第25話 隠し扉ってロマンだよね

“トコトコトコトコ”

前を歩く少女、その後ろをついて行く自分。はた目からだと事案にしか思えないんだけど、周りはその事を気にも留めない。

うん、こんな時は自分の影の薄さに感謝だな、こんな場所で通報でもされたら堪らん。「衛兵様、コイツです!!」って言われて上手く弁明出来る自信も無いし。


「ん、ここ」

進むこと暫し、少女が指差したのは“関係者以外立ち入り禁止”のプレートが下げられた扉の前。

・・・イヤイヤイヤ、ここはまずいでしょう。

一瞬の躊躇を見せる俺の事などお構いなしに、部屋の中へと入って行く少女。慌てて後ろを追い掛けるも、そこには既に少女の姿はなく・・・。


「あれ?あの子何処に行っちゃったの?」

「いないね~。でも気配はあそこに残ってるぞ~」

“フルフルフル♪”


俺が部屋の中でキョロキョロしてると、精霊様と桃ちゃんが同じ方向を指して教えてくれます。

でもそこ壁じゃん。


俺が壁の前で立ち竦んでいる時でした。

“カパッ”

「ごめん、先に行き過ぎた。こっち」


「「え~~~、隠し扉~!カッケ~!!」」

出ました、隠し扉。高貴なご身分の御方々が来られるような施設ならあってもおかしくはないけど、なんだろう、こういうのってテンション上がるよね♪

こう斥候職とか呼ばれる人間がダンジョンの壁なんかをペタペタやってギミックを動かして隠し部屋を発見したりするの、もうね、ウズウズしちゃう。

まぁここは秘密部屋って言うより隠し通路みたいだからやたらなギミックは少ないんだろうけどね、いざって時にまごついて逃げられないなんてなったら本末転倒だし?


「でもいいのか?これって偉い人とかが使ったりする様な隠し通路とかって奴だよね?この先って偉い人がいる所だよね?」

そうだよ、どう考えたって地雷じゃん。

好奇心猫を殺す、ノッペリーノ、危うきに近寄らず。


「大丈夫、私は偉い人。さっきのお礼にオクトパスボールを進呈」


“ピタッ”

俺は下がろうとした足を止める。オクトパスボール、それはお祭りの定番、なのにさっき行った屋台でいくら探しても見つからなかったもの。


「青のりは」

“コクッ”


「鰹節とマヨネーズは」

「勇者のレシピを基に完全再現。この日の為にオクトパスも取り寄せ」


“バッ”

「お供させて頂きます、お嬢様」

俺は胸に右手を当てて礼をすると、お嬢様の後に従い隠し通路を進んで行くのでした。

精霊様は俺の豹変ぶりに呆れた顔をなさっておられますが、仕方がありません。だってたこ焼き食べたかったんだもん。


そこは高貴なる方々が寛がれる特別な空間であった。煌びやかでありながら品の良い衣装を身に纏った御方たちが優雅に談笑を成されながら眼下の闘技場を観戦なさっておられます。


本日の試合は予選ブロック、全八ブロックで行われるバトルロイヤル方式。第一ブロックからは注目株の“金の斧”が出場という事で会場からは大歓声が上がっている。

で、あれがミリアお姉ちゃんのお父さんのジーク元村長と。結構デカイな。武器はその名の通りバトルアックスと。

あれ人間の持つ武器じゃないよね、巨人の武器だよね?あんなの振り回すの?出場者の胴体裂けちゃうよ?


“ツンツンツン”

俺がそんな感想に耽っていると、お嬢様が袖を引っ張られます。こっちに来いって事ですね、畏まりました。

俺は煌びやかな会場を抜け、お嬢様と共に別室へ。

そんな会場にいて誰何されなかったのか?全く気にもされませんでしたけど?

いや~、改めてこの体質スゲーわ、某怪盗もびっくり。マント翻して“ワハハハハ”とか出来ちゃうレベルよ?やらんけど。


連れて行かれた部屋は個室の観覧席、オペラ劇場とかにあるようなあれですね。さっきまで自分たちがいた関係者シートも相当だったけど、この満席のガレンドールコロシアムで個室って。

こういうのなんて言うんだったっけな。ボックスシート?そりゃ電車か。そうそうロイヤルボックスだよ、確かや球場でもそんな施設があったじゃん。相当前ですっかり忘れてたわ~、良く思い出せたぞ、俺。

・・・ロイヤルボックス?


「あの、お嬢様?つかぬ事をお伺いしても?」

「ん、なに?」


「お嬢様は先程ご自身を“偉い人”と仰られていましたが、王家と関係あったりなんてしないですよね?」

質問をしながら背中に冷たいものが流れる。“ローマの休日”は映画だからあり何であって、実際にやられたら絡まれた平民は即逮捕よ?今のご時世文明レベルは近代くらいみたいだけど、権力構造的には完全に貴族社会よ?平民の俺なんて簡単に幽閉されちゃうのよ?

