おわかりいただけただろうか(Side E)

「まずライナーは、ティナのことを『それなりに可愛い』と言ったけど、まずそこが間違いだよ。

 おそらく君は外見だけで判断しているんだろうが、僕は可愛らしさというものを内面と外見の総合値だと考えている。

 この判断基準だと、ティナの可愛さは他の追随を許さない遙か高みにあるんだ。

 君にだってわかるだろう、あの愛嬌とにじみ出る内面の輝きが。

 もし君の言う『可愛い』女達と、ティナを一つの建物に押し込んで競わせたら、五日もしないうちに全員負けを認めるだろうね。

 真に可愛いティナと対峙すれば、皮一枚優れているだけの女に勝機はないよ。生き残るのはティナただ一人だ。

 蠱毒じゃないよ。まあ、可愛さの頂点を決めるという意味では同じ原理だけど。


 そもそも外見だって文句なしだろう。

 ティナの金の混じった栗色の髪は、二色が混ざることで他にはない立体感を生み出している。僕のような混じりけのない一色の髪にはできないことだ。

 それに細かく金髪が入ることによって、将来白髪が出ても目立ちにくいという利点がある。高齢になれば流石に白髪が頭皮を占めるだろうけど、総白髪になったティナも素敵だろうね。きっと可愛いお婆ちゃんになるんだろうな。


 瞳だって青と緑の間という、神秘的な色合いだよね。

 二大派閥の色を網羅しているんだ。どちらの色に合わせた服も似合う。

 一人で二度おいしい状態だよ。神様も贔屓が過ぎるよ。


 神様と言えば、普通の人間は成長するにつれ純粋さや、素直さが失われていくよね。

 人は自分の力で生きていかなくちゃいけない。

 いつまでも赤子のように守ってもらえるわけじゃないんだ。自分の身を自分で守るために、どうしたって攻撃と防御の手段を身につけなければいけない。

 でもティナは出会った頃のままなんだ。

 これは奇跡だよ。

 きっと神に守られているんだ。

 清らかでいながら、自然体で社会に馴染むなんて神の加護が無いと不可能な話だからね。


 誤解しないでもらいたいが彼女の精神が稚拙なんじゃない。天然で最強なんだ。

 もし幼稚なだけの人間なら、判断力が欠如していて、いつも周囲に迷惑をかけ、最後には致命的な失敗をするだろう。

 だがティナはそうじゃない。

 彼女はいつだって物事を良い方向に運ぶ力がある。

 善良な彼女は、周囲を優しい世界に変えるんだ。

 何よりも強い力だよ。

 ティナと一緒に行動すれば、悪しき心の持ち主は毒気を抜かれ、卑しい性根の人間は目を覚ますだろう。

 国際会議に彼女を放り込めば、世界平和が叶うだろうね。


 もしかしたらティナは、神が地上を浄化するために遣わした御使いなのかもしれないな。

『僕とティナには格差がある』と、言ったが確かに単なる人間に過ぎない僕と、聖なる乙女であるティナには大きな格差があるね。


 それでも僕は諦めるつもりはないよ。

 一分一秒でも長く、ティナと一緒に生きるつもりだ。

 僕の夢は『同日同時刻に、手を繋いだ状態でティナと老衰で死ぬこと』だから、そのための努力は惜しまないよ。

 かれこれ数年はティナと同じ時間に就寝、起床し、同じ内容の食事を摂り、体のコンディションを同調させているんだ。

 病める時も、健やかな時も一緒だよ。

 儀式じゃないよ、努力だよ。

 君にとってはオカルトのような考えかもしれないが、少しでも寿命を近づけたいという精一杯のあがきだ。

 問題は性差と、二歳という年の差だけど、そこに関しては是正する方法が詰めきれていないんだ。もし参考になりそうな資料があれば教えてほしい。


 それに人間社会における地位の格差なら、君が心配する必要はない。

 母は定期的に茶会を催して、ティナの人脈作りをサポートしているが、実は助けられているのは母の方だ。

 君と面識があるかは知らないが、僕の母は素直じゃなくてね。

 表情を変えることをよしとしない、昔ながらの教育を受けて育った人だ。それに裕福故に幼い頃からやっかみも多かったようで、気が強くて攻撃的な面がある。

 ティナが参加する前のお茶会といったら、笑顔の裏でお互いの粗を探すような殺伐としたものだったよ。

 参加者は利益を得ようとやってくるけど、やってることは牽制と蹴落とし合いだったね。


 それがティナが参加してからはどうだ。

 彼女がうまく母と周囲を取り持ち、純粋無垢にご婦人方を慕うものだから、あっという間に全員陥落したよ。

 実の娘よりも可愛らしい、理想の娘そのものなんだ。

 もはや娘を通り越して孫だよ。ただひたすらに可愛がり、慈しむ対象ってことだね。

 ティナには大量のエアお婆様がいるんだ。


 もしかして純粋無垢という点で、ティナのことを女主人としては頼りないと思っているのかもしれないが、それは間違いだ。

 経営者一族の出身で、金の管理については徹底的に叩き込まれている母がティナに教えているが、彼女はちゃんとついていけてる。

 要領はよくないが、こつこつ真面目に取り組むし、わからないことをそのままにしたり、理解できないと放り出したりしない。

 普通のことのように思えるかもしれないけれど、実はこれができる人間は少ないんだ。


 ティナは金銭感覚がしっかりしているし、軽率な振る舞いはしない。あやしい話に惑わされるような迂闊さもない。

 感情抜きに、信じて家を任せられるよ。


 使用人達に気さくに接しているけれど、彼女の場合は育ちがいいから、誰に対しても気取らないんだ。

 フランクな態度だからといって、舐められたりはしない。

 この期に及んでティナじゃない女を嫁に迎えたら、使用人達がストライキ起こすだろうね。


 僕たちの未来を案じてくれたんだろうけど、心配無用だ。

 僕はティナ以外考えられないし、両家の親も僕たちの結婚を認めている。

 ――他人がつけいる隙はない」


「……お、おう」

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