第24話 勇者選定会、一日目
“パクッ、モグモグモグ。パクッ”
「“神代の時代、世界に多くの厄災が訪れた。
魔王、その存在は人々を恐怖の渦に叩き落とした。
人々は祈った、神の救いを、人々は祈った、救世主の訪れを。
その祈りは神に届く、異世界召喚、勇者の訪れは多くの希望と多くの物語を紡ぎ出す。
時は過ぎ、世界は神代から人代へと移り変わった。
人々は神に守られるだけの存在から己の足で立つ存在へ。
時代の苦難も己の力で乗り越える、勇者とはその象徴、我々の内から生まれる希望の光。
そして今、新たな希望が生まれようとしている。
我らリーデリア王国の希望、リーデリア王国の光。
リーデリア王国勇者選定会、その開催を宣言する!!”」
「「「「ウォ~~~~~~~~~~~!!」」」」
国王陛下による大会開催宣言に、コロシアムを埋め尽くした民衆から大きな歓声が上がる。
いよいよ始まる勇者選定会、自国を代表する強者の誕生に心躍らせない者など、この場には誰一人としていない。
格闘舞台の上には今大会の参加者がずらりと並び、激しい闘志を燃やしながら開会の挨拶をする国王陛下に目を向ける。
“パクッ、ムシャムシャムシャ。ズズズズズズズッ”
あっ、ビエッタさん見っけ。やっぱあの人目立つな~、あんなにデカい大剣を背負ってる女性なんて他にいないもん。完全に某“一狩り行っちゃう?”系ゲームのプレーヤーキャラじゃん。
他にも大剣を使う出場選手はいるけど、皆大柄な男性よ?違和感バリバリなのはビエッタさんだけよ?
隣にいるリックさんなんて、あの中じゃモブよ?だって戦士系は皆ガチムチばっかりなんだもん。リックさんみたいのがごろごろ。
特にデカいのがやたら主張の激しい鎧姿の大斧使い。
「エリーゼさん、あそこのやたら派手な大斧を持った人って誰だかわかります?」
「ん?えぇ、あの御方こそ王都で知らない者はいないと言われる白金級冒険者パーティー“金色の斧”のリーダー、ジーク様よ。
王都で行われる武術大会では負けなし、“金剛無双のジーク”とか呼ばれてるわね。
ジーク様のお父様も有名な冒険者だったのよ?“暴虐の斧”、その勇猛さから恐れられ尊敬されていた冒険者だったの。
引退なさってどこかの田舎で過ごされてるって話だったけど、やっぱり血は争えないわね。父親を遥かに超える活躍ぶりに、古参の冒険者ファンから絶大な人気を誇っているのよ」
あぁ、あの人が親父殿が言っていた元村長。当時は親父殿よりも若いとは言え初老といった域に達していたらしいんだけど、十代後半の若さを取り戻して村を飛び出した傑物。
ベネッセさんと若さを確かめ合ってミリアお姉ちゃんを仕込んじゃった張本人。
でもベネッセさんの事だからミリアお姉ちゃんのこと教えてないんだろうな~。ミリアお姉ちゃんもそう言った事を気にするタイプじゃないし。恋愛ガチ勢はその辺覚悟が決まっちゃってるもんな~。
子供を理由に相手男性に縋るなんて端っから考えてないんだろうな~。ミリアお姉ちゃんもそのうちレインの子供を抱えてフェアリ村に帰って来たり?でもフェアリ村もう無いよ?
うん、大会チケットが欲しかったからってだけの理由で会いに行っただけなんだけど、顔を出しておいて良かったわ。
まさかレインがフェアリ村の事を話してないなんて思わなかったし、レインってそう言うところドライって言うか情に欠けるよね。
仮にフェアリ村が残ってて“我が村の誇り、勇者レイン生誕の地”とか言って村おこしキャンペーンをぶち上げたとしても、絶対に訪ねて来てくれないタイプだね。
ミリアお姉ちゃんには何か困った事があったらライオスお兄ちゃんの所を訪ねるように勧めておこう。あそこには親父殿やお母様もいるし、ライオスお兄ちゃんのお嫁さんのアマンダさんもいるしね。ミリアお姉ちゃんって結構プライド高いし、ベネッセさんを頼るなんてマネは出来そうにないしね。
あっ、レインとミリアお姉ちゃんだ。どう見ても勇者様と大魔法使いじゃん。二人の冒険者然とした格好って初めて見たけど、ありゃ人気出るわ。悔しいけどめっちゃ格好いいでやんの。会場からも黄色い歓声が飛びまくってるし。
“ガブッ、ムシャムシャムシャ。ズズズズズズズッ、プハ~”
「なぁノッペリーノ、甘い物は無いのか?揚げ物は正義だが、私は甘味を所望するぞ?」
テーブルの上、山の様に置かれていた唐揚げとフライドポテトをぺろりと平らげ、スイーツは別腹を主張なさる精霊様。お隣で妖精様がドン引きなさってますよ?