綿あめの出会いからの投獄生活、ジャン・ヴァルジャンなんて嫌でござる。


「フフフッ、秘密。でも王女とかじゃないからご安心」

そう言い胸を張られるお嬢様。そっか~、王女様とかじゃないんだ~、それは良かったって全く安心出来ね~。(T T)

でもよし、秘密なんだな、俺は何も知らなかった、これで良し。


「そうでございますか、ではただ“お嬢様”と。それでオクトパスボールは・・・」

「今持って来させる」

“チリンチリンッ”


お嬢様がテーブルの上のベルを鳴らされると、部屋の扉がサッと開きいかにもメイドと言った御方か入って来られました。


「お呼びでございましょうか」

「ん、オクトパスボールを大皿で、それと飲み物を数種類お任せで。

他にも軽く摘まめるものを数種類大皿で」


「畏まりました」

メイドさんはお嬢様の言葉に一礼をした後その場を下がり、しばらく後にワゴンを押して戻って来られました。

テーブルの上にてきぱきと並べられる大皿。飲み物は邪魔にならない様に端に置かれます。

そして小皿にオクトパスボールを盛り付けると、お嬢様の前にそっと差し出されました。


「ん、ありがとう。後は自分でやるから下がっていて。ゆっくり観戦したいから」

「畏まりました。何かございましたらお呼びください」


メイドさんはそう言うや一礼をし、部屋を出て行かれました。


「ん?メイドが何も言わなかった。お皿も一つ、凄い不思議」

お嬢様は一人首を傾げておられます。まぁそうですよね、こんな不審者がいるのに完全スルーって意味解らないですよね。

って言うかお嬢様、俺が何か言われる前提かい、性格悪いぞおい。


「まぁいいんじゃないんですか?それより頂いても?」

俺はワゴンから予備の小皿とフォークを持ってくるとテーブルに置き、お嬢様に許可を求めた。


「ん、これはお礼、どんどん食べる。足りなくなったら言う、また持って来させる」

「ハハ~ッ、ありがたき幸せ。それと飲み物もいただきますね?」


「遠慮はいらない、費用は王家もち」

お嬢様はそう仰られると、胸を張ってサムズアップを決められるのでした。


「いや~、食った食った。まさかあげた綿あめが屋台飯食べ放題に化けるとは思わんかったわ。精霊様も随分と楽しまれていたみたいですし、ラッキーでしたね」

「うむ、私は満足なのだ~。でもあの子は凄いぞ、ノッペリーノの事を認識していたし。あの子はあれだな、“真実の目”とかその手のスキルの持ち主だな。流石に本気で隠れようとしたノッペリーノには意識が行かなかったみたいだけど」


精霊様は相変わらずパイルダーオンしながら、お腹を摩っておられます。

精霊様遠慮なく食べてたもんな~。お嬢様には俺が脅威のフードファイターに見えていたんだろうね、途中から“えっ、こいつマジ?”って顔をなさっていたみたいだし。


試合の方は現在予選第五ブロックが終わったところ。第五ブロックには魔導列車で知り合ったリックさんとビエッタさんが出場なさっておられました。パーティー名は“荒野の大剣”だったかな?リックさん、完全にビエッタさんの尻に敷かれておられます。


「でもジーク元村長、目茶苦茶強かったね。あんな大きな斧を担いでどうするのかと思ったら横面を使って引っ叩くって。

確かに切断されるよりましだろうけど、それもどうなのかなとか思うよね」

「うん、あれは笑えた。殆ど一人で倒してたもんな~。でもビエッタの横凪の方が笑えた」


「あれは凄かったね~。人って飛ぶんだ~とか思ったもん。あれじゃリックさんがストッパー役になる訳だよ。普段は逆みたいだけど、暴れ出したビエッタさんを止めれるのはリックさんくらいなんじゃないのかな」


俺と精霊様は試合の感想を話し合いながら観覧シートに。

「ハハハッ、本当ですよ。今日の勝利はエリーゼ様に捧げます」

「もう、レイン様ったらお口がお上手なんですから。でもそれだったらエリーゼって呼んでくれると嬉しいです」(ぽっ)


「そんな事お安い御用ですよ。今日の勝利は君に捧げるよ、エリーゼ」(ニコッ)

「レイン様、素敵」(でれ~)


・・・レインの奴まだやってるよ。そろそろ控室に帰れよ。

「レイン!エリーゼ様にご挨拶に行くって言ってからどれだけ時間が経ってると思ってるのよ、そろそろ打ち合わせを始めるから戻って来なさい!」


俺が精霊様と共にレインに呆れた眼差しを送っていると、ミリアお姉ちゃんの登場。どうやらなかなか戻らないレインにパーティーメンバーもイラっと・・・してないのかよ。怒ってるのはミリアお姉ちゃんだけで他のメンバーは尊敬の眼差しって、大丈夫なのか“自由の翼”、まるで洗脳集団だぞ?恋の呪縛ってこえ~。


「ハハハッ、ごめんごめん。エリーゼさんとのお話が楽し過ぎて、つい時間の経つのも忘れてしまったんだ。ミリア、知らせてくれてありがとう、いつも助かってるよ。

それではエリーゼ様、今度はマリアージュ魔道具店の方にお伺いさせて頂きたいと思います」

そう言い胸からペンダントを取り出すレイン。それはマリアージュ魔道具店の会員証にして“王都ラッセル通り裏番地”の通行証。

レインはそのペンダントに目を遣り嬉しそうに微笑んでから、「それではまた」と言って手を振りその場を後にするのでした。


「エリーゼ様、イケメンとの一時、いかがでございましたでしょうか」

「あぁ、ノッペリーノですか。控えめに言って、最高でした。ノッペリーノには気を使っていただきありがとうございました。

帰りは寿司屋に行きましょう、寿司屋に。無論私の奢りです。

今日は人生最良の日だ~!!」


そう言い両腕を天に掲げるエリーゼさん。ここまで浮かれられちゃうと文句を言う気も無くなります。

寿司を奢ってくれるみたいですし!!

って言うか寿司があるのかよ、寿司が。異世界勇者様方スゲーな、異文化落としまくりだな。今更この世界に転生者や転移者が来てもやる事なんてないぞ?ほぼほぼ出番終了だぞ?

俺は未だ盛り上がりを見せる予選会場を見下ろしながら、「そう言えば召喚勇者様方ってどうしてるんだろう?テンプレ展開が出来なくって嘆いてたりして」と阿呆な感想を口にするのでした。

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