episode_0008◇昼時の他愛もない会話〈A〉|北区・黒文字無患子
「無患子……弁当それだけなのか?」
「そうじゃが……?」
昼食の時間。
六つの机をくっつけて作った班の丁度対角線上から、
「どうかなさったんですか、桐生さん」
「いや……小学校の頃はな? こいつ
「基本全品二、三周以上じゃな」
それが500mlのスープジャー一つ。確かに驚くかもしれぬな。
そう思いながら蓋を開ける。
「給食をいくらおかわりしても、給食費を余計に徴収はされぬ。それなら、余っておる分は食えるだけ食ったほうが、お得であろう?」
「特に米飯は、尋常でない量余っていましたよね。勿体ない」
雪花菜の言葉に、
八十八倉というと……大街駅前の仲見世通りにある米屋の屋号が『
「じゃから、給食がある平日は朝食を少なめにしておったんじゃよ。で、今は逆に朝食を多く食べておるから、何ら問題はないわ」
木製の長いスプーンを突っ込み、軽くかき混ぜる。
温かいからかの、香りがふわっと広がるな。
「あ、美味しそうな香りですね。雑炊ですか?」
「そうじゃよ。朝食の残りを適当に混ぜただけじゃが」
ん。美味し。
お母にゃんの作るスープがあんなに美味しいのじゃから、そこに残った玄米をぶち込んだだけの雑炊が不味いはずがない。
「……」
「……」
「……」
気まずい沈黙に耐えかねたのか、
「……無患子、昨日の晩御飯何だった?」
桐生がこの班で唯一、同じ小学校だったワレに話を振る。
「唐突じゃな……」
まあ、学校の昼食時の話題など、そんなものじゃが。
「ワレにその話題を振るとは、お主……認知症検査のつもりかの? 似非老人言葉じゃからって、頭はボケてはおらぬわ」
「いや、そういう訳じゃ……」
「そもそも、食べておらぬ」
「え?」
「うどんだからご飯ではない、ということではなく?」
「ご飯論法……政治家がよく使うやつか」
「そういうことではないわ。米も麺もパンも食ってはおらぬ。精々紅茶を飲んだ程度じゃよ」
「食べたこと自体を忘れる……本当に認知症……?」
「じゃから、一日に朝昼の二食。我が家の夕飯は「毎日欠かさず食べる」ものではないんじゃよ」
「……夕食後はそんなに活動しないから、不要といえば不要、か? 昔……坐禅が生きてた頃とかは朝夕の二食だったし、朝食を抜くより健康的ともいえる……」
「そうじゃろそうじゃろ?」
桑祓が殆ど言ってくれたわ。
「まあ、時折は食べるがの。何か特別な日であったりとか、無性に食べたいものがあったときなどに」
「……ああ、それなら献立で悩む必要もないし、ただの夕食がより大切で特別なものになる。むしろ生活の質が上がる、のか」
桑祓がワレの心を読んでおるんじゃないかというくらいに、全部的確に言ってくれたわ。
「そうじゃな、直近の夕飯じゃと……、三日ほど前に『鶏肉抜きの唐揚げ』……」
「鶏肉抜きって何が入ってるんだ……!?」
「車麩じゃよ。鶏肉≒車麩。あとは……、数週間ほど前は『豆腐の水餃子』を食べたな」
「ああ、豆腐餃子ですか! いいですね」
「我が家のは、木綿豆腐の水気をよく切って、粉末煮干しを加えるのがポイントじゃな。……ところで雪花菜、飽きぬのか
豆腐屋の子じゃからといっても、おかしいじゃろその大豆製品だらけの弁当は。
おかずは
絹豆腐は黒蜜をかけてデザートかの? 更にパックの豆乳まで持ってきておる。
「何を仰っているのですか。大豆はその調理のバリエーション、栄養面ともに完璧です。飽きることなどありえません」
……そういえば、たごさくんもタケノコで似たようなこと言っておったな。身近にいたわ、同類が。
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「別に菜食主義者という訳ではないからな? まあ、高いし日持ちせぬし、何より動物性油脂苦手じゃから、肉などめったに食卓には上がらぬが。おバカあにゃんなぞ雑食性というかアレは悪食じゃな」
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