俺がそんな事を考えながらジト目を向けるも、精霊様は我関せずとスイーツを要求なさいます。
大会会場ではこれから予選会が始まろうとしていた。
予選会は全部で八ブロックに分かれており、それぞれから二組が選出される方式。ブロック分けは完全に抽選、どこに誰が割り振られるかなど全く分からない。優勝候補の“金色の斧”と“自由の翼”が同じブロックになる可能性すらあるんだけど、その辺は大人の世界、忖度が生じるんだろうな~。
パーティー編成は最大四人まで、パーティー内の回復魔法の使用並びに回復薬の使用禁止、範囲攻撃魔法の使用禁止といったルールが採用されている。
まぁそりゃそうだよな、いくら特殊結界内で死なないとはいえ、行き成り全指定範囲攻撃魔法を発動された日には大会にならないもん。約一名確実にそんな事が出来る人物がいるし、このルールってどう考えてもミリアお姉ちゃん対策だよね。
それと回復魔法、ミリアお姉ちゃんってレインのお母さんのリンダさんから回復魔法をばっちり仕込まれてるから、物語の聖女様クラスの回復魔法が余裕で使えちゃったりします。
やろうと思えばレインに回復魔法を掛けまくりでのゾンビアタックが可能、自身も自動回復魔法で常に回復しながらのゾンビアタックが出来るって言うね。
こないだ聞いた話だとそこまでの強敵に出会った事が無いから折角覚えた戦法が使えてないって言ってたし、世間の人は知らなさそう。
実はこの二人、皆さんが思っている以上にヤバいんすよ?
これに物理特化のライオスお兄ちゃんが加わってたんだから正に無双、僅か数年で白金級冒険者パーティーになる訳です。
「それじゃちょっと売店に行ってきます。精霊様はどう「行く」、了解です。妖精様はどうします?残られますか。でしたらちゃんと姿を消しておいてください、俺が離れたら周りから注目されてしまいますので」
俺はそう言うと、バトルロイヤル方式の予選が始まる前にと急ぎ買い出しに向かうのでした。
「う~ん、中々の充実ぶりだったな~。でもパンケーキとワッフルの違いがいまいち分からない。ベビーカステラと人形焼きの屋台を並べる事の意味って・・・」
「ノッペリーノは色々気にし過ぎなのだ。美味しければいいのだよ、美味しければ」
そう言いレインボー綿飴に包まれる精霊様。綿飴を頭に載せて“アフロ”とか言うの止めて!?周りの人間は意味分からないかもだけど俺にはめっちゃツボなの。腹筋ヤバかったんだからね?
コバヤシ・ユウコさん、精霊様に一体何教えてるし。
三千年を超えての笑いの継承、流石勇者、恐るべし。
冷たい飲み物やアイスの類は腰のマジックポーチに収納、温かい食べ物や冷やさない方がおいしいものはポケットに収納し、精霊様も大満足での帰還。
屋台のお兄さんお姉さま方が俺らの爆買いを見ながら“関係者席の方々は買い物の仕方が違う”とドン引きしていたことは、見なかったものとしましょう。
“ジ~~~~~ッ”
早く席に戻って予選会を・・・。
“ジ~~~~~ッ”
「・・・・綿飴食べたいの?」
“!?コクコクコクコク”
何故か足元で俺の持つレインボー綿飴(精霊様を添えて)をガン見する少女。俺は綿飴から精霊様を引き剝がしパイルダーオンさせると、綿飴を少女に手渡しました。
「直接口を付けてないから大丈夫だよ?もっと欲しかったら親御さんに買ってもらいな、向こうの屋台で売ってるから」
俺はそう言うと「気を付けて戻るんだよ」と注意を促してから、自分たちの席へと戻って行くのでした。
「ハハハハハ、このような所でエリーゼ殿にお会い出来るとは思いもしませんでしたぞ。こうしてお話をするのは昨年行われた王城でのパーティー以来でしたかな?」
「そうでございますね、ブリント伯爵様。先程はお助けいただきありがとうございます」
何やら観覧席の方ではエリーゼさんが知り合いらしき高貴なる御方とご歓談中のご様子。ここは邪魔をしない様に暫し様子見と行きましょう。
「いや、何の何の、困っている女性を見捨てては貴族の矜持が立ちませんからな。それよりもどうでしょうか?私の所の席で共に大会を楽しみませんか?あそこでしたら周りに煩わされる事もなくゆったりと大会を楽しむ事が出来ますぞ?」
「いえいえ、その様な勿体ないお言葉、私には分不相応でございます。それに連れもおりますので、お気持ちだけ受け取らせていただきとうございます」
そう言い慇懃に礼をするエリーゼさん。
・・・なんか妙な雲行き?
