episode_0016◇ビックハンド&ビックフット〈後〉|北区-西区・黒文字無患子

 夕方。


 たごさくんがタケノコの根元をデカい包丁で切って整え、ワレが計量し箱に詰める。

 箱は作業小屋の二階で大量に保管されておる大根の段ボール箱で、内には農業新聞が敷かれておる。



 同じくらいの大きさで揃え、10kgを少し超えるくらいの量にする。箱に上手く収まるよう、置き方も試行錯誤。

 パズルみたいで楽しいんじゃよこれが。


 一通り詰めたら段ボールを閉じて、上面と側面に油性ペンで『竹の子10kg○本入』の文字と、『カギガ』『イリヤマダ』を書く。

 荷印、家印、屋号などと呼ばれるやつじゃな。醤油の製造会社のロゴとかであるじゃろ?


 『カギガ』の『カギ』は方言なのかの、一般的には『カネ』と呼ばれるもので、『ガ』は大字おおあざの頭文字、『イリヤマダ』の『入山イリヤマ』は西に聳える夫婦峰を、図案化された『田』はハゲオヤヂの名前の頭文字じゃな。



 余った小さいタケノコは一日ほど無人直売として並べ、売れ残ったらミスったやつや明らかにエグそうな先が蒼いやつとともに、たごさくんちで自家消費。

 とはいえ、たごさくんちも三人家族じゃから、そんな大量には食えぬ。よってワレらにあく抜き済みの水煮タケノコや、たごさくん特製のタケノコ料理がタダで回ってくるのじゃ……。

 一応言っておくが、ミスってるのは殆どハゲオヤヂじゃからな?




 大根の竹の子が入った箱をトラックに積み込み、トラックのドアを乱暴に閉めて(叩きつけるように閉めないと、ちゃんと閉まらない)いざ出荷場へ。


 運転席は勿論ハゲオヤヂ。他に誰が運転するんじゃよ。ワレもたごさくんも、軽トラやトラクターならともかく、トラックの運転は無理じゃぞ。


 真ん中にワレ、助手席がたごさくんなのじゃが……、抑々トラックの真ん中は申し訳程度のスペースしかないし、鎌やら包丁やらヘルメットやら、車内に物が多く狭い。

 故に、たごさくんに寄り掛かるように座ることになるから、ちょっとドキドキするというか、のぉ?


 たごさくんは口を真一文字に結んで、目も瞑って平然として居るがの。




 飲料メーカーNemleの工場とバイパスを横目に、


「バイパス造るってんで田んぼ売って新しい田んぼ買ったら、そこも工場建つから売れって言われて、終いには土地転がし疑われたんだよ」

「親父、それこン前も話してたよな」

「その話何度目じゃ……?」




 起眞タワー聳える市街地を迂回するように通過し、西区に近づくにつれ、前方の空がくすんでいく。

 そして西区総合物流センターのやや手前。JAきま出荷場に着いた。


 ハゲオヤヂが出荷票を書いておる間に、たごさくんとワレはトラックを下りてドアを叩きつけるように閉め……閉めないとカンカンカンカン煩いからの……、出荷場の隅に積まれた木製パレットから、一番上の物を引きずり出す。

 二人で両側に手を掛け、


「「せーのっ!」」


 で、下ろす。

 フォークリフトもあるのじゃが、この方が早いからの。


 そこへ大根の竹の子が入った箱を、崩れぬよう綺麗に積み上げる。

 そして、出荷票を書き終えたハゲオヤヂが、箱と見比べ記載に誤りがないか確認して間に挿んだ。




 出荷は終わりなのじゃが、たごさくんたちは折角町場へ出てきたということで、何やら買い物を頼まれておるらしい。

 そういう訳でいつものように中央区の大型スーパーへ。しかし、ただ買い物を済ませて、それで終わりではない。


 店の裏に回り、廃棄を待つのみであった段ボール箱たちに、再び活躍の場を与えに行くのじゃ。


 大量に積まれた段ボール箱の中から、使えそう汚れ、破れ、切断がない、かつ使いそう適当な大きさの箱を漁る。

 店員に嫌な顔をされることもあるし、迷惑をかけておるのはワレらもわかっておる。

 じゃから、黙認してくれる寛大な店長に感謝し、謙虚な心で荒らさずに漁り、元より綺麗に積み直すのじゃ。




 家に着く頃には、日は完全に沈み真っ暗になっておった。

 周りに家も少ないし、街灯も壊れておるから尚更じゃな。



「いくぞーゥ」


 蛍光灯が灯った階下から、平らに潰された段ボール箱が跳んでくる。

 それをキャッチ。奥の真っ暗闇へ投げる。


 滑車と鉤付きのロープもあるが、この程度の物段ボール箱で使うのは面倒じゃし、かといって数枚ずつ持って梯子を上るのでは、何往復もせねばならぬ。

 段ボール箱を保管する二階に運ぶには、これが一番いい方法じゃ。五十肩などではない、二人必要などの条件はあるがの。



「ほいー」

「っと……あー、ごめん取り損ねたわ」


 取れそうにないパスは、無理に取ろうとはせぬ。


 段ボールを取り損ねても、それが落下するだけ。真下にたごさくんがいたとしても、大した怪我にはならぬであろう。

 しかし、ワレが落ちてしもうたら、大変なことになる。


 「空から女の子がー」なんて、化成肥料2袋分以上の重さと体積があるんじゃからな?





 ……そろそろお母にゃん帰ってくる頃かの。


『今日、夕飯作りたいんじゃが、いいかの?』(ワレ)


 というワレのメッセージに対して、


(お母にゃん)『ヾ(ΦωΦ)/』


 と、いつものように猫の絵文字一つだけで返してきたのじゃが、これは問題ないということでいいんじゃよな?



 夕食分だけの、朝食の時より相当少ない量の玄米を炊きながら、煮干しで出汁を取る。

 茶しで濾して、煮干しはプラスチックの皿へ。Mikeみけにゃんが来たらあげよう。


 湯を少し沸かして車麩を一枚戻し、玉葱と生姜をだし汁で煮る。

 醤油と味醂みりんで味付けして、適当な大きさ……六等分くらいがいいかの……に切って水気もよく絞った車麩も入れる。


 ぐつぐつぐつぐつ……。

 いい香りじゃのぉ……。


 ……ん、この気配は!


「ただいまー」

「おかえりー」


 溶き卵をたっぷり加え、固まったらご飯の上に半分ずつ掛ける。


「あ、親子丼?」

「鶏肉抜きで代わりに車麩じゃがな」

「何か……複雑だね」


 車麩の卵とじと言うべきか? いや、


「どっちも蛋白質じゃからほぼ親子みたいなもんじゃよ。いとこ煮だって、そこまで従兄弟でもないであろう?」


 ワレとお母にゃんだって、顔は似ておるが髪色なぞ全然違うからの。



「ねぇ、むくにゃん。何で親子丼食べたくなったの? 教えてよ」


 ……ぅ。


「何となくじゃよ! 深い意味なないわ!」


 昨日の夜、お母にゃんと絡み合ったことを思い出して、卵と具材が絡み合った卵とじを連想して食べたくなったとか、そういう訳では、断じてないからな!


「そう。てっきり、たごさく君とえっちなことしたいけど、初めてで怖いから一緒に……って、そういうことかと」

「そんなわけないじゃろ!」


 母娘丼だとそういう意味になってしまうのじゃったわ……。考えが足らんかった。


「私は大歓迎よ?」


 もうダメだこのおバカあにゃん……。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「補足・入山は山印の一種の名称であり、熊区の二つの山が入山と呼ばれているわけでは。悪しからず」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る