episode_0010◇再生リスト〈1〉【暗殺覚悟】胡散臭いおっさんのダンジョン攻略in富士山麓|北区・秋葉桂

「あのバカ……またやりやがった」


 数年前、色々やらかして国外逃亡して以来疎遠になっていた元カレから、久しぶりにメールが来たと思えばコレだ。


 『【暗殺覚悟】胡散臭いおっさんのダンジョン攻略in富士樹海ダンジョン』と題された動画。


『はいどうも皆さん今晩こんばんは。……今日こんにちは?』


 そこに映るのは、夜の草原と富士山を背後に、ニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべた、元カレの緑色の迷彩服の男葦ヶ原栴檀


『「ぺ天使ペテン師」ーっ、です!』


 右手がカメラで塞がっているからか、で軽く敬礼のような動き。



『Web小説とかで、ダンジョン配信モノ、ってあるじゃないですか。今回は、あれを再現していきたいとー思いーっます!』


 ……動画のタイトルは何ら誇張でもなく、本当に暗殺されかねない。桑織神社の木菟入道桑祓瓢は静観するだろうけど、演習場に不法侵入して首相すら知らない機密をばら撒くなんてことやったら、そりゃ……ね。

 尤も、鳩山●紀夫とかは知っていた、って噂はあるけど。



『それでは早速、行ってみましょう、かっ!』


 そう言うと、大袈裟にジャンプ。



 視点カメラが切り替わり、映像が栴檀せんだんの目線になる。


 周りの景色は、先ほどとは一変。

 視界は濃い霧で狭く、夜だというのに仄かに明るい。

 その湿度故か、木々は苔むしている。


 服も着替えたようで、数年前と同じ草臥れたスウェットの裾と、皮手袋に包まれた右手が映っている。



『信じるか信じないかはーっ、あなた次第っ、です! ……なんてね。CGだと思ってもらっても結構々々結構。あ、第一モンスター発見っ』


 霧の向こう、うっすらと馬のような影が、猛スピードで接近してくる。


ペガサス天翔馬……っですね。こっちも現ファン現代ファンタジー風に攻撃してみまっしょう。――焔よ、我が手に……』


 腕まくりして握りしめた右手、皮手袋の拳が、


『炎拳ッ!!』


 炎を纏う。


 流石は高レベルの奇術特化型。滅茶苦茶熱いだろうに。

 たぶん、あの皮手袋にあらかじめ油を染み込ませておいて、仕込んだ火打石で引火させてるんだろう。昔もやってた。



『っと……』


 和風ペガサスの突進を見切って避け、


『はぁっ!』


 すれ違いざまに横腹へ燃え盛る右拳を叩きつける!


 ここまではカッコいいんだけど、


『……あっちぃあっちぃ!!』


 本格的に火傷する前にと、大慌てで皮手袋を脱ぎ捨て、靴でガシガシと踏みつけて消火した。

 ……自分の火魔法で火傷するダンジョン配信者って、どうなんだろう。


『これ以上火傷したくないので、普通に戦います』


 右手は軽いやけどで暫く使い物にならないが、栴檀は両利き。左手で拳銃を構え、直後、銃声とともに和風ペガサスの頭に血の花が咲く。


 ……へー、何気に紫苑の同僚と同レベルじゃない? っていうか拳銃持ってたんだ……。

 これは……、捩花兄貴から鉄拳制裁案件だ。『拳銃は明るい社会に不必要なものだ』って言って、一切拳銃を使わないどころか、一昔前なんて、警察官から拳銃を奪って機関銃で破壊とかしてた連中だからね、蓼川組は。



『あ、水薬ポーションがドロップしてます!』


 それは流石にヤラセ……とも言い切れない。

 Aランクダンジョンだし、場所と伝承を考えると薬系のアイテムがドロップしても不思議ではない。

 第一、私は行ったことないから確かなことは何も言えない。



 その古びた小瓶のコルクを左手でポンッ、と外し、右手小指を突っ込んで舐める。


『うーん……無色透明無味無臭。少し傷みかけてる気がしますけど、こちらのフルポーション、早速使ってーっ、みます』


 クイッ、と一気に口に含むと、未だ赤みのある右手に、西部劇のように霧状にして吹きかけた。


『おー! 心なしかヒリヒリが引きました!! 偽薬プラセボ効果!』


 偽薬なのか。とはいえ奇術特化型だから、偽薬でも自己回復力が大幅に上昇するはず。


『これで右手も使えるぜ!』


 と、両手に拳銃を握り、2丁拳銃にはしゃぐ。



『作業ゲーになってきたんで、ダンジョンについて解説でも……あ、左の弾切れた』


 右に握っていた銃を上空に放り投げ、その隙にポケットから新しい弾倉を取り出して、素早く交換。

 奇術特化型らしい格好つけた行動だけど、映像の端に若干映ってる程度でわかりにくい……。


『そもそもの発生要因、それは伝承や伝説なんでっすねぇ。空想が具現化し、それを見たものによって伝承が補強され、ダンジョンはより強力になっていくん、です。だから、お偉いさん方は頭抱えてるんじゃないでしょうっかねぇ! ははははは! ……あ、マガジンがもう無ぇ』


 『仕方ない』と呟いて、拳銃を手に、和風ペガサスへ殴りかかった。


『さて、今、ぺ天使がいるここは、国内でも有数の攻略難度を誇るAランクダンジョン、「富士樹海魔境」! 特徴として、さっきっからペガサス天翔馬以外見てないと思うんでっすけど、そう、基本こいつ等しか出てこないんっです! 奥に行くにつれ強化されるん、っですが、視界を遮る濃霧やどこ見ても同じ風景なことも相まって、引き際を見極めるのが難しい……って、ああ!!!』


 突如現れた、巨大な影。


『ランダム出現ボスのTITAN法師巨神様ぁ……! めっちゃ強いんですアイツああああああああああ……!』


 たぶん、『森』の結構深いところの魔物……ゴーレムと同レベル。

 本来接近戦闘に向かない奇術特化型が、弾切れの拳銃で勝てる相手ではない。

 なので一心不乱に逃走。


『ぺ天使にはこれくらいが限界ーっ、です。逮捕されたり暗殺されたり……その前にTITAN法師巨神様にやられてなければ、またお会いしましょう。Bye-bye!』


 と締めくくった。


 ……TITAN法師タイタンボウシ? そういえば、ペガサスといい、タイタンといい、なぜ英語読みとはいえギリシャ神話っぽい呼び方を? 伝承が上書きされてモンスターが天馬ぺガススティターン神族に……まさか!?



 コメ欄はかなり荒れてる。黒木赤木が好きそうな感じに。



 あ、もうすぐ昼休み終わりか。


 次の授業はその黒木赤木のクラス1-1

 既に何人かは来ている。


 ……ってシノもこのクラスじゃん!!

 っていうかもう来てる! 私からは遠い席だけど……。

 ぅぅ……、かわいい。

 ふ、ふぃぃ、ふぃぃ……。



 あ、冷静冷静。こんなだらしない顔で授業するわけにはいかない。

 頬を叩いて〈冷静クールダウン〉の呪術をかける。



 よし。




 キーンコーンカーンコーン……と、チャイムの音と、


「キヲツケッ! 礼ッッ!」


 若竹の号令の声が教室に響いた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「個人、または少人数の叛逆者とか抵抗者が好きです。体制側の組織的な暴力装置っていうのも、その心理だったりは興味深いけど、書くのは苦手」


https://kakuyomu.jp/users/Kuwa-dokudami/news/16818093083589569360

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る