徴を列挙してたんだが、たぶんキミだ」

「チラッと不穏なワードが交ざってた……!?」


「さァ、着いた」


 廊下突き当りの教室の戸を開け放ち、


「ようこそ! パソコン部へ!!」


「はぁ……?」



「三中の自由の象徴、それがパソコン部だ!」


 本来先生が座る席に堂々と陣取り、ノートパソコンを起動させつつワイシャツを脱ぐ。


「活動は……個々人勝手にやってる。小説書いてもいいし、授業で出された課題をやってもいい。学校に迷惑かけなきゃ大抵のことはOKだ」

「まともにプログラミングなんてやってるの、部長くらいですもんね」


 近くの部員が、ストリートビューを眺めながら言った。


「改めて自己紹介。パソコン部部長、蒟蒻田くにゃくだ楽々ららだ」

「あ、明日原あすはらつげです」


 豪語的紅茶のキャップを開けて一口。蒟蒻田部長もB●SSコーヒーを開け、一気に飲み干した。

 蒟蒻田楽々……、田楽……、


「じゃあ、田楽だらく先輩って呼びますね! よろしくおねがいします」

「味噌田楽は言われたことあるが、そこから更に捻るとは。流石だな!」


「顧問の先生とかは……?」

「Ah、うちの顧問は顧問コモンであってcommonコモンではないからな。come onカモンと呼べば来るが」



 カラカラ笑う彼女の、首から左の二の腕にかけて。体操服の半袖から覗くのは、


「だらく先輩、刺青ですか? それ……」

「ん? Ah、これか」


 袖をまくって、おれに見せる。

 デザインは鳥籠と鎖。


入れ墨刺青ではなく彫物タトゥーと呼べ」



 先輩から見て机の向かい側、おれの方に手を伸ばし、


「あ、おれの紅茶」

「ワタシの金で買った物だ」


 まだ一口くらいしか飲んでいない豪語的紅茶を奪い取って、喉を潤すと自らの近くに置く。


「コレに限った話でもないが、『自分の体を大切にしろ』とか言う輩、よくいるだろう? だが……、一生消えないとはいえ、やってんだ。なあ、そういう意味では、非自発的なBCG接種痕スタンプ注射の痕の方がよっぽど暴力的だとは思わないか? 医学的理由(笑)があること以外に、何の違いがあ……」


 ストリートビューを眺めていた部員が、だらく先輩の耳にイヤホンを差し込んだ。


「部長、愚痴も程々にしましょうね?」

「ぁ……っ、ぃぃ……!」


 すると、途端にその体から力が抜け、椅子から転げ落ち床に倒れ伏した。

 手足は痙攣、瞳孔は大きく開き、半開きの口から涎を垂らし、顔は紅く染まって幸せそうな表情を浮かべている。



「……大丈夫ですか?」

「ぁ、ぁ……、タダの、催眠音声だ……っ。こういうの、過度に効きやすい体質、でな」


 机に手を掛けて這い上がり、豪語的紅茶を飲み干す。


「あぁ、おれの紅茶……」

「だから、ワタシの金で買った物だ」




 帰り道。


「Ahh、ワタシの愚痴ばっか聞かせて悪かったな」

「そんなことないですよ!」


 家の方向が同じだということで、途中まで一緒に帰ることになった。

 ユキウサギちゃんと帰ろうと思ってたのに。


「ま、ユルい文化部だ。暇な時にでも来い。愚痴でもなんでも聞いてやる。ゴースト幽霊部員になってもターンアンデット除名とかはしない。っていうか、そんなシステムこの学校の部活にない」

「じゃあ、早速愚痴聞いてください。だらく先輩に引き留められなければ、ユキウサギちゃんと帰れたんですけど」

「知らん! 愚痴は聞くだけ……ya、右から左に聞き流すダケだ」

「だらく先輩ぃ~!」




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「※あくまで登場人物の一意見です」

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