“モキュモキュモキュモキュ”
「ハハハハ、お気になさらずに、これも貴族の務め、ささ、こちらへ」
そう言い強引にエリーゼさんの手を掴もうとするお貴族様。
“パシッ”
そんな現場に颯爽と現れてお貴族様の手を掴む者。
「なっ、貴様何をするか!?私を誰だと・・・」
「これはこれはブリント伯爵様、お久しぶりでございます。
昨年の王城でのパーティー以来でしょうか?
何やら私の連れがお世話になっていたようでしたので、ご挨拶申し上げようとしたのですが。
あっ、これは申し訳ございません。友好の証と握手していただこうとしたのですが、誤って手首を掴んでしまったようです。
まさかブリント伯爵様のような高潔で貴族の鏡の様な御方が私の連れを強引に連れ去ろうなどとする訳もありませんし、これは私のミス、本当に申し訳ありませんでした」
それは先程まで会場で観衆の注目を浴びていたヒーロー、白金級冒険者パーティー“自由の翼”リーダー、レイン。
レインはお貴族様の手を取ると笑顔を向け握手をする。
「う、うむ、そうであったのか。それもそうか、ここは関係者席であったのであるしな。レイン殿も大会で大変であったのであろうが、エリーゼ殿の事も気にしてあげて欲しいものだ。
ではナイトが現れた様なので私は下がらせていただこう。エリーゼ殿、またいずれな」
お貴族様はそう言葉を残すと、そそくさとその場を後にするのでした。
“モキュモキュモキュモキュ”
「レイン様、大会でお忙しい所ありがとうございました。お陰様で助かりましたわ。
所でレイン様は何故こちらに?」
「いえ、先程はゆっくりご挨拶も出来ませんでしたので少しお話でも出来ればと思ったのですが、お邪魔でしたでしょうか?」
「その様な事はありませんわ、どうぞお座りになってください。
でも本当によろしいのですか?パーティーメンバーの方々がご心配なさっていらっしゃるんじゃ・・・」
「ハハハ、それこそ私も子供ではないのですよ?それにパーティーメンバーにはちゃんと話してきましたしね」(ウインク)
うわ~、なんかスゲー声を掛けずらいんですけど!?めっちゃいい雰囲気作っちゃってるんですけど!
これで俺が何食わぬ顔であの席に戻ったら、後からエリーゼさんに超恨まれるって奴じゃないですか、俺にどうしろと。
“モキュモキュモキュモキュ”
「精霊様、妖精様ってその辺にいる?いたらエリーゼさんに伝言を頼めないかな?暫く時間を掛けてから戻るって。
流石にあの雰囲気の中戻るって鬼畜の所業でしょう」
「まぁレインはどうでもいいけどエリーゼが浮かれてるからな~。夢を見させて後から落とす、悪くないかも。
マルベールには今伝えたから大丈夫だぞ~、また屋台巡りでもするのか?」
“モキュモキュモキュモキュ”
「う~ん、それなんだけどって、君何でここにいるの?」
それは俺の足元でレインボー綿飴に齧り付く少女。
「どっか行くの?」
少女は俺の顔をジッと見上げながら話し掛けて来た。
「う~ん、どうしようかなって。あそこのお姉ちゃんがいるところが俺の席なんだけど、イケメンが訪ねて来ちゃってね~。
今戻ったらお姉ちゃんから恨まれそうじゃん?
あのイケメン、レインって言うんだけど有名人の人気者なんだよね、少しは空気読めって言われるのもなんだし」
「だったらこっちに来る」
“クイッ”
「おいおい、どこに行くんだよ?」
少女は俺の袖を掴むとトコトコと移動し始める。俺は少女のなすがまま、その後をついて行くしかないのでした。
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