episode_0013◇日々独歩|市外・黒文字無患子

「ぁぁ、はぁ、はぁ……っ」


 顔が紅潮しておるのが、自分でも分かる。

 汗だくで、息も絶え絶え。


 ワレの手のひらに包まれた硬い棒は、触れば触るほどに滲み出る汁が手汗と混じって、ワレの手のひらをべとべとに汚す。


 もう、何回目であろうかの。足もがくがくで、生まれたての小鹿のよう「ぁぁ、はぁ、はぁ……っ」


 顔が紅潮しておるのが、自分でも分かる。

 汗だくで、息も絶え絶え。


 ワレの手のひらに包まれた硬い棒は、触れば触るほどに滲み出る汁が手汗と混じって、ワレの手のひらをべとべとに汚す。


 もう、何回目であろうかの。足もがくがくで、生まれたての小鹿のように頼りない。


 喉奥はイガイガして呼吸する度に痛み、上手く酸素を取り込めぬ故に、視界は白みかけておる。

 じゃが、それが……


「気、持……ちっ、えぇ……の、じゃ……っ」


 ぁぁ、もうちょっとじゃ。あと少しで、頂に、達するわ……っ。



「っあぁぁああ~っ!」



 着いた……。

 三周目。本日三回目の、山頂じゃ。


「300mちょっとの低山でも、一日に三周となると、かなりきついのぉ……」


 大街駅から北へ、隣の市の駅からバスで30分ほど。

 低山ながらも山頂の展望台からの眺望は素晴らしく、いくつものハイキングコースが存在するこの山は、ワレのお気に入りのスポットの一つじゃ。


 今日はここまで、

 一周目・麓の寺から最もスタンダードな男坂を登って女坂を下り、

 二周目・今はほとんど使われておらぬ沢沿いの藪をかき分け、同じく使われておらぬ壊れた石仏が並ぶ不明瞭な道を下り、

 三周目・そして最も短いが急登のコースを、今登り切った。


 この急登、ほぼ苦行じゃな。ハイカーズハイランナーズハイのハイカー版になれなければ、途中で心折れて引き返しておったかもしれぬ。いや、そんなこともないか。


 蓄積された疲労に脳内麻薬がドバドバ出て、トランス状態で「山賊王に、ワレはなる!」などと笑いながら口走る……。

 あの感覚の為に、ワレは歩いておると言っても過言ではない! まあ、下手したら滑落して死ぬがな。



 リュックを地に降ろし、


「んっ……」


 取り出した2リットルペットボトルから、少々行儀が悪いが水を直飲み。災害備蓄にと買い置いておったやつが、賞味期限を一か月ほど過ぎておったからの。


 顔から首、服に少し手を突っ込んで胸元や腋辺りの汗をタオルで拭う。


「んんー……っ!」


 ベージュのチノパンの上から、ふくらはぎを軽くマッサージ。


 (油を)かずに、トレッキングポール用の笹竹を適当に伐ってそのまま使ったせいで、真っ黒に染まった手のひらで揉んでおるから、チノパンにも汚れが移ってしまうが……まあ、もとより薄汚れたチノパンじゃ。特に今日は、沢沿いの藪の時に相当汚れておるから、さして気にならぬ。

 じゃが、手が汚れておるということは、笹竹から油が抜けたということ。見れば、握っておったところだけ、美しい薄黄緑色になっておった。


「あと、一つじゃな」


 割と長い尾根道のコースを下れば、コンプリート。


 『佐藤不使用 棗椰子bA!デーツバー』という怪しげなパッケージを破いて、行動食を齧り、


「よし、行くか!」


 靴紐、解けておらぬ。リュックサックのファスナー、閉まっておる。着衣、大きい乱れはなし。忘れ物及び落とし物、なし。

 装備を確認し、笹竹の杖を握り直して歩き出した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ん? 何じゃ? 落胆した顔でワレを見て、どうかしたのかの?」に頼りない。


 喉奥はイガイガして呼吸する度に痛み、上手く酸素を取り込めぬ故に、視界は白みかけておる。

 じゃが、それが……


「気、持……ちっ、えぇ……の、じゃ……っ」


 ぁぁ、もうちょっとじゃ。あと少しで、頂に、達するわ……っ。



「っあぁぁああ~っ!」



 着いた……。

 三周目。本日三回目の、山頂じゃ。


「300mちょっとの低山でも、一日に三周となると、かなりきついのぉ……」


 大街駅から北へ、隣の市の駅からバスで30分ほど。

 低山ながらも山頂の展望台からの眺望は素晴らしく、いくつものハイキングコースが存在するこの山は、ワレのお気に入りのスポットの一つじゃ。


 今日はここまで、

 一周目・麓の寺から最もスタンダードな男坂を登って女坂を下り、

 二周目・今はほとんど使われておらぬ沢沿いの藪をかき分け、同じく使われておらぬ壊れた石仏が並ぶ不明瞭な道を下り、

 三周目・そして最も短いが急登のコースを、今登り切った。


 この急登、ほぼ苦行じゃな。ハイカーズハイランナーズハイのハイカー版になれなければ、途中で心折れて引き返しておったかもしれぬ。いや、そんなこともないか。


 蓄積された疲労に脳内麻薬がドバドバ出て、トランス状態で「山賊王に、ワレはなる!」などと笑いながら口走る……。

 あの感覚の為に、ワレは歩いておると言っても過言ではない! まあ、下手したら滑落して死ぬがな。



 リュックを地に降ろし、


「んっ……」


 取り出した2リットルペットボトルから、少々行儀が悪いが水を直飲み。災害備蓄にと買い置いておったやつが、賞味期限を一か月ほど過ぎておったからの。


 顔から首、服に少し手を突っ込んで胸元や腋辺りの汗をタオルで拭う。


「んんー……っ!」


 ベージュのチノパンの上から、ふくらはぎを軽くマッサージ。


 (油を)かずに、トレッキングポール用の笹竹を適当に伐ってそのまま使ったせいで、真っ黒に染まった手のひらで揉んでおるから、チノパンにも汚れが移ってしまうが……まあ、もとより薄汚れたチノパンじゃ。特に今日は、沢沿いの藪の時に相当汚れておるから、さして気にならぬ。

 じゃが、手が汚れておるということは、笹竹から油が抜けたということ。見れば、握っておったところだけ、美しい薄黄緑色になっておった。


「あと、一つじゃな」


 割と長い尾根道のコースを下れば、コンプリート。


 『佐藤不使用 棗椰子bA!デーツバー』という怪しげなパッケージを破いて、行動食を齧り、


「よし、行くか!」


 靴紐、解けておらぬ。リュックサックのファスナー、閉まっておる。着衣、大きい乱れはなし。忘れ物及び落とし物、なし。

 装備を確認し、笹竹の杖を握り直して歩き出した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ん? 何じゃ? 落胆した顔でワレを見て、どうかしたのかの?」

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