episode_0007◇黒木赤木の人間観察〈下〉|北区・黒木赤木
良くも悪くも、冗長で適当でグダグダ。
この学校の第一印象は、そんな感じ。
「学年委員やりたい人、誰かい……」
2mくらいの巨躯にも拘わらず、しろくまみたいな顔とフォルムで威圧感が全くない1年1組担任・京菜一先生が、大量のダブルクリップを留めたポーチから取り出したスクールダイアリーに視線を落としながら声をかける。
「誰かいるかー?」と言い終わらないうちに、
「はーい!!
天真爛漫という言葉がよく似合う、ツインテールの女子生徒が手を挙げて叫ぶ。
確か、
荒れたコメ欄眺めるのも楽しいけど、やっぱり生の人間模様こそ観察し甲斐がある。だからここは、最高の席……!
「各クラス二人ずつだから、もう一人必よ……」
「あたしやります!」
……食い気味だね、
「じゃあ、このクラスの学年委員は
その訊き方で手上げる奴って、殆どいないと思うけど。っていうか、赤穂浪士に仇を討たれそうな名前だ……。
「それじゃあ、前で一言意気込みを」
「はい」
……ほへぇー。黒板の上のプロジェクターに頭がぶつかりそうな京菜先生のせいで感覚がバグりそうだけど、
「こーちゃん、アレやって!」
「仕方ないですね……」
眼鏡を外し、三つ編みを解く。軽く手櫛にかけ……ん? ちょっと顔が武田鉄矢に似てるような……。
そこで
髪をかき上げて、黒板にチョークで「人」の字を書き……あぁー、ブレザーは灰色だし、京菜先生より先生に見えるー!
「『人』という字は……、
本当の由来言っちゃってる。
「即ちコミュニティは、自立した個人がそれぞれの意志を以って構成するものであり、学校もまたその一つなのです」
……入学式の挨拶、この人の方が良かったんじゃない?
「クラス、そして学年の代表として、一年間
「右に同じくー」
これは……このまま学年委員長かな? 三つ編み丸眼鏡の委員長(但し男)。
「それから、風紀委員一人と、図書、環境、体育、保健が各二人ずつ必要なんだが、誰かいないかー?」
……ふっ。
「
詩織は胸ポケットから分厚い文庫本を取り出し、それを渡された若竹が、その紫色の背表紙で私を殴った。
「……はっ!」
殴られて気絶しても、保健室送りにはならないのね……。
黒板に書かれた係や委員会と名前を見る限り、風紀委員にはなれたらしい。
尤も、噂では生徒会本部庶務係……通称「
黒板に貼られたスクリーンには、部活動紹介の動画が流されている。
『こんにちはーっ。私たちはーっ、やきゅう文化部です!』
部長だろうか、ユニフォームを着た生徒が、野太い声を張り上げている。
『野球中継の映像や音声っ、野球漫画や小説っ、そして実際に野球の練習や試合を通してーっ、野球という文化について考える文化部です! 決してーっ、ここ数年、他校との練習試合を含めて全敗していることの言い訳ではありませんっ!! というか、最近は部員が少なく、試合どころではありません!』
他の部員がぞろぞろと現れ、部長の後ろに整列し、
『ちくわーっ!』
と叫ぶ。すると、ホームベース型の変な被り物をした男が、変な踊りを踊りながら現れた。
『こちらはーっ、顧問の竹島輪太郎先生ーっ、通称、ちくわです! みなさーんッ! ちくわ部に是非ーっ!』
ちくわ……、美味しそう。
『こんにちはっ! わたしたちはサッカー部ですっ!』
制服姿の女子生徒がサッカーゴールの前で映っている。どう見ても運動は苦手そう。
そして、画面越しでも分かる! 彼女は……腐女子だ!
『二年前、わたしたちの所属していた文芸部は、色々あって廃部となってしまいました。パソコンで執筆していた部員はパソコン部へ移籍しましたが、わたしを始めとした原稿用紙に手書きしていた部員は、活動の場を完全に奪われた形となりました。そんなわたしたちを受け入れてくれたのが、部員の減少によって廃部の危機に在ったサッカー部でした』
スポーツマンの居場所を乗っ取られた元々のサッカー部員、どうなったんだろう。サッカーするのは諦めて、サッカー漫画とか描いてそう。
『創作者の皆さん。ぜひ、
最初と最後で部活名が変わるって、さっきもあった気が……。
そして、二度あることは三度ある。
『こんにちは、陸上部です。他の部活との兼ね合いでグラウンドが使えないため、昇降口周辺で活動しています』
グラウンドを使う部活っていうと……、やきゅう文化部、作家部……いや、気絶して見てなかっただけで、他にもソフトボール部とかがあるはず!
『活動の一部をお見せします。先ずは、All Textbook Spuat……登下校で使用するバックパックに九教科すべての教科書を詰め、スクワットを行います』
ジャージ姿の部員がサムズアップ。
ぐっ、滴る汗、がっちりしつつもしなやかさのある肉体! ……じゅるり。
『続いて、下校RTA……家に着くまでが部活動です』
スクワットをしていた部員がタオルで汗を拭うと、ワイシャツを羽織りスラックスを穿いて、『あざした』と言って会釈しながら下駄箱の方へ駆けていく。
『これら独自のトレーニングの成果もあり、去年の県大会では好成績を残す事が出来ました。皆さんも、帰宅を部活動にする、「真の帰宅部」になりませんか? それでは私も帰ります。さようなら!』
その後もグラスハープや竹輪笛を演奏し、「真のちくわ部」を目指す
「全部活に仮入部……」
「仮入部期間2週間しかないけど部活は10以上あるから無理だよ」
もぐさ! 無粋なこと言わないで!
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「詩織のブレザーの胸ポケットは、1000ページ超の文庫本でも収納できる四次元ポケットです。今日の一冊は……?」
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